4.転生モブ令嬢、色々と暴露する
〜前回までのあらすじ〜
死んだと思ったら某乙女ゲームに出てくる影の薄い(ついでに幸も薄そうな)モブキャラに転生してて、あらビックリ仰天。こうなったらいっそのこと、思いきって新しい人生楽しんじゃおうぜ☆手始めにもっさい見た目からイメチェンしてたら、お城からお茶会に招待されちゃったよマジかよクソめんどくせ〜なぁ……と思いつつ、前世男でおそらく同じ国で生まれ育ったミラクルロマンスが発生しないお母様の威圧に負けて見送られたお茶会当日、性格の悪そうな令嬢達に囲まれて嫌味バンバン言われてたところで一人の美少女が颯爽と登場。しかもその令嬢の名前を聞いて驚き桃の木山椒の木!なんと彼女は、この乙女ゲームの世界におけるメインヒーロールートに登場してくる最低最悪の悪役ライバル令嬢だったのだ!!
どこがあらすじなんだってくらい長いよね?
すまんな。
だけどそれくらい衝撃だったんだってば!!
ゲーム内一の性悪と呼ばれたライバル令嬢の幼少期の姿が、まさかアンティークドールさながらの美人だったなんて……!!
一体いつ、どこで、何があったら、ゲームの中の見るに耐えないおデブで性格ブスになっちゃったんだよぉぉぉぉぉ!?
* * *
「貴女、見た目通り鈍臭そうですから、わたくしの影に隠れていてよろしくてよ?(また彼女達に絡まれたら大変でしょうし、わたくしの側にいれば安全だと思うので一緒にいましょう?)」
美少女の有り難い申し出に、私は1秒の迷いなく、すかさず返事をした。
「うゎはい!!喜んで!!」
え?食いつきよすぎたって?
それから全身から嬉しさが滲み出てるって?
ははっ。気のせい気のせい……。
―――正直言うわ。
めっっっっっちゃ好みなんだよ!!
元々可愛い物と綺麗な物には目がないんだけど、それは人間でも該当することでっ。
そんな私が、この世の者とは思えない、まさに奇跡が生んだマーベラスでビューティーかつワンダホーな美少女の申し出を断るわけがなかろうが!!
あ?語彙力が残念過ぎてちっとも伝わらないって?
ケッコウケッコウ、コケコッコー。
別に伝わらなくてもいいんだ……私はただ、目の前にいる至高の美少女を愛でるだけだから……。
なんか昔見た映画で「美しさは罪だ」みたいなセリフがあったような気がするけど、まさにそれだよ!
おぉ、神よ……いや、むしろロザリアを産んでくださったご両親よ、感謝致します……!
うちのプリチーでキュートなブライアンと、エレガントでビューテュフルなロザリアが並んでるところを想像しただけでもう……もう……っ!
あぁ、辛抱堪らん!
ウヒヒヒヒッ!
「……っ!?」
「どうなさいましたか?ヴィッテンバッハ嬢」
唐突にぶるっ!と肩を震わせた彼女に、私は心配そうに声をかける。
「い、いえ……ただ、今一瞬だけ寒気?悪寒?を感じた気がしたんですけれど……貴女は何も感じなくて?」
おっと。
私の全身から溢れ出るこの熱い気持ち―――お母様は仕切りに『それは欲望まみれの単なる邪念だ』と言い張るが、この曇りなき純粋な気持ちがそんな悪しき感情であるわきゃない―――が、どうやらロザリアにわずかばかり伝わった模様。
「いいえ、私には何も感じられませんでした」
平素を装いながらしれっと答える。
あ、でもここは嘘でもロザリアの問いかけに合わせていればよかったかな?
なんてったって相手は押しも押されもせぬ天下の公爵令嬢、一方で私は周囲から『変人』呼ばわりされているしがない侯爵令嬢。
返答の選択肢、間違えちゃったかな?
などと、内心ビクついてると―――。
「あら、そう?まぁ、言動どころか感覚も鈍感そうな貴女に聞いたわたくしに落ち度があったというところね。いいわ、この話はこれでお終いにしてあげてよろしくってよ(ほんと?じゃあきっとわたくしの気のせいね。ごめんなさい、心配かけて。そんなことより、ほかのお話しませんか?)」
貴族階級の在り方が厳しいこの世界で、おそらく私のロザリアによる問いかけは本来ならアウトだったはず。それなのにロザリアは自分のせいにして、私になんの責はないと言外に言っているのだ。
諸君、女神は実在していた……っ!!
ちなみに天使はブライアン。
この主張は絶対譲らん。
「あの、ヴィッテンバッハ嬢」
「何かしら?ヘルクォーツァ嬢」
「どうか、私のお友達になってくださいませんか?」
そして何卒、何卒私の屋敷に遊びに来て、ブライアンとお並びくださいませ……!!
私の切なる祈りが届いたのか、ロザリアの薔薇色の頬がさらに朱色に染まり、彼女は持っていた扇子でサッと麗しい顔を覆った。(国宝級の美貌が!見せてくれなきゃ勿体無い!)
