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第八話 〜俺、ブラック企業に就職確定しました。〜

「おかえり〜 どうだった」

シャーが元気よく迎えてくれた。

しかし、返事はない。できるはずもない。

「ダメだった・・」


「え!? どういうこと!?」

彼は、自分が不合格だった理由を説明した。

「そうだったのね・・ 仕方ないじゃない」

そう言ってくれるが、彼はかなり落ち込んでいる。

この世界の仕事道具のエネルギーは全て魔力で、その質が高いほど良い職種につけるらしい。

しかし、彼は、魔力を保持していない。

理由はわかっている。

体の作りが違うからだ。この世界の人間は、みんな生まれ持って魔力回路というものを持っている。

しかし、彼はそれを持っていない、だから、魔法が使えない。以上だ。

「はぁ・・ 仕事どうしよう・・」

「考えても仕方ないわ、まずは、この世界の文字を覚えましょうよ」

「そうだな・・」

「決まりね!! エリー、ケンちゃんに文字を教えてあげて」

「うん・・」

シャーが教えればいいんじゃないか・・と思ったりもしたが、彼女も色々忙しいのだろう。

そこからは、エリーがこの世界の言語について教えてくれた。

この世界の言語は全て統一されているらしく、二種類の言語がある。

一つは、ブリッド語

このブリッド語は、日常的に使われる言葉で、この言語を習得すれば生活には困らないらしい。

もう一つは、エンチャ語

魔法を使うための言語で、術を使う前に唱えていたよくわからない呪文がこれらしい。

基本的に杖なしの魔法発動条件は、魔法語による詠唱をした後にブリット語で引き金を引くことで、最後の引き金の言葉はその魔法を習得した時、自由に決めていいらしい。

つまり、同じ魔法でも術者によって発動の言葉が違うということである。

彼はまず、ブリッド語の勉強を始めた。

音声言語が一致していていることもあり、10分もかからず習得した。

さすが、元いた世界ではエリートと呼ばれていただけのことはある。

次にエンチャ語の勉強を始めた。

エリーに発音してもらいながら、その音声と言葉を一致させることを行なった。

この言語を習得にも、彼は、1時間もかからなかった。

「すごい・・ なんで、覚えられるの?」

エリーは、驚いているが、彼にとって言語習得など赤子の手をひねるよりも簡単なのだ。

無事言語の習得も終り、

また仕事探しを始めたが、それから一週間たっても彼の仕事は決まらなかった。

そもそもこの世界の仕事探しは、効率が悪い。まあ、ネットがないから仕方ないとは思うが

一件一件店を訪ねて、求人を探さなければならないなんて、

ネット社会で育った人間にとっては考えられないことである。

「はぁ・・ 決まらないな・・」

と落ち込んでいる彼の元にシャーがやってきた。

「大丈夫?」

大丈夫な訳ないが、彼は

「うん 心配しないでくれ」

と、少しでも心配させないようにする。

彼女の手には、一枚の紙が握られていた。

「その紙は?」

「そうそう、私も仕事を探してみたのよ ほら!!」

と、彼女は、手に持っている紙を彼に見せてきた。

「研究補助員募集?」

「知り合いにあなたのことを相談してみたら、『ぜひ会いたい』だって、

でも、なかなかハードな仕事で給料もまだよくないの・・」

「まだよくないって?」

「研究成果を国に売って研究者は生計を立てていて、まだ、始まったばかりの研究所だから収入が安定してないんだって」

彼は、少し悩んだが他にあてもないので、数日後、その研究所を直接見に行った。

研究所は、歩いて1時間くらいの所にあった。シャーの話を聞いて、少し不安だったが建物自体は、結構な広さがあり、外装も綺麗とは言えないが、なかなかのものだった。

研究所の周りをうろついていると、突然声をかけられた。

「こんなとこでなにやってるんだ?ここは、関係者以外立ち入り禁止だぞ」

彼に声をかけてきたのは、ボサボサの髪、目には大きなクマで白衣を纏っている女性だった。

顔立ちは決して悪くない。きちんとした服装をすればなかなかの美人だろう。

「聞いているのかい?」

「すみません 研究者募集の紙をみてきたんですけど・・」

