おわり.
「信じられない!結婚式まで仕事なんて!」
庭の腰かけに座りながら、隣で怒るエレノアを宥めながらララは言った。
「大丈夫ですよ、エレノア。忙しいのは分かっていますから」
「ララ!物分かりが良すぎるのもだめよ。最初が肝心なのだからだいたい男性なんてほっとけばすぐ浮気に走って…」
そう愚痴り出すエレノアに、ララは困りながらも笑みを浮かべた。
リアンがすっとエレノアの隣に立った。
「エレノア様、今夜のことで少し確認を…」
「あら、何かしら」
リアンはそう言って、エレノアをララの隣から連れ行くと軽く目配せした。
「もしかして、助けてくれたのかな」
ララはそう呟き、笑顔を返した。
夜の披露の式まではまだ時間がある。
ララは立ち上がると、昼食の片づけをしているアロアの所へ行った。
「アロア、ちょっと墓地まで行ってくる」
「え?おひとりでですか?」
「ああ。せっかくだからみんなに、この姿を見せて来る」
「ララ様、キア様を待っては…」
「忙しいだろうから、ちょっと行ってくるだけだ。そこの白い花を貰って行っても?」
「構いませんが…」
ララはアロアから飾りに使われている花をいくつか貰うと、礼を言って歩き出した。
靴は踵が少しあるが、歩くのは苦ではなかった。
白いドレスを汚してしまわないように、少したくしあげて歩き続け墓地へと到着した。
ヴィンセントとギデオン、エレインそしてルルリナの名が書かれた墓の前にそれぞれ白い花を置いていく。
墓を見つめていると、後ろから荒い息遣いが聞こえ振り向く。
そこには走って来たのか、呼吸を荒くしているキアがいた。
「キア、どうした?」
驚いたララに、キアは速足で近づいて来たのでララは慌ててその腕を握った。
「何かあったのか?」
キアは呼吸を整えながら首を振った。
キアは、指を絡めるように手を握った。
「どうしたんだ、そんなに慌てて」
「怒って…いるのか」
「え?」
「エレノアが怒っていると。だからひとりで…」
「お、怒っていない。…すまない、あなたに一言いうべきだった」
「いや、僕こそ」
ララは微笑んだ。
「あなたが私を大事にしてくれているのは分かっている。心配しないで」
「そうか」
「…ああ、でも今日くらいはずっと一緒にいて欲しいかな」
「ご、ごめん」
ララは、肩を落とすキアの腕に頬を寄せた。
二人で寄り添うように、墓石の前に立つ。
「お母さん達に、見せに?」
「ああ。…でも、驚くほど言葉が浮かんで来ない。もっと伝えたいことがあると思っていたのだが。…昔からあまり話してはこなかったから…」
キアがきゅっと絡めた指に力を込めたのが分かり、ララは微笑んだ。
「いや…きっとあなたがいるからだろうな」
「僕が?」
「あなたが傍にいて、私は満たされている。…だから、きっと言葉なんてなくても私の幸せは伝わっている。……そう思うんだ」
ララはキアを見上げて微笑んだ。
「キア・ティハル。あなたを愛している。…あなたが私の腕の中で泣き出した時から。私に縋るあなたが愛おしくて、ずっとあなたを抱き締めていたいと思った」
キアは瞳を煌めかせると言った。
「僕も愛している、ララ。…今なら分かる。これが愛だって。じいさんの言う通り、人は誰かを愛してしまうものだと」
ララが微笑むと、キアはララの頬に両手を添え、唇に柔らかく唇を重ねると耳に唇を寄せた。
「…今夜からは、僕がずっと君を抱き締めているから」
そう耳を食むように囁かれると、ララはそのくすぐったさと恥ずかしさに身を縮める。
頬が一気に熱くなるのが分かる。
「…ああ」
キアは、静かに微笑むと再びララの唇に口づけた。
「…戻ろう」
「そうだな、…わっ」
キアは、ララを抱き上げた。
「キア、重たいだろう」
「重たくないって。…なんといってもバケモノ騎士だから」
「自分で言うなんて」
キアのとぼけたような顔に、ララは思わず微笑んだ。
「これから何があっても、きっとあなたとなら乗り越えていける」
そう言って、ララは屋敷の庭へ目を向けた。
「…いや、あなたとそれからみんなとか」
「だが、君のことを一番好きなのは僕だから」
「え?」
「君も僕のことを一番でなくては…だめだからな」
キアは目を伏せ、宝石のような瞳でララを見上げた。
まるで子どものように瞳を瞬かせるその顔にララは思わず呟いた。
「…かわいい」
「は?」
「全然バケモノなんかじゃない、かわいい」
そう言って、ララは両手でキアの髪をわしわしと撫でる。
「なっ、何を!」
「ふふふっ。はははっ!」
むくれたような顔をするキアに、ララは笑い出した。
キアはララの笑顔見つめながら、深く息を吐いた。
「君にはきっと永遠に敵わない」
そう言って、微笑んだ。
初めての投稿作品を読んでいただいてありがとうございます。
小説を書くこと興味を持ちながらも、なかなか作品を書き上げることができず時間ばかりが流れていました。しかし、今回初めて書き上げることができたので、誰かに呼んでもらいたいと思い初投稿しました。本当はもっとらぶらぶいちゃいちゃした話を書きたかったのに、書いている内に主人公二人の明るくはない過去が飛び出してきて、自分でも驚いています。そして、案外登場人物を頭の中で会話させることがこんなに面白いものなのかと書くことの楽しさを感じています。逆に書きたいことが溢れて、物語を作り上げることの難しさも実感しています。このもりもりになってしまった物語を読んでいただいた方、ぜひ感想をお待ちしています☆