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1.転生したモブ令嬢は語る


 死んだなーっと思っていたら、乙女ゲーム《恋は蜜より甘く》に登場するモブキャラに転生していました。


 え?死んだわりにはノリが軽すぎないかって?


 だって死んだ時のことなんか一瞬のこと過ぎて覚えてないし。

 逆に聞くけど、むしろ覚えていたらメチャクチャ嫌じゃない?私は嫌だよ。

 火事に巻き込まれて焼死してたら火が苦手になるだろうし、うっかり溺れ死んでたら海にも川にも行けないだろうし、人為的殺意で殺されたとしたら人間不審になって引き篭もり生活待ったなしじゃん?

 真っさらな状態で新しい人生やり直せるなら、それに越した事はないでしょ。せっかくなら楽しみたくない?

 少なくとも私は人生面白おかしく楽しみたい性格だ。


 能天気すぎるって?

 他人(ひと)様に迷惑かけなきゃいいんだよ。


 ところで私が転生したモブキャラなんだけど、当て馬なライバル令嬢に取り巻く女性キャラでもなく、ましてヒロインを助けるサポートキャラでもなく、本当の本当にモブの中のモブ。

 このモブキャラがゲーム内で登場してくるシーンといえば、ヒロインと主要キャラメンバーが通う学園で三ヶ月に一度行われる最初のテスト結果発表の時くらい。それもヒロインの成績があまりよろしくなかった時、学級三位のモブ女子が「そ、そんなに落ち込まないで…」と声をかける。そのモブ女子こそ、私が転生したキャラというわけ。



 さて、突然だがここで《恋は蜜より甘く》の簡単な内容説明をしよう。

 プレイヤーはヒロインになりきり、それぞれタイプの違う攻略対象キャラと知り合い、会話、会話、逢瀬(デート)、会話、会話、逢瀬、会話、イベント、会話、逢瀬、イベント、会話―――と、これらのやり取りを延々と繰り返し、最終的には卒業式で特に恋愛ゲージが高い攻略対象キャラ一人と結ばれるという仕組み。

 ただここで油断してならないのは、いくら会話と逢瀬を繰り返して攻略対象キャラ専用の特殊イベントを回収していたとしても、その攻略対象キャラに見合ったパラメータが満たされていなかった場合、告白イベントは発生しないということ。

 パラメータとは、知力、体力、魔力、魅力、気配り、そして疲労の6種類が存在する。

 知力を上げようと思えば勉強をすればいいし、体力を上げようとすれば運動をする。だけど、勉強をすれば体力と気配りが減り、運動をすれば知力と魅力が減る―――といった具合でパラメータが変動するので、結構気をつけてヒロインを成長させていかないと後々大変なことになる。

 いざ告白イベントに突入!と意気込んでみたものの、肝心の必須パラメータが満たされていなくて、ヒロインの独白が終わったと思ったらスタッフエンドロールが流れて、気づけばお一人様エンドに真っしぐら―――なんてことは、乙女ゲームをやった事がある人なら一度くらい体験した覚えがあるんじゃない?

 当然ながら攻略対象キャラはパラメータのクリアラインがそれぞれ異なる。

 メインヒーローである眉目秀麗王子様は疲労を除いた全てのパラメータが80以上ないと駄目だし、騎士志願の爽やかスポーツ少年を狙うなら体力、魅力、気配りが80以上ないといけないなど、乙女ゲームにしてはなかなか鬼畜なシステム内容になってる。

 まぁ、楽なゲームじゃないから楽しいんだけどね。



 このゲームの仕組みはだいたい理解してくれたかな?

 で、これで何が言いたかったのかと言うと―――攻略対象キャラによっては、知力が高くないと駄目な奴がいるわけで。

 ちなみにそいつは無愛想なインテリ眼鏡君だ。インドア最高と言ってるわりに何故か専用イベントでは屋外が多い少年である。

 こいつを目当てに勉強ばっかりやってれば、そりゃあ三ヶ月といわないうちに知力のパラメータが突き抜けまして。下手をすれば最初のテストでヒロインが学級一位どころか学年一位を獲得するのも夢じゃなく。ええ。そうなったら私が転生したモブ女子が出てくる必要がない訳よ。

 だからプレイヤーによっては「え?そんなキャラいたっけ?」と言われちゃうくらい、ものすごーーーく影の薄い子なんだよね。


 まあそれも仕方ない。

 チョコレート色した長い髪をおさげにして両サイドから垂らし、ぐるぐる印の丸眼鏡といったもっさい見た目に加えて、テロップの名前欄は『眼鏡をかけたおさげの女の子』ときたもんだ。

 外見をそのまま表しただけじゃん。もはや名前ですらねぇよ。


 だがしかーーーし。

 どんなに見た目がもさくて影の薄いTHE☆モブとはいえ、中身は私である。

 人生楽しんだもんが勝ちよ。もうモブなんて言わせないぞ♡


 さて、私の輝かしい未来の為にも、ちっさい今のうちに下準備に取り掛かろうっと。

 生まれ変わった新生モブの私に平伏すがいいわ。


 ふはははははははは……っ!











 「かーさま、ねーさまはさきほどからいったいどなたとお話しているのですか?」

 「しっ、ブライアン。良い子だから今見た光景は忘れて差し上げなさい。お前の姉君は『封印されし右腕が疼く(厨二病)』という年頃の子にかかりやすい心の病なのです。でも心配することはありません。この病は時間が経てば自然に治るので、私達家族は口を挟まず、そっとしておいてあげましょう」

 「ふーん?」


 待て。ちょっと待て。色々と待て。

 母よ……さてはアンタ、私と同じ転生者だろ!?


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