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第八章 本当の父親

 両手を縛られて五つの対人地雷を上半身に貼り付けられた、若い女の奴隷が、一本道の廊下の向こうに立っているのを見つけた、ぼくは、音速で走りながら、とっさに手に持っていた刀を、両肩に担いでいた死体の脚に刺して(死んでいるから問題ないだろ)両手を空ける。


 そして、ぼくは、走る速さを緩めずに、刀を刺してない方の二つの死体を、両方の手にそれぞれ一つずつつかんで、その奴隷の前で急停止すると、つかんだ二つの死体で、その奴隷の上半身を押さえ込む。


 その瞬間に、ここの軍人たちが遠隔操作で起爆したのだろう、その五つの対人地雷が同時に爆発して、合計三千五百個の細かい鉄球が外側に向けてばらまかれる。


 ドドドドドカン!


 その爆発の反動で、奴隷の身体は大きくはじかれて後ろに倒れるけれど、対人地雷の爆発は外側にのみ向けられるので、その身体には爆発による直接の被害はない。


 そして、その爆発でばらまかれた鉄球のおよそ三千発によって、ぼくが両手につかんだ二つの死体が破壊されて、そこからはみ出した数百発が周囲の壁や床や天井にくい込む。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!


 でも、そのうちのわずか数十発ではあるけれど、ぼくの脚にもその鉄球がくい込んで、肉を引き裂いて骨まで砕いたので、ぼくは倒れてしまう。


 ただ、それでも脚がちぎれた訳ではないので、その程度の傷なら、人間の血を吸わなくても、吸血鬼の能力ですぐに再生される。


 それで、ぼくは、自分の脚の骨や肉が再生されていくのを見ながら、腰にぶら下げていたダクトテープで、素早く脚のライダースーツの破れた部分をぐるぐる巻いて、それから倒れた奴隷を見る。


 その奴隷の女は、後ろに倒れたまま気絶しているみたいだけれど、死んではいないようだったから、ぼくは、今後、自分たちの食料になる予定の無害な人間が死なずにいてくれて、本当にほっとする。


 そして、それと同時に、貴重な人間の命を軽く扱うここの軍人たちに対する怒りで、ぼくの心はいっぱいになる。


 ぼくら吸血鬼の食料である人間を、意味もなく減らすような者たちは、絶対に生かしておく訳にはいかない(人間だって、もしも牧場の中に同じ仲間を殺す牛がいたら、その牛を絶対に殺すよね)


 それで、ぼくは、再生された脚で立ち上がると、その倒れている奴隷が、気を失っている間に吐いたりしても気道を詰まらせないように、その顔を横に向けておく。


 それから、対人地雷で破壊されなかった無事な方の二つの死体を再び両肩に担いで、その死体の脚に刺していた刀を抜いて、ぼくは再び高速で走り出す。


 そして、その一本道の廊下の突き当りの角を曲がって、その先の廊下に出ると、そこには何十本ものワイヤーが張られていて、その全てが対人地雷につながっていた。


 だけど、そんな動かないワイヤーくらい、吸血鬼の動体視力と反射神経なら簡単に避けられるので、走る速さをほとんど落とさずに壁や天井を蹴って軽くすり抜けて、ぼくは地下の巨大な円形の広間に出る。


 その広間は、二階層の吹き抜けになっていて、ぼくが出た場所は二階の部分の外周をまわる廊下だったので、そこから見下ろすと、一階の部分に軍人たちおよそ百人が、フルオートで連射できる散弾銃を構えて待ち構えているのが見えた。


 それが、予想していた人数よりもかなり多かったので、ぼくは驚いたのだけれど、それよりももっと驚いたのは、その広間の二階の廊下全体に対人地雷がびっしりと並べられていた事だ。


 ここの軍人たちは、音速で動くゾンビがここまで侵入した場合の事もちゃんと考えて、その準備をしていたという訳だ。


 それで、ぼくが、二階の廊下の手すりを越えて一階部分へ飛び出すのと同時に、二階の廊下にあった全ての対人地雷が(さっき通ったワイヤーが張られていた廊下のも含めて)いっせいに爆発して、さらに一階にいた軍人の全員が散弾銃をフルオートで連射し始める。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドカン!


