表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/87

chapter 2 − recollection − 大学2年 5/7龍二

 ――― 亜美への切ない想いを振り切ろうと、痛む胸のやり場を由紀に向け日々を過ごしていたある日、とんでもない事件が起こった。

 

 学校から帰ると案の定鍵は開いていた。由紀だ。

「おかえりー」

 料理を作りながら待っていた。

「すぐできるからね」

 彼女は渡してあった合鍵を使って毎日のようにうちに上がり込んでは、そのまま泊まっていってたんだ。

 微笑みで出迎えてくれる彼女に裏切りの思いを胸に秘めたまま

「いつも悪いな」

偽りの笑みで返す俺。

 もうすでに彼女に対する罪悪感すら感じなくなっていた。

 いつものようにアルコールに身を浸そうと冷蔵庫からビールを取り出した。

「お前も飲むか?」

「いい、ビール好きじゃないもん」


 亜美とは正反対だな

 亜美なら「飲む飲む!」なんて一緒に飲み明かすのに・・・


 テーブルに料理を並べ終え腰を下ろす由紀。

「いただきます」

「はい、いただきます」

 クリスマスの一件以来、由紀との関係に気を遣ってきた成果が出ていた。

 由紀は普通の(・・・)彼女と変わらなくなっていた。

 俺が彼氏としての態度をあらためた途端、由紀も以前の彼女に戻った。高橋さんの教えてくれたことがいいヒントになったのは間違いなかった。「彼女の扱い方マニュアル」の指針を示してくれたって意味では。


 由紀は人より嫉妬深い

 だったら疑いの目を向けさせなければいい


 偽りの人格で彼女に接することに徹していった。

 一人になるのは耐えられなかったから「彼女を捨てるのは新しく好きな人ができてからの話」そう割り切っていい彼氏を演じていた。彼女を捨てる時どんな仕打ちが待ち構えていようと、「それはその時考えればいい」と思ってたんだ。


 夕食も終わり一時間ほど過ぎた頃だったろうか、テーブルの真ん中に置かれた俺の携帯の着信音が鳴り響いた。由紀に取られる前にサッと手に取った。いぶかしげに見つめてくる由紀を尻目に着信相手を確認した。

 亜美からだった。

 一瞬出るのに躊躇する俺に

「・・出なくていいの?」

挑発的な由紀。着信相手をやたらと気にする嫉妬深さは変わらずそのままだった。だからいつも家に帰る前に着信履歴は全て消去していた。富士急の帰り道、由紀の嫉妬深さの一部を察した亜美も、校内にいる時間以外は滅多なことでは電話してこなかった。

 携帯の時計は10時49分を表示していた。


 何かあったのか?


 嫌な予感がした。

「もしもし、」

 静かに応答ボタンを押した。

 息遣いの荒い擦れた声にならない声が聞こえてきた。


 な、なんだ?


「亜美?亜美どうした?」


 何があった??


「・・・リュ・・リュウ〜・・・」

 泣き声、尋常ならぬ状況が伝わってきた。

「亜美!?どうしたんだよ!?亜美??亜美ー!?」

 我を忘れて叫んでいた。

 息も絶え絶えに訴え掛けてくる亜美に、どうにか居場所を聞き出し

「ちょっとどこ行くのよー!!」

慌てて呼び止める由紀の声などまったく無視、行き先も告げずに家を飛び出した。

 亜美は自宅にいるとのことだった。

 死に物狂いでペダルを漕いだ。


  何があったってんだ?

  いったい何が

  今行くからな!!


 心の中で何度も叫んだ。


  どうして裕矢じゃなくて俺に・・・

 

 心臓が張り裂けそうだった。


 ドアの鍵は掛けられていなかった。

「亜美ー!!」

 勢いのままに開けその名を呼んだ。

「・・・あ・・・・・・」

 目の前に広がる光景に目を疑った。

 言葉を失った。

 部屋はまるで荒らされたかのように物が散乱していた。

「・・・な、なにがあったんだよ、」

 部屋の片隅、膝を抱えてうずくまる亜美

「・・あ、あぁ〜・・・」

涙に濡れたその服は引き裂かれたように破れていた。

 何も聞かず震える彼女を抱き寄せた。

「りゅう、りゅう〜、」


  もうそれはどう見たって・・・


 俺の胸に顔を埋め泣き崩れる彼女の姿が物語ることはたった一つしかなかった。

「・・もう大丈夫・・大丈夫だから・・・」


  誰が・・


 強く強く抱き締めた。込み上げてくる感情を必死で抑えた。


  誰が・・・

 

 何も聞かず、何も言わずに病院へ連れて行った。


  誰がやったんだ!!


 家には戻りたくないと言う彼女を自転車に乗せ自分の家へと戻った。


  畜生、畜生、畜生ー!!


 彼女は震えたままずっとしがみついていた。


  誰がやった!!

  いったい誰が・・・


 やるせない思いを奥歯が欠けるほどに噛み締めた。


  ・・・殺してやる


 本気で思った。


「ちょっとどうしたの!?」 

「いいから今日は帰れ、」

 冷たく彼氏に追い出される由紀も可哀想だったが、そんな気を遣ってなどいられなかった。

 ベッドの上、亜美は止まる術を失った涙を拭うことすらできないほど我を失っていた。そんな彼女の肩を抱き締めてやることしかできなかった。何も聞けなかった。

 それからどれくらい過ぎたろう、震えた声で彼女の方から口を開いた。

「・・スギ・・ちゃんがね・・・」

 愕然とした。耳を疑った。


 なぜ、杉本さんがどうして?


 彼女の話によると、杉本が突然尋ねてきたらしい。「裕矢のことで話がある」そう言って部屋に上がり込み、しばらくそのことについて話をした後「裕矢と仲直りがしたい、彼を呼んでくれないか」仲裁を頼んできたらしい。そして裕矢に電話をし終えた途端、いきなり襲い掛かってきたとのことだった。


 杉本がなんで?


 理解できなかった。


 裕矢と彼の間にはやっぱり何かあるんだ


「裕矢と杉本に何があったんだよ、」

 前から気になっていた二人の関係について問いただそうとすると

「裕矢に・・口止めされてるから・・・」

決して話そうとはしなかった。こんな目に遭いながらも、なお裕矢をかばう亜美の姿にいじらしさを覚えながらも、納得できるはずがなかった。


 祐矢が俺に隠し事をしてる・・・


 信じられなかった。信じたくなかった。裏切りすら感じた。やるせなさが積もっていった。

 そして裕矢からの電話が掛かってきたんだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