「素直にならないと出られない部屋…?」
目が覚めると、そこは知らない部屋だった。
白い天井に白い壁。冷蔵庫等の家具一式が揃っていたがこれまた白い。
じっと見てると目が痛くなりそうだ。統一感はあるっちゃあるが、家主の趣味なんだろうか。
そんなどうでもいいことを起き抜けの頭でぼんやりと考えながら、俺は辺りを見渡していた。
本当に見知らぬ場所だ。心当たりもない。なんでこんなところにいるんだろう。
あてもなく視線をあちこちに彷徨わせていたのだが、やがて俺はある一点に目を留めた。
それは黒塗りのドアだった。
他にもドアはもうひとつあったが、そっちは白い。
そのドア以外に白でない場所はなく、部屋の色と対になる黒のコントラストは異彩を放っており、やけに目を引く。
おそらくこっちが出口なんだろう。なんとなくそんな気がして、とりあえずここから出てみようかと腰を浮かせかけたのだが、次の瞬間俺は眉をしかめることになる。
「なんだ、これ」
意味不明の文字の羅列が、目に飛び込んできたからだ。
―――素直にならないと出られない部屋
ドアに打ち付けられたプレートに、そんな言葉が綴られていた。
「素直にならないと出られない部屋…?」
思わず口に出てしまうが、やっぱり意味がわからない。
質の悪いギャグかと思い、目を凝らしてもう一度プレートをよく見てみるのだが、どうやら他にも文字…というか、文章が、長々と刻まれているようだ。
タイトルのインパクトが強すぎるのもあったが、正直気になる。
近づいてよくよく目を通してみるのだが、その結果、またしても俺は困惑することになる。
そこにはこんなことが書かれていたからだ。
・ここは素直にならないと出られない部屋です。
・素直ポイント(以下SP)が10ポイント貯まれば出られます。逆に照れ隠しポイント(以下TP)が先に10ポイント貯まった場合、貴方たちはこの部屋から出られません。
・SPはふたりのどちらかが素直になれば1ポイントずつ進呈いたします。TPも然りです。ポイントは互いに打ち消しあいますので、貯めるためには素直になり続けるのがいいでしょう。人間素直が一番です。
・時間は問いません。というか、素直にならないと出られません。この際気になるあの子とガンガン本音トークをぶちかましちゃいましょう✩
・必要な家具は配置済みです。食事は冷蔵庫から随時補充します。トイレとお風呂は白いドアの向こうにあります。エチケットに気をつけてご利用下さい。こちらも使用期限は無制限となっております。
・それではおふたりとも、頑張って素直になってください。検討を祈ります。
・good luck!
「……なんだこれ」
最初に頭に浮かんだ感想がこれである。
というか、これ以外あるか?good luckとかふざけすぎだろ。
いや、素直ポイントとか照れ隠しポイントも大概なんだが…
とにもかくにも、ツッコミどころが多すぎる。情報過多もいいとこだろ。
「う、ううーん…」
訳がわからず絶句していると、ふと背後から声が聞こえてくる。
今度はなんだよと半ば呆れながら目を向けると、そこには横たわるひとりの女の子の姿があった。
「おお…?」
しかもどエライ美少女だった。
目を瞑っていても一発で美少女だとわかる可愛い顔立ち。
日本人ではありえない金色の髪を床に散らばして眠りについている様は、まるでお姫様のようである。
正直、めちゃくちゃ好みのタイプだ。
まさに俺の理想の女の子そのもの…では、あったんだけど。
