学院...楽しいですか?
「兄様!なぜ兄様がここに?」
「……うん。わかるでしょ?」
「……えっとなんて言うか、お疲れ様です」
「天使がいるから受けたけど、癒されるけど……はぁ……もう殺していい?」
入学式を済ませると教室の前に兄がいた。
卒業式を済ませたはずの兄が……嬉しくなって駆け寄ったけど、理由を察して労う事しか出来ず抱きしめてくる兄を避けずに抱きしめ返すけど……
もう既に限界が近いらしい……。
殺していいよ。と言いたいがダメだ。
一応王子だし、殺したら兄が罪に問われる。
その結果私が王都を滅ぼす、そして私が国家反逆罪とかで狙われると兄と父が暴走する。
うん、国が滅ぶ!
危ない、危ない。
簡単に想像出来ちゃった。
「兄様……耐えて下さい!今度クッキー焼いて来ますから」
「うーん。頑張る」
「兄様なら出来ます!セレナの自慢の兄様ですから!」
「うーん。セレナが天使過ぎてつらーい」
兄をベタ褒めしてテンションを上げて貰おうと背中をトントンしながら視線が痛いなぁとか思ってると少し先から歩いてくる第二王子が見えた。
お前がもう少しマシなおつむをしてたらこんな事にしなくていいのに!
あーあの能天気そうな表情がむかつく。
「……兄妹で何してるんだ、気色悪いな」
「あ?」
「兄様、落ち着いて下さい。私は平気ですから」
「ふん。挨拶も出来ぬ婚約者などしれてるな。まず婚約者の俺に挨拶に来るべきだろう。これから世話になると言いに来るべきだとおもわないか?」
馬鹿にしたような話し方に言葉。
低く唸るような声を出した兄様をどうにか抑えると矛先は私に向いたようだ。
まぁ、うん。
なんだろ……蝿が飛んでますか?うるさいですね。
王子の言葉に同調する権力に群がる学友達。
騎士団長の息子に、伯爵家の息子、宰相の息子か……みんな長子じゃないな。
出来損ないばかりか?
宰相様の長子のフェルド様は今、王城でお父上の宰相様についてお仕事をなさってるし、騎士団長の長子様は騎士団で才を発揮しておいでだと聞いた。
伯爵家は知らん!
なんか落ちこぼれ集団だなぁ……
「申し訳ございません。殿下。まさか殿下が同じクラスにいらっしゃるとは思いませんでしたので……ここは一年のクラスでしたから」
「ッ!お前誰に向かって!」
「これはこれは宰相様の……えっとフェルド様には幾度かお会いした事がございますが……貴方様とは初めてですね?お名前は……申し訳ございません、どうも人の名前を覚えるのが苦手でして……」
「セリー、もう行きなさい。相手をする必要などない」
「はい、兄様。では、卒業までよろしくお願いいたします。卒業……ご一緒出来るとよろしいのですけど……?」
毒を含む私の言葉に反応したのは宰相の息子だ。
三男で名前はユーデット、フェルド様に次男のウィリアム様と優秀だが唯一三男だけが……と愚痴をこぼしていらした。
本当に馬鹿そうだ。
脳筋騎士見習いの騎士団長息子ケルヴィンより先に噛み付いてくるとかないわ。
兄も騎士団長の長子、ビルド様も入学前には騎士として登録されていたと聞いた。
騎士団長とはそこまで関わりはないけど、父と兄と同席した
時に「お前の子は2人とも優秀で羨ましい」と漏らしておられた。
あ、伯爵家は知らん!