 ババババババババババババババババババ!


 その時、空中にいた、ぼくは、頭上を通り過ぎていく対人地雷の無数の鉄球の下を落下しながら、一瞬の判断で刀を捨てて、肩に担いでいた二つの死体を両手につかんで、それでなんとか上半身を守りながら、正面から迫って来る無数の散弾の中に突っ込む。


 そして、そのまま一階の床の上に落ちた、ぼくは、人間には反応できない速さで、両手につかんでいた破壊された死体を捨てると、腰の部分にまだかろうじて装着されたままだった短刀を抜いて、それで自分の背骨を切断して、ズタズタになって使い物にならなくなった自分の下半身を捨てる。


 スパッ!


 それから、上半身だけになった、ぼくは、短刀を持ってない方の手で素早くフルフェイスのヘルメットを脱ぐと、腰の切断面から大量の血を流しながら両手で床をはじいて跳ぶ。


 どぼどぼどぼどぼどぼどぼ!


 そして、ぼくは、空中でそばにいた軍人の両手の指を切断して、その銃を離させる。


 スパッ! スパッ!


 それから、短刀を捨てて、その軍人が持っていた銃をつかみながら、ぼくは、そのままその軍人に覆い被さって、のど笛を噛んでその血を吸いながら、手に持ったフルオートの散弾銃を短く区切りながら撃つ。


 ババ! バ! バ! ババ!


 吸血鬼の力で、銃の反動を抑えながら、さらに吸血鬼の反射神経で銃の動きを補正して撃てば、たとえ人間ののど笛を噛んで、そこにぶら下がりながらの射撃でも、その命中率はとても高く、ぼくは、周りにいる軍人たちの頭を次々と粉砕していく。


 グシャ! グシャ! グシャ! グシャ!


 すると、空中に向けて銃を撃っていた軍人たちも、ようやくその銃を下に向けて、ぼくの方を狙い出したので、ぼくは、その軍人の身体から予備の弾倉を奪って、手でその軍人を突き飛ばして床に転がる。


 その時までに、ぼくが、その軍人から吸えた血の量は下半身の再生には足りなかったけれど、出血した分は多少なりとも補えたし、腰の切断面の皮膚も再生されて出血は止まったから、戦うのに問題はない。


 それで、ぼくは、上半身だけの身体で床を転がりながら銃の弾倉を交換すると、そのまま床から銃を撃って、又、転がり、又、撃って、弾がなくなったら予備の弾倉を近くの軍人から奪って交換するという行動を、高速でくり返して、軍人たちの頭を粉砕し続ける。


 バ! ババ! バ! バ!


 グシャ! グシャ! グシャ! グシャ!


 そして、ぼくが、そういう攻撃をしていると、軍人たちは、ぼくの動きを追いきれなくて混乱して、味方どうしで撃ち合う事になって、立っている軍人の数はどんどん減っていく。


 だから、ぼくは、その混乱の隙に転がって移動をしながら、まだ息がある倒れた軍人の血をこっそり吸って、少しずつ身体を再生させていく(ただし、その前に、ぼくは死んでいる軍人のズボンを脱がせて、それを履いておいた。でないと下半身を再生させた時に、ちんこが丸出しになって変態みたいになるからだ)


 そうやって、しばらくしたら、全ての軍人が戦えない状態になったので、ぼくは、ぶかぶかの軍人のズボンの裾を折って、再生した下半身と脚で立ち上がって、あとはゆっくりと歩きながら、床でうごめいている軍人の頭を散弾銃で撃って破壊していった。


 ババ! バ! バ! ババ!


