3.誤解
「……え」
これってそういうこと? 流石に勘違いしちゃいそうなんだけど。……なんて返信すればいいわからないな。
俺は恋愛経験が少ないわけではない。むしろ容姿は整っている方だから高校の頃はそこそこモテていたし、それなりの恋愛もしていた。
でも店長から聞いた話だとこの子って16歳だよな。俺21歳。5歳差の恋愛、結婚してる人なんてザラにいる。だけど20と25の5歳差と16と21の5歳恋愛ではわけが違うのだ。
いや、まだ勘違いでこの子が俺を恋愛対象ではない可能性も一応ある。でも異性から『あなたのことをもっと知りたい』なんて言われて悪い気はしない。
てか……正直嬉しい。
そういった感情があるにしろ、ないにしろ、こんな風に言ってくれてるのだから嫌われてはいないのだろう。そうだ、確認してみよう。
『そう言ってくれて嬉しい! 俺嫌われてるのかと思ってたよ(汗)』
すぐに既読がつき、返信がくる。
『え!何でですか!?』
何でって……。それも一応言っとくか。
『俺と話したくなさそうだったし、連絡先交換する時嫌そうな顔してたからさ…(笑)』
『話すのに緊張していただけです!連絡先交換の件は、藤井さんが「シフト代わって欲しい時は連絡してね」って言うからそれ以外はしたらダメなのかなって寂しく思ったからです!』
顔がゆるんでしまう。寂しく思ったからって……。
これはそういう目で見ているととっていいのだろうか。
「ごはんよぉ!!! 早く降りておいで!!!」
少し怒りがこもった様に母の声が聞こえる。
やべ、忘れてた。とりあえず適当に返信して食べに行こう。
『そうだったんだ!勝手に勘違いしてごめんね?友達とご飯行ってくるからまた明日連絡するね!』
バイト先のみんなには一人暮らしの設定にしている。一人でご飯を食べるのに返信できないのはおかしい気がしたので、それらしい嘘をついてスマホの電源を落とした。
軽い足取りで階段を降りて母と2人で食卓を囲んだ。
母がじぃっとこちらをみている。遅くまで仕事してご飯を作ったのに中々降りてこない息子にに何かいいたけだ。
「降りてくるの遅くてごめんって」
俺は母に言葉の棘を刺される前に謝罪する。
「いや、そうじゃなくてあんた大丈夫? なんでニヤニヤしてるの? 気持ち悪いわよ」
そうか、俺はニヤニヤしていたのか。家族といえど他者に指摘されると少し恥ずかしい。
「ん、大丈夫だよ」
平静を装う。母はまだなにか言いたげだ。何を言いたいかはわかっているが、あえてか聞かない。俺は茶碗で顔が隠れる様に米を口にかきこむ。
「あんたこれからどうするの?」
ゔ…………。予想していた内容ではあったが、浮かれていた気持ちが一気に沈み込んだ。
土曜は父の仕事が長引くのでまだ帰っていない。父親嫌いな俺に気を遣っていない今日に聞いてくれたのだろう。受験に落ちてからずっと気になっていたはずなのに今日まで聞かなかった母の優しさが身に染みる。
しかし、何も返事を用意してない俺は黙り込むしかない。
「……………………」
この沈黙には耐えれない。とりあえず話題を変えよう。
「そういえばさ、」
「大学に行くだけが全てじゃないよ。どんな仕事だって汗水垂らして働いたなら立派だよ」
俺の言葉を遮るように言った。母には俺の考えが筒抜けの様だ。
「別にやりたいこともないんでしょ?」
「……」
その通りである。俺は何かしたくて大学へ行くわけではない。周りの学生が羨ましい。そして、単にまだ働きたくないのだ。
「そうだね。四月中にはどうするか考えるよ」
箸を机に置いた音で食べ終えたことを証明する。
話をこれ以上続けたくない俺はいち早く食器を片付け、まだ話したりなさそう母を後に風呂場に向かった。
―――――――「チャポンッ!」
体を洗った俺は勢いよく湯に飛び込んだ。浸かりながらボーッと今日あったことを思い返す。
ほぼニート+成人男性がJKに手を出すってなったら俺相当やばいやつだな。
そもそも池田さんはなんで俺に気があるんだろう。そりゃさ、バイトでの俺はそこそこできた人間ではあるよ。でも今日初対面なんだよな〜。
もしかしてどっかで会ったことあるのかな。池田さんマスクしてたし、今日コンタクトしてなかったから顔はちゃんと見れなかったな。
そもそも恋愛する気なんて全然ないんだけどね。これは池田さんがJKだからと言う理由ではない。
俺は未だに専門学校に在学していた頃の恋愛を引きずっている。未練があるわけではない。ただ元カノの影響で軽度の女性不信になっているのである。