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精霊樹のお気に召すまま。  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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13/18

13 精鋭結成。




 三つのエルフの里の会議、略してエルフの会議が、再び行われる。

 場所は、ナーリベンサの里。大理石のようなテーブルに集まり、代表と側近が、私の見た夢の報告を聞いた。そして、テーブルの真ん中には、私が先程描いた滝の絵。


「これは……間違いないな」

「恐らく……」

「そうですね」


 ティービューの里の代表、リクニス。

 ウノスの里の代表、レイデシオ。

 ナーリベンサの里の代表、サビア。

 その順番で口を開くが、肝心の滝の名前が出なかった。


「……なんていう名前の滝ですか?」


 私が問うと、リクニスとレイデシオから、疑問の視線を投げられる。

 私の左にいる幻獣のことですね。わかります。

 ……触れないでもらおうか!

 リクニスの“獣を増やしがって!” 的な視線は気のせいだ!

 ちなみに右に立つのは、ルーシウスだ。後ろには、クロム。


「音無しの滝」


 レイデシオが、滝の名前だけを告げる。


「おと、なし?」

「文字通り、音の無い滝だよ。クチナ」


 サビアが教えてくれた。

 音の無い滝だって? こんなにも豪快に降り注いだ滝だというのに、その音がしないのか?

 いや待てよ。確か、夢に見た時も、全然音が聞こえていなかった気がする。


「では精霊樹の化身は、そこにいる、という可能性が高い……ということになるんでしょうか?」


 重たい沈黙になった。

 リクニスは、椅子にふんぞり返る。


「行く価値はある」


 よかった。私の夢を信じていないわけではないのか。

 

