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幻操士英雄譚  作者: ふんわり卵焼き屍人
~旅立ち、出会い~
13/69

第09話  魔道士の素質――その1

投稿が大分遅れてしまい申し訳ありませんでした。

いつの間にかユニークアクセスも4万を超え、お気に入り登録も370件を突破し、本当になんでこんな駄文がこれほどまで皆様に読まれているのか不思議でなりません。


「魔法を教えてほしい?」

「いえすまむ!」


 魔法を教えてほしい――宿屋での朝の挨拶もそこそこに、朝食を摘みつつ口を開いた聡一の第一声がコレだった。

 何でも、砂漠のオアシスで魔法の存在を知らされたときからずっと興味を持っていたそうだ。

 そして、つい昨日、中央公園から軽食屋へ向かう道中で、転んだ子供に治癒魔法を施してやるセフィーアを見て自分も魔法を扱ってみたくなったのだという。


 まぁそれも無理からぬことだろう。


 自分の世界には存在せず、ずっと架空のものとして捉えてきた魔法がこの世界にはある――そう教えられれば、誰だって自分でもその魔法が使えるのかどうか試してみたくなるものだ。それがRPGゲームをプレイしたことがある人間なら、尚更。


「ん~……」


 セフィーアは悩んだ。

 魔道士は誰もがある種のプライドを抱えている。

 それは、魔法を扱える自分は特別な存在であるという自負……または、魔法を命がけで学び、無事に習得してきた自分の才能に対する自信だ。


 セフィーアにとって、大陸でも数が少ない魔道士が一人でも多く増えるということは即ち同士が増えるということなので嬉しいことには違いない(勿論、魔道士の中にはそれらを快く思わない者いる)のだが、その魔法をただの興味本位で学ぼうとしている聡一の姿勢には、少し難色を示してしまうというのが彼女の本音だった。


 ただ、実際はそれだけではない。


 もし、自分が魔法を教えた弟子が自分より才能があり、尚且つ自分より早いスピードで魔法を習得してしまったとき、そこから来る感情は果たして如何なるものなのだろう?

 自らが選んだ弟子を誇ることができるのか、それとも自分より才能があることを妬むのか。

 セフィーアは自分が後者に傾きそうで……尚且つそんな自身の性根の醜さを露呈してしまいそうで、色々と躊躇っていたのだが――


「このオムレツうまうま~」


 セフィーアの内心など露知らず、聡一は甘味を控え目にしてもらったプレーンオムレツを美味しそうに頬張り、チーズを上に乗せてこんがりと焼いたフランスパンに非常によく似たパンを齧りつつ、幸せそうな笑顔を浮かべている。

 そんな彼の様子を眺めながら、朝食を作ったキアラも嬉しそうに微笑む。

 清々しい朝の平和なひと時。この光景を見れば誰しもが「今日も平和だ」と頬を緩めるに違いない。

 そして、そんな聡一が持つのは、魔法に対する純粋な好奇心だけ。邪な考えなど微塵も抱いていない。


 そこまで考えて、セフィーアは何故聡一に魔法を教えることを躊躇する必要があるのか?とバカバカしくなってきて、少し自嘲気味に笑ってしまった。

 聡一は名実共に自分が雇った護衛であり、その護衛がより有能になるなら、それに越したことはない。


「ん。じゃあ朝食食べ終わったら、少し魔法について詳しく説明するから」

「うい!」


 歓喜の色を覗かせる聡一の瞳をみて、セフィーアは少し自らの心が癒されたような気がした。


 ◆◆◆


 魔法――それは簡単に述べると、自然の力や世の理を自らの力で改変させ、状況に見合った利用方法で行使するということである。


 大気には世界を構成する天然の魔力が含まれている。

 そして、全ての生き物には個体を形成するうえでの魔力が備わっている。

 これら天然魔力と個体魔力の二つは互いに混じり合うことはない。

 それは天然魔力に他の魔力を反射する効果がある為であり、この性質は防御型戦術魔法のリフレクトに利用されている部分だが、今は説明を省く。


 魔法を行使できる魔道士とは、その天然の魔力を自らに宿す魔力と"無理矢理"融合させ、自身で扱えるように魔力を構築することができる存在のことを示す。

 高位の魔道士ほど自らが有する魔力の総量が多く、天然魔力を上手く扱う術に長けている。

 

