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15. 真っ赤な瞳に貫かれて

 

「…………今、なんと?」



 私はぎこちない笑みを浮かべて、目の前にいるマーガレットとジェードに問う。マーガレットはあっけらかんと、ジェードは少しため息まじりに言い直した。



「しばらく、この魔法学園に滞在することになりました」






 私は生徒会室に逃げ込むとすぐに大きすぎるため息をついた。


 あの後、レヴォルと2人でいるところへそう声をかけてきた。

 マーガレットとジェードは、1週間ほどこちらで調査を行うのだという。隣国初の魔法学園、興味や対抗心があるのはわかるけれど……



「なーにが、『俺は興味はないんだが、マーガレットがどうしても行きたいと言うから』よ! デレデレしてて気持ち悪いのよーー!」



 ヒロインとしてプレイしていた頃は何も感じなかったけど、ストイッククールキャラが、女の子にデレデレしているのは正直見るに耐えない。はあ、私が憧れていた頃のジェードはどこへいってしまったの……



「珍しくイラついているようだが、どうした?」

「アクア先生を傷つけるやつなんて許しませんけど……?」



 生徒会室に居合わせたレオンとエリスが少し心配そうに尋ねてきた。エリスは心配と言っていいのかわからないけれど……



「話は聞いていますよ。元婚約者の方が訪ねてこられているのでしょう?」

「しかも新しい婚約者を引き連れて」



 ノーマンが書類から顔を上げ、明らかに不機嫌そうな表情を浮かべる。付け足したテラは「修羅場ってやつ?」と揶揄いながらも「俺はアクア先生の方がいいけどね!」と笑う。



「……なんだかきつい印象を受ける女性でした」

「そうですわね、私もお顔を拝見してきましたが同じように感じましたわ」



 アスールはビビを撫でていた手を止め私を見る。アンバーまでそんな風に言うなんて。私はわあ、ヒロインだあくらいの感想しか浮かばなかったけれど。



「レヴォル先生は?」

「ああ、レヴォル様なら今お2人のお部屋の準備をしているわよ」



 エリスは「そっか」と呟くと考えるような姿勢をとったまま固まってしまった。


 でもまあ、みんな心配してくれたり本当いい子たちだわ。1週間だけと思って気楽にいきましょう。

 とりあえず……気晴らしも兼ねて外にいる猫ちゃんたちと戯れに行こうかしら。



 私はくるりと体の向きを変え、ドアノブに手をかける。そしてドアを開け――私は固まった。



「ああ、こんなところにいたんだな」



 ぶっきらぼうにそう言い、私を見るのはジェード。高身長だからか、ドアを開けた瞬間巨大な壁があって正直びっくりした。私はおずおずと尋ねる。



「どうしたんですか」

「この学園を案内してほしいと思ってな。レヴォルだっけ、は今いないようだし……」

「……マーガレットは?」

「さあ、見当たらなくて」



 レヴォルに頼んでよ、なんでわざわざ元婚約者に案内を頼みに来るかなあ。今の婚約者差し置いて元婚約者と一緒になんていたら修羅場しか起こらないって分からないのかな……


 聞こえない程度にため息をつき、「分かりました」とだけ言った。適度に距離を開けて私たちは並んで歩き出した。



 歩き出して数分。話すことがなさすぎる。

 魔法省での思い出話? いやそれこそ喧嘩勃発って感じね。婚約していた頃の話……語れるほどないわね。

 とりあえず、私は各部屋の案内を少しオーバー気味にテンション高くやることにした。



「ここは、私が教えている講義がよく行なわれている部屋なんです! みんな一生懸命聞いてくれて、本当に楽しいんですよ!」



 そうにっこにこの笑顔を向けるとジェードは目を瞬かせた。うーん、やっぱりやりすぎかなあ。



「相変わらず、水魔法が好きなのか」



 不意に尋ねられ、私はこくこくとうなずいた。私の得意な魔法を知っていたなんて。



「ジェード様は、確か火魔法がお得意でしたよね」



 騎士隊長は魔法も別格でないといけない。彼は私よりも魔力は高いし、威力もある。



「……本当に俺たちは相容れない存在だったよな」

「そう、ですね」



 向こうは火、私は水。それだけじゃなくて考え方も理想も、人との関わり方も。でもまさか、ジェードからそんな言葉が出てくるなんて意外だった。


 そうぼんやりと考えながら、ジェードを見る。ジェードの瞳が少し優しげに揺れる。



「俺は、アクアを尊敬していたんだがな……」



 ……尊敬?

 予想外すぎる言葉に私はジェードを凝視してしまった。



「ジェード様は、私のことが嫌いなのでは……ん!?」

「アクア、それ以上言わないで」



 突然、後ろから口を塞がれ、私は目を見開き振り返る。

 そこには酷く冷たい目をしたレヴォルが立っていて、私は重たい雰囲気に何も言葉が出なくなる。



「一度傷つけておいて、よくそんなこと言えますね」



 レヴォルは蔑むようにジェードを見て、そう吐き捨てた。そして私の手を荒々しく掴むと歩き出す。



「痛……レヴォル様……?」



 手の跡がついてしまいそうなほど握りしめられている。しかしレヴォルはその力を緩めることはなく空き教室へと入る。


 ガチャン、と鍵がかけられた音がして私はさーっと青ざめていく。そしてほぼ同時に私は長机の上に押し倒されていた。

 覆いかぶさったレヴォルの苦しげに潤んだ真っ赤な瞳に貫かれたように私は動けなくなる。


 そして、強引に、噛みつくようにレヴォルは私の唇を塞いだ。



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