「げっ」
よくよく見たら知り合いだった。
しかも、ようく昔から知っている相手。
上がりかけてたテンションが、一気に急落していくのがわかる。
「亞里亞じゃん…なんでコイツがここにいんのさ…」
名前は久我亞里亞。
俺の家の隣に住んでる、昔からの腐れ縁。所謂幼馴染ってやつだ。
今も同じ高校に通うクラスメイトではあるのだが、出来ればこういう状況ではあまり関わりたくない相手だった。
「ふぁーあ…もう朝…?ママ、なんで起こしてくれないの…」
顔をしかめる俺をよそに、どうやら亞里亞は目を覚ましたようだ。
大きなあくびを噛み締めながら、むっくり起きあがるのだが、その動きに合わせるように、大きな双丘がプルンと揺れて、同時に金の髪がサラサラと亞里亞の顔と服の上をなぞっていく。
白い肌に金糸が張り付いていく様は、えらく無垢で無防備だ。
(この姿だけ見れば、普通に可愛いんだがな…)
「え、ここどこ…?私の部屋じゃな…」
そうこうしているうちに、亞里亞はここが自分の部屋ではないことに気付いたらしい。
目をパチクリさせながら、キョロキョロと辺りを見回している。かなり戸惑っているようだ。
さっきまでの自分もこうだったんだろうかと、しばし胡乱げな目でその様子を眺めていたのだが、やがて動きをピタリと止める。
どうやら隣にいる俺に気付いたらしい。
最初は凝視、次に驚愕と、実に分かりやすく表情が変化していく。
感情が表に出やすいのが、昔から亞里亞の特徴だった。
「恭平…?」
「よっ、おはようさん」
青い目を大きく見開き、俺の名前を呟く亞里亞に、軽く手を挙げて応えてやった。
ああは言ったが、知り合いは知り合いだ。
こういう状況だと全くの赤の他人より、よほど信頼できるのは確かだしな。
情報も交換したいし、変にこじれるようなことはしたくなかった。
「…………」
だけど、亞里亞からの返事はない。何故か黙りきりである。
あれ、なんかミスったか?
なるべく気さくに接したつもりだったんだがな。
その代わり、プルプルと震え始めたかと思うと、顔も肌もまるでゆでダコのように次第に真っ赤な色に染まっていく。
辺り一面真っ白なせいか、それがやけに映えて見えた。
「なぁ、亞里亞。起き抜けで悪いんだが、聞きたいことがある。お前、何でこんなところにいるのか、心当たりはあるか?」
様子がおかしいのはわかっていたが、なにも言わない亞里亞に焦れてしまい、俺は質問することにした。
今はなんでもいいから情報が欲しかったのだ。
こんな場所に長居はしたくない。それは亞里亞も同じはずだ。
「ば、ば…」
そんな訳で、固唾を飲んで亞里亞を見守っていたのだが、ようやく返ってきた言葉はバの一文字。
「ば?」
なんだろう。バー○パパかな?なんて、アホなことを考えていると、
「なんで寝てる私の隣にいるのよ、このバカー!!!」
怒号とともに、鉄拳が飛んできた。
「そげぶっ!?」
油断しきっていたせいもあり、それをまともに食らってしまう。
どこにそんな力が秘められていたのか、お手本のような綺麗な右ストレートだった。
「ぐ、ぐおおお…」
「女の子の寝顔見るなんて信じらんない!馬鹿!変態!最っ低!」
鳩尾に突きこまれた結構な威力のパンチにたまらず悶えていると、またも罵声が聞こえてくる。
俺はなにもしちゃいない。ただ質問しただけだっていうのに、この仕打ちはあんまりじゃないだろうか。
(こ、コイツはほんとに…!)
