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幻操士英雄譚  作者: ふんわり卵焼き屍人
~旅立ち、出会い~
24/69

第20話  悪鬼の足音――その2

「どうして……こんなところに……」


 誰かの掠れた声が、宙に霧散して消えた。


 その問いに答えられる者など一人もいなかった。


 一説によれば、血が多く流れた戦場に好んで姿を現す、もしくは強い生命力を持った人間に惹かれて姿を現すともいわれているが、定かではない。


 ただ一つ確実なコト。それは、グリアズの姿を見て生き延びた者はほとんどいないという無情な現実のみ。


 そんな化け物のどす黒い殺気を全身に浴び続ける聡一は、束の間、走馬灯のように昔の自分を思い出していた。


 偶然という幸運に恵まれたおかげで、幼少の頃から刀を手にする機会に恵まれていた。


 剣術……それをきっかけに、槍術、棒術、体術、弓術……興味を持った武芸は一通り習得した。


 無節操に、貪欲に、様々な武術に手を出したのも全ては"あの人"に追いつく為だったのだが、まさかこんな形で今まで鍛え上げてきた全てを発揮する日がこようとは思いもしなかった。


 それが何だか妙に可笑しくて、聡一は小さく笑ってしまう。


 その笑みに反応したのか、グリアズが一歩前に出る。それに合わせ、金属かどうかも定かではない黒い鎧が小さく鳴った。


 びくりと、聡一とグリアズを除く全ての人間が身体を震わせる。


 相対する敵は、この世界の騎士と兵士合わせて400人余りでようやく撃退できる程度の強力な魔物である。

 もしこのまま何の策もなしに牙を剥いてしまえば、もれなくこの場にいる全員が死ぬだろう。


 しかし、グリアズの殺気は今、聡一のみに注がれている。その熱中具合から、他の連中などまるで眼中にないといった様子だ。


 ならば――


 聡一は短く己の結論を纏めると、震えるセフィーアの肩に手を置き、彼女の耳元で静かに告げた。


「俺が時間を稼ぐから、その間に皆を逃がすように」


 俗に言う死亡フラグ。万人を殺す最凶の決め台詞。


 こんなセリフ、RPGの選択肢ですらお目にかかったことはない。そんなことを思い出した聡一は知らずのうちに苦笑する。


「――ッ!?」


 セフィーアは愕然といった面持ちで聡一を見つめた。


 何を言っているのか理解できない。否、理解できるけどしたくない。そんな表情で聡一を凝視するセフィーアは、ただ無言で首を横に振るしかできない。何かを喋ろうとしても、恐怖に張り付く喉が言うことを聞いてくれないようだ。


