12.デート②
隣に座る彼女に「小学生の時のペアの子?」と聞こうと思ったが苗字が変わっていることを思い出した。もしかしたら何か訳ありなのかもしれない。少し聞きづらい。
「それで、映画ってどんなのがいいですか?」
彼女は俺に尋ねる。俺は特に詳しいわけではないがそれなりのジャンルは見てきたつもりだ。
「うーん、全く見たことないもんね。一般的に女性は恋愛物を好むイメージがあるし、映画館でデートする時はそれを見る人が多いんじゃないかな?」
実際今までの初デートは相手が見たいものがない限りは全て恋愛映画を見てきたし、それで失敗したことはない。俺が面白いと思うことはなかったが女性は基本満足げなのでそうしてきた。
「藤井さんが好きなのは?」
俺が恋愛映画をそんなに好きじゃないことを意図しての質問ではないのだろうが聞いてくれるのは嬉しい。
「恋愛映画も普通に好きだけどアニメとかも好きかな。好きな推理物のアニメがあるんだけどそれは映画が出る度に映画館に行ってたなぁ。中学生までだけどね」
恋愛映画でも楽しめるということをさりげなくアピールして自分の主張もする。こうすることで彼女は二つの選択をできるのだ。
「アニメ……。ならアニメ見ましょう!」
最初に言葉が詰まった彼女を見て再確認する。
「いや本当になんでもいんだよ? アニメ嫌じゃない?」
「全然嫌じゃないです! 小学生以来見てないですが懐かしい気持ちになれると思いますし、藤井さんにも子供の頃を思い出して欲しいです」
小学生以来……? テレビで時々見かけるくらいはあるだろうと思ったが乗る前の二の舞になるのも良くないと思ったので聞くことはしなかった。
映画館についた俺たちは真っ先に映画のチケットを買ったが、その映画は公開日からかなり日が経っていてあまり上映数が少ない。次の上映まで1時間以上あったので俺の提案でカフェで時間を潰すことになった。
春休みシーズンなので若めの子が多いせいか話し声がよく聞こえる。年齢層が高ければ落ち着いた雰囲気カフェだっただろうが今回に関しては気にしない。俺の隣にいるのは若い子だからな。
彼女がメニュー表を見ながらこちらをチラチラ見ていることに気づいた。
「どうしたの?」
何か恥ずかしそうにしている。トイレだろうか。
「えっと……あの、どうやって注文するの?あと、どれも飲んだことなくてわからない……」
いや、ちょっと待て。いくら女子高生といえどお店の注文もしたことがなくてカフェの飲み物を飲んだことがなくて映画も見たことがないだと。
「お店で注文したことないの?」
「……お母さんが全部してくれてたから」
友達と来た時も友達に全部注文してもらうのかよ。とツッコミを入れようと思ったがバツの悪そうな顔をしている彼女に言及はしない。どうやら彼女はかなりの世間知らずらしい。
「じゃあ俺が注文するからやり方覚えなよ。飲み物は……んー、甘いの好き?」
彼女は申し訳なさそうにコクリと頷く。
「じゃあココアにしな。」
それにしても世間知らずにも程がある。箱入り娘というやつなのだろうかと考えているうちに飲み物がテーブルに運ばれる。
「つっ……!」
ココアを一口すすった彼女小さな声で驚き、一言。
「苦い……」
そういえばカフェのココアは市販で売られてるココアより苦いというのを聞いたことがある。カフェでココアを注文したことはなかったので市販のものと同様だと思い込んでいた。それでもカフェの中では甘めのメニューだが彼女には苦いらしい。俺は砂糖を入れるよう促すと彼女は2ついれてなんとか飲めるようになった。
彼女は先程のことが相当恥ずかしかったのだろうしょんぼりとしている。
「大丈夫だから。これから覚えていこう?」
それから俺たちは映画館に行く前にポップコーンとジュースを買ったが彼女はその概念も当然のように知らなかった。
彼女は知らないことが多く度々恥ずかしそうにするが、初めて知ることが多いせいかわかりやすく表情が変化する。ココアを飲んだ時の苦そうな顔やポップコーンを食べた時の嬉しそうな顔ときたら純粋無垢な子供のようだ。
シアター⑦に入り俺たちの席に腰を掛けると、彼女は周りをキョロキョロ見渡すしながらポップコーンを食べ続けている。はじめての映画でソワソワしているのだろう。本当に子供のそれだ。
一応映画館でのマナーは一通り教えておいたが大丈夫だろうか……。
「この映画は俺が生まれる前から地上波で流れていたから池田さんもみたことがあるかもよ?」
「本当ですか??」
食い気味に答える彼女は上映までもう少し時間があるにもかかわらず、先程教えた映画館マナーの『スマホの電源を切る』を既に終えていた。初めてで緊張しているせいか、余程楽しみだからなのかはわからない。
「この映画は俺が生まれる前から地上波でアニメ放送しているから、もしかしたら池田さんも見たことがあるかもね」
「小学生以来だから覚えてないかもしれないですけど、そうだとしたら更に楽しみです。」