そうだ、コイツはこういう女なのだ。
校内一の美少女なんて持て囃されているけど、それはあくまで外面の話。
実際はすぐ怒るわ手が出るわ。昔から別になにかしたわけでもないのに、俺に対して事あるごとに突っかかってくる、気の強い性格をした理不尽の権化。
それが俺の幼馴染、久我亞里亞。
めんどくささの塊のようなやつだった。
―ピコン♪TP1ポイント入ります。残りTPは9ポイントです。
悶絶する俺の耳に、そんなメッセージが届くも、まるで頭に入ってはこなかった。
「―――で、その素直ポイントってのを貯めないと、私達はここから出られないてわけ?」
それから小一時間ほど経った頃。
俺たちは改めて顔を突き合わせ、ふたりで話し込んでいた。
「あそこに書かれていることが本当ならそうなんだろうな」
言いたい文句を飲み込んで、亞里亞と手分けして部屋を散々探索してみたが、ヒントらしいヒントは結局あのプレートの説明文だけだった。
ドアも開けてみようとチャレンジしたが、押せど叩けど、うんともすんともいいやしない。
そもそも取っ手すらなかったのはあまりに不便すぎるだろう。
どんな設計をしたのか、設計者に小一時間問い詰めたい気分である。
体力だけが削られて、今は情報整理を兼ねた小休止中だった。
「んで、あれが貯まったポイントを示すカウンターってとこか」
そう言って、俺達はドアの上の壁へと目を向ける。
そこにはSPとTPと書かれたプレートが上下に別れて設置されており、横にはそれぞれ10個ずつのランプが等間隔で均等に配置されていた。
そのうちTPのランプのひとつが黄色く点灯しており、おそらく先ほどのポイントが反映されていることを示しているのだいうことは察しがつく。
あれを見て現在のポイントを確認しろということなんだろう。
あまりのご丁寧さに涙が出そうだ。
「今は照れ隠しポイントが1つついてるから、素直ポイントを貯めて打ち消す必要がある。まぁ分かりやすいっちゃ分かりやすいな」
「SPが10個貯まれば出れる。逆にTPが貯まれば出れない、ね…改めて訳わかんないルールだわ。なんなのよこれ…」
頭を抱えて亞里亞は嘆く。
俺も同じ感想だけに、気持ちはわかる。
とても現実のこととは思えないしな。
あまりにも非日常すぎて、イマイチ頭が追いつかない。
「まぁおかしな話だよな。現実味とかまるでないし。今も夢でも見てるような気分だわ」
ドッキリやテレビ番組の企画の可能性は、既にバッサリ切り捨てている。
理由はいくらなんでも手が込みすぎているからだ。
統一された家具に加え、わざわざ部屋にあんなランプまで設置してのドッキリなんて、さすがに割に合わないだろう。
そもそもあの手の企画は仕掛け人に事前に説明があるはずだし、そんなものを受けた覚えなんざこれっぽっちもない。
なら残った可能性は誘拐くらいだが、それにしてはあのプレートの説明が色んな意味で引っかかる。
なにがしたいのかサッパリだ。
結局、あの説明通りにするしかないんじゃないかという結論を出したのはいいものの、この事態にさすがの亞里亞もかなり参っているらしい。
(ここは男の俺がしっかりしないといけないよな…)
別に亞里亞のことは嫌いなわけじゃない。
俺だって男だ。気弱な姿を見せて、女の子を不安にさせちゃいけないってことくらいわかってる。
だからまぁ、ひとまず慰めの言葉のひとつでもかけてやろうか…そう思ったのだが、
「しかもよりによって恭平と一緒だなんて最悪よ…こんなの出れないも同然じゃない…」
そんな俺のささやかな気負いはあっさりと、いともたやすく木っ端微塵に吹き飛ばされた。
「はぁっ!?」
コイツ、なんてこと言いやがる!?
なんで唐突にディスられなきゃいかんのだ!
「なんだそれ!?どういうことだよ!?」
「言葉通りの意味よ!アンタと一緒だと部屋から出られないって言ってるの!考えられる限り最悪の組み合わせじゃない!」
「なんだとこの野郎!それいうなら俺だってお前と一緒に閉じ込められるなんて最悪だっつーの!」
「なによそれ!」
「なんだよ!」
もはや売り言葉に買い言葉だ。
誰も止める人のいない空間というのもあって、俺達の喧嘩はひたすらヒートアップしていくと思われたその時。
ピピピピン!!!
突如部屋中に、けたたましい電子音が響き渡った。
「へ?」
「え?」
なんだろうと、音が鳴った方に俺と亞里亞は同時に目を向けるのだが…そこにあった光景を前に、思わずぎょっとしてしまう。
「「カウンターが、増えてる…」」
TPを示す黄色いランプ。それが一気に7つも増えていたのだ。
これにはさすがの亞里亞もショックだったのか、顔を青ざめさせていた。
「おい。これ、ヤバいんじゃないか…?」
「え、ええ。かなりまずいわね…」
俺だって動揺は隠せない。少し甘く考えていたのかもしれない。
(まさかこんな短時間で、一気に悪い方のポイントが貯まるだなんて…)
冷たい汗が背中を伝う。
「と、とりあえず言い争うのはやめよう。下手な発言するとすぐにカウンターが貯まりかねな…」
「このままじゃ恭平とふたりきりで、ずっとこのままこの部屋にいることになるじゃない…そんなの絶対に嫌よ!」
一旦仕切り直そうとそう提案したのだが、言い終わる前に亞里亞がそんなことを口走る。
「ちょっ、おま!」
それはまずいだろ!
