目撃証言 2
鉱石喰らいと共に海へ沈んでしまった骸骨の情報を求めて今夜も酒場におもむいた。
すると最近街に越して来た老人の話を聞くことができた。
漁師:人:男性:62歳
ありゃぁ海の神様の使いだでぇ、オラが村をお救いくだすった御使様だっただよぉ。
オラが村は寂れた漁村だっただ。
若い連中はほとんどが出稼ぎか村を出て行っちまって、働き手がいなくなっちまってよぉ。
ん?働き手がいなくなっちまったら漁が大変だろうって?
んなもん、当ったり前だぁ…。
オラも見ての通り老いちまって、身体も言う事聞いてくれなくてなぁ…。
年を追うごとに働き手がいなくなっちまってな、こんのまんまじゃ〜閉村も時間の問題だっだでよぉ。
あ?だったって事は閉村は免れたんかって?
いやぁ、それがよぉ…もっと大変な事が起こったのよぉ⁉︎
聞きてぇか?えぇよ〜オラもあの方の話をしてぇでな!
◆
あの日もオラぁ、漁にも出れずにボォ〜〜〜っとしてただよ…。
若い衆はみぃんな村を出て行っちまって、働き手がいなくなっちまった…。
村長もあの手この手と動いちゃいるが、この村には漁に出る以外は何の特産も名所も無ぇからなぁ…。
町からはもちろん、隣の村からも距離があるもんだで合併もままならなかっただよ。
それになぁ、寂れた漁村に住んでるオラ達に貯蓄なんて余裕も無くてよぉ。
身寄りの無ぇ連中も多いで、閉村となると野垂れ死ぬしかなかっただよ。
◆
それにしちゃぁ、街の酒場で悠長に呑んでられるって?
それが、海神様の御使様のおかげだぁよ!
さっきも言ったが、働く事もできずに海を眺めてボォ〜〜〜っとしてただよ。
するとな、海の中から巨大な岩のミミズが出てきたでねぇか⁉︎
あ?海に住むミミズなんているのかって?
バカ言っちゃいけねぇや、岩の身体したミミズなんて海にいる訳ねぇべよ!
こんなのに襲われたら閉村を待たずに村ぁ全滅だぁな…なんて思ったもんさぁ…。
身体も言う事聞いてくれねぇもんだで、村に言いにも行けねぇ…とうとう先に行った嫁の元にいく時が来たんかと覚悟したもんさぁ…。
そんな巨大な岩ミミズに襲われてよく無事でいられたって?
ははは!コイツがなぁ既に退治された後だったんよぉ⁉︎
覚悟して巨大な岩ミミズが上陸してくるのを待っていたさぁ…。
そしたら、どうだ。
岩ミミズの下から黄金に輝く人が現れたでねぇか⁉︎
いや、現れたと言うよりも、御使様が抱えて海の底から持ってきたんだよぉ⁉︎
お?なんだいアンタ!海神様の使いの方に興味がわいただか⁉︎
嬉しいねぇ!今までこんな話をまともに取り扱ってくれるヤツぁ中々居なかったんだぁ⁉︎
アンタも呑みな‼︎
オラの目の前まできた御使様のお姿ぁ今でも瞼に焼き付いてるさぁ…。
黄金に輝く鍛え上げられた金属の身体!そして骸骨の頭⁉︎
巨大な岩ミミズを退治して抱えて海から上がって来れるんだで?
誰が見てもこりゃただの人とは思えねぇだよぉ…。
ああそうさぁ!金属の身体に骸骨の頭をおもちだっさ⁉︎
何だいアンタ、御使様について何か知ってるだか?
