20. 俺のものですね
レヴォルの従者に連れていかれるマーガレットを眺めながら、私はようやく張り詰めていたような感覚から解放され大きなため息を漏らした。
……破滅は免れたし、誰も消えることもなかった。
正直、マーガレットの言っていたことや現状を完全に理解できているわけではないけれど、それでも私は安堵していた。
「ここは寒いし、みんな濡れているし、学園に戻ろうか」
レヴォルがほっとする私にそう優しい声で声をかける。私もみんなもそうしようと頷いた。
生徒会室でみんなソファーや椅子になだれるように座り、お茶を飲んだり服を乾かしたりしている。
私は部屋に着いた途端レヴォルにタオルをかけられて、なぜか髪を拭いてもらっていた。
恥ずかしいけれど、大きな手で頭を撫でられるのは心地いい。そのなんともこそばゆい感じから逃れるように私は声を上げる。
「みんな、私を助けに来てくれてありがとう」
いろんなことがありすぎてまともにお礼も言えていなかった。
みんな魔法上達したなあとか、私を庇ってくれたりとか、たくさん成長を感じられて先生として本当に感慨深い。
みんな私の方を見て少し目を瞬かせた。それからふわっと笑う。
「みんなアクア先生のこと大好きだしね!」
「そうです! 助けるのは当然ですわ!」
「アクア先生は僕の大切な先生だから……」
テラはいつもの調子でヘラっと笑い、アンバーは息巻いて、そしてアスールは恥ずかしそうにしながらもものすごく可愛らしいことを言ってくれた。
まずい、涙が滲んできた。20歳にもなると涙もろくなるのかなあ。
「アクア先生は、本当……目が離せませんね」
「まあ、なんていうか……無事でよかった」
ノーマンは「それがアクア先生のいいところでもあるんですけどね」なんて笑いながら、レオンはぶっきらぼうにそう言って顔を背けてしまった。
「みんな……本当大好きよ。自慢の生徒たちだわ」
自然と口から出た言葉に、みんなは一瞬顔を見合わせるととても嬉しそうに笑った。
レオンは照れ屋だけど魔法を頑張って勉強していて可愛げがあるし。
テラはいつも私とおバカなことで盛り上がってくれてあんなキモカワな絵を褒めちぎってくれる。
ノーマンは生徒会長もこなしてやたらと私を心配してくれる。頼りない先生で申し訳ないよ……
アスールは最初こそぎこちなかったけれどビビや動物と戯れる姿は本当に癒し。
アンバーは悪役とは思えないくらいしっかり者で優しくて。悪役になんてならないでくれてよかった。
それにエリスは――
「アクア先生、私の方こそ助けてくれてありがとうございました」
エリスに不意に話しかけられて、私は首を傾げた。むしろ助けられたのは私だけれど……
「魔法発動したとき、私とビビの魔力だとコントロール出来ないからアクア先生が手伝ってくれたんですよね」
たしかにそう。だけどエリスがそれに気がついていたのは驚きだった。
「私、これからビビと魔法をもっと自分のものにできるように頑張っていきたいと思います! だから、これからもよろしくお願いします、アクア先生!」
エリスはそう笑うと、私に勢いよく抱きついた。
私も思わず顔が綻んでポンポンと頭を撫でた。
「魔法発動おめでとう。本当にあなたはすごいわ……これからも一緒に頑張りましょうね!」
そう微笑むとエリスがふふふと嬉しそうに笑う。エリスの足元にいたビビもにゃあにゃあと嬉しそうな声で鳴くものだから、私はその白い毛並みをふわりと撫でた。
「…………それからアクア先生」
「なあに、エリス」
「そろそろレヴォル先生と2人でお話してきたらどうですか?」
唐突すぎて私は一瞬固まる。
あんなにレヴォルルートを突き進んでいたのに……それにエリスはやはり誰も選ばないのかな。
「…………いいの?」
困った私はそう問いかけていた。これじゃまるで色恋に浮つく恥ずかしい先生になってる。
「私はずっとアクア先生が大好きなんですよ! 可愛くて綺麗で魔法もすごくて優しくて……だからアクア先生には幸せでいてほしいなって!」
エリスが「アクア先生が誰を想っているかくらいわかってましたよ!」なんて笑い飛ばすものだから、私は少し赤くなってしまう。