 グシャ! グシャ! グシャ! グシャ!


 こうして、なんとか地下シェルターの制圧に成功した、ばくは、ヘルメットと刀と短刀を回収すると、ズボンの裾を短刀で切って短くして、下半身全体にダクトテープをぐるぐる巻いて、太陽の光を遮断できるようにする(それによって、二十分ほどだけでも、もってくれれば、高層ビルまではなんとか帰れるだろう)


 その後、まだ残っている軍人がいないか、地下シェルターの奥を確かめていった、ぼくは、ある部屋で、今朝、捕まえられた奴隷の残り二人と、その前から捕まっていたであろう奴隷の一人を見つける(たぶん、ここで奴隷が生存できるのはせいぜい三ヶ月くらいで、ここの軍人たちは、奴隷の数が少なくなったらヘリで狩りをするというのをくり返していたのだろう)


 けれど、その部屋には、左右に積まれたダンボール箱の奥に対人地雷がいくつも仕掛けられていて、奴隷のうちの一人でも少しでも動けば、その部屋の中の全てが破壊されるようになっていた。


 つまり、ここの軍人たちは、自分たちが負けて全滅してしまった場合でも、ここへの侵入者を抹殺できるように罠を仕掛けていた訳だ(本当に人間ってやっかいな生き物だよね)


 そこで、ぼくは、さっきの広間から、ぼくが殺した全ての軍人の死体を運んで来て、それをその部屋の左右のダンボール箱の前に積み上げて、対人地雷の爆発を防ぐための壁を作る。


 それから、ぼくは、三人の奴隷を高速で引っ張って(二人はその手を引っ張り、もう一人はその手をダクトテープで縛って、そのテープを首に掛けて引っ張った)それで、どうにか対人地雷が爆発する中で、なんとか三人を無事に部屋の外に出す。


 ドドドドドドドドドドカン!


 この時、ぼくは、その三人の目の前で高速で動いた訳だけど、その三人にとっては、すぐそばで起きた爆発のショックの方が大きかったはずだから、ぼくの速さに気が付く余裕はなかっただろう。


 それから、一応、全ての部屋を周って、もう罠がない事を確認した、ぼくは、最初に廊下で気絶していた奴隷も起こして連れてきて、その四人の奴隷たちを監視モニターがある部屋に集めて、これからこの軍事施設で人間養殖計画を進めるために、大ウソの説明を始める。


「ぼくは、そうは見えないかもしれないけど、国連の仕事の手伝いをしている者だ。それで、さっき、その国連の特殊部隊の人たちによって、この軍事施設は解放された。そして、その時に、あなたたちを不当に扱っていたここの軍人たちは、国際法に基づいて全員が処刑された。だから、これ以降あなたたちは、この場所で国連の保護下に置かれる」


 この大ウソの説明で、四人は、ぽかーんとなってしまうが、ぼくは平然と話を続ける。


「ところで、国連の特殊部隊の人たちは、他にも重要な任務があるので、すでにここを離れている。そのため、これからしばらくは、ぼくが、ここの責任者になる。こんな子供で大丈夫かと思うだろうけれど、今の世界は、あなたたちも知ってのとおり、とんでもない状況なので、国連でも年令などは気にしていられないんだ。でも、ぼくは、一年前に国連に保護されてから、ずっとその人たちから訓練を受けてきたので、悪い人間やゾンビたちとも十分に戦えるので、心配しないでくれ」


 そして、その四人から、とくに異論もないので、ぼくは、さらに話を続ける。


「まず、これから、ぼくは、あなたたちの事を、四号、五号、六号、七号と呼ぶ。これは国連の規定で、現地の人たちの事は本名では呼ばないように、という決まりがあるからだ。ちなみに、一~三号の人は別の場所いるので気にしないでくれ」


