2.JKとのLINE
「ただいま。疲れた〜」
「……………………」
まだ誰も帰っていない。自分の声が静寂に響き渡る。
親は共働きで両方正社員。二人とも午前8時には家を出て帰ってくるのは大体午後の19時〜21時だ。それに比べて俺は正午から午後6時までのバイトである。
先に家を出る親、先に家に帰る俺。さらには帰って「疲れた」と嘆く始末。情けない。
台所に行くと洗い物が溜まっていて親を少しでも労うのなら洗うべきだと頭では考えているが体はそう簡単に動いてはくれないようだ。
「はぁ」
小さなため息をつく。
今日は新人のバイトの子にも嫌われるし、散々だったなぁ。
あの子のせいで気を遣っていつもより疲れたのは本当だし少し寝ようか。俺はうなだれながらベッドに横になった。
――――――――「……ピロン♪」
LINEの音で目が覚める。
どれくらい寝ただろうかと時計を見ると15分程度しかたっていない。ゆっくりと起き上がりスマホの電源をつけるが、15分程度目を瞑っているだけでも目が驚いているようだ。目を擦りながらロック画面を覗く。
『池田愛:新着メッセージがあります』
ん? シフトの相談とかかな? 店長にしてくれよ。
中途半端に寝たせいか頭が少し痛い。俺はゆっくりとスマホのロックを解除した。
えーっとラインの内容は……。
『お疲れ様です!!今日は仕事を教えてくださりありがとうございました!!』
……なんだ?? 一応先輩だから労うメッセージってことか。俺のことを嫌いか苦手か知らないけど、そんな人にわざわざお疲れ様メッセージを送らせてしまうなんて申し訳ない。
ていうかこの子LINEだと感嘆符すごい使うのか。現実で話してる時もこれくらい元気よく話してくれたらなぁ。
『お疲れ様! どういたしまして!』
すぐに既読がついたがなかなか返信が来ない。
あ、このLINEってもしかして返信困るやつ? 仲良い人や同級生ならここで万能のグッジョブスタンプで会話は終わるんだが……。
今日初対面な上に、一応年上だ。LINEスタンプは送りづらいよな……。
それにしても返信遅いな。え? それとももしかしてこれ会話終わった?
まぁ、まだまだ眠いしまた寝るか。
スマホの電源を切りベッドに入る。
「ピロン♪」
「……タイミング……いいな」
皮肉を言いながらもスマホのロックを指で高速に動かして解除する。
『シフトの相談をしたいのですが、店長のLINEってもらえますか?』
あ、店長のLINEもってなかったんだ。ってそれならすぐ返信できるだろ! さっきの間はなんだよ!
眠たいし、それに電話番号は知っているはずだから今回は電話で相談すればいいだろと、少し疎ましく思う。しかし、バイトの人に悪い印象を持たれたくない俺は指摘をわざわざしたりしない。ましてやこの子にはもう既に嫌われてるかも知らないのだから。
『大丈夫だよ~! はい、どうぞ!』
店長のラインを送信した。店長には許可は取ってないが前に「バイトの子とはLINEでシフトの相談をしてる」と言ったので勝手に送ってもいいだろうと考えた。
『ありがとうございます!』
これは返信早いのな。
『いえいえ!じゃあこれからバイト頑張ろうね!またね~!』
強制的に会話を終わらせざる終えないメッセージを送る。
これは決して自分が眠いからと言うだけではない。彼女だって仲良くない人とのLINEは早く終わらせたいはずだ。てゆうか、俺も仲良くない人とLINEしたくない。
『あ、待ってください』
ん?なんだ?
『何ー??』
『バイト関係以外のLINEって藤井さんに送ったらいけませんか?』
え、こいつ性格悪いな。そうか。こいつ今日で俺と仲良くする気はないという壁を立て、その上でLINEをすることで精神的苦痛を与えるつもりだな。
なんて女だ。ここはあえて理由を聞いてやろう……。
流石に『嫌がらせです!』なんて直接は言えないはずだ。
『全然いいけど、何で?』
……5分経っても返信は未だに来ない。
フッフッフ、困ってるな?いい気味だ。年下に何をムキになっているのかと反面で思う。
それにしても返信遅いな。このまま待つのも癪だし今度こそ寝よう。通知を切りベッドに横になる。
返信は来るだろうけど寝てたことにしよう。っていうか実際今から寝るし。
――――――――――「ごはんよー!」
1階からの母の声で目が覚めた。時計は21時を回っている。母さん帰ってくるの遅かったんだな……。
俺は1階に降りる前にスマホを開いてラインを確認する。池田さんからは返信が来ていた。
『あなたのことをもっと知りたいからです』
「……え」