兄に促され席を外す事にする私は、兄の本来なら失礼に当たる言い分を薄れさせるようにもう一度毒を含ませて礼をし教室の空いてる席へとついた。
キャンキャン吠えてる駄犬を睨みつけて黙らせる兄を横目で見つつ、威圧状態になってる兄の魔力を緩和させるために魔力を出すと顔色の悪かった他の子達がホッと息を吐いた。
兄の威圧は底冷えするような冷たい物で……慣れてない子にはつらいだろう……。
かわいそうに……このクラスに王子がいる限り……何度体験する事になるやら……。
バカはバカなりに頭を使って進級したらよかったのに……。
あ、使う頭がないのか……それは仕方ない。
「セレナ様、お初にお目にかかります。
ルーズヴェル公爵家ルベルト・ルーズヴェルです」
「初めましてセレナ・フェンガリです」
「お互い苦労しそうなクラスわけですね……」
「そうですね。出来たら別のクラスがよかったですわ……2年目からは授業毎に部屋が変わると聞いていますから1年のしんぼうですね」
すぐに挨拶に来たのは唯一同い年の公爵家の次男だ。
名前は知ってたけど、この人はまともそうだ……。
多分、兄と同じようなことを任されてるんだろう……
ご愁傷さまです。
ほら、私は国王からも父からもなにも言われてませんからね?
リオン殿下に言われたけど、二の次、三の次で良いと言質いただきましたから!
真面目にしてダメなら仕方ないと思うんです。
前世の私は勉強しかする事がないと言う状況で勉強していましたが……平均、少し上にいければ良いと言ったなんとも中途半端なものでしたから……。
ですが、話にを聞くに……そうではないんですよね。
王子だから、王太子になるのだから次期王は私だと権力、立場を利用して真面目にしてないようなんですよね……。
それで留年してちゃ世話がありません。
学院で極力関わらないようにしようと思っていたのに計画がパァです。
はぁ……本当にこの人と結婚しないと行けないんですか?
卒業したら国を出る覚悟でお断りしようかな?
それとも……断ってくれないでしょうか……。
婚約破棄、大歓迎なんですけど!
そんな日々が続き、どうにか王子と共に2年目を迎える事になりました。
適度に友人を作りながらそれなりに充実した1年を過ごしたように思います。
まぁ通算半分くらいしか出席してないんですが……
後、驚いた事にルベルト様が優秀でした……
私と同点1位なのです……まぁ満点なのでどうにも出来ませんが……。
王子は本当に必要最低限のギリギリラインを一生懸命歩いてらっしゃいました。
兄が魔法を使ったり、時には剣で脅したりと色々していたようです。
点数を見たせいか、兄のおかげか……
あまり絡まれなくなりましたが……それでも私だけを見つけるとなん癖をつけてきます。
しかも取り巻き(金魚の糞)も一緒にさすがと言っては何ですが……騎士見習いは、私の魔力にビビってるのか直接的な言葉をかけて来ることはないです。
一緒にいるだけです。
ですが……宰相様の三男と伯爵家の息子は調子にのっています。
王子より階級が下なのは認めましょう、それは仕方のない事です。
ですが……宰相様は侯爵家です。
伯爵家は伯爵家です!
私の方が本来は上です……なのに王子と一緒になってぐちぐちと……そろそろ我慢の限界ではあるのですが……
私は大人です。
その場で言い返したりしません。威圧はしますが……
ですがおバカ過ぎて威圧が効果を発揮しないのです。
鈍感にも程があります……。
まぁ私は潰す時には確実に潰す事を決めていますので……いざとなれば廃嫡してもらえるように証拠は大量に保管してあります。
おかげで私は魔術師階級がリオン殿下を抜きました!
ふふふ……録音魔道具と映像保存魔道具……まだ上層部しか知らない魔道具をふんだんに使い証拠集め中です。
「面白い事になりそうですね、セレナ嬢」
「そうですね、ルベルト様」
「さて、王子殿下はどう切り抜けますかね」
「そのまま奈落まで落ちて行くのではないかしら?」
ルベルト様の言葉に私は1人の少女を見つめます。
本人は気づいてるのかどうなのか知らないですが……
少し特殊な能力を持つ男爵家養女のキャサリン・クズリス、元は平民だったらしいですが……クズリス男爵がお遊びの末生まれ認めなかった子供らしいですが、魔力の多さで特別に入学を認められ養女となり通う事になった編入生です。
魔術師なら見ただけで気づける特殊能力ですが、使える制限がある上に一生続くものではないので将来傷つく事になる能力ですね。
かわいそうに……その前に本人が気づければいいですが……。
兄は殿下にお知らせするつもりはないようなので私もルベルト様も傍観する事に決めました。
さて、殿下はどうなさるのでしょう。
気になりますわ。
殿下にとってはなにかと因縁深い能力なのですが、気づけますかね?
