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ノラネコ団の非日常  作者: 和泉キョーカ
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親友不在事件・中編

・プラントアーチキューブ

→蔦植物の力を宿したアーチキューブ。使用者を蔦植物を模した怪人に変貌させてしまう。


使用者:後藤カイト

「このデータキューブってのが、度々桜浜市で騒ぎになるいわゆる『超常事件』を巻き起こしている原因なんだ。トモカちゃん、データキューブってなにかわかるかな?」

 再び場所はノラネコ団アジト。パイプ椅子に座ったトモカが、カオルの授業を受けている。

「えぇっと……。いつぞやか桜浜市の沖合で見つかった、正体不明の物質、ですよね。」

「そーぉ! そいつは実は物理法則とか地球に存在する超自然的な理論を簡単に捻じ曲げちゃうような強力なエネルギーの塊だってことが、私たちの独自の研究で判明したんだ!」

「俺たち、じゃなくて主にフーコの研究な。」

 えへん、と胸を張って自慢するカオルと、それに的確なツッコミを入れるヒロト。そんなヒロトの言葉も無視し、カオルは授業を続ける。

「だけどこの結論にたどり着いたのは私たちだけじゃあなくてね……。」

「桜浜超常研究所。」

 突如、黙して立っていたシンジが、カオルの言葉を遮って続けた。

「あっ、ちょシンジ!」

「彼らはデータキューブを私的に利用し悪用しようと企んでいる。その結果、生まれた人工データキューブ……俺たちはそれを『アーチキューブ』と呼んでいる。それは現在桜浜市の裏社会で多く流通されており、様々な理由でそれを買い取る人間が続出している。」

「そっ! れっ! をっ!」

 シンジの顔面を掴んで押し出し、またトモカの眼前に出てくるカオル。

「悪用しすぎると、人間の身が保てなくなって、最終的にトモカちゃんが見たような怪人になってしまうの。アーチキューブのご利用は計画的に!」

「現在ではアーチキューブの所持も覚せい剤所持と同じような扱いになっている。とはいえ、まだ警察も暴走したアーチキューブ怪人の対処には手をこまねいている。」

「そんなわけで! 私たちノラネコ団は、できるだけ未然にアーチキューブ事件を解決し……万が一の場合は実力行使で粛正する、正義の秘密組織なのだ!」

「警察にはいい顔されてないけどな。」

 カオル他による授業は、そんなヒロトの言葉で締めくくられた。そしてトモカがアジトから帰ると、突如としてアジト奥の引き戸が開き、凄まじく目つきの悪い顔でフーコが現れた。

「……あの娘ッコは帰ったか。」

「お前は山姥か! びびったわ!」

「あの娘には聞かれたくない話だ。おい調査部隊。」

 言われ、ふたりの小柄な少女が前に出る。一人は冷たい目をしたボブカットの少女、もうひとりは八の字の眉をひくつかせながら冷たい目の少女の背に隠れる、ゆるいロングウェーブの少女だった。

「……泊サヤ。見つかったか。」

「いいえ。マコが持ちうるすべてのコネからたどっていっても、泊サヤなる人物を知る者は一人として存在しませんでした。」

 その言葉に、ロングウェーブの少女が怯えながらも激しく首肯した。そして、フーコは、信じられないようなことを口にした。

「そう……泊サヤなんて女の子、この桜浜市にはねぇんだよ。」

「どういうことだ、姉貴。」

「あの娘ッコが嘘をついているか……あの娘ッコが何かしら病気を抱えているか……あの娘ッコ自体が、アーチキューブ被害者か。この三つだな。」

「泊サヤがいない……? まず、そこがよくわからねぇよ!」

 困惑するヒロトに、フーコはため息をつき、一から説明を始めた。

「まず、すべての桜浜市の小学校から大学までの在籍者データを漁ってもそんな名前、ひとつもヒットしなかった。さらに住民票を洗いざらい見ても、出てきたのは桜浜市風下区二十日台に住む四歳の女の子だけだ。まぁ、その女の子が娘ッコの親友って線がないわけじゃねぇがよ……。考えにくいだろ。」

