第132話 血の誓約と増幅結界
転移魔法陣で飛行戦艦の甲板――といっても、草木に覆われた島の上部だが――に出ると、先ほど倒したゴーレムの凍結が解けて、配置に戻っていた。
よくよく見ると、ゴーレムの足元にも紋様が描かれている。再生に回す魔力があれば、損傷を回復できるようだ――戦力としてはAAランク、熱線の威力だけなら瞬間的にSランク相当になると考えられるが、警備としては十分といえる。
王宮北部の山脈に雲がかかっていて、一度飛行戦艦はそちらに身を隠すことになった。姿を消す機構はあるのだが、使用する条件があるので、グラスゴールは後で相談したいと言っていた。
俺はバニングを呼んでその背に乗り、仲間たちと合流する。ヴェルレーヌが『翼を持つ者』の召喚を解いて、彼女もバニングの背に降り立った。
「ふむ……グラスゴールが拘束条件を求めていると。シャロン、おまえはどう思う?」
「シャロンさん、ヴェルお母さんが呼んでるので来てくれますか?」
スフィアがシャロンを召喚する――召喚術のエキスパートであるヴェルレーヌの能力を継いでいるとはいえ、当然のようにやってくれるので感心してしまう。
「グラスゴール様に勝ってしまうなんて……流石は、スフィア様のお父様です。途方もなくお強くていらっしゃいますね」
「シャロン、貴族たちとの交渉は上手くいったのか?」
「はい、私の家……ハーヴェイ伯爵家として、国内の混乱を治めるために貴族同士の連携を強めることを提案しました。グラスゴール様に恭順していた貴族たちに、急に方針を変えてもらうわけにはいきませんでしたが、その状況も変わるでしょう」
金髪紅眼の『夜を這う者』は、その貴族たちへの影響力を如何なく発揮してくれた。まだ各地で散発的に混乱はあるだろうが、それも国王側についた軍と、貴族が連携することで静まるだろう。
グラスゴールについた軍についても、中央平原での敗戦で多くの兵が戦意を失い、シェイド将軍とジナイーダ将軍の軍に吸収された。王宮を包囲して陥落させること自体は、もはや難しいことではない。
「……グラスゴール様が、『枷』を求めておられると。そういったことであれば……状況に便乗しているようで、少し遠慮はあるのですが……」
シャロンが艷やかな唇に指を当てる――しかし彼女の言う通り、それは恥じらうべきことのようで、白い肌がかすかに朱に染まっている。
「血を……少量だけ頂くだけで、十分な制約にはなると思うのですが……」
「グラスゴールは同じことをシャロンに強いたのだから、それくらいの罰は受けて然るべきだろう」
「ふぇ~、シャロンちゃんって言ったっけ? 血を吸っちゃうとどうなるの?」
「吸血種は、血を吸った相手を従僕にできるというけれど……スフィアの眷属になっていたなんて。私たちがいない間のことを、色々と報告しなさすぎじゃないかしら」
「べ、別行動が多かったからな……その辺りは大目に見てくれ」
ミラルカにじっとりと見つめられ、思わず冷や汗が出る。報告できるタイミングも無かったと思うのだが、それを言ったらより不機嫌にさせることだろう――と、戦々恐々としていると。
「ディック、ジナイーダ将軍の部隊が旗を上げているよ。シェイド将軍の部隊も近くまで来ているし……王宮包囲の前に、話しておくといい」
「王宮については、私から降伏を勧告したいと思っています。アルベインの神は、無血での開城を望んでおられます」
ユマの力を持ってすれば、それが現実にできてしまうのだから、俺は頷く他はない。
