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14. あたたかくて、たくましくて

 

 どうしてここに、前作のヒロインと攻略キャラが……?


 ピンク色のふわふわのショートヘアに琥珀色の瞳。

 忘れるわけない。私を魔法省から追放した前作ヒロイン、マーガレット・フィー。


 それから、金髪のサラサラヘアーに翡翠色の瞳が印象的な前作で1番の人気を誇っていた攻略キャラ、ジェード・イヴェール。



「……お元気そうで何よりです」



 もう会うことなんてないと思っていたけれど。

 私はそう思いながらも挨拶を絞り出し、笑顔を作った。



「アクア様こそ、お元気そうで嬉しいです!」

「まさか、こんなところで講師をやっていたなんてな」



 屈託なく笑うマーガレットとは対照的にジェードはふんっと見下したようにそう言った。


 マーガレットの衣装は派手めなドレス。きっとジェードの婚約者として魔法省でも順風満帆に過ごしていることが窺える。


 騎士隊長でもあるジェードはストイックながらもヒロインに恋をしていく様子が初々しさがあると人気だった。


 そんな彼の婚約者だった私は、ジェードとはあまり仲が良くなかった。それもそうで、魔法省勤めをしていたころの私はバリバリキャリアウーマンの気すらあった。ストイックな彼と甘々になんてなれるわけがない。


 もちろん彼らが嫌いじゃないと言ったら嘘になるけれど……もう私は追放されてしまっているわけだし、魔法省に固執しているわけでもなければ彼らの愛を壊すつもりもない。なので。



「結構楽しいですよ。生徒たちもとってもいい子たちですし!」



 私はにこにこと笑った。ジェードは目を見開いて私を見る。無理もない。バリキャリウーマンしか知らない2人からしたら私の笑顔なんて驚きしかないだろう。



「……ところで、お隣の方は?」



 マーガレットの視線は私の隣にいたレヴォルへと注がれていた。レヴォルは一瞬怪訝そうな顔を浮かべたがすぐに丁寧に頭を下げた。



「レヴォル・アガットです。アクアと一緒にこの学園の講師をしています」

「…………下の名前で呼ばれるんですね」

「俺が何と呼ぼうがジェード様には関係ないのでは?」



 呟いたジェードにレヴォルは貼り付けたような笑顔を向けている。しかし、睨むような目線だけはごまかせてはいないようだった。



「失礼します。行こう、アクア」

「え、ええ」



 レヴォルは強引に私の手首を掴むと2人の横をすり抜けていく。私はなんとなく申し訳なさもありペコリと頭を下げながら手を引かれていった。





 うーん。それにしてもマーガレットもジェードもすごい美形っぷりだったわ。

 続編も好きだったけれどやはり前作ファンだからか、2人に出会えたのは結構嬉しいことでもある。


 私がもしマーガレットだったらどんな気分だったかなあと考えながら歩いていると。



「…………苦しくないんですか」



 手を引いて数歩前を歩いていたレヴォルは足を止め、私に向き直るとそう尋ねた。苦しそうな、切なそうな表情で私をまっすぐに見つめる。


 きっと、レヴォルは魔法省を追放された原因である2人と遭遇したことを気にかけてくれているのだと思う。どうして知ってるんだろうとか前々から思ってはいたけれど、あまり深く聞いてはいない。



「大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます。追放されたのは私のせいでもありますし、ここでレヴォル様やみんなに会うことができてよかったと思ってますよ!」



 それは紛れもない本心。怖いとか、憎しみとか一切ない。それにジェードよりも紳士的なレヴォルの方がよっぽど素敵だし。


 そう1人納得していると、レヴォルはおかしそうに笑って、それから「よかった」と呟いた。



「でも、俺は少し嫌です。だって、彼らはアクアを傷つけた人たちですから……だから、はい」

「……その手は?」



 レヴォルは腕を広げて、首を少し傾け私を見ている。



「俺を安心させるためと思って……ね?」

「ええ…………」



 どういうことだ、とか思ったけれど……レヴォルなりに心配してくれてるんだろうなとか、レヴォルはあの2人が苦手なんだなとか思うとむげに断ることもできず。

 私はゆっくりとその腕の中へと飛び込む。


 レヴォルの腕の中は、あったかくてたくましくて、男の人なんだと痛感する。この人が私をいつか破滅させるかもしれないなんて信じられなかった。



「…………細い」

「え?」

「いや、ずっと抱きしめていたいと思っただけです」

「……たまになら、いいですよ」



 言った直後、私は自分の言ったことの大胆さに気がついてレヴォルの胸に顔を埋めた。

レヴォルの鼓動が直に加わってくる。意外にも、その鼓動は早い。

 それに驚いて顔を上げると、顔を真っ赤にしたレヴォルが映った。



「……本当に、いいんですか」

「…………はい」



 そう答えれば、私の背に回された腕はぎゅっと抱きしめる強さを強めた。


 まさか、言えるわけない。

 もっとレヴォルに抱きしめられていたいだなんて。


 そして、この時の私は忘れていた。

 この後、この幸せが壊れてしまうようなイベントが発生することを――



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