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10. 秘密の花園

 ぱち、と目を開けると生徒会室の天井が目に入った。



「あ、起きましたか」



 声がした方を見るとレヴォルが向かいのソファーに腰掛け、本から顔を上げていた。

 どうやら眠ってしまったらしい。レヴォルに掛けていたはずのブランケットも私に掛けられている。



「ごめんなさい、レヴォル様が起きるまで側にいようと思って……でも逆に迷惑をかけてしまって」

「迷惑なんかじゃないですよ。君の添い寝で疲れも取れましたよ」

「……添い寝?」



 上機嫌なレヴォルを見ながら眠るまでの経緯を思い返す。ブランケットをかけて、それから私もうとうとし始めて……


 思い出すと顔が赤くなった。そうだった、横顔が美しすぎて隣に座り込んで見惚れたまま寝たんだわ……


「可愛い寝顔でしたよ」とくすりと笑うレヴォルに私は照れそうになるのをぐっと堪える。



「本当はもっと話がしたいのですが……もうそろそろ日も暮れますし部屋まで送りましょうか」



 そう言うレヴォルに私は考えこむ。それから勢いよく手を取った。



「でしたら、私に付き合ってくれませんか!」






「うわぁ、すっごく綺麗ー!」

「こんなところがあるなんて知りませんでした」



 私とレヴォルは学園にある “秘密の花園” を訪れていた。


 ここは1プレイで全キャラのルートを通った場合のみ訪れることができるレア中のレアな場所なのだ。全員と出会いもしかしたら来ることができるかもしれないと思ったのだ。



 中庭の奥、壁で見えないところに入り口があるため、大抵の人はこの場所のことを知らない。

 月明かりに照らされた花たちの真ん中には木製のブランコもある。


 私はスキップまじりにブランコに座る。



「ふふ、まるでお姫様にでもなった気分、なんて……」



 そうはにかむとレヴォルはおもむろに私の後ろに回り込んでブランコの紐を掴んだ。そしてゆっくりと揺らし始める。


 風が心地良い。ブランコなんていつぶりだろう。童心に返って私はブランコに揺られ続ける。



「……先生は楽しいですか?」



 不意に投げかけられた質問に私は頷く。



「もちろん。最初は不安でしたけど、生徒たちも可愛らしいですし、先生もいいなって思っていますよ」

「……アクアはすっかり人気者ですしね」

「レヴォル様だって女子生徒からすごい人気じゃないですか」

「それは嫉妬、でいいですか?」



 レヴォルはブランコを止めて私の顔を覗き込む。

 少し嬉しそうにも見えて、私はぷいと顔を背ける。



「もう、すぐそういうことを言うんですから」

「俺は毎日嫉妬してるんですよ」

「…………え?」



 びっくりして顔を向ければ、すぐ目の前にレヴォルの顔が迫っていた。

 私が少しでも動けば唇が届いてしまいそうな距離で。

 私はブランコから勢いよく立ち上がってレヴォルから距離を取った。



「君は、そこにいるだけでも人を惹きつける魅力がある。綺麗で、振る舞いも上品。魔法も一流。なのに明るく生徒みんなから愛されるような可愛らしさもある」



 こっちが恥ずかしくなるくらい、褒め言葉を連ねるレヴォルに何も言う隙がない。レヴォルはゆっくりと近寄って私の頬に手を添える。



「毎日、誰かに君をとられてしまうんじゃないかって、ずっとずっとヒヤヒヤしているんです。だから早く、アクアも俺に応えて――」



 苦しそうに顔を歪めたレヴォルの表情はまさにゲーム内でヒロインに向ける表情そのものだった。


 どうして私にそこまで入れ込むんだろう。どうして私にそんな顔向けるの……


 唇が迫る。私も胸が高鳴って、拒めるような状態ではもうなくなっていた。



 唇に触れた柔い感触。

 思っていたよりもそれは甘くて、熱くて、私はくらくらし始める。



「……俺に、応えてくれたんですね。すごく、嬉しい」



 唇を離してすぐ、レヴォルは目を細めてとても幸せそうに微笑んだ。


 後ろに見える花がレヴォルの背景のようになっていて、まるでゲームで手に入るスチルみたい――


 熱さで上手く回らない頭で私はそんなことを考えていた。そして、情けないことに私はレヴォルの腕の中に倒れ込んでしまったのだった。



「部屋まで送ります。……大丈夫、何もしませんよ」



 少し顔を歪めた私に気を使ったのかレヴォルは心外、というよりかは残念そうに微笑する。



「俺なら、絶対に君を苦しめない」



 遠のく意識の中、聞こえた声は少し安心したようにも聞こえた。そして私はそのまま意識を手放したのだった。

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