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第二十章 切り札

 身体の腰の部分がつながったまま生まれてきた結合双生児である、その二人の剣士は、互いの意思を完全に一致させる一心同体の存在だから、それぞれが両腕に持つ合計四本の刀の動きに、全く隙がない。


 しかも、その二人ともが吸血鬼で、さらにゾンビウィルスにも感染して理性すらないから、もう、それは本能だけで人を殺す悪魔のようなもので、ぼくとしても、どう攻めたらいいのか見当も付かなかった。


 それで、すでに刀を持つ方の腕を切断されていた、ぼくは、その二人から距離をあけると、短刀を持った方の手でユキに合図して、弓矢での攻撃を止めさせる。


 それは、これ以上攻撃しても、どうせ全てはじかれてしまうのなら、弓矢を無駄に消費させない方が良いと思ったからだ(ユキの弓矢は、戦いながら回収しないと途中でなくなってしまうので、なるべく無駄な消費は避けないといけないのだ)


 すると、その二人は、ぼくたちが攻撃をするのを止めると、刀を降ろして微動だにせずに、こちらが動くのをひたすら待ち続ける。


 その二人は、こうした緊張状態がずっと続くのにも全く平気な様子だから、焦らして隙を誘うのも難しそうだ。


 それで、ぼくは、少しずつ後退して、ユキの近くまで行ってから言う。


「ユキ、ツキヨを、ぼくに肩車させてくれ。あの二人が、ツキヨの炎にどう対応するのか確かめてみたい」


 それを聞いたユキは、ツキヨを、ぼくの肩に乗せながら答える。


「アニキ、スミレさんとコハクさんが合流するまで待った方が良いんじゃないですか? こっちが五人になれば、あの二人が相手でも確実に勝てるでしょう?」


「いや、そうとは限らない。人数が多ければ勝てるような、単純な相手じゃないからな。それに、あの二人だって相手にする人数が多くなれば、その攻撃を避けるために動きまわるようになってしまうから、その前に、いろいろな攻撃を試して攻略の糸口を見付けたい」


 ぼくは、そう言うとすぐに音速で跳ぶ。


 ドン!


 そして、下水道の壁や天井や床を蹴ってジグザグに移動しながら近付いて、短刀で斬りかかると見せかけて、その二人の刀の間合いのギリギリ手前で踏みとどまると、燃料を口に含んだツキヨに炎を吹かせる。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 でも、その二人は、一本の刀を風車のようにぐるぐる回して、汚水を巻き上げながら、炎を防ぐ。


 ズシャャャャャャャャャャャャャャャャ!


 ツキヨの炎は、千七百度くらいにはなるはずだから、それを長く受けてしまえば、刀でも熱で弱くなってしまうのだけれど、汚水で冷却されれば、その効果は薄い。


 それで、ぼくは、すぐに飛び退いて、再び間合いをあける。


 この下水道の中には、ほとんどの場所に汚水が流れているから、地上の水がない場所までおびき出さないと、ツキヨの炎は効きそうにない。


 だけど、地上におびき出そうとして、ぼくたちが逃げた場合に、追って来た二人の攻撃を、ちゃんと、さばききれるのかどうかが問題だ。


 それで、どう考えても、あの二人の攻撃を一人でさばくのは難しいから、逃げて一人ずつ個別に攻撃されるのは避けた方が良いだろうと判断する。


 そして、ぼくが、そう考えていると、ようやく、スミレとコハクがいっしょになって走って来て、ユキの後ろで止まる。


「………あんたたち、何やっているのよ? その二人の男は何? 人狼軍人たちじゃないわね?」


 そのスミレの質問に、その二人から目を離さずにユキが答える。


「スミレさん、人狼軍人たちはアニキが倒しました。でも、あの二人は、それよりもっと危険な相手のようです。どうやら結合双生児らしく、二人の意思が完全に一致するみたいで、隙がないんです。しかも二人とも吸血鬼でゾンビウィルスにも感染しています」


「なによ、それ。そんな危険な相手は放っておいて、さっさと逃げればいいでしょう?」


「ダメだ、スミレ。逃げれば一人ずつ、あの二人に殺されるだけだ。それに、こんな危険なヤツを放っておいたら、これからずっと意味もなく人間を殺されて、人間養殖計画だって妨害されるかもしれない。だから、今すぐ倒すんだ!」


 そう言って、ぼくは、ツキヨを肩車したまま、再びその二人に向かって音速で走り出す。


 ドン!


 それからすぐに、コハクが下水道の壁を走り出して二本のワイヤーを同時に放ち、ユキもその場で弓矢を放ち出すので、仕方なくスミレも、鎖でつながった二本の斧を背中から外すと、跳んで天井を蹴りながら、その二人の方へ突進する。


 ドン! ビシッ! ビシッ!


 ビュッ! ビュッ! ビュッ! ビュッ!


 ドン!


