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幻操士英雄譚  作者: ふんわり卵焼き屍人
~旅立ち、出会い~
5/69

第01話  トンネルの向こうは砂漠でした

一人称です。

 そもそも、どうしてこんなことになったのか。


 今日は俺の19歳の誕生日だった。


 まぁ、だからといって普段とテンションが変わるというワケでもなかったのだけど。


 誕生日に対する感慨などとうの昔に失くしてしまっていたし、何より自他公認の面倒くさがりである俺が知人友人の為ならまだしも、自分の為にバースデイイベントを企画立案するなどありえない。ということで、誕生日(大学は休み)でありながら、普段と変わらずMMORPGでもやりながら気ままに休日を過ごすつもりだった。


 ところが、今日はどこのレアモンスターを狩りにいこうか思案しながら朝食の準備に取り掛かっていたところへ、手持ちの携帯にメールの着信音が鳴り響いたのだ。


 右手で卵を割りながら、左手で携帯を操作する。メールボックスを開いてみると、


『今日はお前の誕生日だろ?おみやげ持ってみんなで遊びにいくから、アパートの鍵開けといてくれ。よろりー』


 とのことだった。


 もしも俺に先約があったらどうするつもりだったのか気になるところだが、軽いツーリング以外に俺が休日に外へ出ることなど滅多にないと友人達は知っているので、それを見越してのメールだったのだろう。


 どうせなら昨日のうちにメールしてほしかったが。


『おk』


 一言メールを返して、携帯を閉じた。


 それから急いで朝食を食べて、家の中の掃除を済ませ、買い物に出かける。


「どうせ昼間から酒盛りなるんだろうなぁ」との予想から、行きつけの年齢確認の甘いコンビニで酒とつまみとおやつ用のカップ麺を買い漁って、重い買い物袋を引っ下げて帰宅しようとして、道路の下を通るトンネルの出口を抜けようとしたところでメチャクチャ眩しい光に包まれて……。


 そして気がつけば、辺り一面が砂漠と化している風景の中にポツーンというこの理解不能な現実を突き付けられてしまったのである。

 別に、帰り道の途中で電柱の陰に隠れた宇宙人に出会ったとか、野良猫達の集会を見かけたとか、履き慣れたブーツの紐が切れたとか、そういう変わったことは一切なかったのに。


 いったい何がどういう理由でこうなってしまったのか、さっぱりわからない。


「まさかッ!? どこぞの漂流記みたいにここは未来の日本で、砂漠の向こうには歪な進化を遂げてしまった新人類が蔓延っているとか!」


 ドラマの見過ぎ感が否めない……。


「もしくは、どこぞのツンデレ魔法使いの女の子が使い魔召喚の儀式を行った結果がコレとか!」


 ラノベの読み漁り過ぎ感が否めない……。


 まぁ、個人的には後者のシチュエーションを望んでやまないけど、砂漠のど真ん中という光景を見る限り、格段に前者の方が確率的に高い気がする。

 もし遭遇してしまったら「俺は過去から来た日本人です!」と捨て台詞を残しつつ、脱兎の如く逃亡しなくてはならないだろう。


 ――と、そんな非現実的な妄想は置いといて。


「まいったなぁ……」


 思わず零してしまった溜息。


 あまりに現実離れした緊急事態に対し、もはや危機感まで麻痺してしまったらしい。あまり自分が危機的状況下に置かれているという自覚が起こらない。


「トンネルの先は〜異世界でしたぁ〜」


 空を仰げば、いつもと変わらない太陽が俺を迎えてくれるからだろうか?


