chapter 2 − recollection − 12月24日
――― 12月24日
午後7時
僕の腕に自分の腕を絡ませてくる亜美さん。すっかりクリスマスムード一色の街を買い物して回った。
「これも買おうか」
クラッカーを手に微笑む彼女
「いいねー。びっくりさせちゃう?」
「ハハハハ」
お酒と軽いおつまみの調達、それが僕たちの役割。
「シャンパンって高いんだね〜」
意外なほど高いのに驚いた。
「スパークリングワインで良くない?」
とは彼女の提案。
「何が違うの?」
「スパークリングワインは発泡性ワインの総称よ。その中でフランスのシャンパーニュ地方で作られてるもののみシャンパンを名乗れるの」
ほほ〜、物知りで。
「そうなの、よく知ってるね」
「ソムリエ目指してますから」
スパークリングワイン片手に微笑む彼女。
「えっほんとに?」
初めて聞いた。
そういえば将来の話とか夢の話ってしたことなかったな。
「冗談です」
えぇ〜
「アハハハハハ」
大笑いの亜美さん、可愛いです
「やられた〜、」
苦笑いの僕、まぬけです
「でもね、憧れてるんだよね。ほんとに」
ワインの棚を見ながら話す彼女
「お酒好きじゃない私。その中でもソムリエって特別なんだよね」
その瞳はとても輝いてた。棚に並ぶ一本を手に取り
「2005年のボルドーかぁ、グレートヴィンテージよ。でもまだ早いかなぁ」
独り言のように語り出した。
ヴィンテージがなんちゃら
そのグレートだとかなんとか
テロワールがなんちゃら
新世界がなんちゃら
カベルネ?メルロー?シラー?モンプル?テンプラ?
なんちゃらかんちゃら・・・
「あっ、ごめんね、語っちゃったね、」
「いやいや、凄いよ」
本当に凄い。まだあやふやな夢物語なのかもしれないけど、ソムリエになりたいって目標は伝わってくる。じゃなきゃここまでの知識は得られないはずだ。
僕も見つけないとな、目標
買い物終了。
店を出て僕の自転車に二人乗りして龍ちゃんちへと向かった。後ろの席で亜美さんは
「さむーい!」
背中にしがみついてきた。
なんか凄く・・・
「幸せだー!」
こんなに幸せでいいんだろうか
自然とペダルを漕ぐ脚に力が入った。
「なーにー?」
「なんでもなーい、ハハハハ」
龍ちゃんち到着。
30分近い道のりもあっとゆう間だった。
――― ピンポーン
「あいてるぞー」
――― ガチャ、
「メリークリスマース!」
――― パパン!
クラッカーを鳴らした。驚いた目をパチクリさせる龍ちゃんと由紀さんに紙テープがかかった。
「びっくりした〜、」
胸を押さえる由紀さんに
「・・・・」
無言の龍ちゃん。
龍ちゃんちは聞いてた通りに狭かった。いや想像以上か。ドアを開けたそこはドアもなしにすぐ部屋って感じだった。正確に言うと部屋までの間に廊下とも言えない短い通路があり、そこに流しがあって唯一の扉を開けるとユニットバスがあった。ワンルームマンションってゆうのは普通こんな感じらしい。僕の家が広いってのは納得だ。部屋の広さは六畳、そこにベッドが置いてあるせいでとても六畳とは思えないほど狭いのだ。しかもベッドの前に置いたテーブルがまた狭さを演出してる。
「あがれよ」
龍ちゃんに招き入れられ部屋へと入った。
「由紀さん久しぶりー!」
両手を前に振りながら挨拶する亜美さんに
「ひさしぶりー、何ヶ月ぶりかしらね」
同じように返す由紀さん。二人が話してる間に龍ちゃんと僕がシャンパン、もといスパークリングワインをグラスに注いだ。
「龍ちゃんありがとね」
耳打ちする僕に
「あ、ああ・・・ゆっくりしてけよ、」
軽く頷いてた。
準備はもう整ってて、テーブルには龍ちゃんの作った料理が並べられてた。
龍ちゃんと由紀さん、僕と亜美さんで並んで腰を下ろした。そして皆グラスを掲げ
「それじゃみなさんよろしいですか」
龍ちゃんの合図で
「メリークリスマース!」
パーティーが始まった。
それから料理をみんなでつつき合いながら久しぶりの4人の再会を喜び合い話に華を咲かせた。
「そうだー亜美さん裕矢くん!付き合い始めたんだって?」
お酒も入ったせいかハイテンションの由紀さんが聞いてきた。いきなりの質問に思わずむせ返り咳き込むと
「きゃー、」
亜美さんが腕に抱き付いてきた。
「ねっ、ねっねっ裕矢くん、ねっ」
バシバシ僕の胸を叩きながら、これでもかってくらいニッコニコの亜美さんが相槌を求めてきた。
「ははは・・・亜美さん酔ってる?」
酔ってる酔ってる、そんな姿も可愛いかも
「ゆ・う・や・く〜ん、質問に答えなさ〜い」
由紀さんも酔ってる・・・怖い・・・
「はい・・・付き合ってます」
「キャー!!」
僕の答えに満足したのか大喜びの由紀さんに
「ニャハハハハハ、」
照れくさそうに僕を、みんなを見つめて笑いかける亜美さん。そしてそれに答えて照れ隠しに後ろ髪を掻き毟る僕。
「おっめでとー!!」
拍手で祝福してくれる由紀さんが
「ほらリュウもー!」
龍ちゃんにも同じことを勧めてた。
「・・・あ、ああ、」
んん?
