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chapter 2 − recollection − 11/4龍二

 ――― 午前5時を回っていたろうか、携帯の着信音に目覚めさせられた。バイト明けで気だるい体を起こし携帯を取ろうとすると、先に身を起こした由紀が携帯を手にそれを見つめていた。俺の携帯は折り畳み式だが、開けずともサブ画面に着信相手が表示されるので着信相手が誰だか分かってしまうタイプのものだ。

 着信相手を見て睨みつけてくる彼女を見て「亜美か?」すぐに誰からの着信か察した。渡すように手を差し出す俺に手渡すのを拒否してきた。

「早く、切れちゃうだろ、」

 イラッときて半ば無理やり奪い返した途端、留守電に切り替わってしまった。

「ちっ・・・」

 案の定それは亜美からの着信だった。

「出ないで」

 口を尖らせ拗ねる由紀。「また嫉妬かよ」うんざりしながらも言われた通り留守電にメッセージが入るのを待った。


 こんな時間にいったい何の用だ?


 いくら由紀が嫉妬しようが、俺の想いが亜美に向いていようが、いま俺と亜美の繋がりの中にやましい要素は何もない。哀しいかな、それが現実だった。

 そして留守電にメッセージが入れられた。

「あ、亜美だけど、裕矢くんのお母さんが重体なの、それでね、」

 慌てて応答ボタンを押し電話に出た。

「なんだよそれ、」

 信じられない亜美の話に一気に目が覚めた。さすがの由紀も驚いて何も言ってこなかった。

 亜美は駅のホームから掛けてきたらしく発車のベルや放送が聞こえてきた。なぜこんな朝っぱらに駅のホームから電話してきたのかなんてその時は気にも留めなかった。


 裕矢は打たれ強くない

 ひとり背負い込んじまうに違いない


 急いで着替える俺に由紀は

「亜美さんも行くの?」

またも疑いをかけてきた。

「行かねぇよ」

 まるで信じてないその表情には不満の色がありありと受けて取れた。そりゃそうだろう、別に裕矢に頼まれたわけでもない。亜美に頼まれたわけでもないのだから。

「どうしてリュウが行かなきゃなんないのよ〜?」 


 そこが亜美と由紀の違いなんだよ


 亜美は俺に「ついててあげて」とは一言も言ってない。それでも電話をしてきたのには俺を良く知っているからこその行動だったんだ。亜美は分かってるんだ。俺のお節介とも心配性とも取れるこの性質(たち)を。恋愛より友情を優先するこの性格を。


 亜美も似たようなもんだからな


 俺たちは似たもの同士なんだ。

 俺が亜美の立場だったらやっぱり一緒には行かないだろう。ついていっても相手が気を遣うだけだからだ。親の安否が心配でしょうがない所に、紹介もしていない彼女を連れて行くようなやつはいないだろう。

「私も行く!」

 それが由紀だ。予想通りの台詞が部屋に響いた。

「・・・学校あるだろ、」

 デートじゃないんだぞ

「リュウだって同じじゃない」

 そうゆう問題じゃないんだよ

「親友なんだよ裕矢は、ほっとけねぇんだ!」

 あくまで納得がいかない様子の由紀を部屋に残し駅へ向かった。俺と裕矢の実家は同じ駅、俺の利用している沿線上を遥かに下った場所にある。対して裕矢のそれは一度新宿に上ってから下らなければならない。俺の方が早く着くことは分かってた。


 案の定、俺の方が早く着くことができた。

 改札前待つ俺を見つけた裕矢はかなり驚いてた。だが俺を見つめる彼はどこかいつもと違って見えた。


 何があったんだ?


 その時は気付くことができなかった。

 俺は母親を早くに亡くした。だからこそその辛さを知っている。少しでも力になれればそれでいい。少しでも彼の不安を取り除いてやれればそれでよかったんだ。


 不安は的中してしまった。


 通夜に顔を出したが、その時の彼はまるで抜け殻のような状態だった。声を掛けてやることすらできなかった。俺の力でどうなるものでもなかった。

 だが三日後に再会した彼は一変して落ち着いて見えた。大人びたようだった。来た時より増してだ。

 何があったのかはあえて聞かなかった。彼は彼なりの整理がついたようだったから。

 車中、彼の方から今までの家の事情を話してくれた。

 そして別れ際

「本当にありがと。いくら感謝しても足りないよ」

こう言い残したんだ。

「龍ちゃんと風間さんには面倒ばっかりかけちゃってるよね、二人には本当に感謝してます」

 その言葉に気付かされた。


 亜美はあの日駅のホームから電話してきた

 まさか泊まってたのか?


 鼓動が高鳴っていった。


 聞きたくない

 知りたくない


「・・・裕矢、」

「ん?」

 聞きたくない

「・・・お前・・・亜美と・・・」

 聞きたくない!

「あぁー、ごめんね、言おうとは思ってたんだけど」


 聞きたくない!!


「付き合い始めたんだ」

 照れくさそうに顔を赤くする裕矢。

「・・・あ、そっ・・そか・・・」


 亜美が

 亜美が裕矢と・・・


 その時俺がどんな表情をしてたかなんて想像したくもない。

 心の一部を剥ぎ取られたような虚しさがドッと押し寄せてきた。止める術を失った。そして完全に思い知らされた。


 俺は亜美が好きなのだと 





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