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第二十一章 再会

 首を切断されたものの、ヘルメットに組み込んであった対人地雷を爆発させて、結合双生児の二人の吸血鬼を倒した、ぼくは、ヘルメットを被った頭だけの状態で、下水道の縁に落ちて転がる。


 そして、対人地雷が爆発して外側が黒焦げのボロボロになった、そのヘルメットを拾い上げつつユキが言う。


「アニキ、大丈夫ですか? ………それにしても、このヘルメットに対人地雷が組み込んであったとは………。首を切断された後でも使える切り札というのは、なかなか考えましたね。でも、両腕を失った状態で、どうやって爆発させたんですか?」


 それに答える、ぼくは、胴体を失って肺に空気を溜められないので、声がかすれてしまう。


「………奥歯に……電波を発信する……スイッチを……仕込んでおいた………固形物を……食べる必要がない……吸血鬼だから……できる方法だ……」


「なるほど……。確かに、口の中にスイッチを仕込んでいたら、間違って作動したら危ないですから、ものを食べるのは無理ですね。血を吸うだけで生きられる、吸血鬼だから可能な方法ですか」


 ユキはそう言って、ぼくの頭の入ったヘルメットを脇に抱えながら、ぼくの首のない身体からブーツを脱がせて、ぼくの短刀と刀を拾いつつ、ツキヨに言う。


「ツキヨ、お前は、この周りに落ちている俺の弓矢を、できるだけ拾っておいてくれ」


 それから、ユキは、ぼくの頭とブーツと刀と短刀を床に置いて、スミレの切断された下半身からブーツを脱がせて、コハクの二本のワイヤーを拾い上げてから、スミレの上半身を抱き上げて言う。


「アニキ、今から人間たちが捕まっていた部屋に戻ります。あそこには、たぶん、まだ生きている人間が残っているはずですから、そこで、アニキとスミレさんとコハクさんの身体を再生させましょう」


 それで、ユキは、ツキヨが拾った弓矢を受け取って自分の矢筒に入れると、ぼくの頭とスミレの上半身を抱えて、さらに、ぼくの刀と短刀と二人のブーツと、コハクの二本のワイヤーを持って、ツキヨと両腕のないコハクを連れて、横穴から人間たちが捕まっていた部屋に戻る。


 そして、ぼくがユキに手伝ってもらいながら全身を再生していると、その間に、コハクは自力で血を吸って両腕を再生してから、スミレが下半身の再生をするのをマントで隠してあげるのだけれど、そうするとスミレがコハクに対して驚きの声を上げる。


「ちょっと待って! あんた、何でマントの下に何も着てないのよ!」


「えーと………洗濯していたらゾンビが出てきて、夢中で逃げたから服がない………みたいな?」


「はあ? あんたは全裸になって、全部の服をいっぺんに洗濯するのかよ! そんな訳ないでしょう!」


 それで、その話に巻き込まれると、コハクが十四年前からマントの下には何も身に着けていない事をうっかり話して、過去の事がバレる危険があるので、ぼくは、聞こえないふりをして血を吸う事に専念する。


 そして、三人の身体の再生が完了したら、それぞれで再生した部分にダクトテープを巻いて、とりあえず太陽の光を防ぐようにしてから、自分たちが血を吸いつくして死んだ人間が、後でゾンビに喰われてもゾンビ化しないように、その首を切断しておく。


 スパッ! スパッ! スパッ! スパッ! スパッ!


