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2.王子様と影武者


 〜前回のあらすじ〜

 乙女ゲームのワンカットだけ登場するモブの中のモブに転生したと思ったら、まさかの身内までもが転生者で驚いたでござる。



 いや、驚いたのはそれだけじゃないけどね?



 だってさー。

 もっさい見た目でゲームでは名前すら付けてもらえなかったモブキャラがだよ?実はそこそこ権力のある侯爵家の令嬢とは誰も思わんでしょ?さすがの私も予想外だったよ。

 でもそれ以上に驚いたのは、我が家の影の支配者であるお母様がまさかの転生者だったことかな、やっぱり。

 しかも私と母の二人きりで転生する前のことを話した時、母はもう前世のことは薄っすらとしか覚えていなかったんだけど[男]だったことは確からしい。でもってこの世界が実は乙女ゲームであることは知らなかったみたい。



 マジかよ……なんの知識もなく、よく今まで頑張ってこれたな……。

 それで侯爵家に嫁いで、今や二児の母とかスゲーよ……。

 私の『乙女ゲームのモブキャラに転生したけど私の人生なんだから好きにしちゃうぜ!新生モブの活躍をとくと見よ!』とかいう計画が完全に霞んだわー……。

 別にいいけど。



 えーっと、一応改めて自己紹介しようかな?

 私の名前はアンナ=ボジェニー=ヘルクォーツァ。

 ゲームでは製作側のわざとしか思えないもっさい容姿に加え、これまたわざとしか考えられないうっかりミスで名前表記されなかったモブの中のモブです。

 ちなみに侯爵令嬢です。身分制度のあるこの世界では文句の付け所がない地位です。

 ありがとう父上!これからも私達家族とお邸勤めの従業員一同が安定した暮らしが出来るよう、粉骨砕身しながら一生懸命働いてね!疲れた時はメイド長のポリーが薬湯を用意してくれるし、マッサージだって執事のジャンがしてくれるはずだから!


 え?そこは娘であるお前が労ってやれって?

 ちょっとちょっと、忘れてもらったら困るわ。私は仮にも侯爵令嬢よ?

 私がやらなくても周りにたくさんのプロフェッショナルがいるんだから、使ってあげないと駄目じゃない。それが彼らのお仕事なんだから。




 そう、使わなきゃ損。宝の持ち腐れ。




 と、いう訳で―――。

 まずはゲームのワンカットに出てきたアンナの容姿を払拭すべく、早速自分磨きの為に専属ヘアメイクアーティストを用意!

 せっかく腕のいい職人がいるんだから使わなきゃ損よ損!

 そうそう、鏡を見てから気が付いたんだけど、アンナってそこそこ整った顔立ちしてるんだよね、これが。


 ぐるぐる眼鏡で隠れていた瞳は綺麗な水色をしていて、チョコレート色の髪は綿あめみたいにふわふわと頬の輪郭を包んで小顔をさらに小顔にする効果を発揮してるし。

 他の人に比べて鼻ぺちゃではあるけど、お口は小さくて眉毛も整ってる。

 笑うと左側の頬だけ笑くぼが出来るのも立派なチャームポイントだと思う。


 素材は悪くないよ、うん。

 なのになんでゲームでは長い髪をわざわざおさげにしたり、分厚い瓶底みたいなぐるぐる眼鏡をしてたのかしらね。不思議だわ。


 この歳ではまだ視力は悪くないので眼鏡は不要。ふわふわの髪に櫛を通してもらい、自然と波打つ感じに。チョコレート色の髪に映える白いヘアバンドを装着し、派手すぎず地味すぎない若草色のドレスを着れば完成!

 はぁぁぁぁぁぁぁ〜……乙女ゲームに出てくるキャラだけあって(ほんの一瞬だけどね!)、作りは完璧じゃない。

 自分磨きを怠らなかったら、それなりに人気出たと思うんだけどなぁ。

 勿体ないことをしてたと思うよ、ゲームのアンナは。


 まぁこの世界において私がアンナであることは間違いないんだし、ゲームのように他のプレイヤーから「この子いる?」「必要なくない?」「存在意義がわからない」なんて言わせてやらないぞ〜♬




 * * *




 「ねーさま、今日もおきれいですね」

 「あらブライアン、ありがとう」


 はぁぁぁぁ!天使!天使がここにいるぅぅぅぅ!


 そうそう、この子も紹介しておこう。

 ゲームでは一切出てくることのない2つ下の弟、ブライアンよ。

 私と同じチョコレート色にふわふわとした髪質、エメラルドグリーンの双眸。子どもらしく純粋で素直で優しくて、そして何より可愛い!

 あいにくショタ好きの性癖は持っていなかったんだけど、私のことを「ねーさま、ねーさま」と舌足らずの口調で呼び、全身から信頼しきってるオーラを発しながら慕ってくる様子はもう堪らん可愛さ!!



