第7話 銃声と脱出
正直、思ったより続けられています。頑張ります。
誤字脱字の指摘もお待ちしています。
空間に銃声は反響する。
自分が最期に見たものは、何だったか。
穴が開いた天井ではない。銀髪の少女でもなく、不敵な笑みを浮かべる男でもなかった。
自分が最期に見た物は何物でもなかった。最期はまだ、自分には早かった。
「へえ、面白いね、キミ。撃たれても死なないなんてね」
自分は死ななかった。1発、零距離で撃たれても死ななかった。いや、その弾丸は自分に傷一つ付けられなかった。まるで銃弾が消えたかのように、発射音だけが部屋に響いたのだ。何が起きたのかさっぱり理解できなかった。
「まあ、二度目はないよ」
再びの銃声が響く。しかし、何も起こることは無い。爆発音が鳴るだけ。自分の額に傷一つつけることができていない。
不発弾なのかとは考えたが、本当の理由は分からない。自分の運が良かったのか、悪かったのか、自分は生き延びている。
男はもう一度引き金を引く。だが、もう爆発音はしなかった。
「弾が切れちゃったよ。何をしたの、キミ。どうやって弾を防いだのさ。まあ、いいさ。殺す手段はいくらでもあるんだよ。例えば、こういう風にね」
男は銃を下ろし、右手を前に突き出す。その動作が何を意味するか、それは分かっていた。魔法が放たれる。魔法が自分に向けて放たれる。
「ルネイタ=フローテス。壁に愚者を打ち付けよ!」
瞬間、何かが足首を掴んで思いっきり引っ張ったかのようなことが起こった。自分はバランスを崩され、その場に転がってしまった。自分の服を掴んでいたメイナも、背中に張り付いたままその場に倒れた。
「やっぱり飛んでいかないね。まあ、子猫ちゃんがいるから威力は抑えたんだけどね」
「お、お前は何がしたいんだ」
「それはこっちが聞きたい事さ。キミが何をしたいのか、いや、キミがそもそも何者なのかをね、ボクなりに考えているんだよ」
この男の考えが読めない。自分を殺そうとしたかと思えば、それが失敗しても冷静なままだ。それどころか、自分への殺意がどんどん薄れているように感じられる。どこか違和感を覚えざるを得ない。
男は数秒の間、考え込むように黙り込んでいた。そして、何かに気付いたようにこちらを見た。
「ああ、そうか。キミはテルトリュートなんだね。カノジョのお気に入りの。だから、ブラッククロウの弾に当たらないし、ボクの魔法が利きにくいんだ。そうだよね、キミはテルトリュートなんだよね?」
「テルトリュート?」
聞いたこともない言葉だ。自分の知る言葉ではないのは確かだ。
「自分では理解していないのか。まあ、いいや。カノジョに献上すれば分かることさ。それに、キミが本物のテルトリュートなら、ボクはカノジョの愛を受けられる。約束の愛を手に入れられるんだ。長かったよ、本当に」
「何を言ってるんだ――」
自分がそういい終えるか終わらないかのうちに、自分は男に肩を掴まれた。男が何をするか身構える時間もなく、男はこう言った。
「『転送』 第一転送陣へ」
何も起こらなかった。男は不思議そうにこちらを見ている。
「これは想定外だ。まさかボクの幻術式が効かないとは。カノジョが求めているだけのことはあるみたいだね。どうしたもんかな」
男はこちらの肩から手を離す。そして、それを眉間に当て、考えるような仕草を見せていた。
男の攻撃が、自分に殆ど効かないことが分かったが、だからと言って、これと言った攻撃手段があるわけでもない。後ろにある出口から逃げ出せれば問題はないのだが、――自分は逃げ出せるが、メイナは逃げられない。メイナを見捨てるのは嫌なのだ――、それは現状では選べない選択肢だった。
「身構えて」
後ろから声が聞こえたのはこの時だ。ぼそぼそと何かを呟く声が聞こえた。そして、自分の両脇から二本の細くしなやかな腕が伸びた。心臓の拍動が背中に感じられる。
「ルネイテン=アーロマイテ。光の矢よ。我が敵を射抜け」
緊張したときに出る、上ずったような声だった。しかし、白い光の矢は正確に男を射線上に捉えた。男は後ろに仰け反り、赤い液体が飛び散った。男のローブの真ん中が横に大きく破けている。
突然の出来事に男は呆然としていた。メイナはその様子を見ることなく、自分の背中にぴったりとくっついていた。呼吸が背中を湿らせていた。
「くそっ。邪魔をするな! テルトリュートをボクが見つけたんだ。これは、ボクのものなんだ。ボクが、ボクが見つけたんだ」
男は腹に手を当てながら、こちらに向かって歩き出した。歩みを進めるたびに床に血が滴る。
メイナの様子からして、やはり魔法を連発することはできないだろう。ゆっくりと進む男を、自分がどうにかするしかない。だが、何をすればいい。近づいてくる脅威を排除しなければ何が起こる分からない。かといってそれを排除する手立てはない。
自分はあたりを見回した。何か、使えるものはないか、そう思ったからだ。穴の開いた天井、雨が入り込む窓、背後のメイナを拒絶する出口。この部屋にはそれしかない。
この時、自分は違和感を覚えた。メイナの後ろ足が出口の内部、暗闇の中に入っていることいたのだ。昨日、メイナがここに触れたときには、弾かれていたはずだ。それがなぜ、今では弾かれないのか。
もしや、今ならメイナもここを通れるのではないか。理由は分からないが、とにかく逃げ出せる。
これが成功するか失敗するか、そんなことを考えている時間は無かった。今ならば、メイナはこの出口に入れる。根拠はないが、できそうだ。男が追ってくるかもしれないが、それでも袋の鼠よりは良い。
自分はメイナの手を取り、後ろの出口に飛び込んだ。咄嗟の出来事に、男は唖然とした表情をしている。そのまま自分達は暗闇の階段を一気に駆け下った。時折鳴り響く雷鳴なぞ気にせずに、元居た部屋を振り返らずに、一心不乱に駆け下った。右手にはメイナのか細い手をしっかりと握っていた。
メイナの暖かな手が、自分を安心させていた。
書き直しを含めて、色々練り直すために更新を止めます。そのうち、再開します。