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chapter 2 − recollection − 2/21龍二

 ――― 俺はどうかしてる。人の彼女を好きになっちまうなんて。それが親友の彼女で、しかも昔の自分の恋人だなんて・・・

 合宿での夜、どうしても寝付けず頭から布団に包まったまま考えていた。


 裕矢と俺は親友

 裕矢にしてみれば俺と亜美も親友

 裕矢と亜美は恋人同士で

 俺と亜美は昔付き合ってた

 今俺は亜美が好きで

 由紀とゆう恋人がいる

 亜美と裕矢は俺に杉本さんのことで何か隠してる


 その一つ一つを頭の中整理してはまた悩む。悩んでは同じ矛盾の中堂々巡りの繰り返し。その中、時だけは容赦なく流れていて、行き場のない感情だけが空回りを続けていた。どうにも止まらなかった。止める術が分からなかった。

 ただ布団に包まってそんなどうにもならない思いを巡らせていると、隣で寝ていた祐矢が突然起き出し部屋を出ていってしまった。「トイレかな」と思ったのだが、なかなか戻ってこなかった。その部屋の面子は滑り疲れ11時には皆寝てしまっていた。彼が部屋を出て行って誰も気が付きはしなかった。

 15分くらい過ぎたろうか、いつまでも戻って来ない彼のことが気になり様子を見に行ったんだ。

 トイレに彼の姿はなかった。「一階か?」そう思い階段を降りて行く途中で、ロビーのソファーに腰下ろす彼の後ろ姿が見えてきた。声を掛けようとした俺の動きは目の前の光景に止められた。亜美と一緒だったんだ。二人寄り添いながら外の雪景色を眺めているその姿は、あまりにも絵になっていた。悔しいけど認めざろうえなかった。俺の入り込む余地などあろうはずがなかったんだ。

 いてもたってもいられなかった。さらに苦しさは増していった。すぐにでもその場を立ち去りたかった。音を立てないようそっと階段を上がろうとしたその時、ロビーに置かれた植木の陰に人影を見つけた。それは隠れて二人を見つめている杉本さんの姿だった。茂みに身を隠す彼は、瞬きもせずにじっと二人を見つめていた。「なんだ?」そう思いながらも「たまたまはち合わせた俺と一緒か」覗きは趣味が悪いと思いながらも、さして気にもとめずに部屋に戻ったんだ。

 やり切れぬ思いを胸に布団を被った。狂おしい胸の内をどうすることもできずに、力いっぱい枕を抱き締め思った。


 もう限界だ!

 我慢できない

 譲れない

 譲りたくない!!


 そして心に一つの決断を下したんだ。眠れぬ夜の中で・・・



 合宿も終わり実家に帰る予定を返上、裕矢の家を尋ねた。

 全ては亜美との関係に決着をつけるため、俺の想いを縦に、過去の関係を武器に裕矢に宣戦布告するつもりだった。彼は実家に帰らないことは分かっていた。「電話で連絡をして情に絆されるのわけにはいかない」だから何も連絡せずに彼の家を訪ねた。

「あれ龍ちゃん、どうしたの?」

 いつもと変わらぬ態度で平静を装った俺は、いつもの通り部屋の中へと導かれた。

「本当にいつも突然来るよねー、電話してくれればいいのにー」

 突然の俺の訪問に驚きながらも、満面の笑みをたたえ座布団を差し出してきた。

 腰を下ろす俺にキッチンへと向かう祐矢が言った。

「もし僕がいなかったらどうするの?」

 その一言に胸から込み上げてくる熱い想いが押し出されそうになった。


 それはなにか、お前がもし亜美の家に行ってていなかったらって意味か!?

 それともここに亜美が来てたら困るってことか!?

 どうなんだよ!!


「・・・それは・・」

 思わず口に出そうとしたその時

「そうだ!いいこと思いついたよ」

彼の言葉に止められた。

「あれ〜どこやったっけなぁ」

 引き出しをあさる彼は

「あっ、あったあった」

鍵を手に俺に向けちらつかせながら

「はい、これ」

それを手渡してきた彼に

「なんだよこれ、」

尋ねた。彼はニッコリ微笑みながら

「僕のうちの合鍵だよ」

合鍵を手渡してきたんだ。

「えっ?」

 わけが分からず鍵を手に戸惑う俺を見て楽しそうに続けた。

「龍ちゃん持ってていいよ。そうすればもし僕がいなかったとしても部屋で待ってられるでしょ」

 言葉を失った。何も言えなかった。

 再びキッチンに戻りコーヒーを淹れている裕矢の背中を見つめた。


 ちくしょう

 なんで

 なんでこんな俺なんかに

 こんな俺のために・・・


 やりきれない想いをどこにぶつけていいのか分からずに

「・・・亜美も・・持ってるのか?」

攻め入るための最後の抵抗の意を込めて尋ねた。

 そんな俺の想いなど知る由もない彼は、振り返りもせずに笑いながら答えた。

「えっ渡してないよー」

 そしてコーヒーを手に振り返り屈託のない笑みを向けて言い放った。

「だって一つしかないもん、合鍵なんて」

 ハッと我に返った。


 一つしかない合鍵を俺にくれるってゆうのか?

 こんな、こんな俺に・・・


 自分の愚かさを思い知らされた。


 俺はお前に酷い仕打ちをしようとしてたんだぞ

 そんな俺にお前ってやつは・・・


 こんなにも自分のことを信用してくれている友を、自らの手で絶望の淵に陥れようとしていたんだ。


 裕矢、ごめん

 本当にごめんな・・・


 大切なことを忘れていた。大切なものをなくすところだった。

「はいどうぞ」

 コーヒーを差し出してくる裕矢

「ブラックだよね」

にっこり微笑むその顔をまともに見ることができなかった。溢れ出しそうになる涙を必死でこらえ俯いた。


 亜美と、彼女と幸せになってくれ


 鍵を握り締めた拳から血が滲んだ。


 今のままが一番いいんだ

 今のままが・・・


 そして心の中に全てを飲み込んだんだ。



 

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