 ――魔法を行使する手順は以下のようになる。


 1:"触れる"ことに最も適した掌に意識を集中させ、そこから大気に混じる天然魔力を感じ取る。

 2:感じ取った天然魔力を体内に吸収し、自身の個体魔力と融合させる。(以後、構成魔力と呼ぶ)

 3:構成魔力に行使したい魔法の式を組み込む。(以後、構築魔力と呼ぶ)

 4:構築魔力を体内に循環させるイメージで溜め込んでおき、視界から得られた情報を元に魔法を行使する対象を確認する。

 5:最後に、対象がいる場所へ向けて構築魔力を放つ。


 ――式とは構成魔力に形を持たせる為のパズルのようなものであり、既存のものあれば、魔道士個人が改良して制作したものまで、それこそ様々である。

 式の組み方次第で同じ属性の魔法でも様々な形状や効果を発揮し、それにより無限の可能性を生み出すことができるとされている。

 優秀な魔道士は、式の組み方に秀でている者といっても過言ではない。

 

 ――魔法の威力について。


 1:どれだけ多くの天然魔力を体内に取り込めるか。

 2:天然魔力を個体魔力とどれだけ無駄なく融合させて、魔力としての純度を保てるか。

 3:天然魔力の特性である反射の性質を取り入れてしまったせいで体外へ逃げようとする構成魔力に対し、どれだけ素早く式を組み込み、構築魔力にして体内に留めることができるか。

 4:魔法放出時に、掌から拡散しがちな構築魔力をどれだけ纏められるか。

 大まかに述べると以上の四点が基準となる。


 ちなみに、既存の式でも僅かな部分を組み換え、余分な式を省略することで魔力の伝わり方に違いが生じる。そのせいで魔法の威力が減退したり向上したりすることもあるので、上記で全てが決まるというワケでは決してない。

 魔力の純度や式組み込みに用いる時間の短縮は、相応の訓練で改善できる。

 

 ――天然魔力について。


 天然魔力とは冒頭にもあるとおり、大気に含まれる世界を構成する天然の魔力である。しかし、これは生物にとって自身の個体魔力を乱す"一種の毒"であり、体内に取り込める許容量もそれぞれ体質によって異なる。

 それ故に魔道士は吸収する天然魔力の量を感覚で調節できるようになっている。

 何故天然魔力が生物に対し毒性を示すのかは解明されていないが、他の魔力を反射するというこの特性により、生物が大気に混じる天然魔力を呼吸によって体内へ吸収しても、個体魔力と反発して体外へ放出される為、その毒性に侵されることなく生きていられるという説が有力である。

 この反射の性質は防御型戦術魔法であるリフレクトに利用されている。


 ――個体魔力について。


 天然魔力はその世界を包み込むほど膨大な量故に尽きることはないが、個々が有する個体魔力の保有量は肉体を構成するうえで必要な最低限の量を除いて、同じ種族間でもそれぞれ大きく違う。

 個体魔力の量はその大半が親からの遺伝によって左右される為だ。

 生まれた環境でも多少は変動するが、そう大した差ではない。稀に遺伝によらず大きく個体魔力が増大もしくは減少したりするが、それは極めて珍しいケースである。

 個体魔力は一部のマジックアイテムに溜め込むことができるが、基本的には後天的な資質や努力でその総量が増えることはない。

 個体魔力には自身の肉体を形成するにあたり、エネルギーを自らの身体に摂取することに関係する【吸収】、肉体の物理的損壊を防ぐことに関係する【耐久】、体内細胞の生産に関係する【再生】、体内の異物を取り除くことに関係する【除去】という4つの性質を備えている。

