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chapter 2 − recollection − 大学2年 7/10龍二

 ――― 忘れもしない7月10日、俺は計画を実行に移した。

 愛する者を手に入れるがための気の違った卑劣な計画を・・・



 その日、由紀は学校から帰宅すると約束通り俺の家に直行してきた。

「さ、裕矢くんち行こうか」

 妙に張り切ってた。


 なに意気込んでやがんだ、この女は・・・


 冷ややかな思いを胸に計画通りの言葉を羅列した。

「あっ、悪ぃ、明日提出の課題出ちゃってさ、これからレポートのコピーもらってこなきゃならねーんだよ」

「えぇ〜、」

 ブーたれる彼女の言葉を遮るために間髪入れずに次の言葉を続けた。

「後からすぐ行くって、裕矢んちの下のコンビニで待ってろよ」

 由紀の性格は読めてた。


 絶対に先走る


「・・・裕矢くんに聞いちゃうよ・・・いいの?」

 挑発的してくる彼女。


 案の定だ 


「それで疑い晴れるなら、俺はかまわないぜ」


 計画通り


 あくまで疑いの眼差しでひと睨みして

「行ってくる」

行ってしまった。

 あくまでも俺と裕矢の関係を疑ってやがった。


 んなことあるわけねーだろ・・・バーカ!

 

 狂った笑みで彼女を見送り早速次の行動に取り掛かった。

 その日、レポートのコピーを取りに行くからと言って家にとどまらせておいた亜美の携帯に電話をかけた。

「あ、亜美か、あのさ・・・すごく言いづらいんだけどよ・・・」

 七夕の日の会話を持ち出し亜美にも

「前に裕矢に他に好きなやつがいるんじゃないかって言ったろ」

計画通りの台詞で攻め込んだ。

「あれ、実は由紀なんじゃないかと思ってよ」

 亜美は黙って聞いていた。

「あいつも裕矢のこと気に入ってたし・・・この頃由紀も変なんだよ」

「確かめてくる、」


 来た!


 電話を切ろうとする亜美を呼び止め

「何かあったら絶対連絡くれよ!」

そして電話を終えた。


 タイミングは完璧だ

 今頃駆け出してるだろう


 亜美の性格こそ読めてたんだ。だからこそ仕掛けられる罠だった。ひとり妄想を膨らませている亜美の姿が目に浮かんだ。

 これで上手く行けば裕矢と由紀が亜美に断りもなく二人きりで部屋にいる場面に出くわすはずだ。二人の仲が以前からギクシャクしてたことは確かだったし、亜美が裕矢のことを信じきれてないことも分かってた。

 亜美の性格は知り尽くしてたんだ。裕矢なんかよりずっと・・・


 裕矢と由紀が二人きりでいる姿を見た亜美は、自分の抱いてきた不安と妄想が爆発するだろう。そう俺の計画通りに・・・


 これで完璧だ


 計画は描いたシナリオ通りに進んでいった。


 亜美からの電話を待った。


 午後6時40分


 亜美からの電話だ。

「リュウ〜、リュウ〜、」

 泣き声の亜美。

「由紀さんが・・・由紀さんがいたの〜・・・」


 貰った


「わかった、わかったから・・・もういい、もういいんだ」

 慰める俺。

「もうどうしていいかわからない、どうしたらいいの・・・」

 泣く彼女。

「・・・うちに・・来いよ」

 それ以上何も言わなかった。言う必要もなかった。


 6時45分


 家を出た。そしてアパートの見える近所の家の垣根に身を隠した。もし由紀が俺の家に来たとしてもこれで鉢合わせることはない。

 次に由紀をうちに来させないための手段を講じるためにメールを打った。「すまん、友達につかまっちまった。飲みになったから明日はそのまま学校行く。その後でお前んち寄るから自分ちで待っててくれや」これを見ればうちにとどまることもない。

 メールを打つ手が震えて止まらなかった。笑いで・・・


 6時55分


 由紀が来るか、亜美が来るか

 由紀来るな、亜美来い!!


 由紀がやってきた。

 外から部屋の電気が付いていないのを確認すると上がらずにその場を立ち去った。


 っしゃ!!