 それでも、聡一は彼女が何を言おうとしているのか手に取るように理解できていた。


 ――悪鬼と戦えば、確実に死ぬ。


 出会ったが最後、二度と明日は訪れない。


 そんな噂がたてられる程のご大層な魔物。しかし、セフィーアはそれが比喩ではないことを十分過ぎるほど知っている。


 彼女は聡一がグリアズに殺されるヴィジョンを鮮明に描くことができた。


 それ故に、セフィーアは全神経を喉に集中させて、なんとか声を絞りだす。


「ダメ……グリアズには……物理攻撃も……魔法も効かないの……」

「それはまたバランスブレイクなチート性能だことで」


 しかし――


「でも、それだけ強い存在なら尚更狩りがいがあるとは思わない?」


 聡一は彼女の言葉を耳にしても尚、どこか楽しげに笑ってみせた。


 そんな彼の笑顔に魅せられ、セフィーアは「きっと貴方は殺される」という言葉を思わず飲み込んだ。


 もしかしてソーイチなら勝てるのでは……と僅かな希望を抱き、そして、"有り得ない"と慌てて自分の考えを否定する。


「それじゃ、時間がないから頼んだよ」

「――ッ」


 先ほどの楽しげで不敵な笑顔とは違う……人に安心を与えるような柔らかな笑顔。

 この時点でセフィーアは聡一を引き留められるような言葉は存在しないことを知った。


 唇を噛み締めて薄っすらと涙を浮かべるセフィーアに背を向けた聡一は、ゆっくりとグリアズに向き合うと、背中のツヴァイハンダーを抜き放って鞘を放り捨てた。


 その瞬間、グリアズも鞘から剣を引き抜き、中段に構える。


 ――もう、後戻りはできない。


 聡一が放つ殺気とグリアズが放つ殺気がぶつかり、絡み合い、周囲の空気が弾ける。


 目線に殺意を込めて、柄を握る掌に力を入れる。


 鉄甲を仕込んだ黒いグローブの革がミチミチと音をたてて擦れ合う。


「ソーイチ!」


 そして、ゆっくりと死への一歩を踏み出そうとする聡一に、思わずセフィーアが彼の名を叫んだ時だった。


「フィーア、お願いあるんだけどさ」

「……なに?」


 神妙な顔をする聡一に、セフィーアは何とか言葉を絞り出す。


「もし無事に生きて帰れたらさ、今度から馬車で世界を周ってみない?」

「………………考えとく」

「ありがと」


 嬉しそうに微笑んだ聡一は、今度こそグリアズ以外の存在を意識の外に追い出した。


 それを悟ったセフィーアは未だに硬直しているユウと他の冒険者達を強引に叩き起し、それぞれの馬に跨らせる。


 冒険者達が撤退するまでの間、グリアズは一切動く素振りを見せなかった。聡一の牽制が利いているのか、それとも魔物ながら空気を読んでいるのかは定かではないが。


「必ず援軍連れて迎えにくるから、それまで死んじゃダメだからね!!」


 殿を務めるユウが最後にそう叫び、跨っていた馬の脇腹を強く蹴った。


 ユウの離脱を確認したセフィーアがピノの背の上から僅かに振り返り、迷いを断ち切るようにして大空へと消えて行く。


 この場に自分と魔物以外の存在が消えたことを悟った聡一は、リラックスするように深く息を吐く。


「色々と死亡フラグな台詞をのたまってみたけどさ。これで死ななかったら俺ってヒーローだよね」


 不敵な笑顔でグリアズの殺気を受け流す聡一は、ツヴァイハンダーの切っ先をまっすぐ構える。


「あと、お前に一言物申す」


 首の骨を鳴らしながら、一歩、また一歩とグリアズに歩み寄る聡一。


 そして――


「その黒い格好、俺とキャラが被るんだよッ!!」


 剣を構えたまま微動だにしないグリアズに、炸薬が爆発したような勢いで突撃した。


 ◆◆◆


 重厚な鋼と鋼がぶつかり合う、甲高くも重みのある金属音が街道に響いた。


 そして、その残響が消えないうちに新たな金属音が連続して生み出される。


 禍々しくもどこか神々しさを感じさせるグリアズの剣と、名匠が魂を込めて作り上げた聡一の剣。刃を削り合うようにして火花を散らしながら激しく打ち合う二本の剣は、主の意思のもとに必滅の牙となって獲物に喰らいつこうとしていた。


 聡一は常識では考えられないようなパワーとスピード、テクニックを練り込んだ斬撃をグリアズに見舞う。


 懐に入られないように慎重に間合いを確保しながら、繊細かつ大胆に。一撃一撃の重みや速度、角度を神がかった技量で細かく変えていきながら、両手剣特有の単純になりがちな攻撃を変幻自在に操り、昇華させていく。


 隙を見せない連続した剣閃は、それだけで相手を"必ず殺す"だけの威力を備えていた。

 しかし、グリアズはそれらを剣で捌き、受け止め、或いは"その身に纏った鎧"で弾き返してくる。


 聡一は小さく舌打ちすると、一度大きく後ろに跳躍し、距離をとる。


 たとえチェインメイルとブリガンダインを重ね着されていても、それらごと叩き斬る自信があった斬撃の数々だったのだが、よもやグリアズの防御力がこれほどとは思わなかった。