 この【耐久】の性質は防御型戦術魔法であるプロテクトに利用されており、【再生】と【除去】はそれぞれ治癒魔法と密接な繋がりがある。


 ――この世界に存在する魔法の種類について。


 この世界を代表する魔法として、

 対象を攻撃したり、身を守ったりする【戦術魔法】

 傷ついた対象を癒す【治癒魔法】

 以上の2つが挙げられる。


 そして、上の2つに該当しない特殊な魔法として、

 ある一定の条件を満たした空間の大きさを広げる【拡張魔法】

 物体を圧縮し、物理的に小さくする【圧縮魔法】

 拡張魔法や圧縮魔法及び戦術魔法や治癒魔法を物品(主に武具や特殊な加工が施された紙媒体)に付与する【付与魔法】

 禁忌の魔法として死者を蘇らせる【蘇生魔法】

 以上の4つが挙げられる。


 ――魔道士について。


 世に存在する魔道士は主に戦術魔道士と治癒魔道士の2種類に分たれるが、稀に両方行使できる魔道士も存在する。

 何故、戦術系と治癒系どちらか片方に限定されてしまうのか、原因はまだ解明されていない。


 特殊系統全般の魔法を得意とする魔道士も存在するが、これらの魔法は過去に魔法を研究するうえで生まれた偶然の産物であり、その式の根本の原理さえ把握していれば魔道士なら誰でも行使できるものとされ、その精度は魔道士としての熟練度により左右される。


