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chapter 2 − recollection − 2月21日

 ――― 21日


 僕は一人で一階のロビーのソファーに腰掛け出窓に手をつき外の景色を眺めてた。雪景色の中、辺り一面はライトアップされてキラキラ輝いて見えた。全ての汚れを覆い隠し美しく取り繕ってる。


 まるで僕の心のように・・・


「裕矢」

 後ろから声をかけられた。

「亜美」

 彼女だった。

「どうしたの?」

 時計の針は0時を指していた。

「ちょっとね、眠れなくてさ」

 彼女は隣に腰を下ろし

「一緒」

寄り添ってきた。

「誰かに見られるよ」

 サークル運営に支障をきたしかねないとのことで、みんなには僕らが付き合ってることを隠してたんだ。彼女は部長、当然と言えば当然の処置だろう。

 校内では龍ちゃんを交えていつも三人でいるよう心がけてたから、傍から見れば龍ちゃんと亜美が付き合ってるって思うんじゃないかな。

「大丈夫よ」

 囁く彼女は僕の肩に頭を乗せさらに寄り添ってきた。

 僕と彼女の交際を知るのは、龍ちゃんに由紀さんの二人だけだった。もともと龍ちゃんの紹介で付き合い始めたんだ。いつも三人一緒だった。それが当り前だった。でも僕らが付き合い始めたことで龍ちゃんが離れていってる気がする。今でも校内では三人一緒のことが多い。それは僕らが自分たちの関係をサークルのメンバーに悟られないようにするためのカモフラージュの意味もある。龍ちゃんを利用してる。心が痛い。


 こんなことを望んでたんだろうか

 そうじゃない、

 素直に三人一緒にいたかったんじゃないのか?

 でもそんなのは絵空事なんだよね

 だって僕らが付き合ってる事実は変えられないんだから・・・


 寄り添う彼女の隣でこんなことを考えてる僕は変だろうか。彼女は僕を信用してくれている。


 どうして?

 僕が君に何かしてあげた?

 してもらってばかりだよね

 こんな僕のどこがいいの?

 性格?

 いや違うね

 僕が女だったらこんな性格の男はゴメンだもん

 じゃあ顔?

 

 もしそうなのだとしたら彼女もそこらへんの女どもと同類ってことになってしまう。杉本の彼女たちともね・・・

 こんなに僕を想ってくれてる彼女の目の前で、こんな酷いことを考えてる僕はちょっとおかしいよね。杉本のことでまいってたせいかもしれないな。

 

 疲れた・・・


 亜美に寄り添う僕。彼女のぬくもりに心が休まるのを感じる。彼女の中に溶け込んでいくような不思議な感覚に自分の実態が掴めなくなる。


 僕は彼女が好き

 彼女は僕が好き


 そんな単純なことで済まされてしまうことなのだろうか。

「裕矢」

 僕の名前を呼ぶ。

「ん?」

「愛してるよ」

 彼女は言う。でも僕は「愛」を口にしたことがない。いや口にできずにいる。彼女が「好き」なことに変わりはない。誰にも渡したくない。ただいつも思う。「好き」と「愛」にいったいどんな違いがあるのだろうかと。片思いの感情が「好き」を意味していて、その中にまだ「愛」が存在していないとゆうのなら彼女に抱く感情は、その感情の延長線上にある。

「・・・うん」

 僕はまだ「愛」を口にできない。

 寄り添う彼女を抱き寄せながらそんなことを思う僕の胸の内には、全てを言葉で言い表せない残酷な一面がある。それを取り繕った言葉と表情で覆ってるんだ。「愛」が何なのか今の僕には分からない。それでも僕は僕を愛してくれている彼女のために、そしてこれからの僕のためにその答えを見つけられるように努力したいと思う。


 それまで待っててね


 亜美の髪を撫でながら思った。その甘い香りに心が締め付けられた。胸が痛んだ。その痛みの意味が自分でもよく分からないんだ。胸が締め付けられる。苦しいんだ。何かがつかえてる。それが何だか分からないんだ・・・




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