なんで...ここにいるの?
「さて、殿下。他になにかございますか?」
「お、前の取り巻き……に、やらしたんだろう」
「それは……どうですかねー。私は友人はいますが取り巻きはいませんし……。一応お誘いしましたが2週間前のその日は殿下方4名とそちらのキャサリン様以外、皆集まっておいででしたから……気づきませんか?」
「は?何に……」
「殿下方4名とキャサリン様以外、男性なら胸に刺してる花……女性なら腕にしたブレスレット型のブーケ……皆お揃いなのですよ?近々製作法が発表されるクリスタルフラワーです。私と兄、リオン殿下、リカルド殿下、ルベルト様と5人の共同研究として……少し難易度が高いので満足のいくクリスタルフラワーを作るのに手間取ったとルベルト様に教えていただきましたので……無理、だと思いますよ?断ったのはそちらですし……話もきちんと聞いてなかったのではないですか?卒業パーティで揃いの何かを用意したいのでご相談したいのですが……と私はきちんとお声かけをしたのですが?」
朝からルベルト様と2人で卒業生全員に説明してから私は兄と王城に向かいました。
ルベルト様には本当にご迷惑をお掛けしましたが……。
全員が集まれる日がその日しかなくひとまず説明だけでもと思ったのですが……
皆さん熱心に聞いてくださり……一生懸命作ってくださっていたようです。
翌日からは個々で説明したり確認したりと楽しい時間を過ごしました。
「他には?殿下」
「で、でも!あなたは私をよく睨んでたじゃないですが!監視してるような……憎そうに……嫉妬してたんでしょ!」
「あーそれは……はい、監視はしてましたね。それが陛下から頼まれていた事ですし……ですが、睨んでるつもりはなかったですね。だって私、嫉妬するほどそちらの殿下に好意を持った事がございませんもの」
「は?何言って……じゃあ、なんで婚約を続けようと努力してんたんだ!!」
殿下に声をかけたつもりだったけど、キャサリンが声を上げた。
監視はしてました。
まぁキャサリンではなく殿下を……ですが。
一つはっきりさせたいので誰が聞いてもわかるように濁すこと無くはっきり好意なんてこれっぽっちもねーぜ?と宣言するとキャサリンが何かを言ったのを掻き消すように殿下が叫んだ。
努力……ですか
「した事ありませんが……どうしてそう思われたのかわかりかねますね」
「そんな……だって俺が何を言っても頷いて……頑張りますって……」
「殿下……私、殿下の婚約者として頑張ったのはあなたにキレてしまわないようにと、まぁ1年で済ませてしまいましたが……妃教育くらいですよ?あなたの婚約者でいるための努力なんてしてませんわ?」
「じ、じゃあなんであの時……行動には気をつけるようにって脅迫してきたんですか!!」
そう……努力してないのよ。
婚約者と言う立場を守る為にはね?