 これはもちろん、その四人が、全員、美女だったからだけど、それとは別に、人間の事を名前で呼んでしまうと、もしかしたら、ぼくに、特別な感情が生まれてしまって、後々やっかいな事になるかもしれないのを防ぐためでもある(あと、美女の一~三号がすでに死んでしまっている事は、この四人には絶対に秘密だ)


「それで、これから、あなたたちは、二人ずつで組んで、どちらか一方の組が、必ずこの監視モニターがある部屋にいるようにしてほしい。なぜなら、ぼくは、この場所の管理の他にも任務があって、時々ここを離れないといけないからだ。それで、あなたたちは、交代で二十四時間この監視モニターを見張って、何か気になる事があった時は、後で、ぼくに教えてほしい」


 そこまで言って、十四才にしか見えない、このぼくの言う事を、その四人がちゃんと聞いてくれるのか心配だったけれど、どうやら、むしろ子供にしか見えないからこそ、その四人は、ぼくの事を信用してくれたようで、ぼくの説明については怪しんではいたけれど、とりあえず当面は、ぼくに、従ってくれる事になった。


「それじゃあ、ぼくは、今から、まだ地上に残っている、装甲車に乗っている軍人たちを始末してくる。さっきも言ったとおり、ぼくは子供だけれど、特殊部隊の訓練を受けているので、一人でも大丈夫だ。それと、装甲車の軍人がおかしな事を言ってくるかもしれないから、通信は全てこのままオフにしておいてほしい。それで、ぼくは、装甲車の軍人を始末したら、そのまま別の任務の方に行くので、ぼくが出たら、出入口はすぐにロックしてくれ」


 そう言って、ぼくは、その四人と別れてから、この地下シェルターの内部にも監視カメラがあるので、高速で動いているところを見られないように、人間の速さで走って地上へと向かう。


 ちなみに、その時の、ぼくは、ここの武器庫で手に入れた、ロケットランチャー四本を担いでいた(撃つのは初めてだけど、それはただのロケランで、複雑な誘導装置が付いた対戦車ミサイルではないから、素人でもなんとかなるだろ)


 もちろん、それで攻撃してしまうと、装甲車の一台を失ってしまうが、さっきの部屋の監視カメラの映像で、この軍事施設の別の建物の中に、他にも何台もの装甲車があるのが確認できたので、もうその一台は失っても構わないのだ。


 ところが、ぼくが地上に出ると、装甲車に乗っていた方の軍人たちは、その装甲車ごと一人残らず消えてしまっていた。


 どうやら、その軍人たちは、地下シェルターの中の軍人との通信が切れた段階で、危険を感じて逃げてしまったようだ。


 それで、ロケランで装甲車をふっ飛ばすのが楽しみだった、ぼくは、がっかりしてしまうけれど、早くスミレに、この軍事施設を制圧した事を報告しないといけないので、とりあえず、ここの事は中の四人に任せて、ロケットランチャー四本を担いだまま、高層ビルに戻る事にする。


 そして、ダクトテープを巻いていたおかげで、ライダースーツの破れた部分の身体が黒焦げになる事もなく、ぼくは高速で走りながら、途中で出会うゾンビの首を刀で切断しつつ、来た道を帰る。


 スパッ! スパッ! スパッ!


 ところが、高層ビルに戻った、ぼくが、そこで見たものは、眠っているクロのベビーベッドの前に倒れている、首のないスミレの身体と、そこから流れた血だまりの中に立って、手からスミレの首をぶら下げた、一人の男の姿だった。


 それを見て、ぼくは一瞬で気が付く。


 たとえ、不意を突いたとしても、吸血鬼であるスミレの首を切断するには、吸血鬼に匹敵する能力が必要だ。


 さらに、この場所でスミレを待ち伏せしていたとなると、もともとこの場所で暮らしていた、クロの母親である、あの美女三号と、なんらかの関係があった者と考えるのが自然だろう。


 そして、それら二つの条件を満たす者は、この世界でただ一人しかいない。


 つまり、その男こそ、人狼であるクロの本当の父親なのだ。

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