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chapter 2 − recollection − 11月3日

 ――― 11月3日


「裕矢くーん胡椒どこー?」

「あ、はいはい、」

 立ち上がろうとする僕を

「いいのー座ってて」

阻止するのは、僕の彼女、風間亜美さん。

エプロン姿がまぶしい!

「・・横の引き出しに入ってるよ」

 亜美さんがついに料理を作りにやってきてくれた。「お手伝い不要」との命令によりテレビを観させられている僕。テレビの内容なんて全く頭に入ってこないよ。

「あっ、あったあった」

 杉本のことでごたごたしていたので先送りになっていた彼女の手料理がやっとのことで実現したのだ。「朝食じゃご馳走したことにならなーい」とは彼女の意見。前回作ってくれた朝食は料理のうちにすら入らないらしい。

 杉本はといえば、行方不明説が出てる状態だ。友人も含め誰も全く連絡が取れない。心配して直接自宅にも電話したが誰も出ない。彼の家族構成を知る友人に聞いたところによると、彼は一人っ子で、彼の両親は彼が幼い頃に離婚、一緒に暮らしてきた母親も彼の大学進学とともに再婚しその再婚相手の家で暮らしているため、彼は実家の団地で一人暮らしをしているらしいのだ。どおりで連絡がつかないわけだ。

「もうすぐできるからねー」

 キッチンから屈託のない笑みを向ける彼女に応える僕。

 複雑な心境だ。正直な気持ち嬉しさの方が不安を上回ってる。だって目の前に好きな人がいて、その人が手料理を作ってくれてる、喜ばないやつなんていないよ。

「おっまったっせ!」

 運ぶのすら手伝わせてもらえず

「前菜はホタテのカルパッチョでーす」

次々と

「スープはクラムチャウダー、アサリの変わりにカキを使ってみましたー」

楽しそうに

「ヒラメのムニエルにロールキャベツだよー」

運んで来てはテーブルに並べていった。それはとても一介の女子大生がこしらえたものとは思えないほどで、料理の本からそのまま出てきたみたいな凄い料理の数々だった。

「うわー・・・びっくりだぁ・・・」

 本当に驚かされた。しかもレパートリーはこんなもんじゃないらしい。

「いかがでしょうか?王子」

 王子って僕のこと?とゆうことは彼女が姫?

「すっばらしいです姫!」

「うれしい!それじゃあご褒美をいただけますか?」

 えっ?ご褒美って?

 瞳を閉じてキス待ちのポーズを決めてきた。遠慮なくいただきます、いや

「喜んで」

差し上げます。

 

 彼女の作ってくれた料理はどれも本当に美味しかった。

 食事を終えて二人肩を並べテレビを観ていた。笑い声が部屋を包む。ふと彼女を見た。目が合った。ニコニコだった。


 亜美さんは僕の彼女なんだぁ・・・


 そう思うたび実感が薄れる。「どうして?」分からない「じゃあどうして彼女なの?」僕にないものを全て持ってる素敵な女性だから「じゃあどうして僕なの?」それが最大の疑問なんだ。僕にないものを兼ね備えてるってゆうことは、僕はそれを持ってないってことなんだよ。自分でゆうのもなんだが、自分が亜美さんの立場だったら僕なんか絶対に選ばない。「やっぱり顔か?」あながち違うとは言い難いんじゃないのか?考えれば考えるほど分からなくなる。


 こんな僕のどこがいいの?


 テレビも上の空でふと思った。


 11時半


 今夜泊まってくんだろうか・・・

 どうするつもりなんだろう


 鼓動が高鳴っていった。そんな緊張が伝わったんだろうか、彼女が僕の肩に寄り掛かり頭を乗せ甘えた声で言った。

「王子〜」

 まだ続いてたんだ「王国シリーズ」

「なーに、姫」

 二人きりだとこんな甘えたりするんだ・・・

「今日・・・泊まってってもいい?」

 

 きた!


「・・・うん・・・」

 と、その時だった。携帯が鳴った。僕も彼女も我に返った。彼女を一目見て頷き電話を取った。画面を見つめる僕に

「だれ?」

彼女が尋ねてきた。杉本からの電話だと思ったのだろう。

「実家から」

 それは実家からだった。家庭の事情を聞いていた彼女はびっくりして身を起こしかしこまってた。

「もしもし」

「あっ、ユウ兄?」

 受話器の向こう側から聞こえた声は弟の拓也だった。その声はどこか震えているような感じだった。

「どうしたんだよ?」

「あのね、大変なんだ、」

「?」

「お母さんが事故起こしちゃって重体なんだよ、」

「えっ・・・」

「いい?だからこっち帰ってきて、分かった?」

 耳を疑った。

「今日はもう電車ないでしょ?」

 もう拓也の声など聞こえてはいなかった。

「明日の始発で帰ってきて」

 拓也の話が終わったかも分からぬままに電話を切っていた。思いもよらぬ知らせに口の塞がらない僕を見て彼女が尋ねてきた。

「どうしたの?」

「・・・母さんが事故っちゃって・・・重体だって・・・」

「うっうそ、」

「・・・とりあえず明日、実家に帰るよ、」

 彼女は頷いてた。

「大丈夫、助かるよ、ねっ、大丈夫、」

 僕を抱き寄せまるで子供をあやすように髪を撫でてくれた。

 彼女に抱き締められると不思議と落ち着いた。どこかで置き忘れてきた懐かしい感覚に溶け込んでいく。彼女は僕の天使だ。いつも不安の底から救ってくれる。


 もし彼女がいなかったら僕はどうなっていたろうか・・・


  

 

 

  

 



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