chapter 2 − recollection − 6/26龍二
――― その日、俺はサークルが終わるとバイト先の飲み屋に顔を出さなければならない用事があった。その店は地下にあるため場所によっては携帯の電波が入らなかった。店を出ると夜10時頃だったろうか、留守電に一つメッセージが入っていた。裕矢からだった。どこか思いつめた感じの声が気になりそのまま彼の家へと向かったんだ。
11時には着いた。
――― ピンポーン
しばしの間「いないのか?」再び押そうとするとドアの向こうに人の気配を感じた。それでもなかなか開けてこなかった。「ん?」部屋を間違えたのかと思い一歩後ずさりドアの横の表札に目をやろうとしたその時
――― ガチャ、
ドアが開いた。
「裕矢、どうした・・・ん?」
そこに立っていたのは彼じゃなかった。
「す、すいません、部屋間違えました、」
慌てて立ち去ろうとすると
「おい、西角か?」
呼び止められた。
「えっ?」
「杉本だよ、ほら同じサークルの」
どうして?表札を見返すと確かに裕矢の家だった。
「えっ、どうして?」
裕矢の家には杉本さんがいたんだ。
「ま、入れよ」
言われるがままに部屋の中へと足を運んだ。
裕矢は部屋にいるんだと思ってたんだ。でもそこにいたのは女が一人、ベッドに腰かけテレビを観ていた。
「・・・あのー・・・裕矢は?」
疑問に思い尋ねると
「ちょっと出ててな、すぐ戻ってくるよ」
座布団を差し出された。進められるがままに腰を掛け
「あのー、どうして杉本さんがここに?」
裕矢がいない、そしているのは杉本さんと女が一人、一番の疑問を尋ねた。
「裕矢とは高校時代の同級生でな、知らなかったのか?」
そんなことは初めて聞いた。
「えっそうなんすか?初めて聞きましたよ、」
なんで言わなかったんだ?
「あいつそんなこと一言も・・・」
「言い忘れてた・・・だけだろ」
それから杉本さんとその彼女を交えていろいろな話をした。杉本さんとは音楽の趣味が合ったので、なかなか帰ってこない裕矢のことを忘れてしまいそうになるほど話に夢中になってしまったんだ。その時どうして彼の彼女まで裕矢の家にいたのかなんて疑問も吹き飛ぶほどに。
30分以上過ぎたろうか、部屋のドアが物凄い音を立てて開いた。三人ともに驚いてその方を見ると、息を切らした裕矢が立っていた。話に夢中になっていたためか玄関のドアが開く音さえ気付かなかったのだろうか。
「おう裕矢お帰りー。上がらせてもらってるぞ」
声をかける俺にその場に立ち尽くす裕矢。それから何を話したろう、彼にいきなり
「帰ってくれ!!」
怒鳴りつけられ、呆気に取られるままに三人外に押し出されてしまったんだ。
「相談したいことがあったんじゃないのか?」
最後に問い正した俺の質問にも答えようとはしなかった。終始俯いたままで決して俺を見ようとはしなかった。
なんなんだ?
何に対して腹を立てているのかすら分からなかった。ただ「ここで俺が引き下がるわけにはいかない」と思い
「杉本さんたちは帰って下さって結構です、あとは俺がなんとかしますんで、」
二人に声をかけた。すると杉本さんはどこかしらけた表情で煙草に火をつけ深く吸い込むと投げやりに煙を吐き出した。
えっ?
そしてクルッと背を向け軽く手を上げ何も言わずに行ってしまったんだ。
どうゆうことだ?
裕矢が怒ってる理由
杉本さんの態度
高校時代同級生?
わけが分からなかった。
グルグル廻る思考をまとめようにもまとめるための要因が少なすぎた。「明らかに裕矢は助けを求めてた。理由を聞かずに帰るわけにはいかない」半ば意地でドアにもたれ掛かり寒さに震えながらも一晩そこで夜を明かしてしまったんだ。