「そうか じゃあ、中に入りなさい、応募内容は確認したのだろ?」

「いえ、軽く目を通しただけでどんなことやってるかはわかりません」

「はぁ? それで受けにきたのかい?」

「いや・・今日は見学のつもりで・・」

「言い訳はいい 仕方ない・・ 今日は、気分がいいから特別に案内してあげるよ」

「あ、どうも」

「ついてきなさい!!」

彼は、研究所の中に連れて行かれた。

施設内は、きちんと掃除がされてあり、少し感心した。

「そうそう 自己紹介がまだだったわね 私の名前はアルベルト、君の名は?」

「山草健斗です。」

「ヤマグサケント? めずらしい名前だな 外国の出身かな?」

「そんな感じです」

「そうか じゃあ、今から施設内を案内するぞ」

アルベルトは、設備、研究していることの説明を事細かにしてくれた。

この研究所は、3年前にできたらしく、現在は、人工時空石を開発するための研究をしているらしい。

時空石とは、ワープや異世界の門を開く時に必要な石で特殊な魔力を帯びている。

この魔力で空間に亀裂を入れ、膨大な魔力で穴を開ける

これが異世界に行くことができる原理らしい。

時空石は、厳密には石ではない。

この人類が生まれる遥か昔、この世界には、ドラゴンが存在し、大きな力を持っていた。

ドラゴンは、魔力回路を持っていないが、高い知力と巨大な体で食物連鎖の頂点に君臨していた。

しかし、ある時を界に『エンチャントドラゴン』という魔力回路をもつドラゴンが現れた。

その力は、膨大すぎて生物の9割近くが絶滅した。

これは、第三次大量絶滅と呼ばれている。

幸い『エンチャントドラゴン』も植物いなくなったことによる酸素不足によって絶滅した。

この『エンチャントドラゴン』の死骸が時空石なのである。

「うちの研究所では、エンチャントドラゴンの正体の解明、

物質合成により時空石を生産するプロセスを考える、この二つがメインの研究だ。

もし、君がここに入れたら、たぶん、正体解明のグループに配属されるから

う〜ん 説明は以上かな 何か質問は?」

「それじゃあ、一つだけいいですか?」

「どうぞ!!」

「その研究のグループは、だいたい何人くらいいるんですか?」

「そうだな・・ 物質合成の研究は5人、

正体解明は私一人だけだ、今回採用されれば実質、私の助手ということになる」

「そんな大切な役職って未経験者には、荷が重いと思いますけど・・」

「大丈夫だ!! 私にかかれば半年で使える人材に育てられる なぜかみんな途中でやめてしまうのだけど・・」

「今まで何人やめたんですか?」

「3ヶ月間で20人だ 意味がわからないよ」

彼は、この話で、この女性が相当やばいことを察した。

3ヶ月で20人なんて普通じゃない。

仕事は探しているが、ブラックな職場に入るつもりは毛頭ないので、自然にこの場を立ち去ろうとしていると、

「あら? もう見学は終わったの?」

それは、聞き覚えのある声だった。その声に気を取られていると、アルベルトが追いかけてきた。

「こら、君、何をやってるんだ、勝手に動き回られちゃ・・ なんでここにいるんだ? シャー」

そこには、シャーの姿があった。

「なにって・・ いってたでしょう? 今日、この間話した私の知り合いが見学に来るって」

「ああ、そういえばそんなことあったな。でも、その人ならまだ来てないぞ」

「なに言ってるの?そこにいるじゃない?」

「どこだ? ここには、私とお前とヤマグサ君しかいないと思うが・・」

「だから、その子が私の知り合いなのよ」

「え!? じゃあ、君が異世界から連れて来られて、エンチャ語とブリッド語を1時間足らずでマスターしたというシャーの知り合いなのかい?」

「知らなくて、施設内を案内していたの?」

「今日は、気分がよかったからな特別だ!!」

「そうか・・ 君が噂に聞いていたケンちゃんか・・ よし採用だ、これからよろしく!!」

「はい・・」

「よかったわね、仕事が決まって、これで結婚式に一つ近づいたわ」

どうやら、彼の採用が必然的に決まったらしい。

彼は、思った。帰るタイミングを逃したと・・

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