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不思議な...人です。



「まさかこの年で魔術師になるとは……しかも国家魔術師だよ?」

「頑張りました!だって兄様が天才なんですもの」

「まぁエディもセリーも天才に違いはないよね?」

「セリーに負けられないからね!」


私は8歳になっていた。

兄は13歳、今年から学院とは名ばかりの人脈造りを主にしたほぼ貴族だらけの学院に行く事になる。

貴族と平民混合だけど、お金がないとだめだから豪商の子供がほとんどで、一応返済不要の奨学金制度もあるらしいけど……

まぁ、人脈造り、人材発掘、婚活の場である。


兄と休みしか会えなくなるのは寂しいけど……仕方ない事だよね。


今日は兄が学院に入るまでの最後の魔術師試験だった。

兄は本当に優秀で、7歳で魔術師資格を取得していたらしくて……

ならば私もと兄が学院に入る前に取得したかった。

魔術師資格は取るだけでも難しいは難しいが、そこからが問題だ。

功績がなければ再度受けさせられ落ちると資格剥奪。

功績によって階級が上がっていき、最高は国家特級魔術師で今は魔術師団の団長さんだけらしい。

ぜひお会いしたいです!


ただバケモノって噂が多いんだよね……若さを吸い取るとか吸血鬼とか……どんな人なんだろうね。


魔法はやっぱりイメージ力……妄想力が大切だった。

同じ火でも原理を理解してるしてないで大きく変わるらしい。

火を出す魔法は存在する。

原理を理解していないとライターやマッチのように燃料(魔力)を流した分だけしか燃えないけど、可燃物と酸素と言う原理を知っていると火のサイズを変えれたり、長く燃やし続けたりと色々変わるらしい。


これは途中で気づいたけど、想像さえしてしまえば決まった詞を紡ぐ必要はない。

『我、希う。我が手に火を』が基礎で教えられる火の初級魔法。

でもイメージさえしっかりしてたら『火』と口にするだけで普通に出来てしまう。

それに気づいた時はビックリだった。


そっからはもう詞を後で覚えるくらいの勢いでいろんな魔法を行使した。

雷にしたって無駄にアニメや小説、ゲームを、してたわけじゃない!とか意味のわからない自論でいろんな魔法を作り出したが……

問題はこれを他人に教えられないって事だ。

似たものを詞で作ったり、似た効果を持つ詞を見つけたりと案外めんどくさかった。

仕方なく詞を暗記する事にしたくらいです。

人前では適当魔法を使わないと心に決めたし……

それよりも私は魔力の質の違いで今は絶滅したとされる魔法陣を使う大型魔術が得意になってしまった。


魔法の歴史はまぁ古い。

最初は魔法陣を描き魔力を流し発動していた物を、詞と言う型にはめて操作も威力も簡易化したものが今の魔法になっているらしい。

今は絶滅危惧種状態の魔法陣を用いる物を魔術。

簡易化して一般化した物を魔法と名称を変えているらしい。


なのに魔術師なんだから変な感じよね?

昔のまま名称変わってないのかもな。


「本当に行ってしまうんですか……兄様」

「……セリー。僕も行きたくないんだよ……泣かないで」

「寂しいです。兄様……」

「僕もだよ」


学院に旅立つ兄との別れに涙を流してるとギュウと抱きしめられて頭を撫でられる。

兄がいない日は本当に初めてだ……。

それぐらい毎日一緒にいた……父は仕事で帰れない日があったり、遅かったりで朝食でしか会えないとかもあったから……

兄がいないと使用人はいても1人だよ……。

寂しいよ……。

っても、そんなわがままばかり言ってらんないのも分かってる。

どうにか送り出して私は家に1人になった。


休みの度に帰って来てた兄様は、第一王子の護衛を任されたとかで帰ってきてくれなくなった……。

手紙はアホほどくるけど……主に王子の愚痴……。

これ不敬罪の証拠になるのでは?と燃やしてるのは内緒だ。


王子様……ねぇ。

関係ないかな?

兄とは学院で一緒になる事ないしね。


「セリー。明日から私の友人が泊まりに来るんだけど……相手を頼めるかな?」

「……はい。でも、私でいいんですか?子供ですよ?」

「大丈夫だよ。セリーは立派なレディだからね」


兄が学院に行ってから休みは少なくとも帰りが早くなってた父が珍しくお昼過ぎに帰って来たと思ったら急な来客を告げられた。


私でいいのか?

