2. 隠しキャラの猛アタック
そうだった、思い出した。どうしてこんなに重大なことを忘れていたの。
『ラブソルシエール』には、続編が存在することを。
舞台はウィーン王国、ウィリアルーンという名の魔法学園。前作とは別のヒロインは魔法動物に懐かれてしまったことから魔力は持たないが特例で入学する。そして魔力の獲得を目指すのだ。
前作をプレイした生粋のファン(私のような)にとって続編はとても喜ばしいものだった。前作のメインキャラたちこそ登場はしないものの至る所に前作を彷彿とさせる言葉や道具などが出てくるのだ。
確か、アクアも登場していた。
黒いフードをかぶって黒魔法を教えようとヒロインに迫るのだが、ヒロインはそれをキッパリと断るのだ。
アクアだという確証はなかったものの、フードから見える青い瞳に私は「いやああ、悪女がまた出たあああ!」と発狂したものだ。
……って。そんな懐古している場合じゃないわ。
今作では、アクアは至って普通な講師として登場する。
一つの例外を除いて。
唯一、確実にアクアを破滅させる人物が存在しているのだ。
確か、銀髪に赤い瞳。攻略対象たちの中では1番タイプだったと思う。
つまり、ヒロインは20歳の先生と恋をするわけで。
危険な恋だと、諦めようとするヒロインを「俺はそれでも構いません。俺にはもう君しか……」とデロデロに溺愛するのはそりゃあもうキュンキュンしたものだ。
そんな2人に立ちはだかるのがアクア。前作ではただの冷徹悪女だったアクアだが、今作ではバリバリ嫉妬に狂った女として登場する。
同じく講師として働いていたアクアは人知れず彼に恋をしていた。そして嫉妬に狂って危険とされている黒魔法でヒロインを消そうとする。しかしそれはヒロインと隠しキャラによって阻まれ、かえってアクアが消えてしまうのだ。
「ひええええ……」
アクアほんとバッドエンドしかないじゃない。可哀想すぎる。
それに未来で、人を殺めようとするなんて考えられなくて、しばらく私は呆然としていた。
「でも、まだ私が破滅するって決まったわけじゃない」
そう、破滅ルートはたった一つ。5人の攻略キャラの数多あるルートのうち、たった一つのレアルート。
なら、それを避ければいい。まず私がその人を好きにならなければいい。黒魔法なんて使わなければいい。
せっかくの新しい人生、謳歌しなくてどうするの。
もう過去は変えられない。だったら今からでもよくしなきゃ。
そう意気込んでから早1ヶ月。
憧れの乙女ゲームの舞台は想像していたよりも豪華で、煌びやかで、ヒロインとして転生出来なかったことをほんの少しだけ悔やむ。
講師だけは始業前日に集められ、学園内や授業内容の確認をすることになっていた。
そして……勉強皆無以前にものすごい方向音痴だった前世の私の影響なのか、私は迷っていた。
無事に説明会は終わり、一通り学園内も見て回ったはずなのだけど。
「こんな広い学園、一回見たきりじゃ覚えられるわけないでしょ……」
そうぶつぶつ呟きながら廊下を歩いていると。
「こんにちは。アクア・ブラックベルさん」
声がした方を振り返り、私はその人物を見た瞬間、固まった。
銀髪に、赤い瞳。私を破滅させる隠しキャラ。
1番関わりたくない相手に真っ先に出会ってしまうなんて。
「……レヴォル様、お会いできて光栄です」
私はすぐさま優雅に一礼した。
レヴォル・アガット――彼は確か侯爵家の当主だ。
彼がどんな行動をとるのか全く予想がつかなくて探るように見ていると、レヴォルは少し残念そうに眉を下げた。
「……何にも覚えてないんですね」
「何をですか……って、え!?」
ぐいっと肩を押されて、私は壁際に追いやられていた。
振り解けない。私は少し怯えた目でレヴォルを見つめていた。
そして、次の瞬間、彼はとんでもないことを口にするのだった。
「……俺と婚約しませんか」
「…………はい?」