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聖剣士様は今日も我儘。  作者: 家ネコ
1/9

召喚

新興住宅街に夕暮れが迫っていた。


薄暗くなってきた街角を学校帰りらしいセーラー服の少女が、悠々と歩く。


スカートは長く。学生鞄は薄く何も入っていない。


完全に○○病を発症しているのだろう。靴が工事現場でよく見る爪先に金属の入った安全靴だ。


その靴で蹴られれば、負傷するような代物だ。


毒グモが赤い色で相手に警告する様に、少女は黒く重そうなその靴で、寄らば斬ると警告を発していた。


肩に掛かるくらいの茶色みがかった黒髪。ストレートな髪の間から、切れ長の印象的な目が覗く。


少女は面白くなさそうにチラリと視線を走らせると、その先に電柱の陰に青年が一人立っている。


青年の方は、少女に関心を示している様子はない。


一心に『藤』という表札のかかった住宅の三階を見つめている。


少女は黙って、ゆっくりと別の場所へ視線を動かす。


やはり、建物の陰にモジモジとした様子の少年が立っている。


見つめているのは、やはり同じ場所だ。


関心無さそうに少女は行き過ぎ、彼等の視線の先の住宅に入っていった。


「ただいま」


「おかえり。ミサキ」


キッチンの方から、母親、妙子が言った。


上の階から人の降りてくる音がする。


降りてきた絶世の美少女でミサキの妹の花凛。


中学二年生である。


ツインテールに結んだ髪の毛は、濡れたように黒く輝いていて毛先だけが緩やかにカールしているし、瞳は躍動感のあるキラキラとした光を宿した黒曜石。

白薔薇を思わせる白い肌に、サクランボの唇。

子供から女に変わるまでのスッキリとした肢体。


それ以上に彼女を際立たせているのは、そのオーラである。

思春期の危うげで、眩しくて、透明な雰囲気を纏っていた。


「姉さん。おかえり。帰ったばかりで悪いんだけど……。ポテチ、買うのについて来て!」


ミサキが呆れて、押し黙った。


そして、外を指さす。一呼吸おいて口を開いた。


「今日も来てるよ。それも、二人も。花凛。ポテチならアタシが買ってきてあげるけど?」


花凛はその愛らしい頬を膨らました。


「だってェ。たまには、ヒンヤリした外の空気を吸ってみたいのよ」


「それって、挑発じゃない?」


「他人の行動なんて制御できないし、付き纏ってなんて頼んでない。無視してくれていいから、煩わせないでって言いたい。それに、姉さんと私なら、二人ぐらいは熨せるでしょ」


美しすぎる容姿と裏腹に花凛は過激な事をサラリと言った。


花凛は小さい時から、美しすぎた。


周りは何時だってチヤホヤする。そして、束縛する。


自分の自由は、その腕っぷしで獲得してきた。



「それを言うなら、二人なら逃げ切れるにしてくれる? それに、彼等、ただ、ついて来るだけでしょう?」


嫌そうにミサキが訂正する。


「そうとも言える。逃げ切れる……、それでも良いわ。決まりね」


花凛は、手を打ってにっこりと花びらを振りまくように華やかに笑った。




コンビニの自動扉が開いて、花凛とミサキが出てくる。


ミサキは少し離れた道路に目を向けて溜息を吐いた。


「ついて来るだけと言っても、影じゃあるまいし、不気味」


「プレゼントを持って来たら、さすがにダッシュよね。姉さん! 走って!」


花凛に促されてミサキは走り出した。


青年が持ってきている物が、プレゼントとは限らない。


青年が内ポケットから何かを取り出したのを横目で見て、いつも逃げるのに使っている道に向かって走る。


その道は先が行き止まりになっていて、行き止まりの塀を乗り越えると、空き家の庭に飛び降りる事が出来る


近所の人間だから知っている事情だ。


多分、ついてきている彼等は知らないはず、知らない塀を乗り越えるのを躊躇する事を期待する。逃げる時間が稼げればよかった。


先を走っている花凛が目的の角を曲がる。


「きゃっ」と、小さな叫び声がする。


「花凛?」


ミサキは慌てて角を曲がる。

道路に輝く魔法陣のような不思議な模様が浮き出ている。


模様の真ん中で花凛の足の下が、ひと際、輝いていて、その光の中に花凛が呑み込まれそうになっていた。


「!?」


ミサキは立ち竦んだ。


何が起こっているのかわからなかった。


幻でも見ているのかと、後から駆けつけてきた青年と少年を見た。


二人も立ち竦んで、顔を引き攣らしている。


「アンタ達……」


ミサキは自分が何を言おうとしているのかわからなかった。


アンタ達にもコレが見えるの? と言おうとしているのか、何とかしなさいよ! と言おうとしているのか分からなかったが、呻き声としてこぼれ出た。


青年も少年も事実を打ち消そうとするように、首を振り後退る。


「うわぁぁ!」


青年が叫ぶと、それが合図の様に二人とも逃げ出した。


ミサキは、花凛を振り返る。


花凛は光の柱に驚いて、竦んでいる様に見えた。


ミサキは意を決して、光を突き抜ける勢いで飛び込んで、花凛を押し出し、自分も飛び出すつもりでいた。


花凛を弾き出したところで、何かが完了した。


光は硬質な薄い壁に変化していた。


呪いなのか魔法なのか、ミサキの立っていた魔法陣が光の柱になって、次の瞬間消え去った。


魔法陣もミサキも跡形なく消えていた。


「姉さん!」


薄闇の中、呆然とする花凛とポテチだけが街角に残された。



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