 ふと、空が紅くない&太陽が黒くなくて本当に良かった、なんて思ってしまった。

 

 俺もそろそろ末期らしい。


「あ、そうだ。携帯」


 バカな考えを意識の外に追っ払ったところで、外出時の頼りになるお供を思い出し、一旦右手の荷物を地面に置いてからジャケットの胸ポケットに手を突っ込んだ。


 携帯を開き、電波を確かm【圏外】――パタン。


 見なかったことにしよう。そして、電池勿体無いから電源切ろう。


「さて、どうしましょうかね」


 無遠慮に照りつける太陽の日差しで汗ばんだ額を拭いながら、改めて辺りを見回してみる。

 青い空と輝く太陽、地平線まで続く砂漠。あとは小さく映る村だかオアシスらしき影。それしか見当たらない。ここは気を利かせてサボテンの一つでも生えるべきだろうに。


 とまぁ、そんなことはどうでもいい。それよりも、気になるのはあのオアシス……何やらそこもここと同じように砂が侵食しているように見えるのだが、気のせいだろうか……気のせいであってほしいな。

 なんにせよ、いつまでもここにいても仕方ない。4分の3がアルコール飲料とはいえ、飲み物も食べ物もあるのだから、そう簡単に行き倒れはしないだろう。たぶん。


「まぁ、とりあえず歩くしかないか――ん?」


 砂漠の遥か向こうで何かが動いた気がして、目を凝らしてみた。


 小さな紫色の光点を放つそれは、徐々にこちらに近づいてきているようだ。それに伴い、僅かな振動と共に地響きのような轟音も遠雷のように聞こえてくる。


 もしかしたらトラックにでも乗った人が通りかかるのかもしれない!と嬉しさが込み上げてきたのも束の間、近づいてくる"何か"の正体がハッキリするに連れて、俺の思考能力はゆっくりと歯車の動きを止めていく。


 俺が人かもしれないと思った"何か"は、車の形をしていなかったからだ。


 轟音を響かせ、空気を震わせ、大地を揺るがし、山のような砂丘を粉砕しながら移動してくるとてもとても大きなミミズ。紫色の光点は、頭or口と思われる部位の上部にくっ付いた巨大な紫色の眼球(?)だった。

 その大きさも俺の予想を遥かに超えている。距離感が曖昧だから詳しくはわからないが、少なくとも"今見えている部分"だけでも200mは優に下らないだろう。大迫力なんてチンケな言葉じゃ言い表せないスケールだ。


 ていうか、このまま奴が突き進んでくれば、俺は確実に"死ぬ"。


「あ……俺オワタ……」


 逃げなければとも思ったが、ミミズの進行速度を把握した結果、無駄だと理解した。


 そもそも、戦闘機じゃあるまいし、轟音を発しながら近づいてくる紫色の光点をどうして人が乗ったトラックかもしれないなどと思ってしまったのか。

「これで死ぬんだなぁ」というよくわからない感情の高ぶりも相まって、自分の思慮の浅さに泣きそうになる。


 しかし、いくら自分の運命を呪ったところで、事態が好転するハズもない。


 もうどうでもいいや。あの大きさに潰されれば、痛みなんて感じる間もなくあの世に行けるだろうさ。たぶん。


 俺は半ばヤケクソになりながら、持っていたビニール袋から500mlのグレープフルーツチューハイの缶を取り出し、トップルを開けて中身をガブ飲みした。


「ぷはー……ッ。やっぱどんな状況でも氷〇は美味い」


 完全にイッてしまった頭は、近づいてくる死を理解しつつも、そこからくる恐怖を緩和してくれたらしい。

 第三者が今の状況を理解しつつ、俺を見れば、「こいつは完全に壊れた」と客観的に判断するだろう。俺も否定しない。


 最早何もかもがどうでもよくなってしまった。徐々に大きくなる地響きを意識することもなく黙々と酒を呷る。


「あーあ……またみんなと一緒にスノボー旅行行きたかったなぁ。新しく買ったバイクもまだ200kmくらいしか乗ってないのにさぁ〜」


 奇妙な自暴自棄になりつつ、あと30秒ほどで俺と接触するだろうというところまで近づいてきているミミズを改めて直視し、そのあまりの巨大さに再び圧倒されかけたところへ――。


「貴方は馬鹿なのッ!? こんなところで突っ立って死ぬつもり!?」


 ふと俺の周りが暗くなり、俺の真下の影が大きくなったと思いきや、いきなり真上から罵倒された。


 え?上??


