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14.2人の出会い


夕焼けで空がまだ光を持っているうちに俺たちは帰りの電車に乗った。電車から覗く太陽は沈みきってるが残り火を空に残しているようだ。


仕事帰りであろうサラリーマン達が次々と乗車してきた。「今日も疲れた」と言わんばかりの顔をしている。きっと椅子に座りたいことだろう。俺たちは丁度空いた席に座れたのだから運が良い。できるものなら譲ってあげたい。


だが、彼女は既に僕の肩に側頭部をつけて眠りについている。かわいいかわいい彼女を起こすわけにはいかない。彼女か……。良い響きだ。公共の場で顔がにやけてしまいそうだ。


ちらりと彼女の寝顔を覗く。今日だけで2回泣いたからだろう。彼女の目は少し腫れていた。


今日は彼女が満足するデートはできただろうか。実の所を言うと今日は彼女の要望に少しばかり応えていた。


僕の家の最寄り駅と彼女の家の最寄り駅は2個離れたところにある。だから今朝はわざわざ目的の駅近くの銅像で待ち合わせにする必要などなかった。電車内で合流して一緒に揺られながら行けばいい話だ。映画館に関してもそうだ。俺たちが住んでいる市には映画館があるのに、今日は隣の市の映画館に行った。


彼女は昔に見た少女漫画の待ち合わせという行為に憧れがあったらしい。そんなものに何の価値があるのかはわからなかったが女とはそういう生き物だと理解しているし、彼女にとっては初デートだったので思い出に残るようにしたつもりだ。


思い出……。公園であのあと僕たちは昔の話をした。俺の記憶は曖昧だったが彼女はかなり鮮明に覚えていたようだ。それでも俺にも彼女の鮮明な記憶はある。




――――――――4月の上旬の小学校の帰り道。


道端でしゃがみ込んでいる小さな女の子がいる。黄色のカバーをつけたランドセルだ。俺の学校では一年生だけランドセルに黄色のカバーをつけるという決まりがある。なぜカバーをつけるかは知らないがそのおかげで一年生であることはわかった。


「君、どうしたの?」


「ひっく……ひっく……」


何も答えないがどうやら泣いているようだ。俺は女の子の前にしゃがみこんで目線低くした。


「とりあえず道は危ないから家帰ろっか。ね?」


「ひっく……ひっく……」


何も喋れなさそうだ。俺は背負っていたランドセルを外して前に抱えると、彼女の前に背を向けて膝をついた。


「ほら! おんぶしてあげるから! 」


そう言うと女の子は泣きながらも、俺の肩に手をかけて引っ付いた。女の子は背中でぽろぽろと涙をこぼし続けている。


とりあえず家に帰さなきゃ……。


「えっと、どこがお家?」


「家、帰りたくない……」


どうやら帰り道がわからなくなったわけではない様だ。だが、そう言われても困る……。


「じゃ、じゃあとりあえず、ここは危ないからあそこの公園連れてくね」


「うん……」


ブランコと砂場とベンチしかない小ぢんまりとした公園だ。女の子をベンチに降ろしてランドセルを置くと俺は隣に座った。


「大丈夫? 話せる?」


女の子はコクリと縦に首をふる。先程よりは落ち着いているみたいだが、未だに泣いている。


「……ママとね、パパがね、喧嘩してるの」


「喧嘩? なんで?」


「わからない。……でも最近毎日しているの」


「あー……」


意想外な理由に言葉が出ない。幼い子がなくに理由なんて大抵小さなことだと思っていたが、少し深刻そうだ。ましてや家庭の話なんて他人がどうこう聞いていい話ではない。


それでも小6の俺は漫画の好きなキャラの影響あらか、正義感や親切心のようなものを主義にしていた。このまま放っておくわけにはいかない。


「……そっか! ならお家帰らずお兄さんと遊ぼっか〜!」


とりあえず泣き止んでもらおうと気分転換のために試みたが効果はあった。砂遊びを始めると10分程度で泣き止んだ。やはり子供だ。いや、俺も子供だけど。


「じゃあ、城作ろう!」


「城!?」


女の子はわかりやすく目を輝かせている。昔から図工は得意だったので砂で城を作るのには少しだけ自信があった。


水で砂を固めながら2人で協力して作る。女の子は幼いので器用ではない。なので当然歪な部分は増えていく。だが、女の子が楽しそうなのでそんなもの気にはとめない。


「名前はなんていうの?」


「愛! お兄さんは?」


「康史だよ」


「じゃあ……やっくんだ!」


どうやら俺の呼び方らしい。


「お兄さんとかじゃなくて……?」


「お兄ちゃんは家族にいるもん!」


別に家族じゃなくても年上の男なら兄的な感じで呼んでいいと思うけど……。


「そっか。まぁなんでもいいよ」


本当は少しだけ兄的な呼び方をしてほしい。


「なら、俺は愛ちゃんって呼ぶね」


「うん!」



――俺たちは時間を忘れて作業をしていた。気がつくと太陽は1割沈んでいる。大きく作ろうとしすぎたせいか今日中に完成は厳しそうだ。ていうか、太陽が沈み切るまえにおうちに帰さないと……。なんて帰そう。


「愛ーーー!!」


後ろから聞き覚えのある大きな声が聞こえたので振り返った。


「あれ? 大輝じゃん。何してるの?」


そこには俺の同級生が立っていた。


「お前こそ、俺の妹と何砂遊びしてんだよ。」


「あ、お兄ちゃん」


二人の発言から一拍置いて意味を理解する。


「いや、お前の妹かよ!!」


「そうだよ。何誘拐してんだよ」


それは冗談まじりだが本気で言っているようにも感じた。彼からしたら俺が妹を遅くまで連れ回したように見えてるのだろう。怒っているのが声色から伝わる。


「してねぇよ。これはー……」


言葉が詰まる。愛ちゃんからあまりよろしくない家庭状況を聞いたなんて言いづらい。


「違うよ! やっくんは私が遊んでって言ったの!」


俺が良い言い回しを考えている間に愛ちゃんが発言した。


「いや、なんでお前と康史が遊ぶんだよ。まぁもういいわ。早く帰るぞ」


「え……でも城がまだ……」


「もう日が暮れるだろ。母さんに怒られるぞ?」


そう言われると少し黙った後、俺に近づいてきた。


「また……遊んでくれる?」


イラついてる兄の手前かなり言いづらかったが、俺は愛ちゃんの眼差しに否定を述べると言う選択肢はなかった。


「うん。また遊ぼうね」


「ちっ……」


大輝は俺に聞こえるように舌打ちをしてきた。何というか、妹をたぶらかして兄に怒られてる気分だ……。善行したのに……。


「じゃあ、またな」


大輝と愛ちゃんは手を繋ぐと公園の出口へ歩き始めるた。手を繋ぐ二人の後ろ姿は仲睦まじい兄弟だ。俺は一人っ子なのであの姿を少し羨ましく思う。


それにしても兄に釘さされたしもう関わることはないだろうなぁ……。



数日後に良くか悪くか、俺たちは小学校で1年と6年のペアになった。


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