「ああ、できるだけ穏便に済んだほうがいい。イリーナ、ユマとコーディを連れて行ってきてくれるか」
「は、はい……このイリーナ・ビュフォン、そのような大役を仰せつかり、誠に光栄に存じて……っ」
「アルベインからこちらに来てくれただけでも、十分に貢献している。よくぞ来てくれた」
「っ……そ、そのような……ヴェルレーヌ先王様、私には身に余るお言葉です……っ」
感極まるイリーナだが、目を拭うと、ユマと念のための護衛を務めるコーディと共に、ラトクリス王宮に向けて黒竜を駆る。
ジナイーダ将軍とシェイド将軍がそれぞれに伝令を交わしたのか、単騎で部隊を離れて合流地点に向かう。俺はバニングに頼み、その場所に向かってもらう――最初は閃火竜の巨躯に驚いていた将軍たちだが、俺たちの姿を見ると安堵したように手を振る。後から黒竜に乗ったミラルカたちもついてきた。
「ジナイーダさん、元気そうで良かった……っ」
スフィアがバニングを降りてジナイーダ将軍に駆け寄る。乗っていた馬を降りると、ジナイーダ将軍はスフィアを抱きとめた。
「スフィアちゃん……それに、あの方がデュークお父様ね……っ、そ、そちらにいらっしゃるのは……っ」
俺はもう一つの名前を名乗っていたので、仮面を付けている――事情を察した仲間たちも皆仮面をつけているが、ヴェルレーヌだけはラトクリスでも名が知られているので、顔を隠すことはしていなかった。
ジナイーダ将軍も、シェイド将軍も恐縮しきっている――ここまで有名なのかと皆の視線を浴び、ヴェルレーヌはほんの少し顔を赤くしていた。
「ラトクリス四将軍の一人、ジナイーダ殿か。投獄されていたと聞いたが、よくここまで軍をまとめ、立て直したものだ。その不屈の精神に敬意を表する」
「私は……この度の内乱においては、ただ無力をさらしたのみに過ぎません。全ては私を助けてくれた彼女……スフィアさんと、その父君のおかげです」
「父君……というと、我が夫ということにもなるか、デューク殿は」
「っ……ヴェ、ヴェルレーヌ様の……スフィアちゃん……いえ、スフィア様……?」
「え、えっと……本当のことを言いますけど、私は、お父さんやお母さんたちの力をもらって生まれた精霊なんです」
スフィアが正体を明かすと、ジナイーダさんは魂が抜けそうなほど驚いていた――いつも冷静な彼女でも、流石にそうならざるを得ないだろう。
シェイド将軍は一瞬気を失っていたようだが、すぐに気を取り直した。シャロンが『至高の魔王』と呼んでいるだけあって、ヴェルレーヌがどれほどラトクリスにおいても偉大な存在かを改めて確認させられる。
「いやはや……只者ではないと思っておりましたが、そのようなことを伏せられているとは人が悪い。将軍とはいえまだ若輩の身ではありますが、これほど驚かされたのは生まれて初めてです」
将軍が若輩というのも不思議な言い回しだが、ヴェルレーヌの前ではシェイド将軍も、青年騎士であった頃の気分に戻るのだろう。
「私のことは、今まで通りに呼んでください。ジナイーダさん」
「ええ……ありがとう、スフィアちゃん。でも、簡単に抱きしめたりはできなくなってしまったわね……」
「そんなことはない。私たちの娘は人懐っこいのでな……彼女の言う通り、今まで通りに接してもらえるだろうか」
そう言うヴェルレーヌは、素直に母親らしく見える――だがそんなことを意識すると、非常に落ち着かないものがある。
(……簡単には籠絡されてやれないと思ってたが。ずっとそうと決まったわけでもない……のか……?)
