第七話 〜俺、無職になりました。〜
彼が目を覚ました時、外はもう夕暮れだった。
夕日の美しさに彼は思わず、
「綺麗だ・・」と呟く。
どうやら、エリーの魔法を受け、気絶していたらしい。
「あれ? どこも痛くない・・」
そんなことを考えていると、タイミングよくシャーがやってきた。
「やっと目が覚めたわ どこか痛むところはない?」
「いや・・ 全然なんともないよ 結構な衝撃だったのにどうして・・」
「私の回復魔法にかかれば、あのくらいの傷なら大丈夫よ!!
でもよかったわ、後遺症が残らなくて・・」
最後の一行、シャーが恐ろしいことを言っているが、あれだけ意味不明なことを経験しているから、
彼はもう驚きもしない。これが、慣れというものだろうか・・
「魔法って凄いな・・」
「もう・・ 私の魔法が凄いだけよ。他の人ならこうはいかないんだから」
「そうなのか・・ そういえば、エリーは?」
「あの子なら、家の中で魔法を使ったから説教中よ。」
彼は、『俺に魔法を使ったからじゃなくて?』と思ったりもしたが、
『この世界では、そっちの方がいけないことなんだろう』と納得した。
「で、どうするの?」
いきなりの質問に、彼は少し戸惑った。
「だから、式のお金はどうするの?」
(またその話か・・)
どうやら彼女は、どうしても早く結婚式をあげたいらしい。
「この世界では、どんな職業があるのかな?」
とてもいい質問だ。確かに、この世界のお金の稼ぎ方を彼は知らない。
「そうね・・ 服屋、肉屋、鍛冶屋、とか色々あるけど、一番稼いでいるのは冒険者かしら・・」
「冒険者!? どんな仕事なの!?」
彼のテンションがこの世界にきて一番上がった瞬間だった。
「そうね・・ ギルドに登録して、依頼をこなして報酬をもらう仕事よ。
物探しからモンスターの討伐までたくさん種類はあるわ」
彼にとって夢にまで見た職業、まさにファンタジー世界の醍醐味である。
「冒険者にする。ギルドに登録するにはどうしたらいいんだ?」
「ちょっと、近い、近い 教えるから離れてよ!!」
「ごめん・・」
「もう、テンション上がりすぎなんだから・・」
シャーは、そう言っているが、このシチュエーションにテンションが上がらない男がどこにいる!!
男なら一度は、夢見る異世界ファンタジー、魔王討伐に向け仲間たちと絆を深め、
さらに、旅の途中で美少女と出会い、恋に落ちる。なんとも、素晴らしいではないか。
若干引いているシャーをよそに彼は、そんなことを考えていた。
「簡単よ。ギルドで試験を受けて合格なら、そのギルドに登録できるわ 今から私がギルドまで連れて行ってあげる」
「本当!? 行こう行こう!!」
「まったく・・ なにがそんなに嬉しいんだか・・」
彼らは、身支度を済ませ、ギルドへと向かった。
ギルドに着くまでの間、どのような試験があるのか、シャーが教えてくれた。
基本的には、体力試験、筆記試験、魔法力試験らしい。
彼は、100mを11秒台で走り、勉強も全国模試で1位をとったこともあるエリート中のエリートだ。
体力や筆記は問題ないだろう。問題は、魔法力試験だが、
アニメでは、異世界からきた人間は、何かしらの能力を宿している。
たとえそれが、一般人だとしても、
それに全てを持って生まれてきた彼が魔法を使えないなんてことはありえないだろう。
「ついたわよ ここがギルド」
造りは木造、中には、酒場を抜けると依頼を受ける看板がある。
まさに、アニメで見ていたギルドのイメージそのままだった。
彼の目からは涙が溢れる。
「え!? いきなりどうしたのよ!?」
シャーは、驚いている。そりゃそうだ、突然隣の男が泣き出すんだから
「いや・・ 夢みたいでつい・・」
「変なの ほら、あそこの受付で早く手続きを済ませてきてよ」
「そうだな・・ わかった、ちょっと待ってて」
そういうと、受付のお姉さんに声をかけ、手続きをしてもらっている。
「それでは、今から試験を始めましょうか」
「はい お願いします。でも、その前に聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「はい!! どうぞ」
「この試験の合格率ってどのくらいなんですか?」
別に不安な訳ではない。
でも、合格率が低いほうが盛り上がり具合も違うだろうと思い、彼は、このような質問をした。
「そうですね・・ 逆に落ちるのが難しいですね、私、結構長く働いているんですけど
今まで落ちた人は見たことないです」
「そうなんですね・・ ありがとうございます」
「いえいえ〜 じゃあ始めます。まずは、体力試験ですね。ついてきてくださ〜い」
連れて行かれた先は、だだっ広い平地だった。
「あの木が見えますか?」
彼女が指差す方向には、確かに大きな木があった。
「この線からあの木にタッチして戻ってきてくださいね。制限時間は、30秒です。」
「え!?」
彼が驚くのも無理はない。彼女が指差している木までの距離は、目測だが2kmはある。
往復して4km、この距離を30秒という短い時間でゴールしろと言っているのだ。
しかし、彼女は当然のように、こちらを見て、スタートの準備をしていた。
彼は、忘れていた。この世界の人間は、一振りで大男を消せるほどの力を持っている。
身体能力は、彼の世界の人間と同じということはありえない。
そこからは、地獄のような時間だった。
往復タイムは、11分20秒(1kmを2分50秒)で達成ならず、
筆記試験では、文字が読めず0点だった。
そして、今、最終試験である魔法力試験に挑んでいる。
受付嬢いわく、この試験では、魔力量、操作能力、属性の種類、など様々な項目が一つでもボーダーに達していれば、合格らしい。彼は、最後の望みをかけて、試験に取り組んだ。
しかし、結果は不合格。それもそうだ、まず、彼は魔力を保有していない。
その時点で、試験のやりようがない。
彼は、そのギルド設立以来、初めての不合格者になってしまった。
たちまち、そのことは街中に広がり、彼についたあだ名は、『ドロップアウター』
落ちこぼれという意味である。そんな人間を雇うがある訳なく、彼は、無職になった。