案の定というべきか、それはすぐに、だが無慈悲に告げられる。
ピコン♪TP1ポイント入ります。残りTPは1ポイントです。
「ああ!!!」
「馬鹿野郎!リーチじゃねーか!」
言わんこっちゃない!ついに9つ目が点灯したぞ!
このままじゃ本気でヤバい!
「亞里亞、好きな料理はなんだ!?」
俺は咄嗟に思いついた案を口走る。
イチかバチかの賭けだが、亞里亞に喋らせるよりは勝算があるはず。
こんな部屋に死ぬまで閉じ込められるなんてゴメンだ!
「え?いきなりなにを…」
「いいから答えろ!」
怒鳴る俺に気圧されたのか、亞里亞はびくりと肩を震わせる。
「わ、わかったわよ…ハ、ハンバーグだけど…それがいったい…」
ピコン♪SPポイント入ります。残りTPは8ポイントです。
それが聞こえてきたのは、亞里亞が答えたと同時だった。
見るとカウンターがひとつ減り、TPが8つに戻っている。
「良かった。これで合ってたか…」
どうやら賭けに成功したらしい。
亞里亞はなにが起きたかわからないといった顔をしているが、とりあえず助かったことには変わりはない。
すぐに次の手を打つべきだろう。またカウンターが貯まるのはゴメンだ。
「亞里亞も俺に質問してくれ。ただし答えやすいやつで。好きな食べ物とか漫画とか、その辺がいいと思う」
「え、と…」
「素直に答えられる質問なら素直ポイントが入るってこと。そのまんまだ」
ひねくれて考える必要もなく、単純な話だったのだ。
答えにくいことを言わなければいい。
要は素直に答えればいいわけだ。
「今は答え合って、とりあえずTP減らそうぜ。話はそれからだ」
「え、ええ。わかったわ」
そうして俺達は互いに質問を交わしていく。
思ったことをそのまま言えばいいことばかりを聞き合えばいいわけだから、すぐにカウンターも減っていった。
「恭平の好きな飲み物は?」
「カル○スだな。味は濃い目のやつがいい」
「…それ、小学校の頃も言ってたわね。アンタ、好み変わってないじゃない」
「うっせーな。いいだろ…んじゃ、亞里亞の気に入ってるものは?」
「う…ぬ、ぬいぐるみよ…くまさんの…」
「ん?それもしかして俺が昔あげたやつか?まだ持ってたのか。物持ちいいんだな」
「うっさい!いいでしょ別に!大切なものなんだから!」
「お、おう…いや、文句はないんだけど…大事にしてくれてるなら嬉しいし」
「っ…そ、そう…嬉しいんだ…」
「お、またポイント入った」
途中ひと悶着ありながらも、質問を順番に繰り返し。
やがて0まで戻したところで、俺はようやく一息つくことができていた。
「はぁ…とりあえず安心できるところまできたな…」
降り出しに戻っただけではあるが、二度と出られないかもしれないという緊張感とは天地の差だ。
どっと徒労感が押し寄せてくるが、今は助かったという安堵の気持ちが強かった。
「…ごめんなさい」
そうして胸をなで下ろしていると、何故か亞里亞が謝ってきた。
さっきまでの元気はどこにいったのか、普段勝気な幼馴染には珍しく、やけにしょんぼりしている。
「なんだよ、いきなり…」
「だって、私が余計なこと言っちゃったから…もしかしたら、あのまま部屋から出られなかったかもしれないし…」
そうかき消えるような声で呟いて俯く亞里亞。
俺が安心から一息ついたのと同じように、亞里亞のほうも落ち着いたことでさっきの件について思うことがでてきたらしい。
「別にいいって。気にすんなよ。俺だって…」
「ううん。私が悪いの。私が素直じゃないから…」
なにやら責任を感じているらしく、フォローしようとしたのだが、あまり効果なさそうだ。
むしろどんどん落ち込んでる気がする。
余裕ができたことが、どうやら悪い方に転がってしまったらしかった。
(なんだよ、調子狂うな…)
そりゃイチイチ突っかかってこられたり逆ギレされるのは嫌だけど、それはそれとしてへこまれても困るんだが。
元気じゃないコイツの姿は見たくないんだよな…はぁ、仕方ないか。