俺を見て微笑むヴェルレーヌの顔を、正面から見ることすら落ち着かなくなる。だが、もちろん皆が見ているので、動揺を顔に出してはならない――ミラルカがさっきからずっとじっとり見てくるのだが、彼女はなぜかふぅ、と息をつくと、師匠やアイリーンと目配せをしていた。無言の圧力が凄いことになっている。
「しかし……私だけが母親代表のような顔をしていると、他の皆に申し訳ないな」
「……デューク殿、あなたっていう人は……娘さんを静かに見守っているお父上だと思っていたけれど、そんな秘密を隠しているなんて」
「説明するたびに驚かれるからな……そ、それに、正確には妻っていうわけじゃない。スフィアの父親と母親というのは事実だが」
「いえ、そのような言い分は通りますまい……と、この若輩が申し上げていいことでもありませんな。デューク殿、ヴェルレーヌ様のみならず、スフィア殿の母君たちは類稀な才を持っておられる。彼女たちの中核であるあなたの度量には、同じ男として羨望を覚えます」
仮面の下で皆が赤面しているのが分かる――俺は出立の挨拶をしようと思っていただけなのに、これは何かの拷問だろうか。シェイド将軍に悪気はなくとも、この空気の中ではとても平常心ではいられない。
「……デューク殿、スフィアちゃん。そして、皆様方……私たちはこれより、王宮を包囲し、制圧を試みます。ここまで辿り着くことができたのは、全てあなた方のおかげです。このご恩は、いずれ必ず……」
「王宮だが、もう敵の戦意は削いである。戦う必要はないはずだ」
「っ……あの、中央平原での戦のときのように、司祭殿が聖歌を……?」
俺は頷く――ほぼ同時に、王宮に白い旗が上がる。
普通なら難しいことでも、ユマなら不可能ではない。彼女の遍く地平にまで広がるような『神の愛』は、やり方によっては、大陸から戦を消すこともできるだろう――一定以上の力を持つ相手には通じなくても、唯一無二の価値があることには違いがない。
「さあ、王宮を取り戻してきてくれ。俺たちはグラスゴールに、まだ協力してもらうことがある。あの浮上した島は少し借りさせてもらうと、ラシウス王に伝えてくれ」
ラトクリスの王族が監視してきた遺跡が、あの浮遊島そのものであること。それをグラスゴールが浮上させたこと――説明すべきことは多いが、ジナイーダ将軍はそれを尋ねることはしなかった。
「承りました。もし許されるのなら、私もあなたたちの……」
ジナイーダ将軍は言いかけるが、自分の部下である兵たちがいる方向に視線を送り、言葉を飲み込んだ。
シェイド将軍は何も言わず、俺たちに敬礼したあと、自分の馬に乗る。そして、自分の部隊へと馬を走らせ、戻っていった。
ヴェルレーヌはジナイーダ将軍に右手を差し出し、固く握手を交わす。いつも落ち着きのあるジナイーダさんが、緊張している様子が見て取れる――だが、ヴェルレーヌが微笑みかけると、幾分表情が和らいだ。
「この国に安寧が戻ったあと、改めて話したいものだ。それまで、この国を……メルメアたちのことを、支えて欲しい」
「はい……ヴェルレーヌ様。この剣に誓わせていただきます。皆さん、どうかご武運を」
ジナイーダさんは一礼し、最後にスフィアと握手をして、馬に跨る。
「――はっ!」
掛け声と共に、ジナイーダさんの駆る芦毛の馬が、森を抜ける道へと走っていく。その姿が見えなくなったころ、ユマたちの乗った黒竜が、作戦成功を示すように空中でゆるやかに弧を描いた。
俺たちもまた、飛行戦艦に戻るべく竜に乗って飛び立つ――そして高度をある程度上げたときのことだった。
「あっ……ディック、メルメアちゃんがっ……!」
別の竜に乗っているアイリーンが声を上げる。離宮の方角から飛んできた一匹の竜――その上に、メルメアが乗っていた。離宮にも別の黒竜が飼われていたということだろう。
メルメアは大きく手を振ってみせる。一度戻るべきかとも思ったが、ヴェルレーヌは首を振った。
メルメアは黒竜の手綱を引いて速度を緩め、俺たちのもとにまで追いつこうとはしない。近づいて言葉を交わせば、別れを惜しむ気持ちが強くなる――そういうことだろう。