何か上の空っぽかったな、
一番祝福してもらいたかったんだけどな
どうしたんだろ・・・
料理も食べ終わり酔いも回った頃、そっと携帯で時間を確認した。
0時を回る寸前。
亜美さんを見ると目が合った。軽く頷いて合図を送ってくる彼女に僕は微笑みで返した。
「あ、もうこんな時間だぁ」
「ほんとだ、じゃあ」
僕を見つめてニヤける亜美さんとそれに応える僕
「それにねぇ」
そしてそのまま龍ちゃんと由紀さんに返した。それはお互い二人きりになろうって計画だったんだ。
「ちょっちょっと待てよ、」
龍ちゃんは僕らの突然の行動に驚いたようで、引き止めようとしてきた。
「まあまあ、私たちにはお気を使わずにー、ねぇ」
首を傾げ同意を求める亜美さんに
「ねー」
応える僕。
「な、なにが、ちょっと、待てったら、」
立ち上り引き止めようとする龍ちゃんに対して
「なんで〜、いいじゃない」
僕らの計画に賛同した由紀さんが小声で龍ちゃんを引き止めた。そんな二人を尻目に僕らは手を振りながらその部屋を後にした。
玄関を出てドアが閉まった途端、亜美さんと見つめ合い思わず吹き出してしまった。
「やったねー」「傑作!」
自転車にまたがり
「どうしよっかねぇこれから」
腰に手を回し抱き付き囁く亜美さんに
「僕んち・・来る?」
鼓動の高鳴りを悟られないよう必死でペダルを漕ぐ僕。
「そうだぁ私んち来ない?」
えぇー!?
「裕矢くんち行くより早いよ・・・」
抱き締めてくる腕に力を込めて言った。張り裂けそうな胸の高鳴りはさらに勢いを増した。
「・・・いいの?」
「・・・うん」
気を失いそうだったよ
照れくさい?いや嬉しくしてしかたなかったんだ。
龍ちゃんのうちから15分ほどの場所に彼女の住んでる学生マンションはあった。一階の一番端に位置している彼女の部屋へ案内された。
「どうぞー」
大体の感じは龍ちゃんの住んでるワンルームマンションと同じで、そこにロフトが付いてるレイアウトだ。六畳一間のその部屋は綺麗に掃除されまるでショールーム、いや違うな、僕が来るのを待っていたかのように見えた。
「紅茶がいいかな?」
「あ、あぁ、うん、」
女の子の部屋に入るのなんてこれが初めてだった。彼女が紅茶を淹れてくれる間、その場に立ち尽くしたまま部屋を見回してしまってた。
「やだ、あんまり見ないで、」
恥ずかしがる彼女、僕が感じてる以上の緊張を感じてたのかも知れない。
「座って座って、」
「あ、あぁ、はい、」
座布団、いやクッションを敷いてくれたかと思うと彼女もそのまま隣に座って紅茶を差し出してきた。
「どうぞ、」
「あ、ありがと、」
小さめの真っ白なティーカップ、実に女の子らしい。
「テレビ付ける?」
「あ、ああ、うん、」
なんか逆じゃないか?
普通なら僕の家に来て僕が彼女に向かって言う台詞だよな
テレビは深夜の音楽番組、流れている曲はクリスマスソング特集。甘いラブソング、そのメロディーを呟くように口ずさみそっとその肩を寄せてくる彼女。そっとその肩を抱き寄せる僕。
どのくらいの時が過ぎたろう
彼女の鼓動と僕の鼓動が重なり合う
彼女の瞳に僕が映る
互いの瞳に自分を映し合う
求めるべくして求められるものすべてが僕らを引き寄せる
ぬくもりがひとつに重なり合う
「・・・上・・・行こっか・・・」
「・・・うん・・・」