僕と白い猫
お父さんとお母さんは、いつもお仕事で家にいない。
ただいまの時、家には誰もいない。
それだと可哀想だから、とお母さんが僕の誕生日に白い猫を飼ってくれた。
まだ、生後四か月の女の子。
すぐに名前を考えた。
白い猫だから「シロ」
小さい猫だから「チビ」
猫だから「ネココ」
どれもいまいちで、ピンとこない。
お父さんにきいても、お母さんにきいても、僕が決めるといいさと言った。
結局一日目は、悩むだけで終わってしまった。
二日目、猫の名前を「こころ」と名付けた。
お父さんの書斎にあった本のタイトルだけど、なんとなくしっくりきた。
「猫の名前はもう決めたのか? 」
お父さんに聞かれて、僕はうなずき「こころ」といった。
すると、お父さんは優しい顔をしてうなずいた。
「いい名前だ。おい、母さん。猫の名前が決まったよ」
「まぁ、それはよかったわね」
お父さんとお母さんの声が弾んでいる。
三日目、お父さんが『猫の飼い方』という本を僕に買ってきてくれた。
その本を読みながら、僕は「こころ」の世話をした。
その甲斐あってか、「こころ」は家族の中の誰よりも僕を好いている気がした。
ペットショップで教え込まされたと思っていたトイレは、猫の習性で自然と覚える行為らしい。
猫は、賢いと思った。
それから、家に帰るといつも「こころ」が出迎えてくれるようになった。
ただいまの時に、だれかいるとこんなにも嬉しいものなのだと知った。
「こころ、ただいま」
帰ってきてから、家に入るまでに「ただいま」という言葉が自然とでるようになった。
それから、ココロは僕と家族の成長を見守ってくれている。