「――皆さん、本当に……ありがとうございました……っ!」
空に声が響く。スフィアはその声を聞いて、何かを答えようとして、そうせずに顔を伏せた。
ヴェルレーヌが泣いているスフィアを抱きしめる。出会うということは、別れることもあるということだ――どれだけスフィアの成長が早くても、こんな時に感情を抑えることができるほどじゃない。
「――メルメア! 何か困ったことがあったら、いつでも俺たちを頼ってくれ!」
「っ……はいっ! ディックお兄様っ……!」
普段なら、こんなことを大声で言ったりはしない――だが、今はそうするべきだと思った。
皆が俺に、何ともくすぐったいような笑顔を向けてくる。似合わないことをしたと思われているようだが、俺自身もそう思うのだから無理もない。
「ご主人様は肝心な時には、やはり青年らしく血をたぎらせるのだな。『頼ってくれ』などと……私たちにも、言ってくれたことがないのではないか?」
「他に言い方が無いというかだな……まあ、考えは伝わったと思うからいいんじゃないか?」
「……お父さん、ありがとう。大きな声で言ってくれて、嬉しかった」
「もー、ディックったら、こういうときに美味しいとこ持ってっちゃうんだから」
「必要なことだと思うから、私は評価するわ。黙って立ち去ることを格好いいなんて思っていたら、殲滅していたところよ」
アイリーンは涙もろいが、ミラルカも目が赤くなっている――と、俺の視力では違う竜に乗っていても見えてしまうことを、今は伝えずにおこうと思う。
◆◇◆
飛行戦艦の上部は、竜たちが休むには十分な環境になっている。小さな町がそのまま載せられそうな広さがあるのだが、半分ほどが森に覆われているのだ。
俺たちが内部に入るために使った転移陣以外に、船首、後部などにも転移陣があり、内部の違う区画に飛ぶこともできるが、グラスゴールの操作によって、指定した転移先に繋がるようになった。
妖精の像がある部屋に残っていたグラスゴールは、シャロンの吸血による『血の誓約』を受けることを提案すると、それを受け入れた。
「グラスゴール様……一度は忠誠を誓ったあなたに、このようなことをするのは少し気が引けますが……」
「君が私の血を求めていたことは知っているよ。ハーヴェイ伯爵、君も野心の全てを隠せたとは思っていないだろう」
シャロンは生まれた時からハーヴェイ伯爵家の後継者であり、公爵家のグラスゴールとは幼少からの付き合いがあった。現在シャロンはハーヴェイ家の当主でありながら、牢番という務めを課せられていたということになる。
さらには、スフィアの眷属になってしまった――俺が仲間に加える魔族は全員身分が高いのだが、そんな彼女たちを従えていて良いのだろうかと今さら考えもする。
「ご主人様の元に集う魔族だけで、ごく小さな国のようになりつつあるな……私は引退した魔王であるから、権限も何もないのだが」
未だに魔族の世界では大きすぎる影響力を持っているのに、そんなことを言う。しかし彼女の中では、本当にそのつもりなのだろう。
「……私の影響力は、酒場の中だけで発揮されれば良いのだがな」
「っ……い、意味深な言い方をされてもだな……」
言いそうだと思っていた通りのことを言われ、やはり動揺してしまう。ヴェルレーヌがここのところ魔王らしいところを見せたり、母親らしい振る舞いをしたりするので、少なからず日頃との落差を意識させられてしまう。
「ディック、私語は慎みなさい。一応、重要なことをしようとしてるんでしょう?」
「あはは……あたしたち、見守り役ってことなのかな。女の子同士でも、ちょっと見てるのは恥ずかしいかなーって」
ミラルカは腕を組んで、グラスゴールとシャロンを少し距離を置いて見ている。その隣で、アイリーンはそわそわと落ち着かなさそうにしていた。
コーディとユマ、そして師匠は、この制御区画ではなく、居住区画にいる。戦艦内の施設の規模を完全に把握してはいないが、軽く百人以上は生活できる収容力があった。