よく伝わるようにはっきりと言葉を選んで話す。
濁したりしてもちゃんと伝わらなかったら意味無いもの……
言葉を無くしたような絶望したようなそんな表情の殿下を見たキャサリンがまた言葉を発した。
脅迫はしてませんが……きっと兄の結界に弾かれた時ですね。
「それは脅迫ではありませんわ。助言ですわ。
正直申しますと……この婚約、父にも陛下にも相談しましたが……私は嫌でしたの。なので国外追放で婚約破棄してもらえないかとお願いしたのですが……婚約破棄には同意してくれた父も国外に出る事は許してくださいませんし……陛下も国外に出る事は許してくださらなくて……卒業したら婚約破棄してもらえないなら亡命しちゃいますよ?とお願いする予定でしたの……ですからね?あなたが殿下に近づき、殿下がご自身で幸せを見つけられたならそちらの方がいいなと思ってましたの……一言相談いただければ助言もしたのに、本当に残念ですわ。王城は学院なんて足元に及ばない階級主義です。自分の立場を理解しないと第二王子妃など、なんの権限も持たしてもらえないでしょう……。国に貢献し、夫である殿下を支え、女社会でも同じでしょう……話題を提供し、新しいものを流行を作って行かないといけない……だから助言しました。行動には気をつけなさい。皆が見ていると……陛下が、国が決めた婚約者は私ではありましたが……殿下に近づき寵を受けようとするならば……利益があるのか、害にならないのか……皆が見定めていたのです。見た目だけではダメなのですよ。それは正妃であっても、側妃であってもです。でも、今回の事で……貴方は皆の求めるものを示せなかった。本当に残念です」
「そ、で、でも私は殿下を愛しているわ!殿下と愛し合っているの!」
「そ、そうだ……愛し合って」
「それが国の利になると言うのですか?あぁ愛妾として離宮にでも監禁しますか?側妃としては無理ですわよ?能力が無さすぎますわ……いくら次期王ではない第二王子の側妃だといっても」
そう。王族が正妃以外にも妃を持つのは珍しい事ではない。
王族の血が絶える事のないように言わば保険ですわね、世の中なにがあるかわかりませんから……。
愛……愛がなんの役に立つのでしょう……。
確かに愛は大切です。
ですが国として愛はなくても、利益があるならそちらを選ぶのが普通です。
他国の王との会見で恥ずかしくないように……王の会見が、上手く行かなくても妃同士で交流し、より良い結果を残すようにしないといけない。
王子は使者として向かうことがあるのだからその妃も同じなのだ……。
「次期王ではないとは……どういう事だ!」
「殿下、我が国は実力主義です。ご存知ないのですか?それは貴族もそうですが……王族もそうです。長子だから王妃の子だからと次期王になれるわけではございませんよ?だからあなた達は殿下に擦り寄り、自分の価値を上げようとしたのでしょう?ユーデット様、ケルヴィン様?後、スヴェン伯爵家フィルネイル様……?」
「……」
「どういう事だ……お前達は俺だから……俺が誰よりも王に相応しいとだからキャサリンの事も……」
もうせっかくの王子様フェイスも残念な事になってる殿下がどうにか信じられない事実を確認しようと顔をあげた。
殿下……本当に気づいてなかったのですね。
心のどこかで現実を受けれたくないから自暴自棄になっていてそういう行動をとってるのではないかと思ってましたわ。
利用されているのですよ?殿下……
あまりにも出来ない息子はさっさと格下相手に婿に出す事は普通にあります。
その場合爵位をつぐのは女性です。
我が国は実力さえあれば女でも爵位を継ぐ事が出来るのです。
でも、やはり爵位が落ち……しかも爵位は妻……立場が弱いのは目に見えてわかります。
せめて少しでも価値を上げようと努力するのは当たり前でしょう。
最優秀候補であるリオン殿下と交友をもてないなら少しでも近づくために第二王子に取り入り機会を伺うでしょう。
取り入るだけでいいのだから王子の言葉に同調し、甘言を与えとけばいい。
本当の意味でキャサリンの魔眼によって惑わされていたのはこの中で何人いるのでしょう?
「え……みんな私が好きなんじゃないの!?ねぇ!そうでしょう!!あんな女殺してよ!私を愛してるなら出来るでしょう!?ねぇ!レオ!ケル!?フィル!!ねぇ!ユート!!」
「……」
この人は何を言ってるの??
ただただ呆れるような声や表情をみんながする中
兄の魔力を緩和する為に薄く広めていた私の魔力に干渉された気がして呆れきってしまっていた私は反応が遅れてしまった。
それは皆そうだろう……。
まさかこんな場所で状況で剣を抜くとは思いもしなかった。
やばい……間に合わない……。
物理結界は張ってない……どうしよ……
助けて……セシル様……
助けて……
全てがスローモーションに見える……。
自分の身体でさえ思い通りに動かない……もっと早く、早く!!
