chapter 2 − recollection − 大学2年 7/9龍二
――― 俺は裕矢の言動が赦せなかった。
「龍ちゃんが好きなんだ」冗談じゃない
俺はノーマルだ
男なんか好きになれるか!
押し倒されてキスまでされた。しかもそれを由紀に目撃されちまった。
あの後、何とか誤解を解こうと必死だったんだ。
亜美を手に入れるには邪魔な存在でも
今由紀を失ったら俺は一人だ・・・
本当に大変だったんだ。彼女の家の前で帰ってく来るのを一晩中待ってたり、彼女の大学まで捜しに行ったり、そんなこんなで6日ぐらい過ぎた頃だったかな、もう半分諦めかけていた時に電話が掛かってきたんだ。
「由紀か、由紀なんだろ、おい!」
非通知着信、何も言わずに無言のままのその着信相手にすぐに由紀だと分かった。
それからしばらく「今までどこにいたのか」「どれだけ探し回ったのか」「どれだけ心配してたのか」を切々と訴えた。そしてあの日の確信に触れたんだ。
「だから誤解だって言ってんだろ、何で分かんねーんだよ、」
延々疑い続けまるで話しにならない彼女の態度に半ばうんざりしながらも懸命に説得し続けたんだ。そのヒステリックさといったら尋常じゃない。ウザいくらいにしつこかった。
「だって裕矢くんリュウのこと好きだって言ってたじゃない!」
なんだってんだよ・・・
「抱き合ってたくせに!」
俺にどうしてほしいんだよ・・・
「なにが誤解なのよ!」
俺が裕矢を好きだって言ってたわけじゃねーだろーが・・・
「ちゃんと説明してよ!」
どうやって説明しろってんだよ・・・
「信じてたのに〜」
俺だって被害者なんだよ!!
半分やけくそになっていた。その時、心の片隅で誰かが囁き掛けてきた。
おい、こんな危ない女と付き合ってて何が楽しいんだ?
こいつがお前に何してくれるって?
だいたいお前こいつのこと好きなのか?
本当に好きなのは誰だよ?
す・な・お・に・な・れ・よ
魔が差すとはまさにこのことだ。
「・・・じゃあよ、明日裕矢んち行って直接聞いてみろよ」
まさかこんなことを考え付くなんて・・・
「・・・そうすれば分かるはず・・・だからさ」
明日、俺と一緒に裕矢の家に会いに行って「そのことについての誤解を解こう」と言って半ば無理やり電話を切ったんだ。その時頭の中には、すでにある計画がインプットされていたんだ。
卑劣な計画が・・・
携帯が軋むほど強く握り締め心に誓った。
亜美をこの手に取り戻してやる
あいつから奪い返してやる
裕矢はここ数日ずっと学校に顔を出していなかった。そりゃあ当然だろう、俺にあんなことをしちまったんだ、今さらどんな顔して会えるって
「リュウ、裕矢どうしたのかな?」
そんなこととは露も知らずに亜美は尋ねてきたっけな。その時どんなにあの日の事実を言ってやりたかったことか。
亜美、もうあいつはお前を愛してないんだよ!
でも言ったからってどうなる。裕矢の好きなやつはこの俺なんだ。亜美は裕矢のことを愛してる。言って逆に恨まれでもしたらそれこそ俺の立場がなくなっちまう。
七夕の日だったかな、久しぶりに明るい亜美の様子を見て
裕矢と会ったな・・・
あいつなんて言ってごまかしたんだ
頭にきてつい言っちまったんだ。
「最近あいつと上手くいってんのか?」
「えっ、まぁまぁかな、」
「そ、そっか・・・なら・・・いいんだけどよ・・・」
意味あり気にわざと視線を逸らし軽く数回頷いて見せると
「なに?何かあるの?」
案の定突っ込んできたんだ。
亜美の性格は知り尽くしてるからな
「いや、なんでもないよ・・・」
わざと焦らす俺に
「なによ、言いなさいよ、」
食いつく亜美。
「・・・いやな、言いづらいんだけど・・・他に好きなやつでもできたんじゃねーかと思ってな・・・」
事実をもとにかまをかけたんだ。「これで疑心暗鬼になるに違いない」そう思ったのだが、意外にも
「由紀さんも同じようなこと言ってたわ、でも裕矢は誤解だって言ってた」
自分に言い聞かせるように、そして俺の話の続きを聞くのを避けるように、
「私は裕矢を信じる!」
そう言い残して立ち去ってしまったんだ。
由紀のやつ何話したってんだ・・・
亜美の様子からして全部はバラされていないようだった。
その時はそれで終わったんだ。
そして由紀からの電話だ。
これは使える
全ての辻褄が合う
「由紀さんも同じようなこと言ってたわ」
確かにそう言った
由紀、見てろよ・・・
その時の俺は狂ってた。