それにしても……外見はそれはもう美少女だと思います。
まぁ令嬢とは、また違った可愛い雰囲気で「元気が取り柄だよ!」とか言いそうな……
こういうのをヒロインっぽいって言うんでしょうか?
現実にこんなヒロインっぽい子っているものなんですね?
「こうなりましたか……」
「えぇ、概ね想像通り……いえ、上を行きましたね」
「まぁ……リオン殿下がいらっしゃいますし、第三王子のリカルド殿下も優秀でいらっしゃるので問題はありませんね」
「そうですわね」
私とルベルト様の視線の先には人目を一切気にせずイチャつく2人レオナルド殿下とキャサリン様がいらっしゃいます。
その周りには騎士見習いと宰相様の三男、伯爵家の息子です。
一応、我が国では婚約している者が浮気……不貞行為ですね……をする事は重罪とされています。
貴族なら誰でもそうです。
それが王族ならばなおのことです。
私との婚約は個人の物ではありません。
王と公爵家の中でもトップの我が父との契約です。
王妃様は隣国から嫁がれましたが……嫁がれた後、王弟による政変、改革……まぁ下剋上が起こり、王が変わりました。
どうもこの新国王と我が国の王妃様は険悪な関係で隣国新国王陛下と我が国王陛下は良好な関係ですが……その場に正妃である王妃様は一度も呼ばれた事がないと父に聞きました。
王妃様は立場が弱いのです……正妃なのにです。
王妃様の息子である第二王子と私が婚姻すればフェンガリ公爵家を後ろ盾に出来ると考えておられることでしょう。
でも、もし今回の婚約が破棄になれば?
しかも王子に不貞があれば?
現在国の為に力を奮ってる第一王子、将来が有望な第三王子……国の中枢を担う父に第一王子と共に貢献してる兄、国の防衛に携わっている私……
どちらが有利に立ち、どちらか不利か……
そして育て方を間違えたであろう王妃様……
本当にどうなるんでしょうね?
「噂を聞きましたよ。婚約破棄をすると」
「えぇ、私の耳にも入って来ておりますわ」
「それにしても卒業パーティでことを起こそうとするなど……」
「ふふ。よく考えられたではありませんか……公爵家令嬢との婚約破棄ですよ?個人的に話し合っても揉み消されてしまうかもしれないと……」
ルベルト様や他の友人方と卒業パーティの打ち合わせ中に噂話について話を振ってきたルベルト様。
呆れている様子ですが、私は少し関心しましたわ。
王族の次に権力を持つフェンガリ公爵家。
既成事実を作り無理矢理破棄に持ち込もうとしているのでしょう。
その場には国王陛下に王妃様を始め王族に保護者枠で貴族のほとんどが集まるわけですから。
そこで宣言してしまえばいいんだと考えたのでしょう。
「婚約破棄して困るのがどちらかと言う現実が見えてないんでしょうかね?」
「見えてないんですよ。様々な甘言や2人の明るい未来に目が眩んでね。まぁ我が家の後ろ盾があってもあの方に王は無理ですわ」
「まぁ、そうですけど……計画通りですか?セレナ嬢」
「いえ、どう破棄しようかと考えていましたから計画以上ですわ」
現実……そうね、現実が見えてないのよね。
王族に貴族とは名ばかりの男爵家が嫁ぐ苦労や困難。
自分立場の弱さ、公爵家と言うか我が父と兄を敵に回す怖さ、我が父を敵に回すと言う事は、我が公爵家に連なる親族や貴族のほとんどが敵に回ると言う事。
王妃とは名ばかりの母親の弱さ。
少し考えればわかる事。
少し自分にとっては耳が痛い事を受け止め思案する事さえ出来たのなら……
もしかしたら変わっていたかもしれない未来。
私に相談さえしていたら……抜け道を教え、手助けも出来たと言うのに……
本当に……愚かですわ……。
卒業パーティが楽しみですわね……レオナルド第二王子殿下。