 それで、その二人は、一本目と二本目の刀でコハクが放った二本のワイヤーを受け止めると、三本目の刀でユキの弓矢をはじきながら、四本目の刀で、ぼくの短刀を受け止める。


 キン! キン! キン! キン!


 そうやって、その二人の四本の刀の全てを封じたところで、ぼくに肩車されたツキヨが炎を吹き、空中にいるスミレが鎖でつながれた斧の片方を投げる。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ヒュン!


 すると、その二人は、かがんで体勢を低くしながら身体をひねって炎と斧を避けつつ、ぼくの刀をはじいて、斜め前へ跳んでコハクとの距離を詰めると、刀に絡んでいたコハクのワイヤーが緩んだのを払いのけて、ユキの弓矢を刀ではじきながら、コハクを斬る。


 キン! キン! キン! ザシュッ!


 コハクは身体を反らして、その刀を避けつつ、取り出した手榴弾のピンを抜いて、後ろへ跳びながら、それを自分の前に放り投げる。


 それで、その二人が、コハクとは反対の方向へ跳んで、手榴弾から離れながら、なおも放たれるユキの弓矢を刀ではじいている時に、その手榴弾が爆発する。


 キン! キン! キン! ドカーン!


 その爆発で汚水が巻き上げられる中で、スミレが斧の片方を投げ、それと同じタイミングで、ぼくが短刀を構えて突進しながら、ぼくに肩車されたツキヨが炎を吹き、さらに続けてユキの弓矢が放たれる。


 ヒュン!


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ビュッ! ビュッ! ビュッ! ビュッ!


 その二人は、一本の刀でスミレの斧をはじきながら、二本目の刀を回してツキヨの炎を防ぎつつ、三本目の刀でユキの弓矢をはじいて、四本目の刀で、ぼくの短刀を受け止める。


 キン!


 ズシャャャャャャャャャャャャャャャャ!


 キン! キン!


 そこへ、コハクがワイヤーの一本を放って、その二人の脚を払う。


 ビシッ!


 すると、その二人は、ぼくの刀をはじきながら天井へ跳んで、そのワイヤーを避けるので、すかさずスミレも天井へ跳んで二本の斧で斬りかかり、さらにコハクが続けてもう一本のワイヤーを放つ。


 けれど、その時にちょうどユキの弓矢がなくなってしまい、その二人は、スミレの二本の斧と、コハクの一本のワイヤーを、三本の刀で受け止めると、四本目の刀でスミレの胴体を切断してしまう。


 キン! キン! キン! スパッ!


 そして、上半身だけになったスミレが落下してくるのと入れ替わりに、今度は、ぼくが短刀を構えながら天井へ向かって跳ぶけれど、その時には、すでに、その二人は天井を蹴ってコハクの方へ跳んでいる。


 それで、コハクは前と同じように、飛び退きながら手榴弾を投げるのだけれど、その二人は、今度は刀に絡んだコハクのワイヤーをほどかずに、逆に引っ張ったので、コハクはとっさにワイヤーを離したものの、わずかに逃げ遅れてしまって、爆発でふっ飛ばされると同時に、頭をかばって前へ出した両腕がちぎれてしまう。


 ドカーン! ぶちっ! ぶちっ!


 それを見た、ぼくは、天井を蹴って、その二人へ向かって跳びながら、肩車をしていたツキヨの身体を突き飛ばして、一人で短刀を構えて突進する。


 そして、その二人に対して、上半身だけになって倒れていたスミレが斧の一つを投げて、ぼくに突き飛ばされたツキヨが空中で炎を吹くけれど、ぼくの短刀も含めた全ての攻撃を、その二人が持つ三本の刀で防がれてしまうと、残った一本の刀で、ぼくは、首を切断されてしまう。


 キン! キン! キン! スパッ!


 そうすると、弓矢のないユキと、上半身だけになって移動ができないスミレと、両腕を失ったコハクと、一人では高速での移動ができないツキヨだけになって、普通に考えれば、このまま全滅するのを待つだけの状況になってしまう。


 でも、ぼくは、切断されて空中を回転している自分の頭が、その二人の頭のちょうど間に来た時に、ずっと前から奥歯に仕込んであった極小のスイッチを舌で押す。


 すると、そのスイッチからの無線による信号で、ぼくのヘルメットに組み込んであった対人地雷が爆発して、外側へ向けて飛び散った無数の細かい鉄球が、その二人の頭を完全に破壊する。


 ドカン! グシャャャャャャャャャャャ!


 このヘルメットに組み込んだ対人地雷こそが、世界が崩壊する前から用意しておいた、ぼくの切り札だった(もちろん、対人地雷の爆発は外側にのみ向けられるので、ぼくの頭は無傷だ)


 こうして、ぼくたち五人は、結合双生児であるウィルスに感染した二人の吸血鬼を抹殺するのに、どうにか成功したのだ。

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