『物理攻撃は効かない』


 セフィーアの言葉を決して忘れていたワケではない。しかし、まさかあれだけ斬りつけて鎧に傷一つないとなると、さすがに凹む。


 実はグリアズの鎧には聡一の防具と同じ……否、それ以上の魔力で構成されたプロテクトとリフレクトの防性魔法がかけられているのだが、魔法にとんと疎い聡一はまったく気が付いていなかった。

 地球にはない伝説の金属か何かで鍛えられた鎧なのだろうとしか思っていないのだ――普段の状態ならば、鎧に纏っている魔力を僅かな違和感として気付けたかもしれないが、グリアズの濃厚な殺気の前では些細な違和感など軽く塗り潰されてしまう。


 どうすれば効果的にダメージを与えられるのか―― 一瞬ともいえない思考の刹那、グリアズはその重装備からは想像もできない跳躍で瞬く間に間合いを詰めると、その手に持っていた剣を無造作に振り下ろす。


「――ッ!?」


 空気を切り裂く音すら発しない高速の斬撃に、聡一は身の毛がよだつ思いで咄嗟に受け流した。


 鼓膜を直に引っ掻くような金属音と一緒に迸る火花が、ツヴァイハンダーの刃をなぞっていく。


 幾度の実戦を積んだ猛者でも一撃で首を狩り取られかねない鋭さを孕んだ一撃はとてつもなく重い。無駄な動きを最小限に抑えて受け流したのだが、それでも手には痺れるような衝撃が奔った。

 たとえ超重量級の戦斧を持っていたとしても、並の冒険者では掌から斧を弾き飛ばされるか、酷ければ刃ごと腕を切断されていてもおかしくはなかった。


 そもそも長大な両手剣で受け流すという行為自体が非常に困難かつ無謀なことには違いないのだが、そこは聡一の並みならぬ技量がそれを成し遂げたのは言うまでもないだろう。


 グリアズは受け流された剣を目にも止まらぬ速さで引き戻すと、加えて二撃、三撃、と剣を閃かせる。


 戦場で振るえば、相手の武器ごと胴体を一刀両断するであろう威力。まさしく一騎当千の腕前といっても過言ではない。

 だが、命のやり取りの経験はまだ浅いとはいえ、聡一とて幼少の頃から剣を振るってきた身だ。単純な剣と剣の勝負で負けるつもりは毛頭ない。


「ふっ!」


 聡一は右上から袈裟掛けに振り下ろされた剣撃を敢えて受け止め、一瞬の拮抗状態を作り出す。そして、相手を捻じ伏せようとグリアズが腕に力を込めた瞬間を見計らい、身を引くようにしながら剣の切っ先を下げる。


