chapter 2 − recollection − 9月25日
――― 9月25日
信じられないことが起きた。
奇跡だ。
学校もあと二日で始まろうとしていた。
バイトも終わって晴れ渡った空を仰ぎながら洗濯物を干していた時だった。携帯が鳴った。慌てて部屋に戻り携帯を手にすると画面には登録してしていない携帯番号が表示されていた。「誰?」と思いつつも出ると聞いたことのある声が
「あっ裕矢か?」
まさか!
「俺だ俺、杉本だよ」
杉本だった。
「元気してっか?」
絶句、反射的に耳元から離してしまった。
「おーい、もしもーし?あっれ〜電波か?」
嫌々ながら出た。
「・・・もしもし、」
「おっ、よかったよかった」
口調がいつもと違う感じがした。
「・・・何?」
冷たく返す僕に
「そう尖がるなって。悪い話じゃねーから、なっ聞いてくれ」
なだめるように話す彼。いつもの命令口調じゃない、角の取れた話し方だった。
返事もせずに黙っていると
「お前の気持ちは分かる、何も答えなくていいから聞いてくれ」
勝手に話し始めた。
「俺は今までお前に散々辛く当たってきた。ひどいこともしたよ。それについて謝る気はない。お前にも責任はあったんだからな」
いったい何を言いたいんだ?
その時の部屋の暑さと彼からの突然の電話に戸惑いと苛立ちで思考がついていってなかった。
彼はかまわず続けた。
「でも分かったんだ。なにもお前が全部悪かったわけじゃないってさ」
その通りだ
「俺の彼女にも責任はあったんだよな」
その通り
「夏合宿でさ、お前倒れた時みんな心配してた」
原因は誰だよ
「特にリュウと風間だ。あいつらはもう他人じゃねぇ」
その通り
一番大切な人たちだ
「考えさせられたよ・・・」
一瞬会話が途切れた。
これから彼が発する言葉の意外性にまだ気付かなかった。
「俺がもしそうなった時いったいどれだけの奴らが・・・いったい誰があいつらみたいに心配してくれんのかってな」
えっ?
「お前らがあんまり仲いいから嫉妬してたのかもしれねぇわ」
自分の耳を疑った。彼の発する言葉がとても現実のものとは思えなかったから。いったい何がどうしたら彼の口からそんな台詞が出てくるのかと疑ってしまったんだ。
「聞いてるか、裕矢」
「・・・うん」
それ以上の言葉が見つからなかった。
「それに高校の時のことはもう時効だしな」
本気か?
「とゆうわけだ、分かったか?」
「うん・・・分かったけど・・・」
「けどなんだ、何か言いたいことあるなら言えよ」
何か収まりがつかない、それでいて言葉に表せない感情が溢れてきた。
「ううん、ないよ」
「そうか、じゃあ切るぞ」
呆気ないほどに電話を切られた。
しばらく何が起きたのか理解できなかった。現実を受け止めることができなかった。そのままその場にしゃがみ込み放心状態だった。
杉本は許してくれたのか?
もう付きまとわないのか?
嫌がらせはしないってことか?
僕の一切から手を引いてくれるのか?
日が暮れバイトに行く時間になってやっと実感が沸いてきた。
その素晴らしさに気が付いた。
やったー!!
僕は解放されたんだ!!
もう僕を悩ますものはない
本当の自由だ
自由を手に入れたんだ
一番の悩みから開放されたんだ
ついに
ついに