「――は?」


 間抜けな声をあげながら、ふと上を見上げようとした瞬間、"何か"に両肩を掴まれる。

 そのまま、物凄い勢いで遥か上空まで引っ張られた。


「――……ッ!!?」


 悲鳴をあげる余裕なんてなかった。


 身体を襲った急激なGに胃袋が悲鳴をあげ、今まで飲んでいたチューハイと一緒に消化中の朝食がリバースしそうになるのを懸命に堪えることで精一杯。真下を通過する巨大ミミズを意識しつつも、どうやら助かったようだし、今は汚物を吐きださないようにすることのほうが大事だ。


「……大丈夫?」


 少し心配そうな声で問われ、なんとか深呼吸して胃袋を落ち着かせてから、


「危うく口からイグアスの滝が生まれるとこだった――……??」


 俺の両肩を掴んでいるのが、大きな鳥の足だと気づき、呆然とした。


「イグアスの滝?」


 声の高さと独特の柔らかさから凄く人間の女の子っぽいんだけど……まさか鳥が喋るワケもないし……もしや、鳥の背中の上にいるとか?


「まぁ、いいけど。一旦砂漠に降りるから」


 声主は「貴方もいつまでも両肩掴まれて吊るされたままじゃ痛いでしょ?」と付け足してから緩やかに地面に向けて降下していった。"現実離れし過ぎた現実"に言葉も忘れるほど驚愕してしまった為、相手の問いかけに全く返答できなかったが、向こうはさして気にした様子もない。


 パラグライダーに乗っているような気分を束の間味わいつつ、遠ざかっていく巨大ミミズを見送り、そのまま何事もなく地上に到着すると、鳥は丁寧に俺を砂地へ降ろした。そのまま軽く羽ばたいて器用に後退しながら自らも砂地へ着地する。


 それにしても大きい。改めて鳥と向き合ってその大きさを再認識し、圧倒された。


 全身を覆う蒼く綺麗な体毛は日の光を浴びてキラキラと輝き、尚且つとてもふかふかしている。さらに、足先から頭までの高さが優に4mはあろうかという体躯。あの巨大ミミズといい、どう考えても地球上には存在しない生き物だ。


「ところで、どうしてこんな砂漠のど真ん中で突っ立ってたの?」


 改めて、地球のどこかに飛ばされたワケではなさそうだと考えていると、でかい鳥の背から誰かが飛び降りてきた。華麗な着地と共に姿を現したのは、紺色のフード付き外套を目深に被った女の子。表情はフードのせいでみえないが、女性らしい凹凸のあるフォルムをしていることもあり、そうであると仮定する。


 俺の予想通り、今まで鳥の背中に乗っていたらしい。こんな突拍子もない予想をたてられるのも、これまでゲームやラノベで培ってきた知識の賜物だ……こんなところで役立つなんて夢にも思わなかったケド。


「あの……貴方は? このでっかい鳥は貴方のペットですか?」

「敬語は鬱陶しいから使わなくてもいい。これは私の幻獣(げんじゅう)よ」


 見ればわかるだろ的な雰囲気でやや呆れられながらそう教えられるも、リアルで幻獣なんて単語を初めて聞いた俺は目を白黒させるしかできない。あ、リアルとかネトゲー用語出しちゃった、やべ。


「はぁ……。その、幻獣って?」

「そんなことはどうでもいいから、さっきの私の質問に答えて」


 明らかにゲームやアニメで聞きそうな単語に首を傾げるも、俺の問いは無視され、少し不機嫌そうに促されてしまった。


 仕方ないので、ここは素直に話を先に進めよう。


「えと……どうして砂漠のど真ん中で突っ立っていたかというと……」

「いうと?」

「茫然自失としていたから」

「………………」


 俺の答えに一瞬呆気に取られたのか、数秒沈黙する。


「……どうして茫然としていたの?」

「ここがどこだかわからなかったから」

「まさか、記憶喪失なんて言うんじゃないでしょうね……?」


 面倒臭そうな顔をする彼女に対し、俺は首を横に振って否定する。


「それはないよ。俺はどこの誰かハッキリと答えることができるし、自分がどこに住んでいたかも答えることができる。まぁ、答えたところで信じてくれないだろうけど」

「………………」


 改めて問い返してきた女の子は、俺の返答を聞いた瞬間に再び沈黙した。


 しかし、今度は雰囲気からして呆気に取られているというワケではなく、何やら思案からくる沈黙らしい。フードの奥から感じる少し棘のある視線がそれを物語っている。このまま相手が再び口を開くまで黙っていてもいいが、それでは話が進まない。