「だが! ダンベラー国が関わることは反対する!」

「何故ですか? リクニスさんは、信用していないのですか?」

「信用云々の前に部外者だ! この件は精霊樹を守る使命を担うエルフの三つの里の問題だ! 違うか!?」


 ダンも乗り気だったのに……ごめんよ。

 しかし、サビアもレイデシオも、リクニスの言葉に反対しなかった。


「では、ダンベラー国に知らせることなく、行くべきか。……誰が行く、のか」


 そう、肝心なことだ。

 行くとして、誰が行くのか。

 バチバチと三つ巴の火花が散った気がする。


「精霊樹の化身を救う名誉を、誰もが望んでいるとは思いますが!」


 私はそこに割って入るように、声を挟み込ませた。


「私は行きます」


 絶対に譲るものかと強く告げる。


「何が待ち構えているかわかりもしないのに、精霊樹の加護を受けし者を連れて行くなど!」

「いいえ、行きます。精霊樹はそのために私を異世界から召喚したのではないのですか?」


 どういうわけかは直接聞くつもりだが、助けを求めて召喚したと今は思う。


「一理ある……。例え囚われている精霊樹の化身を見付けても、触れられるのは彼女だけでしょう」


 サビアはそう言った。


「私は呼ばれています。私が呼ばれているのです。反対されても行きます」


 意思は固いことを示す。


「ならば、精霊樹の加護を受けし者の護衛隊と、精霊樹の化身の救出隊を結成しなければいけないのだな」


 リクニスは皮肉たっぷりに、フンと鼻を鳴らす。


「音無しの滝は、人間の国ドンラーダンワが近い。なるべく数を最小限にし、封印系の魔法を解ける者が同行した方がいいでしょう」

「そうですね。悪目立ちをしてしまってはいけませんから」


 サビアの言葉に、私は賛成した。

 言わなかったが、人間の冒険者に顔を覚えられてしまっている。迂闊に詮索されて、精霊樹の加護を受けた者だなんて知られたくもない。


「ちなみにここからどれくらいかかる場所なの?」

「馬は使えない場所になるから、徒歩で三日ほどだ」

「そう……善は急げ、です。里から何人か出してください。精鋭で迎えましょう」


 どうせまた口論になるなら、一つの里から選りすぐりを出してもらいたい。それで精霊樹の化身を救う名誉を、各里が受け取ればいいのだ。


「それなら、俺が行く」


 真っ先に名乗り出たのは、リクニスだ。


「いいのですか? リクニス。ご病気の父上は……」

「無用な心配だ。サビア」


 ここで初めて、リクニスの父親は病気で来れないと知った。

 病気の長を残して行くのは、些か心配ではないのか。でも、リクニスは気丈だ。


「ナーリベンサの里からはお前が出るのか? サビア」


 実力主義の里ナーリベンサの選りすぐりと言えば、頂点に君臨しているサビアだ。からかうような笑みを吊り上げて、リクニスは問う。


「そうしたいが、リクニスが行くというのなら、僕は残ることを選ぶ。精霊樹の警護も疎かには出来ない。こちらはクチナの護衛を務めているミーシャとブルールが同行しよう」


 ミーシャは、私の護衛隊長だ。女性だけれどムキムキな腕を持つボディビルダーみたいなエルフ。

 ブルールは、気さくな笑みを浮かべる優男みたいなエルフ。


「ウノスの里からは、クチナと面識のあるセレナ、リリカ、エルマを同行させる」


 私は思わず、パッと顔を上げてレイデシオの後ろに控えるセレナさんを見た。彼女もこっちを見て、笑みを浮かべて無言で頷く。


「それで、精霊樹の加護を受けし者のクチナ? その従者を連れて行くつもりなんだな?」


 リクニスが最終確認みたいに、じとりと横目で見てきた。

 もちろんと言わんばかりに、幻獣が私の腕に顎を乗せる。幻獣もついてくる気満々だ。


「ええ、従者なので、当然です」


 ルーシウスの意思は聞いていないけれど、連れて行く意思があることを伝える。

 リクニスはやれやれと言いたそうに、額を抑えた。

 ワガママかな。いや、譲る気はないんだけれど。


「では、今名を上げた者の中に、封印魔法を解くことに精通している人はいますか?」

「俺だ」


 リクニスは、親指で自身を指した。


「ブルール」

「セレナだ」


 サビアもレイデシオも、名を挙げる。

 三人も封印系魔法に強いエルフがいるなら、心強い。


「出発はいつにします?」

「準備をして、明日の明朝がいいかと」


 私の問いに、レイデシオが答えてくれる。

 

「そうしましょう」


 会議は終わった。真っ先に立ち上がったリクニスが、側近を連れて去っていく。

 レイデシオが私に一礼して、セレナさん達を連れて自分の里に戻っていった。

 一度解散して、明日の明朝までに集合して出発か。

 私も椅子から降りて、宿泊させてもらっている建物に戻らせてもらった。


「さーてと。三日、いや往復で六日かぁ……大変そうだ」


 建物の中で、背伸びをする。

 何があるかも不明だから、精霊樹の化身を救出することは、容易くなさそう。

 どんな旅になるのか。ちょっと楽しみだ。音の無い滝か。


「……あの、クチナ様」

「なぁに?」


 グイグイッと腰を曲げながら、私はクロムを振り返った。

 ギョッとする。私の後ろで、膝をついていたのだ。


「私の同行を許してほしいのです。許可をお願いできないでしょうか?」

「えっ? 行きたいの?」

「はい」

「なんで?」

「……旅の間も、クチナ様のお世話がしたいのです」


 顔を上げて、私を見上げたクロムが告げる。


「ナーリベンサの里に滞在中以外でも、おそばに仕えたいのです」

「えっ?」

「だめ、でしょうか?」


 憂いのある瞳で、クロムは見つめてきた。

 断わったら泣く気が、しなくもない。でもクロムの性格上、それはないと知っている。憂いのある目付きをしているのは、元からなのだ。


「私のお世話をするためにそばにいたいの?」


 私もしゃがんで、クロムの顔を覗き込む。


「あー、幻獣さんから庇ったことの恩返し? それならここで世話してくれているだけでも十分だよ」

「いえ、ここ数日、クチナ様の人柄に触れて、もっとおそばにいたいと思ったからです。無論、恩も感じております」


 私の人柄に惹かれたのだろうか。

 それは、照れ臭い。

 ナリリちゃんの言う通り、カリスマ性とやらを発揮しているのだろうか。


「それとも……精霊樹の化身を解放したら、いなくなってしまわれるのですか?」


 クロムのその問いに、私はすぐに答えられなかった。

 正直、自分の世界に帰ることも考えている。

 だって帰れるかどうかは、精霊樹だけが知っているのだ。

 私が行く決意をしたのは、それが大きな理由。

 直接会って、今度こそ答えを聞くのだ。

 けれども、私は……。


「……わかった。じゃあ、よろしくお願いしてもいいかな?」

「! ……はいっ!」


 ぱぁああっと目を輝かせて、頷くクロムが可愛すぎた。

 私はクロムの頭を、撫で回す。


「よし、一応サビアに話を通すね!」


 サビアから、許可はあっさりと出してもらえた。

 クロムにほとんど、荷造りを任せる。クロムがいなくちゃいけない身体になりそうだ。いや大丈夫。まだ私は、一人でお着替え出来る。お風呂だって一人で入れるけれど、クロムにお願いされているからしょうがない。