「セレナ……待たせた」
「え?」
ふわっと後ろから暖かい何かに包まれて耳元で声がした。
ずっと聞きたくて……聞きたくて……
私の大好きな……声……。
あ、泣きそうだ……
「ウガッ!!!!」
私に向かい振り下ろされそうになってた剣を見てた私の視界に大きな手が見えた途端、剣を持ってたケルヴィンが吹き飛んでけっこう後ろの壁にぶつかり床に落ちて動かなくなった。
そんな事より……なんで……なんで……ここにいるの……。
なんで?
迎えに来るのは成人でしょう?
私……まだ17よ?
「セレナ……こっちを見てはくれないのか?」
「……だって、だって夢じゃないんですか?だってまだ……まだ……振り返っていなかったら私、もう……耐えられないよ」
「……可愛い事ばっか言うなよ。少し早いけど、迎えにきた。セレナ……」
「……セシル様ッ!!」
後ろから抱きしめられてるのに……夢じゃないのか……
そう思ってしまう……。
だって手紙が届かなくなった……セシル様から送ってもらえなかったら私から出す事ができなかった。
伝えたい事、話したい事はたくさんあった。
手紙を隠してる見た目が本になってる箱の中に出せない手紙でいっぱいになってる……。
触れたいのに、怖い……
振り向いて顔を見たいのに
もし……もし、振り向いてそこにいなかったら?
都合の良い夢だったら?
私の情けない言い分に恥ずかしいセリフを言うその甘い声、抱きしめてくれてる力が強くなる。
痛いくらいなのに……
それが夢じゃないと教えてくれる……。
あぁ……あぁ……
セシル様!!
やっと触れた腕に……しがみつくように掴むと腕を掴まれ引っ張られるとくるりと向かいあってしまう。
「……本物ですか?」
「当たり前だろ……俺の言葉が信じられないか?」
「いいえ……いいえ……」
「……美人に育ったな。無事でよかった」
頬に撫でてから添えられる手に擦り寄り、手を伸ばしセシル様の頬に触れようとして手を止める……。
本当に本物?
迷う手をセシル様に掴まれ手を引かれるとセシル様の頬に触れてしまう……。
温かい……手を重ねられ逆の手で腰を引き寄せられる……。
ぎゅっと抱きしめられてしまえば、もう無理だ……。
昔と違って手を回せるようになってる……。
あぁ……もっと近く……もっと近くに……
あの人だ……この人だ……。
私の大好きな……唯一の人……
「さて、ヴィルティア国王。我が生涯の伴侶を返してもらおうか?」
「伴侶……だと?」
「……お前、あぁ。クズ王子か……噂は聞いてる。唯一不出来な王子だろ?」
「な、なんだと!!貴様!何者だ!!」
「レオナルド!!やめなさい!!いますぐ謝罪しろ!!!」
私を抱きしめたまま横目で陛下を捉え宣言すると陛下ではなく第二王子が噛み付いてきた……。
あぁ……力量を測る能力が鈍感すぎる。
これだけ違うのに……ある意味幸せなのかもしれない。
馬鹿にしたように鼻で笑い飛ばすようにその通りなんだけど暴言をサラッと言えるのが凄いと思う。
セシル様が負けるなんて事ないと思うけど……
掴みかかる勢いの第二王子に叫んだのは国王陛下だった……。
……謝罪?
セシル様って何者なの……?
「父上!!」
「ヴィルティア王国、国王……こちらの要求を飲むか……国を滅ぼされるか好きな方を選べ」
「え?」
「……要求を全てのみます。私達が決めていた事と要求にそこまで差異はないように思いますので……」
さっきから大概、私の頭でも物騒なことを考えてたけど……。
比じゃないな……とただそう思った。
笑顔で……要求を伝えもしてないのに要求をのむか、国を滅ぼされるか選べと陛下に選択肢を与え……。
有無を言わさず要求をのませてしまう……この人は本当に何者なんだろう。
状況を理解していないのは子どもだけに思えた。
リオン殿下も真剣な面持ちでこちらと言うかセシル様を見てて……
あ、父はニコニコしてるけど……あ、兄もね。
表情に不安を表してるのは本当に子どもだけだった。
まるでこうなる事が分かってたみたいな……どういう事なの?