「……今度会った時、聞いてみようか。」

 カオルの言葉に反対するものは、誰もいなかった。


 数日後、トモカがアジトに来た時、カオルはトモカに尋ねた。

「一応こちらでも調べてはいるんだけど、念のためサヤちゃんについて私たちに教えてくれないかな。サヤちゃんってどんな子なの?」

「どんな……。」

 そこで一瞬、トモカは困惑したような顔を見せた。なんとか声を絞り出すようにして、その特徴を口にした。

「とっても優しくて……損得勘定なしで誰かを助けることができて……それで……。」

「年齢は?」

「十六歳です。」

 その言葉に、カオル、ヒロト、シンジが反応する。

「外見の特徴は?」

「外見……。あ、あれ……?」

「わからない? いつも見ているのに?」

「そ、そんなはずは……!」

 段々と声の震えてきたトモカの背をさすりながら、カオルは話を続ける。

「思い出せるところまででいいから、最近サヤちゃんとの間で起こったこととか、教えてもらえる?」

「サヤちゃんとの……間で……お、こっ、て……。」

 何も思い出せないような様子のトモカを介抱しながら、カオルはアジトを後にした。


「大丈夫だって、トモカちゃんの親友なんでしょ? 親友って近すぎるから、いざ特徴とか聞かれると言葉に詰まるものだよ。」

「そ、そう……ですよね。」

 アジトからの帰り道、カオルはここまで終始トモカを慰めていた。そうやって十数分経ったとき、ふとトモカが何かに気付いたように、道端に駆け寄っていった。

「大丈夫? 今なんとかするからね。」

 優しく声をかけた相手は、脚を折った猫だった。トモカはカバンの中から、なぜか小さな木の板をふたつと包帯を取り出し、猫の脚にそれを添えた。

「今度からは気を付けてね。」

 そう言ってアパートの塀の上に猫を乗せると、カオルのもとに駆け寄って、「行きましょう。」と先を促した。

「なんで添え木なんて持ってるのさ。」

「最近多いんですよ、脚を折った猫ちゃん。」

「そりゃまたメンヨーな。」

 しばらくして到着したトモカの自宅らしいマンションの前で、トモカはようやく思い出したようにカオルに伝えた。

「カオルさん! 思い出しましたよ! サヤちゃんは……書道が、とっても上手なんです!」

 その顔は笑っていても、目は、どこまでも虚ろだった。


 カオルがアジトに戻ると、シンジが簡潔に質問した。

「何かわかったか。」

「私の野生のカン曰く……泊サヤはトモカちゃん自身だ!」

「はぁ~?」

 馬鹿馬鹿しいとばかりに声を上げるヒロトに、カオルは理由を説明した。

「帰り道、あの子は脚を折った猫を、当たり前のように手当てしてた……『損得勘定なしで誰かを助け』てたんだよ! しかも、一番最後に、『書道がとても上手』って言ってた……桜浜市一の書道センスを持つトモカちゃんが。類似点が多いと思わない?」

「そこまで理由があったら野生のカンなんて言わねぇよ!」

 ヒロトのツッコミは無視して、カオルが話を続けようとしたとき。

「……瀬古トモカ。」

 シンジの言葉に振り向くと、そこに、虚ろな目で黒いオーラをまき散らすトモカが立っていた。

「……トモカ……ちゃん……?」

 カオルは、無意識にヒロトの肩を掴んでいた。その手は、小刻みに震えている。

 トモカらしきソレは、そのままふらりと方向転換し、階段を登って行った。

「おっかねぇ~。ありゃ一体何だ?」

 そう言って、ヒロトがカオルの背を叩く。カオルは我に返り、ヒロトの言葉の真意を悟り、トモカのようなソレの後を追って、アジトを飛び出した。

「夕飯までには帰れよ~。」

 その言葉がカオルに届いたかはわからないが、ヒロトが清々した、というような微笑を浮かべていると、また再び引き戸が開け放たれた。

「うおぉ!? またかこの妖怪天才プログラマ!」

「オイ、今アーチキューブの反応があったのに、何ボサッとしてんだよ。」

 フーコの言葉で、その場に緊張が走った。

「まさか……。」

「何年ノラネコ団やってんだお前ら。今の娘ッコは娘ッコじゃねぇ。アーチキューブで作られたもうひとりドッペルゲンガーの娘ッコだ!!」


 トモカの姿をしたソレは、港まで逃げ回り、カオルもそれを追いかけ続けた。

「トモカちゃん……なの? あなたは誰!?」

「……。」

 その時。

「カオルさん……と、その人は……!?」

 トモカの声がして、カオルは振り向いた。そこにも、トモカがいた。トモカが、カオルをはさんで二人いた。

「……やっぱり、あなたはトモカちゃんじゃない!」

 そう言い放ち、カオルはパーカーの袖をまくった。そこには、オレンジ色に光るメタル質のキューブギアがあった。カオルがポケットからデータキューブを取り出し、キューブギアにはめこんで、スイッチを一回押した。

「着装!」

『ヘラクレスギア・スタート。』

 数秒後、そこにはライオンの頭部を模したヘルメットを持ったアーマースーツに身を包み、槍を構えたカオルがいた。

「正体、見せてもらうよ!」

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