「幻獣さんの名前を決めておこうと思うのだけれど……何がいい?」

「俺に聞くのか……?」


 外に待機させていたルーシウスに話しかけて、幻獣の名前決めを勝手に始める。ルーシウスは、少々嫌そうな表情をした。

 仲良くしようよ。


「この幻獣は、あなたに名付けてほしいと思う……」

「そう?」


 似た者同士で気持ちがわかるのだろうか。


「じゃあ……どうしようかな。私がお気に入りのキャラの名前にしようかなぁ」

「……テキトーでいいと思うぞ」

「どっちだよ」


 名前を付けてあげろと言いつつも、テキトーにしろとはどっちなのだ。

 ジレンマなのか。


「んー、コハク……」


 幻獣の顎を手に取り、こしょこしょと撫でながら目を覗き込む。

 琥珀の瞳を覗き込み、私はそっと却下する。コハクっていう仲間が、かつていた。とてもいい奴だった。けれども、私は別れの挨拶もすることが出来なかったっけ。

 だから、この名前を口にする度に思い出してしまうから、別のものにしよう。

 小説の登場人物の名前を決める時も、これって名前が思い浮かばなければ、結構悩んでしまう質だ。登場させるその時まで、考えずに書き進めてしまうんだよね。苦手分野。


「やっぱり、レオンかな。どう? レオン」


 獅子だからってことで、レオン。それは安直すぎるかな。

 幻獣は気に入ったのか、ゴロゴロと喉を鳴らして頬ずりをした。


「じゃあ、レオンで決定だね」


 幻獣は喜んで、私にのしかかってくる。

「やめろ」とルーシウスは、私が押し潰される前に退けてくれた。


「勝手に行くことを決めちゃったけれど、よかった?」

「もちろん、あなたに従う」

「うん、ならいいや」


 その日は早めに休み、次の日に備える。

 またあの夢を見た。滝の光景もだ。

 また一つ、数珠が黒ずんでいた。

 クロムに起こしてもらって、私は夢から覚める。


「しまった……数珠のこと話し忘れたな」


 滝のことばかり意識が向いてしまっていて、数珠が黒ずんでいることを言い忘れた。まぁ、封印魔法を解くことに精通しているという三人に聞けばいいか。

 今日着替えるのは、黒いズボン。それと水色のブラウスに、青みの強い黒のコルセットを合わせ、ロングブーツを履くスタイル。

 クロムも似たような格好をして、武装をしている。腰に携えたナイフが何本か見えているが、服の下にもきっと忍ばせているに違いない。


「……よし、行こう」

「はい」


 寝癖がついていないか、髪を触って確かめてから、仮住まいから出た。

 待ち構えていたルーシウスと幻獣レオンに朝の挨拶を交わして、里の出口まで歩いていく。

 もうすでに、精鋭部隊は顔を揃えていた。


「クチナ様。おはようございます」

「クチナ様! おはようございます!」

「エルマ、リリカ! また会えたね!」


 先ずは、エルマとリリカと再会を喜ぶ。

 ミーシャとブルールもいる。


「自己紹介は済んだ?」

「フン、無用だ。顔見知りだ」

「あ、そう……」


 リクニスが自己紹介を却下した。

 精鋭に選ばれるくらいだ。顔見知りでも不思議ではないか。


「クチナ」


 呼ばれて、振り返ってみれば、サビアが護衛を引き連れてやってきた。


「これ、餞別だ」

「え? いいの?」

「ああ、もしものために、ね」

「……いいのに」


 餞別に渡してくれたのは、桜色の鞘と柄の剣だ。

 サビアも、私が異世界に帰ると思っているみたい。

 もしも精霊樹が助けを求めて私を召喚したのなら、私はお役御免となり帰ることになるかもしれない。だから、その餞別。

 エルフが鍛えただけあって、羽根のように軽くて、そして美しい。


「扱えるのか?」


 私が稽古していることを聞いていないのか、リクニスがそう問う。

 扱えないなら無理に持つな、と言いたそうな鋭い眼差しだ。


「ええ、試します?」

「……」


 ブンブン、バトンのように回して見せて、にっこりと笑いかける。

 ダンのように過大評価はしないでほしいけれど、過小評価はもっと御免だ。

「……フン」とリクニスは使えるのならいいと、そっぽを向いた。


「それでは、我々は出発します」


 セレナさんが告げる。


「ああ。皆、無事に戻ってくるように」


 美少年スマイルで、サビアは送り出してくれた。

 私達は、エルフの里ナーリベンサを出発をして、三日はかかる音無しの滝へ向かう。

 そこに囚われているであろう精霊樹の化身を救うためーーーー。



 

残り4話!


20190402

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