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chapter 3 − currently − 大学2年 7/25龍二

 ―― シャー、


 ユニットバスの中、単調に鳴り響く

 目を疑う光景

 止められた時

 奪われた言葉

 響き渡るシャワーの音


「ゆ・・・・や・・・・」


 震えだす膝


「裕矢ー!!」


 真っ赤に染まった浴槽

 手首に刻まれた深い傷


「ゆうや、ゆうや、ゆうやー!!」

 

 肩を揺さぶり何度も何度も叫ぶ

 生気の抜け切った血の気のない青褪めた唇、そこからはもう二度と何も語り掛けてはこない。


 うそだろ、

 うそだって言ってくれよー!!


「ゆうや?ゆうやぁ〜俺だよ、リュウだよ、目開けろよ、おい、お願いだよ、なぁ、」


 なんでだー!?


「・・・ァ〜ア〜!!」


 もう二度と・・・・



 怖かった。

 人が死んだ。

 そして目の前にその実態が転がってる。それの意味してることが恐ろしくてたまらなかった。受け入れがたい現実、どうすることもできない、どうしていいのか分からない。明らかに死んでいる。認めざるを得ないんだ。

 震えが止まらない。

 悲しみ?

 罪悪感?

 そんなものすら超越した怖さ、それだけだ。

 他に何がある?そんなものない。


 死んでるんだ

 死んでるんだよ

 もう二度と動かない

 もう二度と話し掛けてこない

 答えない

 笑わない

 怒らない

 泣かない


 もう二度と自分の意思で何もしないんだ

 できないんだ


 死んでしまったんだ


「なんで〜・・・なんで・・・・」

 揺さぶったって目覚めない、目覚めやしない。


 誰が死んだんだ?

「裕矢、」

 どうして?

 なぜ?

 なんで死んでしまったんだ?

「裕矢?」

 誰がこんな目に

 誰のせいで

 誰が殺したんだ

「裕矢!!」

 誰が、

 誰が、

 教えてくれ、

 お願いだ教えてくれー!!


  俺だ


 思い切り抱き締めた。 


  俺が悪いんだ

  全て俺のせいだ


 冷たい体は横たわっていた(カタチ)を崩し、軋む骨が硬く冷たく彼の死を自分のぬくもりに溶け込ませる。冷たく、ただ冷たく、もうそれは人ではない。大切なものを失った抜け殻、塊に過ぎない。浴槽に浸かった手首に切りつけられた深い傷、


 痛かったろうに

 今出してやるからな

 こんなとこ嫌だよな


 引き摺られる体は重く冷たい石のよう。

 部屋に横たえそっと亡骸に毛布を被せ見つめた。じっと見つめた。動かない、動くわけないないのに・・・

 

 どのくらいたったろう


 死ぬ

 どうゆうものなんだろう

 何もかもなくなるのか?

 人の終わり

 なぜ死ぬ?

 理解できない

 でももう二度と戻らないんだ

 そうさせたのが俺

 全ての責任は俺にあるんだ


  裕矢ごめん・・・


 


 電話だ、警察、警察に通報しなきゃ・・・


 テーブルに置かれた一冊の本、茶色のハードカバーでかなりの厚み、かなり使い込まれていたように所々擦り切れてる。

 

 死を選ぶ直前に置いたのか?

 どうして?


 恐る恐る開いた。



  ―― 4月5日

  今日入学式だった。



 そう始まるそれは裕矢の大学生活の始まりから今までを綴った日記だった。

 裕矢と亜美と俺との想い出が切々と書き綴られてた。通報のことなど忘れてた。ひたすらに読み続けた。涙が溢れて止まらない。流れ落ちる涙に遮られ何度も目を擦る。滲んだ文字をたどる。


 自分の犯した過ち

 俺の与えた苦しみ

 俺の犯した罪


 惑わされ誤解を重ねた末に下してしまった決断、その全てが空回り取り返しのつかない結末を生んでしまった。


 後悔の念?


 全てが遅過ぎた。もうどうにもならない。もうあいつは戻らないんだ。楽しかった日々が、変わることのないと信じてやまなかった絆のもとに暮らした日々が、今鮮明に甦りそして崩れ去る。変わらないものなどないと、確かなものなど何もないと訴え掛けられる。裏切り裏切られ残された道を失っていったあいつの苦悩が手に取るように伝わってくる。今だからこそ分かる。でも全てが遅かったんだ。

 裕矢は自分の言う「生」を拒否し、「死」を選んでしまった。心も体もぼろぼろに成り果て言葉さえ失っていく彼の姿は病的でさえあった。その時たった一言でも声を掛けてやれていたら・・・・

 裕矢は言う、「君が裁く」と。君は俺、その俺が裁いて彼に与えたものは「死」、殺したのは俺、俺なんだ。俺が彼を殺したんだ。裕矢を殺したんだ。赦してくれなんて言えない、今さらもうどうにもならない、裕矢は還ってこないんだ・・・・

 裕矢が最後の決断を下す前日、「君と 僕と 彼女と 苦しみは還元されなければならない」奇妙な言葉を残してる。完全に正気を失っていた裕矢が言う「君」は俺のことで、「彼女」が亜美のことだろうか?「苦しみは還元されなければならない」この言葉の意味することは・・・・


 まさかな・・・


 震える手でページを捲る。


 ・・・頼む、お願いだ・・・


 裕矢が「死」を実行する一日前、昨日のことが記されている日記の結末のページを。







 

 









 


 

 

 



 

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