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chapter 2 − recollection − 6月26日

 ――― 6月26日


 壊れそうだ

 いったいどうしたらいいんだ


 とんでもないことをしてしまったのか?

 いや、こうするしかなっただろう・・・


 

 金曜日、とても複雑な日

 風間さんと会える楽しみ

 杉本と会ってしまう憂鬱・・・


 このままじゃいけないと思い龍ちゃんに相談しようと決心したんだ。でも携帯は繋がらず留守電になってしまった。

「あ、裕矢だけど、相談したいことがあって・・・また電話します」

 メッセージを残し電話を切ってすぐだった。

 ――― ピンポーン、ピンポンピンポンピンポン、

 奴だ

 押し方ですぐ分かる。

 しばらく無視してたらドンドンとドアを叩いてきた。「今日はバイトの日じゃない!」嫌々ながら空けると

「シカトこいてんじゃねーよ」

やっぱり奴だった。いつもの女を連れて

「悪ィな」

僕の肩をポンと軽く叩いて勝手に部屋の中へ入っていった。「バイトの日でもないのにお構いなしか」何も言えずに怒りに肩を震わせ俯いてた。

「おい、早く来いよ!」

 奴の呼び掛けにハッと顔を上げると目の前にはまだ奴の女が立っていた。背の低いその女、首を傾げて僕を覗き込んできた。そして通り過ぎざまにクスッと笑い

「あんたかわいいね」

部屋の中へと消えていった。

 思い切りドアを閉めた。

 ドアの外立ち尽くし震えが止まらなかった。悔しくて悔しくて涙が止まらなかった。溢れ出る涙を拭いやり切れぬ思いをこらえながら近くの公園へ向かった。ベンチに座り考えた。


 もう我慢の限界だ!

 このままでいいのか?

 好き放題させてたら昔の二の舞だぞ

 どうせいずれバラすんじゃないのか

 その前にどうにかしなければ・・・

 このままじゃいられない

 どうすれば・・・


 二時間ちょっと過ぎたろうか、家路をたどった。


 打開してやる

 当たって砕けろだ!


 逸る思いにドアノブに手を掛けたその時、部屋の中から喋り声が聞こえてきた。ドアを開けた。聞き覚えのある声、玄関に見覚えのあるスニーカーが一つ増えていた。


 龍ちゃんだ!


 靴を脱ぎ捨て部屋のドアを力任せに開けた。

 三人、僕を見て一瞬会話が途切れた。

「おう裕矢お帰りー。上がらせてもらってるぞ」

 龍ちゃん・・・なんで・・・

「・・・おかえり」

 奴は龍ちゃんの隣でわざとらしい笑みを浮かべてた。

「いやー、話盛り上がっちゃってさー、ねっ杉本さん」

「そうなんだよー、龍二」


 リュウジ・・・


「お前杉本さんと知り合いだなんて一言も言ってなかったじゃんよー」


 今日そのことで相談しようと思ってたんじゃないか・・・


「言い忘れてただけ・・・だよな・・・裕矢」

 ほくそ笑む奴をまともに見ることもできなかった。頭の中は完全にパニックを起こしてた。目の前の光景を把握できないほどに。


 りゅう・・・ちゃん?

 すぎ・・・もと・・・


 頭の中が真っ白になった。

「・・・ってよ・・・」


 言葉にならない叫び


「えっ?」

「ん?」

「?」

 三人、僕を見つめてくる。

「帰って・・・くれよ・・・」

 静かに言った。

「はっ?」「あ〜?」


「帰ってくれ!!」


「なに言ってんだ裕矢、どうしたんだよ、」

 叫んだ僕に龍ちゃんは心配してくれてた。その隣で黙ってる奴を睨みつけると冷め切った眼で睨み返された。

「いいから帰ってくれ!みんな出てってくれよ!!」

 無理やり立ち上がらせて玄関まで押し出しドアを閉めようとすると龍ちゃんが足で阻止してきた。

「裕矢どうしたってんだよ、相談したいことがあったんじゃないのか?」

 逆上してた僕はわけも分からず首を振り拒んだ。

「・・・一人にしてくれ」

 龍ちゃんの足が離れ解き放たれたドアが静かに閉まった。


 もう何が何だか分からない

 どうしてこんなことになっちゃったんだ

 なんでこんなタイミングで・・・


 部屋を見回すとそこには食べかけお菓子の袋やら飲みかけのビールやらが散らばってた。ベッドには奴と彼女が寝た痕跡が、ゴミ箱には使い捨てられたコンドームが放り込まれてた。

「・・・ちくしょう・・・」

 悔しくて悔しくて

「!!」

ゴミ箱を蹴飛ばした。辺り一面散らばるゴミ屑、その中の汚物を紙に包んでトイレに投げ捨てた。

「ちくしょう・・・ちくしょう・・・」

 何度も何度も水を流した。

 その場にうずくまり泣いた。

 

 奴らの寝た布団でなんか寝れない

 眠れはしない

 僕の憂鬱は消えない

 消えないんだ・・・




 

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