chapter 2 − recollection − 4/20龍二
――― この時、亜美は裕矢に一目惚れしたらしい。
高校時代から浪人生活にかけて彼女と俺は付き合っていたんだ。
彼女の性格は今と変わらず活発で女子の間ではいつも中心的存在だった。彼女はサッカー部のマネージャーで俺は部員、もともと性格が似ていたこともあってすぐに仲良くなった。
高二の夏から付き合い始めてまわりからも公認のカップルとなったんだ。それも彼女の現役大学合格、俺の浪人決定で歯車が狂い始めた。会うたび彼女の口から出る楽しそうなキャンパスライフ、他の男の話、その全てが未知の世界であり嫉妬の対象にしかならなかった。だんだん心に余裕をなくしていった俺は彼女に辛くあたるようになったんだ。
一年後俺は大学生になっているのか?
合格できるのか?
何の保証もない
落ちたら二浪・・・
いや、そんな余裕はない
落ちて就職?
俺は働き、彼女はキャンパスライフ
三年間も嫉妬し続けることになりはしないか?
耐えられなかった。
彼女の最後に流した涙は今でも忘れられない。
「今までありがと」
立ち去る彼女を追うことすら出来なかった。それぐらい心は荒んでたんだ。
その後はよくある話だ。失って初めて気付く彼女の大切さ、その存在の大きさ・・・思い知らされた。浪人生活の大切なひと月以上、何も手につかなかった。何度も何度も後悔に押し潰されそうになった。
だからといって彼女を追ってこの大学を選んだわけじゃない。本当に偶然だったんだ。それにこの大学しか受からなかったわけだし。
彼女とは別れた後も友達としては付き合いが続いていた。実際何度か会ったりもしていた。そして再びこの大学で再会したんだ。
彼女は持ち前の快活な性格で人を集め自らサークルを作っていた。俺がここに入学したと知って近付いてきた理由もサークルの勧誘だった。
「うちのサークルにはあんたみたいなキャラが必要なの。スポーツ万能、面倒見が良くて盛り上げ上手。なにより私が手をつけた男」
自信に満ちた不敵な笑みは昔のまま、いやパワーアップしていた。
「協力しなさぁい」
半ば強制的に入部と相成った。
彼女はあいも変わらずみんなの中心的存在だった。
以前と何ら変わっていない亜美の姿を見てひそかに嬉しく思ったのを覚えてる。
そしてサークル説明会の当日、彼女に裕矢を紹介したんだ。すると彼女は昔の俺たちの関係を隠そうとしやがった。後で問い詰めたら、裕矢に一目惚れしたことを自白したんだ。
「かっこいい!もう最高!!」
そんなこんなで彼女の恋路を協力する羽目になっちまったんだ。「まぁ亜美が幸せになってくれればそれでいいか」そう思って承諾したんだ。
「運命よ、う・ん・め・い」
久々に彼女の瞳の輝きを見た気がした。
「俺と正反対だぞあいつは、」
「それがいいのよ〜」
彼女はニヤついてた。
「絶対落とーす!!」
こぶしを握って気合を満々の彼女を見て「まぁ裕矢ならいいか」正直そう思った。「あいつもあいつで女と付き合ったことがないなんてほざいてたからな。内気なあいつには亜美みたいなタイプのほうがいいかもな」なんて思ってた。本当に二人が上手くいけばいいと思ってた。