 何よりいくら彼女が思案したところで、俺の事に関する情報を引き出すことは不可能である。


 ……いつまでもこんな日が照る蒸し暑いところに留まっていたくないので、次は俺から話を進めることにする。


「今、貴女は俺がどういう類の人間か勘ぐっていると思うんだけど、俺はただの迷子の一般人だよ」


 そう言った瞬間、フードの奥の瞳が鋭くなった気がした。しかし、ここで話を止めていては先に進まないので、構わずに続ける。


「買い物帰りの道中で変な光に包まれて、気づいたらここにいた。それだけ」

「………………」


 まぁ、誰だって自分が助けた人間からこんな話聞かされれば、その人物を疑ってしまうのも無理はない。


「俺のことを訝しむのも無理はないよ。俺だって今の自分が置かれている状況についていけてないんだから」


 正直なところ、全部悪夢でしたっていうオチを未だに期待してるくらいだし。

 さっさと夢オチフラグかもーん!


「気味悪いって思うんなら、遠慮なく俺をここに捨て置けばいい。命を助けてもらっただけでも十分恩の字だし。とりあえずここから一番近い集落がある方向さえ教えてくれれば、あとは自分でなんとかするから」


 自分のケツは自分で拭く。今までずっとそうしてきたし、これからもそうだ。それが自分の命に関わることでも、妥協なんてしない。したくない。他人に弱みなんて見せてたまるか。


 俺の台詞から頑なな意志を感じ取ったのか、女の子は深く溜息を吐き、


「ハァ……普通は泣き縋ってでも私を頼ろうとするのが"一般人"の反応じゃない? それを……言うに事欠いて、あとは自分でなんとかする? 貴方のようなありえないくらい軽装の素人が、この砂漠のど真ん中に放置されてなんとかできるワケないでしょう。それとも何? ここで死にたいの?」

「そんなの死にたくないに決まってるじゃないか。でも――いや、いい。ただ、気味悪がってる人にこれ以上頼るつもりはないってだけさ」

「よくもそんなヌケヌケと……気味が悪いなんて一言も言ってないのに」


 肩を竦めて付き合いきれないというジェスチャーをする。そして、軽快な跳躍で蒼い鳥に飛び乗った。一息で。最低3mはありそうな高さの背中の上に。


 その身体能力には驚いたが、今はそんなことなどどうもいい。この熱砂の砂漠から脱出する為に、これから必死で生き延びる努力しなくてはならないのだから。


「悪いんだけど、飛び去る前に一番近い集落の場所を教えてくれないかな?」

「は? 飛び去る前にとか何言ってるの? そんな寝覚めの悪いことするワケないでしょ。移動するから乗って」

「え……? 連れてってくれるの?」


 正直意外だった。てっきり、このまま飛び去ってしまうものだと思っていたから。


「そう言ってるの」


 女の子は面倒臭そうに肯定する。

 まぁ、連れてってくれるのは素直に嬉しい。だけど……。


「で、乗れって……その蒼い鳥に?」


 正直、今まで動物の上に乗るという経験がなかったので、少し怖い。乗馬経験すらないのに、いきなりクック亜種モドキ(全然似てないけど)の背中に乗れというのは少々ハードルが高いのでは……。


