目撃証言 4
件の漁村は無残にも焼け落ちていた。
さすがに煙は無かったが、今だに焦げた臭いが漂っていた。
村に入る事は叶わなかったが、当日現場にいた衛兵に話を聞く事ができた。
衛兵:人族:男性:17歳
街の衛兵になって2年、西門の警備に配属となりました。
はい。僕も当日は村へ行って騎士班長さんと共に消化活動に従事しました。
ええ。その日は街の西門で門兵をしてました。
そうです。捕縛された冒険者チームを目撃したので証人として漁村へ騎士団に同行いたしました。
当日の話しですか?いいですよ、僕もあんな事件は初めてでしたのでハッキリ覚えています。
漁村に向かった当日、僕は昼番だったので開門に合わせて交代のため担当の西門に向かいました…
◆
「おはようございます!交代になります‼︎」
「おう!今朝も西側からの入りは無し。退屈だったぜ…。」
先輩衛兵はこう言っていますが、平和が一番だと思います。
僕は衛兵になって2年のまだまだ新米です。
去年入隊した後輩は現在は訓練期間中なので、ここでは僕が一番の下っ端になります。
記者さんも知っての通り、この街は王国の西の端にあり、海に近く、城壁に囲まれ東西南北に門があります。
この西門の先には海に出て南北に向かう街道といくつかの漁村が点在するだけで人通りが多くはありません。
港があるわけでもなく、漁獲量もさほどでは無いので週に1〜2回ほど商人が加工された魚を仕入れに行ったり来たりする程度です。
各村の若い人たちが街に出稼ぎに出てしまい、高齢化が進んで村が衰退していっているのが領主様のもっぱらの悩みの種ではありますが、門兵の僕にはあまり関係ありませんね。
後は2〜3ヶ月に一度ほど魔獣が出て冒険者が狩りに向かう程度でしょうか。
南北の街へは各方角の門から出た方が辻馬車もあるので、この門から南北へ行く人もほとんどいません。
薬草の群生地もこちら側にはありませんので、新人の冒険者もあまり訪れない平和な門です。
退屈しつつも門兵の職務をこなしていると1組の冒険者チームが貸し馬車で門を出て行きました。
「よう、衛兵の兄ちゃん、ちょっと狩に出てくるから通してくんな。」
「では冒険者証の確認を取りますので出してください。」
「ほらよ。人数分。」
「狩りですか?魔獣が出たとの報告はありませんでしたが…。」
「タレコミがあったんだよ。新米くんが気にするこっちゃねぇ。」
素行があまり良くなく、失礼な人達ですがB級の冒険者ですので荒くれ者な所は仕方がないのかもしれません。
人数と冒険証を確認して帳簿に記録をして送り出しました。
◆
え?いつもは魔獣の報告があるのかって?
はい。この街では領主様が冒険者組合と連携を取って魔獣の情報を共有する事になっています。
それは以前、魔物の大襲来があり連携が取れていなかった為、甚大な被害が出たからだと言う話です。
城壁もその時の教訓から作ったそうです。
それから。魔獣の目撃証言があった場合は着任前のミーティングで情報が共有されるはずでしたから、「タレコミがあった」の言葉も怪しいなとは思っていたんですよ。
◆
昼休憩を挟み、詰所で作業をしていると慌てた様子で隊長から呼び出しを受けました。
「全員集合!本部から西門を出た冒険者チームの情報を求められている‼︎事態は急を要するとの事だ。誰か冒険者チームが出て行ったのを確認したものはいるか?」
「はい!私が冒険者証を確認して帳簿に記入いたしました‼︎」
「よし。お前は私とともに本部へ来い!他の者はコイツが抜けた穴を埋めるように適時対応しておけ‼︎」
こうして僕は隊長について衛兵の本部へと向かいました。
衛兵の本部は街の中央付近にあります。
街の中央部は、この街を取り仕切る施設が集中している場所です。
衛兵本部では、騎士団の隊長殿と陳情を上げて来たハーフリンクの行商人が冒険者組合から戻った衛兵と組合員の報告を聞いている所でした。
「では、冒険者組合では西側への魔獣討伐や素材採集の依頼は出してないのだな?」
「はい。最近は西側への依頼は記録されておりませんね。」
「他にも西側や海岸付近での魔獣の目撃証言も無いとの事です。」
「だから言ってるじゃない!あの商人は個別に冒険者に依頼を出して僕と骸骨くんを狙ってるんだってば‼︎」
「うむ、そうは言うがな確証が無い内は騎士団を動かす事はできんのだ。それで、お前が西門の門兵か?冒険者が出て行くのは確認したのかね?」
「は、はい!今朝開門してからしばらくして冒険者の1組が馬車で西門を通過いたしました!」
「こちらが記録になります。」
騎士団の隊長と組合員が渡されたリストを見て唸ってました。
「うぅむ…。コイツらは最近、成績が良くない割に羽振りがいいので噂になってましたね。」
「B級ではあるが、昇格してからの成績が悪く素行が荒くなっていて街中でのトラブルも何件か上がっていたな。」
「ちょっと!そんなのが村で暴れたら大変だよ⁉︎老人しか居ないんだから、早くしないと村の人達に被害がでちゃう⁉︎」
◆
村が1つ焼かれたのに随分悠長に構えてるなって?
そうは言いますけどね、いくら騎士団や衛兵で捕縛・裁判の権利があると言っても1人の行商人の進言だけでは、確証が無ければ無闇に捕まえる事なんて出来る訳ないじゃないですか!
しかもその依頼をしていた商人は黒い噂はあるものの、証拠が無く表向きは真っ当な商人だったんですから手の出しようがありませんでしたよ。
でも捕まえたんだろうって?