「あー…なぁ亞里亞。質問の続きをしていいか?」
なんだかいたたまれない空気になりそうだったので、俺は一度流れを変えることにした。
「あ、うん…いいけど…」
「じゃあ質問するけど。亞里亞って、好きなやついんの?」
亞里亞の承認を得たことで、俺は普段絶対聞かない恋愛話へと切り込んだ。
「え…?」
「いや、ちょっと気になってな。せっかくだし聞いてみようかなって」
いつもの亞里亞なら、こんなことを聞いたら顔を真っ赤にして怒ってくるはずだ。
ぶっちゃけ気になるのは本当だけど、それで構わない。
暗い顔をされるより、いつもの調子に戻ってくれたほうが助かるしな。
そんな打算を含んでの質問だったが、亞里亞から返ってきたのは予想外の答えだった。
「い、いるわ…」
「へ?」
「だから、いるって言ってるの!」
叫ぶように答える亞里亞。
顔を赤くして震えていることから、嘘をついているわけじゃないことはわかるのだが…なんというか、ショックだった。
自分でも意外なほど、動揺しているのがわかる。
ポイントが加算された音が聞こえても、そっちを見る余裕がまるでない。
「え、と。そ、そうなんだ…俺の知ってるやつか?」
そのせいだろうか。よせばいいのに、聞かなくていいことまで尋ねてしまった。
「うん…」
「そ、そっか。やっぱイケメンだったり…?」
なんで自分で聞いといて、自分でダメージ受けてんだ俺。
言った後でしまったと思ったものの、今更取り消すこともできやしない。
「…少なくとも、私からはそう見える。それに、その人はいざという時とっても頼りになるの。それがわかったら、ますます格好良く見えてきたと思う…」
「へ、へー…本気で惚れてるんだな…」
やべぇ、ちょっと泣きそうだ。
幼馴染の口から聞かされるノロケ話が、こうもキツいものだったとは。
「うん。ずっと好きだったから…だけど、素直になれなくて、いつも変な意地を張っちゃうから、全然進展なくて…」
「ほ、ほほう。そうなんすか」
胃がキリキリと痛む。
なんか俺のほうがドツボにハマっている気がするぞ。
違う意味でメンタルが崩壊しそうだぜ。
「あー…そ、そうだ!さっき好きな料理について聞く前に、俺とこの部屋にいることになるのは絶対に嫌だって言ってたけど、何故かTPのほうに入ってたよな!」
このままだとこっちの身が持たないと判断した俺は、さらに場の空気を変えようと、適当な疑問を口走る。
好きな相手がいるって言ってるやつに、なに言ってんだろうな。
まさにやぶれかぶれだ。どうにでもなれというのは、今の俺の心境のことを言うんだと思う。
「っ!!!」
「好きな人いるみたいだけど、実は亞里亞って、俺と一緒にいるの、嫌じゃなかったりするのかなー、なんて…」
そんなわけないよな、と続けようとしたんだけど。
冗談交じりの俺の言葉に、亞里亞はビクンと大げさなほど肩をはねさせた。
「え、何その反応…」
「………………」
驚いたのはこっちだったが、亞里亞はなにも答えない。
顔を真っ赤にして、何故かプルプル震えている。
代わりにピコンと音がして、壁のランプがひとつ点いた。
「……素直ポイントがひとつ入ったな」
「……………」
トークしなくても入るんだな…なんてどうでもいい情報を頭に入れつつ、亞里亞を見れば、顔が真っ赤に染まってる。
目は口ほどにモノを言うとは聞くものの、これを見れば誰だって俺と亞里亞、どっちのポイントが入ったか、一目瞭然なんじゃなかろうか。
「なぁ、あり…」
「ええ!そうよ!悪い!?恭平と閉じ込められたことに、別に悪い気はしなかったわよ!他の人なら絶対ごめんだけど、むしろちょっとラッキー♪とかも思ったわね!二人きりなら距離縮められるとか、チャンスだとかも考えたわ!あと、さっきの怒った恭平ちょっとかっこよかったし、頼れる姿見せられて、正直キュンときちゃったわよ!文句あんの!!!!あんなら言いなさいよバカ恭平!!!」
ピピピピピピココココココン!!!!!!!!