医術室も存在し、コーディはそこで休養を取っている。すでにかなり回復しているので、王都アルヴィナスに着く頃にはすっかり全快している見込みだ。
「……全て見通して、私を利用したということですか? グラスゴール様」
シャロンが改めて尋ねても、グラスゴールは否定しない。シャロンは微笑み、グラスゴールの後ろに回った。
グラスゴールは予め、軽鎧を外している。シャロンはグラスゴールの服の襟元に指をかけ、はだけて首筋を露出させる――そして。
牙を立てている時間は、ごく短い間だった。シャロンの喉がこくっとかすかに鳴り、グラスゴールは瞳を細める――痛みが少しはあるのだろう。
シャロンが離れると、グラスゴールの首筋に、小さな赤い点が二つ残されていた。その牙跡が仄かに光り、刻印が浮かび上がる――これが『血の誓約』の証ということだろう。
「……これで、グラスゴール……あなたは、スフィア様の配下となります。それは、スフィア様の父君である、ディック様の従僕でもあるということです」
「ああ……感謝しているよ。君の血の誓約なら、君自身の従僕にすることもできるはず。しかし、そうはしなかった」
「私があなたに勝ったわけでも何でもないのに、あなたの支配権を得る……それは、魔族の誇りに反します。ディック様、しかしどうか、お手柔らかにしてあげてくださいませ」
「そういう想像をされると思うが、俺は何も強制するつもりはないと言っておくぞ」
グラスゴールが裏切ることは無さそうだが、その上で行動を制限するというのは十分な罰になる。そう思ったのだが、やはり従僕や支配という言葉が出てくると、良からぬことをするのではと想像されるのは分からなくもない。
「ディック・シルバーは、私のことをそのように見てはいない。そんなことを想像しただけで、あなた方にとっての失礼になるだろう」
「えっ……そ、そんな……あたしたち、ディックとはまだ友達っていうか、親友以上だけどそれ以上じゃないっていうか……」
「私は……教授と生徒ということになるのかしら。いちおう酒場を手伝ったこともあるけれど……スフィアのことを踏まえると……そ、そう。一つの解で表すことができない、そんな式もあるということになるわね」
ミラルカは少し顔を赤くしつつも、胸を張って言う。何を言っているのか俺には高度すぎて分かりづらいが、とにかく俺との関係は単純ではないということらしい。アイリーンは色々口を滑らせているが、それはいつものことだ――というのも酷いだろうか。
「……私は罪人なのだから。ここを管理すること、動かすこと。そのためだけに存在していると思っている」
「それだけが役目ってわけでもない。翼が治るまでは、あんたに戦ってもらうことはしないけどな……外に出ることは、別に禁じてない」
「そのときは、私がお目付けをさせていただければと……」
牢獄で戦ったときのシャロンはグラスゴールのことを恨んでいるようだったが、事情を知ったことで思うところがあったのか、個人的な復讐などは考えていないようだった。
「ああ、そのときは頼む。同じ国の出身なんだ、俺たちより互いのことは分かってるだろう……それじゃ、このままアルヴィナス西の森に向かってくれ。そこに、俺たちのギルドと契約している火竜牧場がある。あの森の近辺なら勝手知ったる庭みたいなものだから、浮遊島を隠すにも都合がいい」
「了解した。ディック・シルバー……もうすぐ雲がかかっている地帯を抜けるのだが、あなたは『隠密』の魔法を使えるだろうか」
グラスゴールに頼まれ、俺は飛行戦艦の持っているある機能を発動させることになった。
戦艦全体に、魔法の効果を及ばせる機構『増幅結界』。俺がいつも使ってきた『隠密』『消音』の魔法を使って、この戦艦全体を隠蔽する結界を発生させられるのだ。
――しかし、最初発動したあとは俺の手で維持する必要がないとはいえ、大きな魔力が要求される。
(魔力はだいぶ安定したと思ってたんだが……少し疲労があるのか。師匠に、一度診てもらった方が良さそうだな……)
転移陣を起動して、居住区に転移する。ミラルカとアイリーンも、先に医術室に向かっているはずだ――遅くなったが、俺も合流するとしよう。