…………つまりエリスは私とレヴォルを応援してくれているというわけで。
「はい、レヴォル先生も生徒たちに嫉妬なんてしていないで早く伝えてきたらどうですか!」
「生徒に気使わせないでください」とエリスは頬を膨らませながら私とレヴォルを椅子から立ち上がらせると部屋のドアへと押しこくる。
「アクア先生、後でお話聞かせてくださいねー!」
なんて楽しそうに笑いながらエリスはドアを閉めた。部屋の中からはアンバーがきゃっきゃする声や「後で新作キモカワイラスト描いてくれるかな」とテラが言う声や「複雑ですね」なんて言うノーマンの声など様々な声が聞こえた。
「アクア」
「は、はい」
「あの場所へ、行きませんか」
私はその場所にすぐ気がついて大きく頷いた。
それから並んで歩いた。
珍しく、と言っていいのか、レヴォルは私に触れてきたり口説くようなことは言わず、黙って歩いた。
その場所――秘密の花園は相変わらず静かで、花が美しく咲き誇っていた。
いつの間にか空は明るくなっていて、太陽が雲間から除いていた。
私とレヴォルはブランコに腰掛ける。
「あの、レヴォル様」
「どうしたんですか」
「私のために、学園を創ってくれたんですか……?」
レヴォルの話を聞いてずっと聞きたいと思っていたことだった。
彼は魔法省で働く私と関わっていて、魔法省から追い出された私のために学園を創ったのだと言っていた。
「大好きな人のために何かしたいと思うのは、当然ですから」
レヴォルはそう柔らかい笑顔を見せる。
きゅうっと胸が締め付けられる。
やっぱり、私はレヴォルのことが好きなんだ。
だからこそ、マーガレットの黒魔法のせいとはいえ、彼との思い出を忘れてしまったことが苦しかった。
「ごめんなさい、私……」
「謝らないでください。それよりももっと聞きたいことが……早くアクアの口から聞きたいです」
レヴォルは俯いた私の頬にそっと触れる。私は顔を上げ、それからレヴォルの目をまっすぐ見つめた。
意地悪だ……絶対気がついているのに。
「私、レヴォル様のことが好きです……!」
恥ずかしさでおかしくなりそうになりながら、精一杯そう告げた。
「……おかしくなりそうですね」
「え?」
レヴォルは顔を手で覆ってそう呟いた。一瞬なんのことだか分からなかったが、レヴォルの耳が赤く染まっているのに気がつく。
「……レヴォル様も照れるんですね」
「大好きな人に好きだなんて言われたら、誰だって照れますよ」
少し口を尖らせたレヴォルに私は堪えきれず笑い出す。
レヴォルは少しむっとした顔を見せると、それからにやっと笑う。そして。
「きゃっ!」
一気に視界が変わって、レヴォルが視界いっぱいに映っている。
すぐに押し倒されたのだと気がついた。
「…………これからアクアは俺のものですね」
「ちょ、ちょっとレヴォル様? 待って……」
「もう待たない」
レヴォルは悪い笑みを浮かべながら、私にキスを落とす。
「……レヴォル様も、私のものですね」
「……っ」
レヴォルは顔を赤くする。私も少し得意げになってレヴォルを見つめる。
「愛してますよ、アクア。これから愛し尽くしてみせます」
「…………生徒たちの前ではちょっと控えてくださいね」
レヴォルは「必ずとは言い切れませんけどね」なんてくすくす笑いながら、そう言う。
それからもう一度キスを落とした。
続編で悪役だと知って、レヴォルに破滅させられると聞いた時は本当ショックだったけれど……出会えて、こうして両思いになれて本当によかった。
これからもレヴォルと、そしてみんなと大好きな魔法と関わっていけるなんて。
私はそう顔を綻ばせながら、私はレヴォルの背に腕を回した。
完結しました!
読んでくださった方ありがとうございます!
感想、評価などくださるとものすごく喜びます...!
よろしくお願いします^ ^
日間ランキング10位ありがとうございます!
みなさまのおかげです......!
あと新連載も始めたのでお時間あればそちらもぜひ......(すかさず宣伝っ)