 それから、ようやく全員で地上に戻ると、月もかなり傾いていて、もう何時間かで夜が明けそうになっていて、スミレが言う。


「なんだか、予定外のヤツとも戦っちゃったけれど、当初の目的だった人狼軍人たちを倒せたんなら、これでもう私たちが制圧した軍事施設が襲われる心配はなくなった訳でしょう? だったら、さっさと戻って早くクロに会いましょうよ」


「スミレ、早く帰りたい気持ちは分かるけど、その前に、ぼくの隠れ家の一つに寄らせてくれ。ぼくは、このヘルメットを新しいものと交換しないといけないし、ずっとダクトテープで代用しているけど、そろそろ、ちゃんとしたライダースーツにも着替えたい。あと、その隠れ家には、お前のライダースーツの予備も取っておいてあるし、ぼくのを、業者がサイズを間違えて作ったものもあるから、ユキに合うサイズもあるかもしれない。なにしろユキは、もう吸血鬼になった訳だから、太陽の光を防ぐヘルメットを被らないと、昼間に外へ出たら黒焦げになって死んでしまうからな」


「え? ユキって、いつの間に吸血鬼になったの?」


 それで、ぼくは、ユキがウィルスに感染した人狼軍人に首を噛まれた事と、その頭を切断して感染するのを防いでから、ぼくが吸血鬼の毒を注入して生き返らせた事を説明すると、スミレは驚く。


「あら、人狼のくせに、よく吸血鬼の毒に適応したわね! 無事に吸血鬼になれる可能性は、人狼の方が人間よりも、さらに確率が低いのよ!」


「え! そうだったんですか! 俺って、思ったよりも運が良かったんですね……」


 そうやって、今ごろ自分が奇跡的に生き延びた事を知ったユキに向かって、ぼくは言う。


「だから、せっかく生き延びた、お前が、もう一度死なないように、太陽が昇る前に急いで、ぼくの隠れ家まで行く必要があるんだ。コハク、今から目標になる場所を言うから、お前のスマホの地図アプリで最短の順路を調べてくれ」


 そして、コハクの案内で、ぼくの隠れ家へ向かって全員で高速で走って、なんとか夜明け前にそこに到着する。


 その隠れ家は、山奥にある、ずっと昔に閉鎖された炭鉱のほら穴だ。


 ぼくは、まだ人間だった頃に、その炭鉱の話を聞いていたので、地図にも記載されてないその場所を探し出して、自分の隠れ家に改造したのだ。


 だけど、ぼくは、ある事に気が付いて、全員を、そのほら穴から少し離れた場所に待機させたので、スミレが尋ねる。


「どうかしたの?」


「昼でもほとんど見えないから、知っている者でないと気が付かないけれど、あのほら穴の右上の方に薄く煙が上がっている。あれは、ぼくの隠れ家の中にある発電機を動かした時に出る排気の煙だ。つまり、ぼくの隠れ家の中に誰かがいるんだ」


「そんなの、あんたの隠れ家なんだから、追い出したら良いじゃないの」


「いや、あの隠れ家は、核シェルターとしても使えるように、ほら穴を少し入ったところにある出入口の扉は、めちゃくちゃ丈夫な鋼鉄製のものを、大金を払って専門業者に設置させたんだ。だから、中からロックされたら外からは絶対に開けられないんだ……」


 ちなみに、その時に払った大金は、麻薬取引の現場から音速で奪って用意したものだ(その現場では、お金がどこにいったのかで、かなりもめただろうね)


「えー! じゃあどうするのよ!」


「………こんな場合のために、秘密の出入口を別に用意してある……。あのほら穴の左上の岩のすき間に、小さい穴があいているのが見えるだろう? 実は、あそこから中へ細い穴が通じているんだ……。ただし、そこから中へ入るには、ぼくの十四才の身体でも、余計な部分を切断して小さくしておかないと、途中で引っ掛かってしまう……」


「………あんたらしい秘密の出入口ね……」


「アニキさん、私なら、このままの身体で入れるでしょう? 私が中に入って、扉を開けます!」


「待て、ツキヨ。中にいる人間がどんなヤツで何人いるかも分からないんだ。それが人狼か吸血鬼の可能性もあるから、お前を一人で入れる訳にはいかない。それに中の構造を知っているのは、ぼくだけだから、ぼくが中に入る」


「けれど、アニキ、身体を切断して中に入って、もしも吸血鬼がいたら、そのヘルメットの切り札も使ってしまった後ですから、絶対に勝てないですよ! その場合はどうするんですか?」