 己自身の腕力によって強引に刃を滑らされたグリアズの剣は標的を斬り裂くことなく、虚しく大地を削り、本体は前のめりに体勢を大きく崩す。


 絶好の好機。聡一は躊躇うことなくグリアズの首の根元――頚椎がある場所へと刃を奔らせた。


 例の尋常ならざる硬さの弊害で首を切り落とすまではいかなくとも、両手剣特有の重量を生かした渾身の一撃なら頚椎に致命的な損傷を与えられるハズだ。


「はああああああっ!!!」


 思わず喉から飛び出した掛け声。ツヴァイハンダーごと両腕を頭の後ろに回し、全身の気を剣に集中させる。


 みぢっと収縮する筋肉の音が、背骨を伝って鼓膜を振動させた。


 そして、渾身の力をもって振り下ろす。


 ――殺った。


 聡一はそう確信した。


 ゴギャッ!と耳を覆いたくなるような音をたてて、名剣の刃が悪鬼の首に吸い込まれていった。


 しかし、やはりというべきか、全身の筋力を総動員して放たれた一撃ですらグリアズの首を落とすことは叶わなかった。


 大地を爆裂させるような勢いで、グリアズの上半身が地中に埋まる。


 ストレッチを終えたあとのような気持ち良い倦怠感に見舞われながらも、聡一は油断なく後方に跳躍して距離をとった。


「これで終わってくれるといいんだけど……って、しまった! こういう台詞はフラグ――」


 というワケでもないのだろうが、ご他聞に洩れず、まるで人形のような少し淀みのある動作で立ち上がるグリアズ。


 甲冑やマントに多少土埃をつけながらも、さしてダメージを負ったようには見えない。


 聡一がさてどうしようかと悩んでいると……。


「!?」


 ぞわりと、蟲が這うような悪寒が全身を包む。


 遊びは終わりだと言わんばかりにグリアズの纏っていた雰囲気が一変した。


 静から動へ変じたとでもいうべきか。


 グリアズが自身に纏う気を殺気から"凶気"へと変えた瞬間だった。


 この世界にきて初めて、聡一の額に冷や汗というものが流れた。


 ◆◆◆


 銀光、異音、銀光、異音、銀光……。


 最初の斬り合いよりも格段に鋭さと重さを増したグリアズの剣閃が聡一を襲う。


 その度に聡一のツヴァイハンダーは少しずつ刃を変形させていた。


(このまま長期戦になったら負けるな……)


 聡一も的確に受け流してはいるが、どんなに衝撃を最低限に抑えても武器は所詮消耗品である。闘い続ければ闘い続けるほど刃の輝きは鈍くなり、摩耗していく。


 金貨6枚の価値がある名剣とて、例外ではない。


 ただし、聡一とてずっと手を拱いていたワケではなく、剣戟の合間に少しずつグリアズの隙を見出していた。


 一撃一撃はとてつもなく速く、鋭く、重いが、鎧特有の鈍さはいくらSS-ランクの魔物でもカバーしきれないらしい。人間よりは格段に斬り返しが速いが、それでも聡一の眼からすればそれは隙となって現れる。


 ある程度グリアズの攻撃を受け流したところで、聡一は流れるような体捌きでその懐に潜り込み、ある種の"氣"を乗せた拳撃をその重厚な鎧で包む胴体に叩き込んだ。

 