早口で一気にまくしたててくる亞里亞。
同時に興奮したように連打してくるポイント音。
いや、亞里亞に文句はない。一つもない。
あんのは後者のほうだ。ポイント音くんさぁ、ちょっと黙ってくれないかなぁ。
亞里亞の話に集中できる気がしないんだが?なんでお前が自己主張してんだよ。
もういい、無視だ無視。割り切って話を進めよう。
「でも今好きな人がいるって…」
「だから、それが恭平なの!気付いてなかったの!?この鈍感!!??」
ピッコ――――――――――――ン!!!!!!
絶頂したかのように、それは高らかに、そして長く響いた。
電子音の癖に個性が強すぎる。亞里亞から告白されてるという衝撃が半ば打ち消されちゃってる感あるけど、ここまできたらもはや気にしたら負けだ。
徹頭徹尾無視する覚悟を腹に決め、外面だけは平静を取り繕うことに終始する。
「俺と一緒にいるのが最悪とか、出れないも同然って言ってたのは…」
「恭平相手だと素直になれないんだもん!絶対意地張っちゃうのがわかってるから、迷惑かけちゃうと思ったの!最悪っていうのは、自分に向けてのことよ!」
ピッココッココ――――――――――――ン!!!!!!
ヤケクソ気味にそう吐き出す亞里亞。
またも甲高く響く電子音が、それが事実だと主張しているかのようだ。
「そう、だったのか。だから…」
長年の疑問が氷解していくのを感じる。
言われて見れば確かに腑に落ちる点が多々あった。
これまでの言動は、亞里亞なりの照れ隠しだったわけだ。
(なんだ…コイツ、結構可愛いとこあんじゃん)
人間現金なもので、謎が解けると途端に人を見る目が変わってしまう。
なんだかこの素直になれなかった幼馴染が、とても可愛く見えてきたのだ。
「そ、それで、恭平はどうなのよ…」
「ん?」
ひとり納得していると、亞里亞が上目遣いでこちらを見てくる。
ただ。瞳は左右に揺れていて、なんとなくおぼつかないような印象を受ける。
「恭平は、私のこと、どう思ってるの?」
そう聞いてくる亞里亞の顔は、どこか不安そうだった。
ああ、そうか。俺、亞里亞に告白されたんだよな。
なら、返事をしなきゃいけないのか。
うん、それは告白のマナーだもんな。
待たせるのも悪いし、答えないと。
「俺は…」
告白は正直嬉しかった。
これまでの諍いの記憶も全部吹っ飛ぶくらい、衝撃的だったのも事実だ。
じゃあ、YESと答えるべきなんだろうか。でも、考えがまとまってないのに答えるのは、不誠実なんじゃないか?
(ヤバい、考えがまとまらねぇ…)
色んなことがありすぎて、頭の中がグチャグチャだ。
なんとか落ち着こうと視線を宙に彷徨わせていると、ふと目に飛び込んでくる文字がある。
(…素直にならないと出れない部屋、か)
それは最初に見つけたこの部屋の名前。
そうだ。どうせこの部屋では、嘘をついたって意味がないんだ。
「俺は、亞里亞のこと…」
自分の気持ちを、正直に吐き出せばいい。
最初は訳のわからない場所にきてしまったと思ったけど、今は少しだけ感謝してもいい気がした。
「――――」
―SPが10ポイント貯まりました。部屋のドアを開錠致します。お疲れ様でした。
答えると同時に聞こえてきたのは、ドアがカチャリと開く音。
だけど、部屋から出るのはもう少し先になりそうだ。
ちゃんと素直に答えたのに、何故か涙を流してる彼女への対応に、まだ時間がかかりそうだから。
―――good luck♪
抱きついてくる亞里亞の泣き声に混じって、そんなお節介なメッセージが聞こえた気がした。
久しぶりのリハビリ短編です
モチベ問題などで悪戦苦闘中
バッドエンドルートも考えたけど、どう考えてもホラーにしかならない不具合
とにもかくにも、ツンデレはいいぞ
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