まぁ良いさ、続きを聞いてくれや。
◆
岩ミミズを地面に下ろした御使様は、呆然としてるオラに声をかけてくれただよぉ。
「え?こんな所に座ってどうしただって?あぁ…いや、オラァ働く事も出来ねぇからこうやって日がな一日、海を眺めてるだぁよ。」
隣に座ってフムフムと頷いてくれる御使様。
「んだぁ…一日中ボォ〜〜〜っとしてるだぁよ。にしてもアンタ、眩しいぐらいに輝いてんなぁ…。」
不思議と恐怖心は無かっただなぁ…眩しそうにしてると御使様は一回り小さく細身になって青銅に見えるお身体に変わってくれただ。
オラの目を気遣ってくれた優しい方だんだなぁ…。
「アンタすげぇな!お陰で眩しく無くなっただよ⁉︎」
それから御使様はオラの話を親身に聞いてくれただ…今までこんなに話を聞いてもらった事が無かったもんで嬉しかっただなぁ…。
「んでよぉ…若い衆も出て行っちまって、残った連中はオラみたいな身寄りの無い老人ばっかりだぁ…。先立つ物も無ぇから引越しもできねぇし、閉村したらもうオラ達はお終いだぁよ…。」
御使様に身の上話を聞いてもらってたら、巨大岩ミミズの亡骸を見かけたのか村長達が集まって来ただよ。
「おぅい、爺さん!その巨大なミミズはどうしたぃ?それと…隣の旦那…旦那だよな?そいつは何もんだい?」
「おぉ村長!この人ぁ、この岩ミミズを退治して海から上がって来ただぁよ⁉︎」
「何だって⁉︎こんな巨大なミミズを…ってこりゃ鉱石喰らいじゃないかね⁉︎あ、アンタが本当にコイツを討伐したのか‼︎」
村人達が岩ミミズ…鉱石喰らいの周りに集まっておっかなビックリ物珍しそうに見ていただぁ。
そりゃ、この村の連中は誰もこんな魔物見たこと無かったもんだから無理もねぇだ。
「はぁ〜…。すげぇな…どうやってこんな巨大なヤツをやっつけたんだ…え?素手で⁉︎旦那!嘘言っちゃいけねぇよ‼︎…本当で!」
「うぉ‼︎村長!こりゃ、ミスリルじゃねぇか⁉︎」
「どうしたぃ?鍛冶屋の、ミスリルだって?」
「あぁ!ここを見てくれ‼︎この灰色に輝いてる部分⁉︎俺の見立てが間違えてなけりゃコイツはミスリルを喰ってやがる⁉︎」
◆
お、分かってきただか?そう、御使様が退治してきた岩ミミズはミスリル喰って身体に貯えてたんだぁよ⁉︎
鍛冶屋の親父と村長は村の為にも、ミスリルを分けてもらえるように御使様にお願いしたんだぁ。
◆
「なぁ、アンタ!コイツの解体を手伝うからミスリルを分けてもらえんだろうか?」
「少しでもミスリルを売れれば、この村は助かる…いや…村は閉じてしまうが、皆が新しい所へ引越す事ができるんだ⁉︎」
するとどうだべ、御使様は快く譲ってくれたんだぁ⁉︎
「ほ、本当に全部もらっちまって構わないだか?」
「え、洞窟で襲われて退治しただけだから構わない?そもそもお金を持っていないって?」
「いやいやいや!そしたら尚更全部貰うわけにはいかねぇって⁉︎」
「そしたら路銀に必要そうなだけ分けてくれって?アンタ無欲だなぁ…グス…あ、有り難く村人達で分けさせてもらうよ…」
「村長…良かったなぁ…これでみんな救われるだよぉ…」
「アンタ本当に海神様の御使だ⁉︎皆んな!御使様に御礼を言うだよ‼︎」
「「「「「ありがとうごぜぇますだ!」」」」」
◆
周りにいた村民みんな平服したさぁ、あの方は本当に海神様の御使様に違いねぇべ…。
平服された御使様はアタフタしてたもんだが。
どうしたぃ、黙り込んで?
え?感動しただ?そうだろう、そうだろう!
それだけじゃねぇ。あの方は解体も運搬も率先してこなしてくれただよ!
◆
「それにしても、御使様ぁ力持ちだぁなぁ。」
「んだんだぁ…オラ達だけだったらどんだけ時間がかかったか…さすが御使様だでぇ。」
「さぁさ、御使様。お茶を淹れましたけぇ、休んでくだせぇ。」
「え?恥ずかしいから御使様はやめてくれって?畏れ多いが御使様のお名前は何て言うだか?」
すると、御使様は腕を組んでウンウン唸りはじめただ。
「何と!自分の名前が思い出せないだか?先日洞窟で目覚めて岩ミミズに襲われた時には闘い方とかは思い出したけんども…昔何してたかは覚えて無いだか⁉︎」
「はぁ〜…。大変な思いをして来ただなぁ…所でアンタ様のこたぁ何んて呼んだらいいだか?」
「御使様は恥ずかしいから、見た目で呼んでくれ?そしたら…金属様はおかしいから…骸骨様かのぉ?」
「おぉ!それで良いだか?本当に謙虚なおかただでぇ。」
「それにしても、かなり大量に鉱石が採れたなぁ…オラ達だけじゃ、街まで運んで売れねぇだよ。」
「うーん…どうすべぇ…。え?骸骨様が運ぶって?いやしかし、そこまで甘えられねぇだよ!」
「それに、失礼だが骸骨様は街の入り口で衛兵に捕まっちまうかも知れねぇ…。」
◆
え?何で連れて来なかったって?
