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chapter 2 − recollection − 10月5日

 ――― 10月5日

 日々の暑さも薄れだし前期の時と同じように退屈な授業も軌道に乗り出した。

 前期の時と何ら変わり映えのしない日々、でも違うんだ。杉本は以前のようにもう辛くあたってこなくなった。本当に驚くぐらい変わったんだ。

 後期が始まりすでに一週間以上過ぎた。その間4回も彼とすれ違った。もともと学年も違うし週に2回も来れば多いくらいだったなのに、すでに4回だ。少なくとも4日は学校に来てるってことだ。それだけでも驚きなのに、廊下ですれ違った時に

「おう裕矢!元気してっか!」

明らかに明るい声で僕を呼び止め

「来週からサークル始まるって言ってたな、もちろん来るよな」

今まで見せたこともないまるで毒の抜けたような笑みを浮かべてきた。あまりの変わりように驚きで声も出せずにただ頷くだけの僕を尻目に行ってしまった。

 またもう一回なんかは、講堂で龍ちゃんと一緒の授業の時、二人話をしてる後ろから

「よう、お前らも取ってたのかこの授業」

ニコニコしながら隣に座ってきた。しばらく龍ちゃんと話して友達がやってくるとその方へ行ってしまった。

 その日まで彼がこの授業を受講していたこと自体知らなかったぐらいだ。

 彼は変わった。

 確実に優しくなった。

 以前の冷たさが消えた。

 そしてあの日の電話が本当であったことを確信できたんだ。

 それから今日、もう一つ嬉しい出来事があった。

 風間さんがまたいつものように僕の前に現れた。

 二時限目の倫理の授業が終わり荷物を手に席を立とうとした時だった。この授業は龍ちゃんは専攻してしてない。

 教室の外に出始めた生徒たちの流れに逆らうように風間さんが入ってくるのが見えた。キョロキョロと辺りを見回す彼女は誰かを探してるようだった。「僕に気付かないかな」そんなことを思ってると目が合った。すると手を振ってこっちへやってくるではないか。

「裕矢くんこれからお昼でしょ?」

 僕を探していたんだ。

「うん、そうだけど」

「じゃあ一緒に食べよ」

 わざわざそのために来てくれたらしい。彼女は龍ちゃんの時間割をチェックしていた。僕のもチェックしてたんだ。

「龍ちゃんも呼ぶ?」

 携帯を取り出そうとすると

「二人じゃ、ダメ?」

意外なことを言ってきた。

 今までなら彼女と龍ちゃんが最初に合流、それから僕が呼び出されて三人で集合ってパターンだったんだ。たまに二人って場合もあったけど、しばらくすればサークル仲間がやってきて合流するから「今回は僕が龍ちゃんを呼び出すパターンか」って思ってたんだ。

「いいけど、一食?」

 この大学には5つの学生食堂があってそれぞれに名前がついていた。いつもはサークル仲間が場所取りしてくれてる桜の木に取り囲まれるようにして建つ第一食堂、正式名称「さくら」通称「一食」と呼ばれる所を利用していたんだ。一食から六食までありなぜか四食は存在していない。

「・・・じゃないほうがいいな」


 二人きりがいいってこと? 


 二人きりでサークル仲間の目が気になるなら窓際席のない二食の「ベイスメント」か三食の「カレント」そこがベストだ。掲示板前に位置する人通りのもっとも多い五食の「スカイラウンジ」は論外だろう。「二食か三食だな」提案しようとする僕より先に

「ブルーミンなんてどう?」

彼女から提案されてしまった。

 その提案は意外にも六食だった。一番狭く座席数も少なく喫茶店形式の「ブルーミン」は一食から一番離れた所に位置してはいる。でもカウンター形式で窓際席メインなので人目には付きやすい。「いいのか?」そう思いながらも

「いいね」

彼女の行きたい所を優先することにした。

 彼女と肩を並べてキャンパスを歩く。二人思わず手を繋ぎそうになったが「ここは校内だ」慌てて止めた。


 これはもう付き合ってるって思ってもいいんじゃないのか?


 ブルーミンは喫茶店として作られた関係で軽食しか扱っていない。座席数が少ないため場所取りが禁止されてることもあって昼時でも比較的空いている。

「ここがいいな」

 窓際一列に並んだカウンター席に荷物を降ろす彼女、「これじゃ外から丸見えだ、いいのか?」そう思いつつも言われるがままに腰を下ろした。

 僕はピラフセット、彼女はサンドイッチセットを頼んだ。

「こうゆうの初めてよね」

 彼女も意識してたみたいだ。

「そうだね、いつも龍ちゃんとかサークルの仲間がいるしね」

「こうゆうのね・・・憧れてたんだ」

「えっ、」

「学食でさ、二人でご飯食べるの」

 恥ずかしそうに頬を赤らめてはにかむ彼女を見て初めてここを選んだ理由が分かった。二人で肩を並べて座りたかったんだ。


 あぁ〜決定的だ!


「・・・僕も」


 風間さんならいくらでもチャンスあったろうに・・・


 急に恥ずかしくなってきた。

 意味もなく後ろ髪を掻きむしって紅茶を口にした。彼女もつられるようにコーヒーを口に運んだその時だった。テーブルに置かれていた彼女の携帯が震えた。

「?」

 手に取り確認すると眉間にしわをよせその画面の着信相手の名前を見せてきた。「西角」そこに映し出された名前は龍ちゃんだった。震える携帯を握り締め画面を見つめたままため息をつく彼女「出るのかな・・・」そう思った瞬間留守電に変わったのを確認すると

「・・・ごめんね〜、」

その先の龍ちゃんに謝るように携帯を鞄にしまった。そして気まずそうに僕を見つめて

「わるいことしちゃったかな、」

尋ねてきた。

「んん〜・・・仕方ないんじゃないかな、」


 ごめん、龍ちゃん!


 それでもそんなハプニングさえ新鮮だ。彼女も同じ気持ちだったんだろう。


 二人の秘密を共有できた喜びってやつ

 

 思わず二人で苦笑いしてしまった。

「この間楽しかったね」

「富士急?」

「映画も両方」

「うん、だね」

 夏休み中にここまで仲が深まるなんて本当に奇跡としか言いようがない。

「またどこか行こうね」

「うん」

 また誘われてしまった。

 よーし!

「どこか行きたいとこある?」

 思い切って尋ねた。

「ええとねー、」

 しばし空を見上げ考える彼女、そして出たのは

「裕矢くんちかな」

びっくりな一言。

「うちでもいいよ」

 さらにドびっくり!!

 もろに「えぇ〜!?」って表情の僕を見て彼女は

「あややや、変な意味じゃないからね、」

ことの重大さに気付いたみたいで慌ててた。

「あ、あぁ、うん、」

 僕も返答に困ってキョドってしまった。

「あ、あのね、前にまともな食事してないって言ってたでしょ、」

「う、うん」

「だからご飯作りに行ってあげようかと思ったの」

 あぁ〜そういえば

「いいの?」

「もちろん!」

「ありがと」

 

 微笑み見つめ合う僕らは傍から見ればカップルに見えるのだろうか?時折感じるまわりの視線に緊張した。そんな視線が気になるってほど二人の関係が深まったってゆう事実が嬉しくてしょうがなかった。


 杉本は僕に対する結界を解いた

 風間さんとの仲に決定的な確信が持てた


 悪いことの後には必ずいいことがあるんだ

 今までが悪過ぎたんだ

 その見返りとして今が幸せなんだ


 今日一日それを身に染みて感じそしてかみ締めた。


 

 幸せだ




 


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