第五話 〜俺、惚れられました〜
「あの子を助けて・・ お願い助けて・・ 」
「ごめん・・ 助けられなかった・・ ごめん・・」
「許さない・・ あなたがもっと早く駆けつけてたら助かったかもしれないのに・・」
赤ん坊の母親は、近くに落ちている杖を拾い、彼に振り落とした。
(声が出ない・・ 死ぬのか・・ )
「ハッ ここは・・」
「あら、目がさめたのね!! よかったわ、心配したのよ!!」
そういうと、一人の女性が彼の顔を覗き込む。艶やかな金色の髪、彫りの深い顔立ち、
そして、微かな石鹸の香り、この世のものとは思えないほど美しかった。
「これが天使というものか・・」
どうやら、彼は天国だと勘違いしているらしく、そのようなことを口走ってしまった。
「あらあら・・ まだ寝ぼけているのね・・ ちょっと待っててね〜」
そういうと彼女は、部屋から出て行った。
しばらくすると、美女が部屋に戻ってきた。
「あの・・ ここは・・」
そう聞くと、美女は、少し微笑み
「まあ・・ そうなるわよね・・ エリー、説明してあげなさい」
扉に向かって名前を読んだ。
そして、扉が開くと、そこには、一人の少女の姿があった。
「えっ!? 君は・・」
彼が驚くのも無理はない。そこに立っていたのは、空港で声をかけてきた少女だったのだから
「ほら、恥ずかしがってないで早くこっちに来なさい」
しかし、少女はその場を動こうとしない。
「どうしたのかしら・・ 普段はあんな感じじゃないのに・・」
と、女性が心配していると、少女は、軽い深呼吸をした後
「大丈夫・・?」
頬を赤く染めながら、小さな声で問いかけてきた。
彼は、少女のあまりもの可愛さに少し見とれてしまったが、すぐに我にかえり
「大丈夫だよ」と返答した。
その言葉を聞いた少女は、安心した表情になり、彼の胸に飛び込んで行った。
「った・・ かった・・ よかった・・」
と言う、少し潤んだ瞳で上目遣いする美少女の戦闘力は計り知れない、確実に53万は超えている。
彼は、今すぐに抱き上げて頬づりをしたい気持ちを抑えて
「君が助けてくれたの」と少女に問いかける。
正直、彼にとって今は、そのようなことはどうでもよかったが、
少しでも気を紛らわすために必死に考えた質問だった。
彼は、人生で初めての感覚に襲われていた。
今まで、彼は年上女性にしか興味はなかったが、
今は、目の前の少女がとてつもなく愛しく感じられた。
(これが、漫画でよくある『小学生は最高だぜ』と言う人間の気持ちなのか・・)
とエリートらしからぬことを考えている。彼の精神は限界が来ていた。
すると
「はいはい とりあえず今の状況を説明してあげたほうがいいんじゃない」
その言葉で彼は、我に返ることができた。
その言葉を聞いた少女は、そうだね、とつぶやき事の顛末を語り始めた。
簡単にまとめると、
彼が消されかけた瞬間に魔法を使って時間の流れを遅くした。
そして、彼を助け不可視の魔法で自分たちの住む世界まで連れて来たらしい。
「なるほど・・ だから、死んだと思った瞬間、時間の流れが遅くなったように感じたのか・・」
「たぶん、そうだと思う。あの魔法は、私とあなたの両方にかけたから・・」
「でも、なんで助けてくれたの? 目的は達成できなかったんだよね」
「それは・・」と小さな声で言い、少女の頬がまた赤く染まる。
「格好・・ 褒めてくれたから・・」
「・・・それだけ?」
「うん・・」
どうやら、少女は、空港で褒めてくれたことが嬉しくて彼の命を助けたらしい。
彼が不思議そうな表情をしていると、美女が会話に入って来た。
「ウチはそう言う家庭なの。お爺様がいつも言っていたわ。『もし、自分が喜ぶことをしてもらったのならば、その人が喜ぶことを必ず返してあげなさい』って」
「いい言葉ですね・・」
「みんなから尊敬される方だったわ・・ この子、軍の制服でからかわれたりすることが多かったから、きっと嬉しかったんだと思うの」
「軍? 学校じゃなくて?」
「ウチは、国家直属の軍の家系で6歳になると軍養成学校に通わなければいけないの。ほら、あなたの飛行機を襲った人達ってみんな同じ格好だったでしょう? あれが、軍服で家以外ではあの服装が義務付けられているの だから、他の普通の学校に通っている子供達からは、それをからかわれるのよね〜」
「異世界も色々大変なんだな・・ それじゃあ、えっと、すみませんがなんとお呼びしたらいいですか」
「私の名前は、シャーロット 「シャー」でいいわよ」
「それでは、シャーさん・・ 何でこんなに包み隠さず教えてくれるんですか 普通ならよそ者にこんなに情報を渡すことはしないと思うんですけど・・」
確かに、そうだ。会って数時間、しかも、異世界の人間にここまで親切に教えてあげる義理はない。
しかし、彼女は、この世界のこと、魔法のこと、家族のことを教えてくれた。
すると、シャーが嬉しそうに
「だって・・ 将来、家族になる人に隠し事なんてしても意味ないでしょう」
と言った。
彼は、彼女の言葉の意味がわからなかった。
「え・・ どういう意味ですか!?」
「そのまんまの意味よ エリーは、あなたに惚れてしまったの」