 7時10分


 家に戻った。

 あとは亜美は来るのを待つだけ。


 絶対に来る、絶対に


 親愛なる裕矢に裏切られたと思い込んでる、いや実際に裏切られてる亜美に残された望みは俺以外にないのだから。

 途中で携帯が鳴った。案の定、着信相手は裕矢だった。もちろん出るようなことはしなかった。

「亜美がなんか誤解して・・・とにかく出て行っちゃったんだ、もし亜美がそっち行ったら連絡ちょうだい、」

 留守電に残されたメッセージだ。


 やっぱり亜美は誤解したままだ


 全て計画通り。

 勝利を確信した。力強く裕矢からのメッセージの消去ボタンを押した。

 そして最後の締め、亜美の家の電話に留守電を入れ携帯メールを打った。

「リュウだけど・・・俺もお前も苦しみは同じだ、ひとりで苦しまないでくれ・・・俺にはお前しか頼れるやつがいない・・・だから連絡待ってる」

内容は留守電、メールともに同じ内容、これでもし亜美が自分の家に戻ってしまったとしても俺の家に呼び出すことができる。


 亜美は裕矢を信じきれてなかった

 絶対に俺を頼りにしてくる


 一か八かの賭け、確信に満ちた・・・


 ―― ピン・・・ポーン、


 7時34分


 亜美だ!!


 高鳴る鼓動、体中から溢れ出るざわめき、長い間心のどこかにしまい込み忘れていたこの想い、それは相手を想う切なさに重なり急き立ててきた。待ち合わせ場所に好きな人がやって来る、まるで付き合って間もない頃に感じた緊張感にも似たこの感じ・・・狂った思考の中、俺は自分に酔いしれた。逸る気持ちを必死で抑えそっとドアを開いた。

「・・・りゅ・・・う・・・」

 そこには目を真っ赤に腫らし全身の力の抜け切ったかのような今にも倒れそうな亜美の姿があった。


 やった!!


 心の中拳を握り締めた。

 優しくそっと亜美の肩に手を掛け頷いた。真実の失望と悲しみに打ちひしがれている彼女の瞳を、偽りのそれで見つめ返した。俺の肩におでこを押し付けて来た亜美は

「うっ、うっ、りゅう〜・・・」

抱き付き泣き崩れた。その髪に触れ優しく撫でた。優しく愛おしく抱き締める俺、まるで壊れ物を扱うように。懐かしい香りに感じ取れるあらゆる感覚が支配されていくのが分かった。自分が自分でないような、そんな自分を抑えることができずに強く抱き締めた。

 鼓動が高鳴る、止まらない。不自然すぎるその高鳴りを悟られないよう抱き締めていた腕をそっと放した。俯き泣き続ける彼女の肩を抱き部屋の中へと誘導した。そしてベッドに座らせ黙って肩を抱き続けた。気付かれないようそっと電話線を引き抜きながら。

 

 どのくらい過ぎたろうか、徐々に落ち着きを取り戻し始めた亜美は、やっと俺を見つめてきた。

「リュウは・・・」

 涙声に震えたまま口を開いた。

「リュウは大丈夫なの?リュウの言った通りだったんだよ、由紀さんいたんだよ、」

「・・・もう何も言うな」

 強く抱き寄せ首を振った。抱き返してくる力も気力も残っていないその肩が、いかに裕矢を愛していたのかを物語っていたかなど気が付きはしなかった。

「・・・私たち・・・ひとりぼっちになっちゃったね・・・」

 呟く亜美から腕を離し見つめると、泣き顔に力なく笑みを浮かべ見つめ返してきた。ゆっくり瞳を閉じ二人吸い寄せられるように唇と唇を重ね合わせた。久しぶりの亜美のぬくもりをじっくりと感じ取れるあらゆる感覚の中で噛み締めた。舌と舌が絡み合う、その感覚が閉ざし続けてきた二人の心の壁を、その言葉に出せなかった言い訳とともに溶かしていくかのようだった。


 もう離すもんか・・・


 まるでシルクのように滑らかな首筋に舌を這わせた。見た目よりずっと華奢なその身をのけ反らせる昔のままの反応に、懐かしさとともに湧き上がってくる欲望を抑えることなどできやしなかった。

「ひとりぼっちなんかじゃない」

 そのままベッドに押し倒した。そして見つめ合い

「お前には俺が、俺にはお前がいる」

抱き締めた。拭い切れぬ悲しみを瞳に残したまま亜美も俺以上の力で抱き付いてきた。


 全て昔のままだ

 ついにこの手に取り戻したんだ!!


 気の違った満足感の中、感慨に咽び返った。そして亜美を抱き締めたまま深い眠りに落ちていった。久しぶりに感じた安堵だった。それからどうしようか、どうなるのかなんて考えてもいなかったんだ。


  夢じゃないよな

  本当なんだよな


 何度も何度も亜美を抱き締めて現実を実感した。


  ついに取り戻したんだ・・・


 夢の中繰り返し何度も呟いた。時の流れさえ感じられないほど深い闇の中に犯した罪さえも意飲み込まれていった。


  明日なんて一生来なければいい・・・


 ―― ガチャ、


 そんな儚い夢もすぐさま現実に引き戻された。

 玄関のドアの鍵を掛け忘れていたんだ。突然差し込む朝日に目が眩んだ。目を覆った先に、逆行の中立ち尽くしている人の姿が。


  裕矢だった




 




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