 禁忌指定の蘇生魔法は、その行使はおろか式の研究すら禁じられている。噂では治癒魔法に精通した魔道士のみが行使できるとされているが真実の程は定かではない。


 魔道士の資質は自身が有する個体魔力の総量、天然魔力をどれだけ体内に取り込めるかという体質如何によって決まる。

 これにより、魔法が行使できない人間というのは、個体魔力が著しく低い者、もしくは天然魔力をその身に受け入れることができない者を指す。


 ただし、前述にもあるとおり天然魔力とは生物にとって毒であり、それを受け入れることができる者は少ない。

 その為、大陸でもまともに魔法を扱える者は極少数であり、そのほとんどは破格の待遇で各国の軍部に囲われている。

 特に治癒魔道士は戦術魔道士に比べてその数がさらに少ないので、見つけようものなら多少強引な手段を用いてでも手に入れようとする国は多い。


「――ていうワケなんだけど………………」

「……zzz」


 セフィーアは間借りしている宿屋の自室にて、魔法の知識に疎い聡一の為に自らが保持する知識を慣れない言葉で必死に説明していた――のだが……結果はご覧の在り様である。


「……寝るな」

「――ハッ!? うん、聞いてる聞いてる」


 じゅるりと口から垂れかけていた涎を啜りながら姿勢を正す聡一に、セフィーアは悲しそうな瞳を向けた。

 これはマズイ……と彼の背に一筋の汗が流れる。


「こっちは言葉が拙いのを承知で一生懸命説明してあげてるのに……ソーイチがそういう態度なら……」

「マジすいません! マジすいませんッ!!」


 そう言って俯く彼女の態度に、痛烈な罪悪感を感じた聡一は床に額を何度も殴打しながら土下座した。


「じゃあちゃんと聞け」


 ゴンゴンと鈍い音をたてながら必死に謝罪する聡一の姿をみて、悲しそうな表情からケロッと態度を一変させるセフィーア。


「切り替え早いですね!?」


 それに対して聡一は微量の驚愕を混ぜた渋い顔を見せた。


「何か文句でも?」

「滅相もございません」


 どこか納得がいかないが、悪いのは全面的に自分なので聡一はそれ以上何も言えなかった。


「で、結局俺は魔法使える素質はあるのかな?」

「……切り替え早いのはアンタも同じじゃない……まぁいいけど。じゃあ手を出して」

「なんで?」

「ソーイチの個体魔力の総量と天然魔力に対する許容量を調べるの。それには相手の身体を直に触るのが一番手っ取り早い」

「ふーん? それってどういう原理なの?」


 聡一は素朴な疑問を口にするが、セフィーアはプイッと顔を横に逸らす。


「説明してもどうせ途中で寝ちゃうんだろうし、ソーイチには教えてあげない」

「えぇっ!? ちょっ可愛……じゃなくて、もう寝たりしませんから! ちゃんと説明聞きますから!」


 ぷくっと頬を膨らませながら拗ねてみせるセフィーア。

 その一撃は世の男をことごとく魅了してしまうような、必殺ともいえる凶悪な威力を内包していたのはここだけの話である。


「うるさいなぁ……いちいち興奮しないでよ。さっさと手出して」

「はい……」


 色々な意味で狼狽する聡一に構わず、セフィーアは再度手を要求する。

 聡一は、不機嫌そうに顔を歪ませている彼女の白く綺麗な手に、恐る恐る自分の手を合わせた。

 細く、それでいて整った指がそっと聡一の手に絡まる。


「じゃあまずは個体魔力の総量を調べるから、このまましばらくじっとしてて」

「うぃ~」


 聡一が返事を返した途端に、自分の掌から得体の知れない"何か"が送り込まれてきた。ぽこっと、気泡を一塊注入された感じに近い。


 ――そのまま1分近くじっとし続けて、セフィーアが眉を寄せながら首を傾げた。


「おかしいな……なんで戻ってこないんだろ?」

「どうしたん?」

「私がソーイチに送った個体魔力が戻ってこないの。どんなに容量がある人でも、普通だったらとっくに戻ってきてもいいはずなのに……」


 個体魔力の総量を図る方法というのは複数あるが、中でも最も一般的なのが、個体魔力を掌から送り込み、対象者の身体を巡って再び戻ってくるまでにかかる時間を計測して、そこから総量を割り出すというものだ。


 対象者の体内に個体魔力が充実していればいるほど、自前の個体魔力に流れを阻害される為、魔力を送った者の掌に戻ってくる時間が遅くなる。


 ――さらに1分経って、セフィーアの顔が冗談抜きに険しくなった。


「え? これってヤバイの? ねぇヤバイのこれ?」

「少し黙ってて」

「………………はい」


 さらに1分経って、セフィーアの顔色に焦りの色が見え始めたとき、聡一はふっとセフィーアの手を握っている右の掌から"何か"が出ていくのを感じた。


 彼女も自分の魔力が戻ってくるのを感じたのか、心底ホッとしたような安堵の表情を見せた。


 しかし、すぐにその顔が怪訝なものへと変わる。


 聡一の身体を巡って戻ってきた個体魔力が酷く脆弱になっていたからだ。

 

 セフィーアは彼が与えた魔力を吸収してしまったのだとすぐに理解した。


 だが、本来ならばこんなことはありえない。


 まるで、魔力を骨の芯までしゃぶり尽くされたような感覚に思わず背中に怖気が奔った。


「……何かあった?」

「ううん、なんでもない」


 だが、セフィーアは聡一にそのことを悟らせることなく、次のステップに移る。


「次はソーイチが天然魔力に対してどれくらいの抵抗力があるか調べるから」

「おぉ!? 容量測定から次のステップに移るってことは、一応魔道士の素質はあるかもしれないんだね」

「今のところ、ソーイチは個体魔力だけなら桁違いの素質を持ってるわね。ざっと見繕って私の30倍はあると思う。正直なところ、信じられないっていうかなんか腹立つ」


 嬉々として表情を輝かせる聡一に対し、セフィーアは羨望と嫉妬とある種の呆れを伴った複雑そうな顔を見せる。


「フィーアの30倍って凄いの?」

「その無知さ加減がまたムカつく……ッ!」


 きょとんとした顔で己の無知を披露する聡一に、セフィーアは嫉妬でハンカチを噛み千切る女性貴族の気持ちの一端を理解した気がした。


「――はぁ……私の個体魔力は平均的な魔道士の10倍強よ。つまり、ソーイチは魔道士300人分の個体魔力を持ってるってワケ」

「へぇ? そりゃ凄い……んだよね?」 

「喧嘩売ってるのか? そうか、喧嘩売ってるのか」

「すいませんつい!」


 ――聡一の素質確認はまだ続く


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