情報は父や兄に流してはいたけど……
大人達が動くとは聞いていないし、最後の審判だけ陛下に求めるつもりだったけど……。
「セシル様!!キャサリンです!とてもお会いしたかったんです!さぁ!私をお連れ下さい!!」
「……セレナ、怪我はないか?」
「え?あ、はい。セシル様が助けて下さったので……かすり傷一つありませんが……」
「そうか。それはよかった……間に合わなかったらどうしようかと急いで来たんだ」
「セシル様!!」
予想打にしなかった方から声がした。
このイラってする猫なで声はキャサリンだ。
ってか、キャサリンってセシル様と顔見知りなの?
連れていけってどういう事??
キョトンとしながらキャサリンをみていると顎を持たれ強制的にセシル様と目が合った。
私の心配をするセシル様に少し戸惑いつつも返事をする。
まるでキャサリンがいないかのように振る舞うセシル様に、少し離されてた身体がまた包まれてしまった。
なに?どういう事??
「なんで……なんで!?ここはゲームの世界でしょう!?私はヒロインなのに!!」
懐かしい単語を聞きチラッと横目で見ると髪を掻き乱しボソボソと何か言っている。
「この世界、ゲームなのですか?」
「え……?あなた転生者なの?」
「私、ずっと病院で生活してたので……有名な物はプレイしたと思うんですけど……こんなゲーム知らないんですが……これはゲームの世界なのですか?」
「そうよ!ゲームの世界よ!あんたが、あんたがちゃんと自分の役割を果たしていたら……ちゃんと悪役令嬢してたら……こんな事には……あんたがちゃんとしないからイベントが発生しなくて逆ハーエンドが、上手くいかなかったのよ!なんでよ!リオン様には会えないし、エドモンド様には相手にすらされないし、私の世界なんだから私が幸せにならないとダメなのよ!ここで魔力を暴走させて魔王が現れて暴走したあんたが殺されて……そこでセシル様が私を生涯の伴侶に選んで……なのになのになんなのよ、これ!!!」
ずっと不思議に思ってたんです。
いくら自分に自信があるから、殿下から声をかけてくれるから……
そんな状況下にあっても、元平民の彼女が貴族令嬢に警告されたにも関わらず……
まともにとりあわずに堂々とさも当たり前かのように殿下に近づき、他の令息にまで媚を売る理由が……。
兄にしてもそうです。
自分の家族に言う事ではないですが……本当に他人に関心がないんです。
近づいた所で無視されるか、氷点下の笑顔で発言を許さないか……それは貴族令嬢の中では当たり前の事でした。
そんな兄に近づいて痺れを切らし触れようとして弾かれた。
兄は何度か偶然と言うには不自然なくらい彼女と遭遇し、声をかけられたと愚痴をこぼしてましたから……何度とあしらわれたにも関わらずですからね。
でも納得です。
話を聞くに、逆ハーエンドで兄とリオン殿下も攻略対象だったのでしょう。
そして話を聞くにセシル様は条件が揃わないと出ない隠しキャラとでも言う所なのでしょう……。
もしかしたら私がゲームなんて出来なくなってから、もしくは……死んでから発売したゲームなのかもしれませんね。
でも、逆ハーエンドって……現実的に可能なのでしょうか?
一妻多夫制の国なら法律的にも可能でしょうね。
ただ……基本一夫一妻制で、王族しか複数の妻をもてないこの国では、無理なのではないでしょうか?
逆ハーレム、ハーレム……
魅力的な言葉なのかもしれませんが……
それが認められてない国、認められてない階級の者にとってそれは浮気、不倫、不貞行為に他ならないのです。
しかも……我が国は、不貞行為については厳しいお国柄です。
しかも、王子の意思とは言えど……国王陛下の決めた事に異を唱え……勝手に存在しない権力をふりかざした……。
これは国家反逆罪……になるんでしょうね。