そんな状況じゃ無くなっただよぉ、鉱石の方はオラが村の様な寂れた村にも通ってくれてるハーフリンクの行商人に任せて全部売れたで。
◆
「あ、コッチに居ましたかぁ〜。村に行ったら誰も居なかったから、閉村しちゃったのかと思いましたよぉ〜」
軽い感じで話しかけてきたのは、ハーフリンクの行商人でこんな寂れた村にも分け隔てなく商売しに来てくれる危篤な人だで。
見た目は子供だもんで、大きな荷物とかは持ち運べねぇが大枚叩いて手に入れたって言ってたマジックバックに商品を入れてるから、徒歩で行商ができるって話だっただ。
「丁度いい所に来てくれた!アンタに相談したい事があるんだ‼︎」
「お?商売の香りがしますね〜。お聞きしましょう!」
「ありがてぇ!そこに積み上がってる鉱石なんだがな、こちらにいらっしゃる骸骨様が鉱石喰らいを討伐してくださって売り先を探してるんだわ。」
「骸骨様?鉱石喰らいを討伐⁇…ってうわっ⁉︎骸骨が挨拶してる‼︎」
行商人がビックリしてるのをよそに骸骨様は片手を挙げて挨拶してただ。
「へぇ〜…。言葉も話せて会話もできてるから魔物じゃなさそうだね〜。ゴーレムにしちゃ高性能すぎるし…え?この村の役に立つように高く買い取ってくれって?何この善良な骸骨⁉︎」
「んだぁ…本当に骸骨様は海神様の御使だでぇ…。」
「フムフム、これは良質な鉱石達だね〜ミスリルも量があるから結構高値で売れると思うよ!」
「おぉ⁉︎そいつは有難い!で、どうやって運ぶかね?後払いで冒険者に依頼を出すかね?」
「いやぁ、そんな事したら冒険者にふっかけられるか最悪は横取りされちゃうよ!村長達は運が良いよ?ここにマジックバックを持った行商人の僕が居るんだからね‼︎」
そう言うと行商人は小さな背を目一杯伸ばして胸を張っただ。
「って事は何かい?アンタが買い取ってくれんのかね?」
「ああそうさ!コチラの骸骨さんの心意気が気に入ったからね‼︎今の手持ちの全財産…コレでどうだろう?」
ドシャ!
おもむろに行商人はマジックバックの中から重そうな袋を通り出したんじゃ。
村長が袋を開けるとなんと金色の硬貨がギッシリ詰まっておるじゃないか⁉︎
「こ、こんなに良いのか?無理してるんじゃ無いのか?」
「ふふふ、大丈夫だよ〜。この鉱石とそこの亡骸も合わせて売ってくれれば元は取れるって、ちゃあんと計算してるからね‼︎」
「ありがたい!本当に有難い⁉︎行商人のアンタも骸骨様も…ありがとう⁉︎ありがとうごぜぇますだ‼︎」
「良かっただなぁ…村長‼︎これで皆んな安心して新しい所に引越せるだなぁ…」
◆
オラも村人達も皆んな泣いてただ、行商人もなぜか骸骨様ももらい泣きしててみんなして笑っただよ…
あぁ…良い日だったなぁ…あの日のおかげで皆んな良い方へ向かえただ…
ありゃぁ…生涯で最高の日だったなぁ…
……グゥー……
幸せそうな顔をして老人が寝ている…。
骸骨は思った通り無事だったが、気になる事がある。
「そんな状況じゃ無くなった」…この老人はそう言っていた。
そう言った時の老人の顔は幸せそうではなく、辛そうな顔をしていた…。
今一度話を聞きたい所だが、この街に越して来ているのだ…また次の機会にしよう。