まぁ……母様は亡くなってるし、後妻として来た人は父様に追い出されて別邸に住んでるし……。

政治的なもので仕方なく再婚したけど……まぁ母が大好きだった父がその人を好きになる事はなくて……

母親をする事なく浪費に浮気にとあまりよろしくなかった結果追い出されてしまった。

どんまい!


5歳の時の事です。

元々屋敷で会わなかったけどね。

しかも、出来るわけない子供が出来たらしいから父がブチギレたらしいと後で兄が教えてくれました。



「はじめましてセシル・フォンセです。2週間お世話になります」

「……は、じめまして、フェンガリ公爵家第二子セレナ・フェンガリです。いたらぬ所もあると思いますがよろしくお願いいたします」

「……オリーに聞いてはいたが、本当にもうしっかりした淑女だな」

「だろ?俺の娘だからな!」


翌日、父は朝から迎えに行くと出かけて昼過ぎに帰ってきた。

出迎えた私は父の後から入ってきたその人を見た瞬間、時間が止まったかと思った。

漆黒の髪に、燃えるような紅い瞳。

整い過ぎてると言いたくなるような端正な顔立ち。

目が合った途端、目を逸らせなくて……

なぜか「あぁ……逃げられない、逃げれるわけない」と思った。

自分でもよくわからないその感情に少し反応が遅れたけど淑女の礼をして挨拶すると感心したような声で褒めてもらえたようだった。


こんなにカッコイイ人が世界には存在するんだ……。

父も兄も美形だけど……また違う美形だな。


文官だろう父はヒョロヒョロではないけどやっぱり身体が薄い印象がある。

兄もまだ成長中で薄いし……。

でもこの人はごつくもないけどしっかりとした美丈夫だ……。

線の細い美形と細マッチョな美形……並ぶと破壊力すげーな。



「お口に合えばいいんですが……レモンバームクッキーです。よければどうぞ……」

「ありがとう……ん、うまいな」

「よかった。作った甲斐がありました」

「え?セレナ嬢がつくったんですか?」

「えぇ。趣味ですの」


部屋に荷物を運び込む間、サロンで少し休んで貰うことになって紅茶と自分で作ったクッキーをだしてみた。

家で出来て楽しい事ってのでよく家族でお菓子や料理をした記憶がこっちでも役に立った。

最初はレシピを伝えて料理人のヤードさんに作ってもらってたけど……。

一通り淑女教育がおわってしまうと手持ち無沙汰で自分で作る事にした。

庭の隅で花壇を作って(モニカに自分でするなんてと怒られた)庭師さんに頼んで種を用意してもらいハーブを育ててると父にバレてガゼボ2つ分くらいの温室が造られた。


滅多にねだらないとこうなるのかと後悔したのでちょっとした物を少しずつねだると決めた日でもあった。


おかげで私のハーブ達は元気です。

ついでに薬草も育ててるので傷薬や風邪薬くらいなら作れます!

薬作りはきっと錬金術に分類されるのだろうと思うんですが……

ここでは魔法学の中に薬学があります。

作るのに魔力がいるのですよ、そのおかげで私はやり方さえ間違わなければ成功率100%に高品質の物が出来るらしい。

もし路頭に迷っても薬屋さんをしようと思います!


少し遠慮ってか、仕方なくって感じで手に取ったセシル様ですが一口食べて表情が変わりました。

味見はしましたが、私には甘さが足りないように思えたけどセシル様は甘さ控えめが好きなようです。

さっきの仕方なくって表情が嘘のように次々クッキーが消えていきます。

お帰りの際は、道中に食べてもらえるように包んで渡すのもいいかもしれません。


「では、後ほど……ごゆっくりしてくださいませ」

「あぁ。ありがとう」


執事長のセバス(私がつけたあだ名で本当はヨゼフ)が部屋の準備が整ったと声をかけてきて、私はセシル様を見送る。


やばい……心臓によろしくない。

あんな美形の笑顔はよくない!!


目の前で顔を合わすだけでも顔から湯気が出るのではないかと思うくらい。

でも、父の友人って事は同い年くらいだよね?

父35だけど……セシル様はおいくつなのでしょう?

父は正直、見た目若すぎるけど……セシル様も負けてないよね。

美形は老けないなんて法則あるのかな?この世界。


セバスは白髪の良く似合うイケオジさんだけど。

ちゃんと老けてるよ!?