 ブライアンに限ってはショタ扱いでもいいわ。

 ゲヘヘヘッ。



 「……アンナ……貴女から何やら良からぬオーラが漂ってきているみたいなのですが、わたくしの気のせいかしら……?」

 「気のせいですわよ、お母様」

 「あ、かーさま!」


 どこからともなく現れたお母様に気付いたブライアンは、満面の笑みを浮かべながら全速力でお母様に駆け寄り、両手を広げて思いっきり抱き着きました。

 ブライアンの渾身のタックルもなんのその、お母様は『しょうのない子』みたいな感じで微笑み、ブライアンを抱き締め返します。


 あぁ!私のブライアン(心の癒し)が〜〜〜!


 はぁ……まぁしょうがないよね……。

 ブライアンはまだ6歳だもの。いくらヘルクォーツァ家の嫡男で、跡取りとして日々厳しい英才教育を受けさせられているとはいえ、まだまだ母親に甘えたいお年に違いありません。

 お母様もなんだかんだで前世のことは吹っ切って新しい人生を謳歌してるみたいだし、そこは私と同じだよね。さすが親子だわ。


 「ところでお母様、なにかご用だったのでは?」


 一言二言の中身のない言伝だったら召使いを寄越せば済むけど、お母様直々となると、結構大事なことなんだろうなぁ、たぶん。

 すると、お母様は未だブライアンから熱い抱擁を受けながら「ええ、そうです」と言った。


 「2週間後にお城でお茶会が開かれるそうです。それも、王子様と歳が近しい高位貴族のご令嬢を呼んで」


 お母様から持たされた情報のおかげで“ピンッ”ときた。

 ほほ〜う……王子様と歳が近くて、高位貴族の令嬢を呼び集めてお城でお茶会とくれば、そりゃもう王子様の婚約者候補選びじゃないか。


 我が国の王子様といえば、グリード=ディンギルシュ=ニーデリオットその人だ。

 彼は《恋は蜜より甘く》のメインヒーローなだけあって、めちゃくちゃイケメンで勉強も出来てスポーツ万能。王子様という尊い身分でありながら物腰も柔らかく穏やか、周りへの気配りも忘れず人望も厚い。それでいながら恋を知らず、皆平等に扱うべきと思っているから女の影かたちもない―――といった具合で、まさに女の子が描く理想の王子様像を見事に偶像化したキャラである。


 んで、ここからゲームのネタバレになるんだけど……。




 この王子様、ニセモノっつーか、実のところ影武者なんだよねーこれが。

 未来を担う一国の王子様を危険に晒すわけにいかんからね。そりゃお城の上層部もそういう判断下すわ。




 影武者の本名はサフィリアス=カーネル=ライオネア。

 ライオネア公爵家の嫡男で、グリード殿下とは同じ年に生まれた再従兄弟(はとこ)という血筋の繋がりもあり、二人は物心つく前から兄弟のように育ってきたという裏設定がある。だから、グリードとサフィリアスとの間には王子様と臣下という以前に強い絆があるから、こうして影武者が務まってるんだろうけど。


 あと、サフィリアスに関するネタバレ情報をもうひとつ教えると、彼の本性はかなりのヤンデレに部類する。

 小さい頃からグリード殿下の影武者を務めているせいか、『王族だから皆は自分をチヤホヤと囃し立てる=王族じゃなくなった皆から見向きもされなくなる』という方程式が彼の頭の中で出来上がっていて、サフィリアス目当てで落とそうとすると、恋愛ゲージが中腹に差し掛かったあたりでかなりの頻度でそういった台詞を発言し始め、ヒロインの本心を探り出すんだよね。


 面倒くさいことに、この手の台詞は二種類用意されていて、本気で問いかけてくるものと冗談で聞いてくるものがあり、微妙に異なる台詞の言い回しに気付いて選択肢をチョイスしないと、それまで頑張って高めた恋愛ゲージが減るといった仕組みになっている。

 しかもこういった巧妙な台詞トラップはサフィリアスに限らず全攻略対象キャラに用意されているので、制作会社による「そう簡単に攻略されてたまるか!」という意気込みがヒシヒシと伝わってくる。



 じゃあ本物のグリード殿下はどこにいるの?って話になるんだけど、これもネタバレしとく。

 ゲームだと、まだ正体がバレてない+恋愛ゲージが低めの状態で影武者実行中のサフィリアスに近づくと、どこからともなく現れてはヒロインを追い払う護衛っぽい男性こそ、本物のグリード殿下なんだよね。

 このグリード殿下もなかなか捻くれた考え方をするキャラで、『お前本当に王族か?』って思わず聞きたくなるくらいちょっと口調が荒っぽかったりするんだけど、根は真面目で意外と面倒見が良かったりするから憎めない性格してんだよね〜。

 

 もっとも、私はこの二人とどうこうなりたいとは思わない。

 だからお茶会には一応出席するけど(なんてったって王宮から招待されたら行かないわけもないでしょ)、なるべく婚約者候補に挙げられないよう気をつけるか。


 「つきましては、ピアノのお稽古がすんだら新しいドレスを作るので、く・れ・ぐ・れ・も、自分のお部屋で待機しておくように。わかりましたね?」


 にっこり笑うお母様の言葉の端々に『逃げんじゃねーぞ?』という副音声が聞こえたのは、きっと気のせいじゃない。


 女として生まれ変わり、それから十代半ばで侯爵夫人となり、母親となって早ン十年余り―――。

 お母様の逞しさに同じ女として尊敬せざるを得ません。




 別に憧れないけどな!


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