「あ、貴女が、ど、どうしてもって申し込むのでしたら、か、考えてあげないことも、なくってよ……!(い、いいの?ほんとの本当に、わたくしなんかの友達になってくださるの?)」
「はい。是非よろしくお願い致します」
私はにっこりと微笑むと、彼女に向かってドレスの裾を摘まみ、マナー講師のマダムに教鞭でペシペシお尻を叩かれながら日がな一日扱かれまくった淑女の礼を完璧にこなしてみせた。
自分で言うのも何だけど、今までで一番の出来だったと思う。たぶん。
「……そ、そこまで頼まれてしまったとならば、こ、公爵家に連なる者として、み、認めて差し上げても、よろしくってよ……!(こちらこそ、まだまだ至らない点ばかりありますけど、お友達になってくれて本当にありがとうございます!心から感謝致しますわ!)」
ヒャッハァァァァァァァァァァァァ!!
女神属性持ちの美少女フレンド、げっちゅーだぜ!!
* * *
あ、そだ、伝え忘れてた。
何を隠そう、私ってば重度の病的ツンデラーなんだよね♡
ツンデラーとは……病めるときもツンデレを守り、健やかなときもツンデレを敬い、苦しいときもツンデレを愛で、悲しいときもツンデレを尊び、そして死を迎えても恐れず真心を持って来世でもツンデレ愛を貫き通す志がある者にのみ与えられる、最大にして最高峰の称号のこと!
だ・か・ら。
ロザリアの「」セリフのあとに()セリフがついてたと思うけど、あれ、私の脳みそが勝手に都合よくセリフ変換してた訳じゃないから。
むしろ()セリフが本音っていうか本心?本来の伝えたい言葉になるってわけ。
なんといっても栄えあるツンデラーの人は皆等しく、ツンデレ属性を持った人物のセリフを正しく聞き取る能力に優れているのだ!
つまり、私の耳と脳みそはロザリアの心うちを正常に把握してるということ。
私達、きっと良いお友達になれるわ。ゲヘッ。
そしてこの流れで謝っとく。
ゲームの中のロザリア、ごめんな。まさかお前がツンデレ属性持ちとは夢にも思ってなかったよ。
そのことに気付けず、傲慢な態度で嫌味なセリフを言うお前に『このライバル令嬢、稀にみる最低女だな!』と見抜けなかった私は、正直ツンデラー失格だと思う。
でも言い訳はさせてくれ。
あれだけ全体的に太ましく二重顎でぷくぷくおデブな上、ヒロインに暗黒系の呪いをかけた代償としてゲーム中盤からどんどん歪んでいく顔は見るに耐えなかったよ。
だけど安心してくれ!
この世界ではお友達となった私が貴女のこれから未来を守り、その輝かんばかりの美貌を拝みつつ、ツンデレ要素もばっちり愛でていってあげるからね!!
「お待たせ致しました、ご令嬢方。順番になりましたので、恐れ入りますが、私めのあとについて来てくださいませ」
あ、そーいやーそんなイベントだったわね。
私の頭の中はすでに正装姿のブライアンとドレスアップしたロザリアのツーショットでいっぱいだったからすっかり忘れてたわ。
「行きますわよ、ヘルクォーツァ嬢」
「はい、ロザリア様」
「……え?」
名前を呼ばれたことに驚いてか、ロザリアの瞳がキョトンと丸くなって私を見つめてくる。
あんぎゃあぁぁぁぁぁぁ!かーわーいーいー!
「下位の者が恐れ多くもロザリア様の名前を呼ぶのは失礼かと思いましたが、でも私達、お友達ですよね?お家の名前で呼び合っていたら、なんだか壁があるみたいで……ご不快に感じられたのでしたら申し訳ございません」
ロザリアの可愛い様子にその場でゴロンゴロンとのたうち回りたい気持ちをグッと堪え、尤もらしいセリフを口にすれば。
「そ、そうでしたの。ま、まぁ、名前を呼ぶくらい許可してあげても構わなくってよ?そ、その代わりといってはなんですけど、わたくしも貴女の名前を呼びますわっ。で、でなければ、わ、わたくしだけ名前を呼ばれるのは、ふ、不公平ですもの(名前くらいいくらでも呼んでね!お友達と名前を呼び合えるなんて、とっても素敵だわ!)」
よほど名前で呼ばれるのが嬉しかしかったのか、ちょっと早口で畳み掛けられてしまう。
これこれこれこれこれ!このツンデレ特有の恥じらいによる挙動不審!これが堪んねぇんだよ!
ツンデラーで良かった……っ!
「ええ、勿論ですわ。ロザリア様」
「……ふふっ。では行きますわよ、アンナ」
ちょっぴりはにかみながら手を差し伸べてくるロザリア(見た目完全無欠の美人なのに性格は恥ずかしがり屋の照れ屋なツンデレとか……最強かよ)に、私は迷いなくその手をとった。
マジでこのまんま帰っちゃダメかな?
くそめんどいお茶会サボタージュして、このままロザリアをお持ち帰りしたいんだけど……。