父とセシル様が特殊なのかしら?


そんな事を考えながらいつの間にか最後の一枚になっていたクッキーを手に取り、ぬるくなった紅茶を飲み干した。


片付けるモニカと一緒に厨房に向かうとヤードが焼いてくれていたらしく甘いいい香りがしてきた。


「ショートブレッド!!この匂いたまりませんわ!」

「お嬢様、はしたないですよ」

「セレナ嬢様、お客人の反応はいかがでしたか?」

「上々よ。甘さ控えめがいいみたいだわ。今日は肉料理ね、チキンをこの前のガーリックソースがいいんじゃないかしら」


前世でも好きだったショートブレッドがお皿に盛り付けられててルンルンで匂いを嗅いでるとモニカにサラッと注意されるけど……仕方ないよ!好きなんだもん。

ヤードの質問に答えつつ夕食のメニューに軽く注文をだして自室に戻る。

後ろをついてくるモニカの手にはもちろんショートブレッドがある。


「お嬢様、旦那様がお呼びです」

「……わかったわ」

「その物語、そんなにおもしろいですか?」

「おもしろいわ。読み終わったら貸すわね」


どのくらいの時間が経ったのかモニカに声をかけられて本から目を話す。

続きが気になるけど、父を無視する理由にもいかずに栞を挟み本を閉じるとモニカが興味あり気に聞いてくるから貸す約束をして軽く身支度をして自室を出た。


「来たね、セレナおいで」

「はい、父様」

「セシルがお土産をくれるらしいよ。遠慮なくもらってしまいなさい」

「え?」


執務室の扉をノックして入室許可をもらい入ると手招きされる。

机を挟んで座る父とセシル様がいて私はセシル様の横まで行くと想定外の言葉にキョトンとしてしまった。


「はい。セレナ嬢。受け取ってもらえると嬉しい」

「……ありがとうございます」

「あけてみてくれないかい?」

「え?あ、はい」


こういうのって自室に戻って開けるんじゃないのか?とか思いつつ父の机を借りて包みを開けていく。

お?これって……


「植物を育てるのが好きだとはオリーから聞いて居たから、どうだろうか?」

「ありがとうございます!凄いです!凄く嬉しいです!」

「それはよかった。大切に育ててみてくれると嬉しい」

「はい!もちろんです!」


箱の中には色々な植物の種と魔法アイテム。

兄が誕生日にくれた鳥になるレターセットや、魔力を貯めておける魔石のついた装飾品が入ってた。


遠慮なくもらえばいいって……本当にいいのかな?

お礼を言いつつも父をチラッと見ると目があって頷かれた。

貰っとけって事か……。

私は嬉しいからいいけどね。


「セレナ嬢は魔法が得意なんだってね?」

「得意と言う程の事では……好きで夢中になってしまっただけですわ」

「それでその歳で国家魔術師か……」

「でもお兄様には負けてしまいましたわ。もっと精進致します」


セシル様の質問にキョトっとしつつも答える。

得意とは、どういう事を言うのだろうか?

出来るから得意?好きだから得意?

でも、結果がないならそれは全て無かったと同様だと思う。

確かに国家魔術師になったけど……

結果を残してないんだもん。

まだまだだよね!

好きだけど、得意ではありません!


まぁ……兄に負けてるしね!



「オリー。本当にお前の子供達か?確かにお前は優秀だが自分の結果にしか興味が無かっただろ?他人が何を思おうが関係なしってな感じで」

「そうだな。エディはそういう所があるぞ。ただ妹にいい所を見せたいと張り切る所は俺と少し違う」

「ほう。なるほどな……分からんでもないが、腐らず育ってよかったな」

「あぁ。それは俺も思う」


軽く実子疑惑を出されたが、兄が優秀なのは父の血筋らしい。

兄が腐るってのは想像がつかないな。

優秀過ぎて軽く私が引いてる。


それにしても目を見て話すってのは前世でのマナーだけど……止めていいですか。

この人の目を見てると、ソワソワする……どうしてもソワソワする。

表情が隠せてるのか凄く不安。

美形慣れはしたと思ってたのに……この人の前じゃ何もかも見透かされてそうで……。


少しお話をして解放されて自室に戻り1人になってから悶えたのは内緒です。


晩御飯もなんとか乗り越えて寝た気がしない朝を迎えた。

今日から本当に2人なんだけど!

父よ!早く帰宅しやがれ!!!!

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