「鳥じゃなくて、幻獣。名前はピノ。貴方の疑問は道すがら説明してあげるから、今は大人しく従って」


 ピノ……その巨体の割には随分と可愛い名前だ。


「……俺のこと食べたりしない?」

「食べないから」


 何バカなこと言ってるの、と溜息混じりに窘めてくる女の子。


 とにかく、ご主人さまがそう断言してるのだから、いつまでも女々しく怖気づいてるワケにもいかない。覚悟を決めよう。


 ――しかし。


「これは……どうやって乗れば……」


 3mの高さを素の跳躍で一気に飛び乗るとか、俺が知る限り現存するどのオリンピック選手でも明らかに無理だと思う。


 どうしていいかわからずにオロオロしていると、ピノの背中から女の子が見下ろしてきた。


「何してるの? 早く乗ってってば」

「いや、早く乗れって言われても……これどうやって乗るの?」

「どうやってって……ジャンプして乗ればいいじゃない」

「いやいやいやいや。俺、ただの一般人ですから。貴女みたいな身体能力は備わってないの。だから無理」

「………………」


 しばらく沈黙していた女の子はやがて溜息を一つ洩らすと、「男のくせに、どれだけ貧弱な身体してるのよ……」と面倒臭そうにボヤきながら、上半身をピノの背から乗り出して手をこちらに差し伸べてくれた。


「引っ張り上げてあげるから、とりあえずジャンプして私の掌を掴んで」

「……えー?」


 大して筋肉質であるとも思えない彼女に、俺を引き上げるだけの力があるとは思えないんだけど……。


「ていうか、翼を下してもらえれば、そこから背中に登れると思うんだけど?」

「貴方、鳥の命ともいえる翼を靴底で踏みつける気?」

「いやこれ鳥じゃなくて幻獣なんでしょ?」

「口応えするな」

「すみません」


 さっさと手を掴めと急かされたので、しょうがなくジャンプすることにする。そんなに高い位置に手があるワケじゃないから、助走をつける必要もないだろう。


「そぉい!」

「んっ……って、え……?」


 全力で跳躍し、彼女の手を掴むことには成功した……のだが、ここで予想外なことが起きてしまった。


 どういうワケか俺の身体は鳥の背中を優に飛び越えてしまい、手を掴んで引き上げてもらうどころか、逆に女の子を空中へ引っ張り上げてしまったのだ。


「ちょ……ちょっと!?」


 まさか素の跳躍でこんなに高く飛んでしまうなんて夢にも思わなかった俺は空中で完全に思考停止。慌てる女の子は咄嗟に俺の身体を抱き寄せると、体勢を水平に調整し、ベッドの上へ横から倒れ込むにしてピノの背中へとダイブした。


「………………」

「………………」


 ぼふん! とピノの背中に叩きつけられた俺達は、お互いに無言。


 身体を密着させ合ったまま、たっぷりと見つめ合うこと数十秒。何が起こったのか把握しようと試みるが、脳内での処理が間に合わず、未だに混乱している俺に、女の子は言った。


「貴方、私より跳躍力あるんじゃない」

「え? ツッコミどころはそこですか?」


 頭で考えるよりも先に口が動いていました。


 ――他に何があるの?といった感じに首を傾げした彼女は、ゆっくりと上体を起こす。それから、フードが脱げて風にそよぐ蒼い髪の毛を軽く左手で払ったあと、改めてフードを被りなおした。


 肩を少し過ぎたあたりで綺麗に切り揃えられていたことから、最近髪を切ったばかりなのかもしれない。


「あ、またフード被っちゃうんだね。残念」

「え?」

「いや……その蒼い髪が空の色みたいで綺麗だなぁって思ったから」


 一瞬きょとんした表情を見せた彼女は、慌てて俺から顔を逸らすと、己の顔を見せまいとフードを深く被り直してしまった。

 どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。別にお世辞とかで言ったワケじゃないんだけどな……。


「……飛ぶから掴まって」


 どこかぶっきらぼうにそう言われ、掴まれってどこに?と質問しそうになったが、彼女がピノの体毛を鷲掴みしているのを見て、それを真似することにした。


「飛ぶよ」


俺が掴まったのを確認した彼女は、ピノを大空へと羽ばたかせる。


 眼下へと離れていく砂漠を眺めながら、この先俺にいったいどんな運命が待っているのだろうかと途方に暮れた――なんてことはなく、抱き寄せられたときに押しつけられた柔らかい感触をただただ脳裏に焼き付けることに集中するのだった。


「むふっ」

「……わかりやすい奴」

「すみません、つい!」


 ――それにしても、俺の身体はどうしてしまったのだろう……?


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