そうなんです!商人の捕縛は騎士団の隊長さんの英断でした‼︎
◆
「ふぅむ…これはヤツの尻尾を抑える好機かもしれんな…。よし!三・四班に漁村へ向かわせる。怪我人が出ている可能性もある。衛生兵および治療術師も召集。なお老人の保護も考えられるから、馬車を2…いや3台用意させろ‼︎」
「は!」
「一・ニ班は商人の確保、身柄を押さえておけ!抵抗すれば捕縛して構わん‼︎」
「は!」
「行商人は護衛も兼ねて村への案内。お前は冒険者の確認のためついて来い!」
「り、了解しました!」
「漁村までは歩いて2日…馬車を使っているから奴らは今日中に着くか…間に合えば良いが…
。」
◆
ええ、結局間に合いませんでした。
でもそれは、途中で逃げ出して来た村人達の保護をしたからですし、村長の証言では村に残っているのは冒険者と骸骨のみとの話しでした。
◆
1時間後、急ぎ準備を整え集合したのは騎士10名。
3名は馬車の御者、残り7名は騎馬でした。
僕たちも馬車に乗り込み漁村へ向けて出発した時には日が傾き始めていました。
馬の状態を観ながら途中休憩を挟みつつ焦る心を押さえて街道を急ぎ進みましたが、夜もどっぷりとふけてしまい、このままでは危険だという事で仮眠して明け方から再出発する事になりました。
ハーフリンクの行商人は進むように進言してましたが、馬が潰れてしまっては保護もままなりませんし、騎士班長の指示に従うしかありませんでした。
翌朝、朝食も手早く済ませ漁村へと急ぎました。
しばらくすると前方から荷物を抱えた集団が見えました。
「班長!どうやら件の漁村の住民だそうです‼︎」
「そうか!村長と話がしたい。皆疲れているだろうから手伝ってやれ‼︎」
「は!」
村人達は台車に荷物を乗せて徒歩で街へと向かって来て居た様です。
漁村から逃げて来た皆さんを休ませてる内に村長から話をききます。
「村長はあなたか?」
「はい。騎士様!大変だんです‼︎冒険者がいきなり…御使様が⁉︎」
「御使様?」
「骸骨くんの事だよ⁉︎村長!骸骨くんは?」
「それが…私たちを逃がすのに囮になられて…」
村長さんや村人達の証言では冒険者がいきなり村に乗り込んで来て、村人を脅し魔法で家に火を放ったとの事。
「怪我人は?村人はこれで全員かね?」
「はい、婆さんが1人火傷をおいましたが、御使様がお助けくださって無事でした。他は大した事はねぇです。」
「では三斑は馬車2台に歩けない人を乗せて街まで護衛、それと増援を要請しろ。四班は漁村に急げ相手は腐ってもB級だ、無理はするなよ!門兵のきみも残りの馬車で付いていけ‼︎」
「は、はい!」
◆
ええ。村長さんの話によれば村人の被害は、その骸骨のおかげで最小で済んでいるとの事でした。
そうですか。皆さん無事に街に着いて過ごされてますか、それは良かった。
事前に出発までの準備が整って居たのが幸いでしたね。
はい。村の方はご覧の通り、残念ながら…。
◆
四班の方々と漁村に向かってい急ぎ馬を走らせていると黒煙が目に入りました。
村の中心部は火の手が回りきり、ほぼ燃え尽きて居ました。
「これは酷い…いくら寂れているとはいえ、白昼堂々と襲ったうえ火を放つとは…。」
「冒険者と骸骨の捜査を開始しろ!君はと私は残っている火の消化だ‼︎」
「はい!」
班長は魔法騎士で精霊魔法を得意とされる方でした。
井戸から水精霊を複数召喚し消化を始めました。
班長が消化する間、僕は燃え移りそうな物を探して壊す作業をしました。
ある程度消火も終えた頃、村を捜索していた騎士が1人戻ってきました。
「班長!村の反対側に冒険者達が…」
「よし!私も向かおう。キミは危険が及ばない様に距離を空けていなさい。」
「は、はい!」
「班長…それなんですが…」
◆
冒険者たちがどうしたかって?村の惨状からB級で実力もあり相当暴れた凶暴な輩だと緊張していたんですが…。
なんと全員無力化されて拘束されていたんですよ⁉︎
そうです!おそらく囮になった骸骨の反撃を受けて全滅したものと考えられます‼︎
でも凄いですよね…腐ってもB級の冒険者チームをたった1人?でボロボロの状態に追い込んで拘束するんですから…。
え?そうなんです。冒険者全員、装備が壊されたり骨折させられたりして無力化された上に荒縄で縛り上げられていました。
でも、肝心の骸骨は発見されませんでした。
今も騎士の方々が捜索していますが、林の中で痕跡が途絶えてしまっているらしいです。
はい。捕縛された冒険者達は怪我を治療され街の騎士団駐屯地にある牢獄に収容されているそうです。
「おーい!門兵君。検証も終えて骸骨の捜索も一端打ち切りになるそうだ!我々も撤収準備をして帰還するぞ‼︎」
「了解しました!」
記者さんはどうされますか?
え?撤収の準備中に現場を見せて欲しい?
班長さん中に入れてもよろしいですか?
「うん?時間はあまり無いが構わんよ。」
それでは、僕たちは撤収して馬車の準備をしてますので間に合えば街までお送りできますので。
建物は崩れる可能性もありますので気をつけてください。
この村に数日前までヤツは居たのか…。
目の前に迫って居たのに惜しい事をした。
街に戻って件の冒険者から話を聞くことにしよう。