 爆裂する力の奔流に巻き込まれ、巨大な竜巻に巻き込まれたような勢いでグリアズは吹き飛ぶ。


 それにより再び距離をとることに成功した聡一は、鈍い痛みを発する左手を軽く振りながら独りごちた。


「なるほど、確かに厄介だな。一流の剣術に異常なまでの耐久力……並の兵士じゃ束になっても敵わないだろうね」


 今の拳撃は鎧ではなくその中にある身体――その内部へ直接衝撃を与える攻撃だ。

 手加減は一切していない。現在の強化された筋力で繰り出された一撃を生身の人間がまともに喰らえば、内臓が背筋を破って飛び出し、即死している程である。


 だが……。


「やっぱ魔物って言われるだけあって、中身は人間並ってワケにはいかないか……」


 グリアズはその黒甲冑をガシャガシャと喧しく鳴らしながら起きあがった。動きも淀みないことから、ダメージはなかったらしい。


「ちっ、化け物だな……。いや、化け物なんだけどさ……」


 舌打ちして忌々しそうに顔を歪める聡一も十分化け物レベルなのだが、本人に自覚はない。


 聡一はツヴァイハンダーを持つ腕を胸のあたりまで持ち上げ、刃の腹を地面と並行かつ身体の後ろに向けるようにして構えた。

 次の瞬間、その身体が霞むようにして消える――一般的に縮地法と呼ばれる高速の移動術だ。


「ふっ!」


 グリアズとの間合いを一瞬で詰み、下段から右上方へ切り上げる。

 それに反応したグリアズが剣で受けとめようと構える。聡一はそこへさらに一歩踏み込み、武器ごとグリアズの動きを封じると、左胸に添えていたナイフを引き抜いた。

 体当たりでグリアズの体勢を崩すと、鎧の関節部分――右肩にある鎧と鎧の隙間目掛けて深々と突き刺した。


 だが、肉を断つ感触はない。


「なッ!?」


 確実に骨まで達する位置まで刃を喰い込ませたというのに。


 一瞬の動揺が思考を鈍らせ判断を遅らせ、そして、それは致命的な隙となって現れる。

 それを見逃さなかったグリアズは、剣に添えていた左手を自然な動作で聡一の胸に翳した。


 その瞬間、本能的に危険を察した聡一は咄嗟に後方へと飛び退く。この場にセフィーアがいれば、彼が感じ取った違和感の正体を看破できただろう。


 それは自らの個体魔力を圧縮して放出するという、この世界の人間には真似できない芸当――先ほどの聡一の拳打を疑似的に再現したのだ。


「ごぶっ」


 なんとか致命的な直撃は免れたものの、それでも爆発的な魔力の塊を間近で放出され、口から生温かい血を撒き散らしながら、思い切り蹴られたサッカボールのように吹き飛ぶ聡一。幾度も地に身体を打ちつけ、街道から逸れた木に背中から叩きつけられて、ようやく止まった。


 盛大に吐血しながらも、歪んで霞む焦点をなんとか遠くで立ち尽くすグリアズに合わせた。油断すればそのまま暗転しかねない意識を必死に繋ぎ止める。


「凄いや、この防具。今度店に寄ったときにでもお礼言わないと」


 この防具が、ギリギリのところで自分の命を現世に繋ぎ止めてくれたことを聡一は直感的に悟っていた。もしこれではない別の革鎧やプレートメイルを装備していたら、今頃腹に大穴が空いていたに違いない。無論、直撃を受ければ、いくらこの防具とてもたなかっただろうが。


 しかし、放たれた魔力の大半は防具に付与されたリフレクトが防ぎはしたが、それでも聡一が身体に受けたダメージは甚大だった。


 どこかの内臓が破裂した挙句、肋骨は4〜5本折れ、そのうちの幾つかが肺に刺さったらしく、一向に吐血が止む気配がない。


 呼吸もうまくできず、酸欠で頭が朦朧としてくる。


 それでも――


「げぼっ! それでも、戦わなきゃ死んじゃうっつーの」


 吹き飛ばされても手放さなかったツヴァイハンダーを杖代わりにし、どうにか立ち上がる。脚に力は入らず、情けなく震えているが、それでもなんとか自分の力で立つことができた。


 グリアズはどういうワケか剣を上段に構えたままその場所から動こうとしない。それならそれで好都合だと思ったその時――


 剣に異様な力を収束させていくグリアズ。その冷たく禍々しい氣に、聡一の第六感がこれ以上ないほど警鐘を発した。


「マジかよッ!?」


 そう毒づいた瞬間、グリアズが剣を振り下ろす。


 怖気が奔る紅い波動が聡一に襲いかかった。


 身を投げ出すように横へ避けた聡一が目にしたのは、自分の後ろにあった木が縦に裂けて真っ二つになる光景だった。


「かは……っ」


 受け身をとったものの、それでも身体に受けた僅かな衝撃は傷ついた内臓に更なるダメージを与える。


 血反吐を吐きつつ、ゆっくりと左右に倒れゆく木々を漫然と眺めながら聡一は改めてグリアズを睨みつけた。


 痛む身体に鞭打ってせっかく立ち上がったというのに、このザマじゃ……と、聡一は地に膝をつきながら――

 

 ドサッ


 否、地面に倒れ伏しながら、虚ろな目で呟いた。


「畜生……」


 たった一撃、たった一撃喰らっただけなのに。

 こっちはグリアズに致命傷となる斬撃や拳打を何度もブチ込んだのに。

 せめて、あの異常な防御力をなんとか減衰させることができれば。


 「不公平だ」と口走りそうになったが、自分も身体能力を強化されている身なので、そこはなんとか言葉を飲み込む。


 結局のところ、自分に物語の主役を務めるだけの器がなかった――そう理解した聡一は、グリアズが再び剣を振りかぶる様を見つめながら自分の最後を覚悟した。


 せめて最後の瞬間まで、この土地の緑溢れる美しい景色を脳裏に焼きつけようと目を見開きながら。


<<マジメなあとがき>>


縮地法は様々な諸説がありますが、作者はファンタジー要素強めでいきます。

戦闘シーンの描写って難しいです。


ずっと温めてきた設定を他の作者様が先に使っていたと知った時の悔しさと切なさと悲しさと、ネタ被り修正時の苦悩はマジぱねぇっす。

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