「それを、さっきから考えていたんだ………ところで、誰か丈夫なひもを持ってないか? 十メートルくらいあるやつ」


 すると、コハクが条件に合うひもを持っていたので、ぼくは、それを受け取るとスミレに渡して、刀と短刀を身体から外しながら、今、思いついた作戦をみんなに説明する。


「コハク、まず、お前は、ぼくの身体の、胸から下の部分を八個くらいに細かく切断しろ。次にスミレとツキヨは、ぼくの短刀と、その切断された身体を順番にひもで結んで、そのひもを、ぼくに持たせてくれ。そして最後にユキが、ぼくの胸から上の部分を、あの小さな穴に投げ込むんだ。そうしたら、ぼくは、ひもを持ったまま、あの小さな穴の中を高速で這って進んで、ほら穴に到着したら身体をつなぎ合わせる。たぶん、切断から七秒くらいでつなげれば、ちゃんと身体は接合するはずだから、それでほら穴の中に吸血鬼がいても戦えるだろう」


「………少年、君は相変わらず、むちゃくちゃな作戦を立てるなあ……。じゃあ、私がワイヤーで君の身体を切断するから、スミレさんとツキヨちゃんは高速で動いて、三秒以内にバラバラになった身体をひもで結んでね。それから、すぐにユキ君が胸から上の部分を投げれば、三秒半くらいの時間は残るから、君は、その間にほら穴に入って身体をつなぎ合わせるのよ」


 それで、ぼくが両手を上げて立つと、コハクがワイヤーで身体を切断してくれて、スミレとツキヨがバラバラになった身体をひもで結んでくれるので、ぼくは胸から上だけの状態でそのひもを持って、ユキに投げられて、ほら穴の左上にある小さな穴に入る。


 それから、高速で這って細い穴を進んだ、ぼくは、ほら穴に到着すると、ひもを引っ張って身体をつなぎ合わせていく。


 そして、運よく全ての身体を接合できた、ぼくは、ダクトテープを身体に巻き直してから、ほら穴の出入口まで慎重に進むと、どうやら、そこにいる誰かは、ほら穴の奥にいるようで、誰にも会わずに扉のところまで行ける。


 それで、何事もなく扉のロックを解除した、ぼくは、扉を開けて、みんなをほら穴の中に入れるけれど、問題はここからだ。


 なぜなら、この出入口の扉のロックの状態は、ほら穴の中のあらゆる場所で分かるようにしてあるので、それを解除した事は、中にいる誰かにも分かったはずだからだ。


 だから、ぼくたちは、それぞれの武器を構えて、ゆっくりと、ほら穴の中を奥へと進んで行く。


 そして、ほら穴の奥で六~七人ほどの人間が銃を構えているのを見付けた、ぼくは、すぐに音速で攻撃しようするけれど、その瞬間に、その中の何人かの顔を知っている事に気が付いて、慌てて後ろの連中を押し戻して、ほら穴を引き返す。


 それから、ほら穴の奥で銃声が鳴り響く中で、曲がり角のところで止まった、ぼくに、スミレが尋ねる。


「どうしたの? あんたらしくないわね? 攻撃してきた人間には容赦しないんじゃなかったの?」


「おじいちゃんと、おばあちゃんだ………」


「はあ?」


「スミレ、お前の、死んだお母さんの両親と、ぼくの両親がいる………つまり、お前のおじいちゃんと、おばあちゃんが、四人みんなそろっている……………………」


「ええ?……………それって……どうするのよ!」


 吸血鬼になった事を隠すために十四年前に一般社会から消えた、ぼくと、三年前にひん死の状態から吸血鬼になって、その事を知られる前に病院から消えたスミレが、その当時のままの姿で、今、ここにいる訳だけど、いくら世界が崩壊した後とは言っても、普通に考えれば、ここで両親たちと再会するのはマズいはずだ。


 でも、ぼくは、ちょっとだけ考えてしまう。


 ひょっとして、行方不明になった時にタイムスリップして、今、ここに現れたと言ったら、ぼくの両親はそれを信じたりしないだろうか?

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