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9. 猫友達と弟キャラ

 

「ノーマン、エリスお疲れさま。あまりやりすぎるのもよくないわ。こっちに来てお茶にしましょうよ」



 生徒会顧問になって早1週間。優秀なノーマンのもとには様々な仕事が舞い込んできておりそれを手伝うエリスも忙しそうだ。



「大丈夫です。それに生徒会長になったのだからこの学園をよりよくしたいんです」



 ノーマンはそう笑ってみせる。しっかりしてるなあと感心しながら私は紅茶が入ったティーカップを差し出した。


 かく言う私もとっても忙しい。講義に放課後の魔法指導、次の試験準備に生徒会顧問。たまにテラとカオス落書き大会をして息抜きもしているけれど。

 それでもいつでもゲームの進行具合に目を光らせるのは疲れてしまう。

 全く予想外の行動をするレヴォルも特別実技訓練を請け負っているため私よりも忙しいはず。


 イスに座って紅茶をすすっているとエリスの猫、ビビが足元にすり寄ってきた。思わず顔が綻んで撫でているとエリスが私を呼んだ。



「ビビはいつもこのくらいの時間に外に行きたがるんですが……生憎私は手を離せないので……行ってきてくださいませんか」

「むしろありがとう。ビビと戯れてくるわ」



 ぱあっと笑顔になってビビを抱き上げる。



「いや天使…………えと、私もすぐ行きますので! ノーマンもどう?」

「じゃあ僕も行こうかな」



 エリスがにやけていたのは見なかったことにする。悪役に天使なんて言うヒロインはなかなか珍しいのでは……それに恥ずかしい。


「待ってるわね」ととりあえず私は生徒会室を後にしたのだった。





 中庭のベンチに座るとすぐ、ビビは私の膝の上ですよすよと眠ってしまった。


 かわいい! あー、誰も見てないしもふもふすーはーさせていただいて……


 ビビに顔をうずめようとしていると遠くの木に人影が見えた。私は慌てて顔を上げ、目を凝らす。


 人の周りに、あれは動物……?

 え、襲われたりしてないよね? 目は悪くはないけれどさすがに遠くて何をしているかまでは見えない。人ってあんなに動物に群がられることあるの?


 一度そう思い出すといてもたってもいられなくて、私はそばに駆け寄った。



「よかった、寝てるだけか……しかも綺麗な顔……」



 美形な青年が木の幹に寄りかかって寝ているだけだった。蝶が彼の周りをふよふよと飛び、鳥が肩にとまり、猫たちが足元で丸くなっている。


 なんて可愛らしい光景なの。ただ残念なのはその青年の顔半分は前髪であまりよく見えないこと。


 どうしっかり顔を見ようかと試行錯誤していると。

 にゃあ、とビビが鳴いた。それに他の猫も共鳴するように鳴く。そうかビビはこの猫ちゃんたちとお友達なのね。



「……ん、どうしたんだ……」



 色っぽい吐息と共に目を開けた青年とばっちり目があった。口元にはホクロ。


 あ、この人は、4人目の攻略キャラだ。やっと全員を拝むことができた。


 アスール・トラモント――彼は大財閥の御曹司でクールな印象が強い。おまけに色気もあるときた。大量の女性ファンを虜にしてきた男である。

 しかし彼の魅力はそれだけではない。



「あれ、僕眠っていたんですね……すみません」



 潤んだ瞳を擦りながら彼はそう言う。

 そう、この黒髪をゆるく結うセクシーさからは想像もつかないくらいアスールは天然で弟にしたくなるような可愛さを兼ね揃えているのだ。この動物と戯れる姿はファンの間で「ストレスを浄化する天使」と呼ばれていた。



「大丈夫よ。あんまり気持ちよさそうに眠っているから……起こしちゃってごめんね」



 アスールはふるふると首を横に振ると私の足元に視線を落とす。



「この子は、先生の猫ですか?」

「いいえ、この子はエリスに懐いている子、ビビっていうのよ。たまたま預かっているの」

「ああ、あのブロンドヘアーの……ビビっていうんですねこの子。撫でてもいいですか?」



 私が頷くとアスールはビビに手を伸ばす。ビビは少しふわっと浮かんで距離を取ったがすぐに撫でられに向かう。

 私はその様子を眺めながらビビに向けているような愛おしそうな目で見つめられたら誰でもイチコロね、と納得していた。

 だけどゲームの内容の通りなら聞いておきたいことがある。



「……学園生活にはまだ慣れない?」



 そう尋ねるとアスールはビビを撫でる手を止め私を見る。そしてゆっくりと頷く。


 ゲームでのアスールは人とうまく関われないのだと悩んでいた。そのため中庭で猫たちと戯れている、という設定だったように思う。

 本来はヒロインがその悩みを和らげていくのだが……まだ出会ってもない2人が打ち解けるには時間がかかるはず。先生として悲しい思いをする生徒を放っておくわけにはいかない。


 アスールは一通りゲームの内容と同じことを私に告げると俯く。そんなアスールに私は「そうだわ!」と声を上げる。



「私と猫友達になりましょう!」

「ねこ……友達?」



 アスールは不思議そうに呟く。

 ヒロインがどう悩みを和らげたのか覚えてないけど、私にできることをしようと思う。



「そう! ここでお茶したり動物たちと戯れて、私もエリスにお願いしてビビを連れてくるわ、ね楽しそうでしょ!」

「……とてもいいと思います」



 アスールがそう微笑むので私も思わず笑顔になる。すると後ろから「アクア先生!」と呼ぶ声が聞こえてきた。



「私も猫友達になりたいです!」

「僕もなりたいですね」



 振り返るとそこには急いできたのか少し息が上がり気味のエリスと涼しげな顔のノーマンが立っている。

「ほらほら」と私はアスールの背中を押す。アスールは少し緊張しながら丁寧に挨拶をする。



「可愛いの暴力…………」



 そうよ、エリス。これが本物の天使よ。



「ビビとアスールくんとアクア先生のトリプル天使……」



 ……やっぱり疲れてるのね。あとでよく休ませよう。


 しかしながらさすがヒロイン。攻略キャラを骨抜きにしてしまうスマイルを見せて挨拶をする。ノーマンとも上手く会話できてるみたい。


 ほっこりと生徒の成長を見守っているとビビがニャーとアスールの足にすりすりする。



「ふふっ……ビビもお友達ができて喜んでるみたいね」

「……ありがとうございます、アクア先生」



 アスールの笑顔にはゲームさながらの破壊力と可愛らしさも加わっていて私は照れ笑いを浮かべてしまった。





「……あれ、レヴォル様?」



 エリスと出しっぱなしのティーセットを片付けに生徒会室へ戻るとレヴォルがソファーで眠っていた。



「私とノーマンがここを出る少し前にやってきたのですが、アクア先生と話したいからここで待つと言っていましたよ」

「そうなのね……」



 エリスに言われ、私はレヴォルの顔を見つめる。やはり疲れているのだろう目の下にうっすら隈もある。



「エリスは先に戻っていて。このままにしておくわけにもいかないからレヴォル様が起きるまでここにいるわ」

「……分かりました」



 エリスは口角を上げそれから生徒会室を出て行った。


 部屋には私とレヴォルの2人。

 私は少し辺りを見回してから自分用に置いてあったブランケットを手に取る。


 私をいつか破滅させるとは思えないほど優しくほっこりするような寝顔に私は自然と目を細めていた。

 それからブランケットをそっとかけた。



「……ゆっくり休んでくださいね」



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