chapter 2 − recollection − 12/24龍二
――― 二人を一緒にはさせない
俺の願いはひとつ、それだけだった。
それなのにあいつらは俺と由紀に気を使って出ていっちまいやがったんだ。
「ちょっちょっと待てよ、」
俺は必死の思いで亜美と裕矢を引き止めた。
「なんで〜、いいじゃない」
そんな思いなど知りもしない由紀に引き止められる俺
そうじゃねぇんだよ!
叫びたくなった。でも言えるわけないじゃないか。
部屋を出て行く二人の後ろ姿をやるせない思いで見つめるしかなかった。
終わったな・・・
がっくりと肩を落とし深く落ち込むあまりに不自然な俺の態度を見て
「どうしたのよリュウ、最近なんか変よ」
不満げな由紀、その疑いの眼差しを見返すこともできずに
「・・・なにが・・だよ、」
抱き寄せごまかした。
俺にはこいつを捨てることさえできやしない・・・
裕矢に限りなき嫉妬を覚えながらも、由紀を抱きそのぬくもりに亜美の幻影を重ねた。身悶える由紀を見つめ
なぜ亜美じゃない?
なぜ由紀なんだ!?
毎晩悩まされ続けてきた疑問と葛藤した。
亜美、亜美、亜美、亜美、亜美、亜美!!
「ハァハァハァハァ、はぁ〜・・・イッちゃった・・・」
恍惚の表情で見つめてくる由紀。
「ハァハァ〜・・・」
由紀の横に寝転がる俺。
・・・あ・・み・・・・
涙が溢れそうになった。腕で顔を覆いそれを必死で隠した。
「リュウ」
由紀が横から抱きついてきた。そして俺の上にまたがり
「・・・もう一回・・しよ」
ねだってきやがった。
「・・無理・・」
それを退け
「疲れた、」
拒否した。それでもすぐさま抱きついてくる由紀
「・・・リュウ・・・」
耳元に口を近付け
「ゆるさないわよ」
囁き噛み付いてきた。
「っつ、」
耳を押さえ由紀を睨み付けた。そこにあったのは今まで見たことない、いや見せたことない冷たい由紀の眼差しだった。
「・・・・・」
ゾッとした。
言葉を失った。
由紀は続けた。
「・・・浮気は・・いや・・」
ハッと我に返った。押さえていた手を見ると血で染まっていた。そして再び血の流れる耳に口を近付ける由紀、生ぬるい感触が耳を伝った。由紀は傷口に舌を這わせ
「・・好きよ・・」
呟いた。
彼女の唇が俺の血で染まっていた。
高橋さんの言っていたことは本当かもしれない・・・
確信が迫ってきてる、そんな気がした。
辛く苦しい日々をどうすることもできないまま時は流れ去った。
正月も終わり冬休みも終わった。そして後期試験も始まろうとゆう頃、亜美と裕矢は互いのことを名前で呼び合うようになっていた。
「亜美さー、この問題って分かる?」
裕矢が言う。俺の目の前、2年前まで俺が亜美に向けていた言葉と眼差しを、今は祐矢が使っている。
「裕矢ってばそんなことも分からないの〜」
笑いながら応える亜美。その笑顔はもう俺のものではない。
昔の日々が、裕矢の知らない亜美と二人で過ごした想い出が頭の中を駆け巡った。
胸が痛い・・・
耐えられない・・・
今まで通り校内では三人でつるんでることに変わりはなかった。よりにもよって亜美と裕矢は、最初の別行動以来、二人だけでの別行動をしていなかった。俺の見ていないところで二人だけで会うのは当然だろう。だが、校内では俺を気遣ってかいつも三人一緒だったんだ。
それがより一層の心の重しとなった
そんなことまるで二人は気付かなかったんだろう
由紀は違う大学だから4人で行動することは滅多になかった。裕矢と一緒に授業を選んだ。必然的に裕矢とは行動が共になる。そこにお昼に合わせて途中合流する亜美が加わる。だから校内では三人いつも一緒だったんだ。その中で明らかに俺だけが浮いていた。三人で行動すればするほど亜美と祐矢が付き合っているとゆう事実を痛感せざろうえなかった。
亜美を諦めなくちゃならない
気持ちの上では心にそう言い聞かせつつも、三人いつも一緒のこの状況ではそうもいかなかった。楽しそうに笑い合う、見つめ合う二人を、その度に一歩引き下がり恨めしげに眺めるしかなかった。
裕矢は親友
亜美は昔の恋人
亜美は裕矢の彼女
どうすることもできやしなかった。
俺には由紀がいるじゃないか
心に言い聞かせても気持ちの追いつかない自分に押し潰されそうになった。事が校内での絡みなだけに学内の友人にすら相談できなかった。
「そうそうスギちゃん冬合宿に来るって言ってたらしいわよ、」
ふと思い出したように言う亜美。
なぜか二人の会話に杉本さんの話題が上がった。
「そういえば杉本さん最近見ないな。どうしたんだ?」
疑問に思い尋ねる俺に対してどうしたことか二人顔を見合わせて一瞬の沈黙
「・・・何か、あったのか?」
その時の俺は裕矢と杉本さんの間に何があったのかなんて知りはしなかったんだ。
「・・・いや、別に何もないわよ、ねっ裕矢、」
「う、うん、」
二人教えてはくれなかった。
そして俺はひとり孤立していったんだ。